ノースカロライナ州ウィンストン・サラム生まれ、ジョージア州アトランタ郊外の都市ディケーター育ちのラッパーでプロデューサー、B.O.Bことボビー・レイ・シモンズJr.。子供のころからトランペットで才能を発揮し、13歳のころにはラップを始める。その後、ミュージシャンを目指すためハイスクールの9年生(日本の高校1年生に相当)の時に学校を中退。そして、18歳の時にアトランタ出身のラッパー、T.I.が経営するクラブでラップを披露したところ、そのスキルを評価され、ジム・ジョンシンのレーベル、レベル・ロックを介してアトランティックと契約する。

2007年に初のEP『Eastside』を発表すると、80年代のヒップホップやエレクトロ・ミュージックを取り入れたキャッチーな作風が注目を集める。また、その後に発表したEPやミックス・テープも、全ての作品で好評を得ている。そして、2010年に初めてのフル・アルバム『B.o.B Presents: The Adventures of Bobby Ray』をリリース。このアルバムは総合チャートとラップチャート、R&Bヒップホップ・チャートを制覇し、ダブル・プラチナ・ディスクにも認定。グラミー賞やソウル・トレイン・アワードなど、多くの音楽賞を獲得、またはノミネートする大ヒット作となった。

その後も、2012年に『Strange Clouds』を2013年に『Underground Luxury』を発売。それぞれ、プラチナ・ディスクとゴールド・ディスクに認定されるヒットになった。その一方で、彼は、多くのミックス・テープやEPを発表。それ以外にも、ジェシーJの”Price Tag”やT-ペインの”Up Down (Do This All Day)”など、様々なミュージシャンの曲に客演するなど、ヒップホップ界屈指のハード・ワーカーっぷりを見せていた。

前作から約4年ぶりとなる、通算4枚目のフル・アルバムとなる本作は、彼が2013年にアトランタに設立したレーベル、ノー・ジャンルから発表。エンパイアの配給でリリース。2015年にリリースした4本のミックス・テープや、それらを纏めた編集盤『Elements』などを送り出してきた同レーベルの、初めてのフィジカル・リリース作品でもある。

過去作では外部のプロデューサーとの共作が中心だったが、今回のアルバムでは、大半の曲をセルフ・プロデュース。残りの曲も、マイク・ウィル・メイク・イット率いるイヤー・ドラマーズ・エンターテイメント所属の30ロックや、デフ・ジャムと契約を結んでいるビッグ・クリットなど、話題の作品に多数関わっている実力派と組んで制作している。

アルバムからの先行シングル”4LiT”は、かつてのボスであるT.I.と、2015年にアルバム『Free TC』で大ブレイクを果たした、サウス・ロス・アンジェルス出身のラッパータイ・ダラ・サインをフィーチャーした豪華な作品。日本の公共放送が紀行番組で使いそうな、尺八っぽい音色を使ったシックなビートに乗せて、三者三様のフロウ(といってもタイ・ダラ・サインは歌に近いが)を聴かせている。曲の随所で、コーラスのように歌声を挟み込むタイ・ダラ・サインのセンスが光っている。

これに対し、ニュー・オーリンズ出身の大物ラッパー、リル・ウェインを招いた”E.T.”は、リル・ウェインの作風を意識した、シンセサイザーを多用したトラックが格好良い曲。血管が浮き出そうな勢いで、鬼気迫る勢いでラップを畳みかけるリル・ウェインのフロウが聴きどころ。彼を引き立てるように、淡々と言葉を繋ぐB.O.Bのラップと、彼の手による陰鬱で荒々しいトラックもいい味を出している。

一方、本作の翌週にアルバム『E.B.B.T.G.』のリリースを控えているアトランタ出身のラッパー、ヤング・サグと組んだ”Xantastic”は、キラキラとした音色のシンセサイザーと、サビで流れる甘い歌声が80年代のソウル・ミュージックを思い起こさせるスロー・ナンバー。プロデュースは30ロックだが、ソウル・ミュージックのエッセンスを大胆に取り入れる手法は、これまでのB.O.Bの作風に最も近いかも。ガラガラとした声で、荒々しいラップを披露するヤング・サグのスタイルが、甘い雰囲気の曲のアクセントになっている。

そして、本作の隠れた目玉が、アトランタ出身の超大物シンガー、シーロ・グリーンとアッシャーを招いた”Big Kids”だ。色々な音色のドラムと、ピアノのような音色を使った伴奏を組み合わせた、ロマンティックなミディアム・ナンバー。アッシャーのアルバムに収録されていそうな、流麗なメロディが印象的だが、プロデュースはB.O.B自身。都会的な作風のアッシャーと、奇抜さや泥臭さが魅力のシーロ、音楽性の異なる2人をうまくつなぎ合わせ、一つの曲に落とし込むB.O.Bの編集能力の高さが発揮された佳曲だ。

本作は、アトランティックを離れ、自身のレーベルから発表した、初めてのオリジナル・アルバム。 環境の変化は決して小さくないようで、有名なプロデューサーを多数起用した過去の作品と比べると、セルフ・プロデュースの割合が増え、外部のプロデューサーも比較的若い面々が中心だ。また、音楽性も、ソウル・ミュージックなどを大胆に取り込んだポップなものから、アトランタ出身のラッパーに多い、シンセサイザーを多用したバウンズ・ビートやトラップ寄りの作品が目立っている。しかし、流行の音を取り入れつつ、軽妙でポップな曲に仕立て上げる技術は、彼独自のものだと思う。

ポップだけど本格的なヒップホップで、多くの成功を収めてきた彼。本作はそのフィルターを通して、アトランタを含むアメリカ南部のヒップホップを編集し一つの作品に纏め上げた、キャッチーだけど奥が深い作品。ヒップホップは難しい、怖いってイメージを持っている人にこそ聴いてほしい、「初めてのヒップホップ」に最適な1枚。このアルバムを聴いて気になったアーティストがいたら、ぜひその人の作品も手に取ってほしい。

Producer
B.o.B, 30 Roc

Track List
1. Fan Mail
2. E.T. feat. Lil Wayne
3. Middle Man
4. Peace Piece feat. Big K.R.I.T.
5. Finesse
6. Xantastic feat. Young Thug
7. Tweakin feat. Young Dro
8. 4 LiT feat. T.I., Ty Dolla $ign
9. Substance Abuse
10. Avalanche
11. I Know feat. WurlD
12. Big Kids feat. Cee-Lo, Usher





Ether
B.O.B
No Genre
2017-05-12