melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Parkwood

The Carters - Everything Is Love [2018 Roc Nation, Parkwood Entertainment, Sony Music]

総合エンターテイメント企業のロック・ネイションや、音楽ストリーミング・サービスのTIDALなどを経営しながら、コンスタントに新作を発表し、ヒップホップ界をけん引する、ジェイZことショーン・カーター。2003年に初のソロ・アルバム『Dangerously in Love』を発表して以来、稀代の名シンガー、エッタ・ジェイムスを演じきった映画「キャデラック・レコード」や、ストリーミング限定(後にダウンロード版やCD盤も発売)した『Lemonade』など、新しいことに挑戦し、成功してきた、ビヨンセことビヨンセ・ジゼル・ノウルズ-カーター。

このアルバムは、21世紀の音楽業界で最も成功している夫婦による、初のコラボレーション作品。

これまでにも、ビヨンセの”Crazy In Love”や”Déjà Vu”などで共演してきた二人だが、アルバム1枚を一緒に録音するのは今回が初。事前のプロモーションをほとんど行わず、『Lemonade』に続いてTIDALで先行配信されるなど、斬新な試みに挑んできた彼女達らしい作品になっている。

本作に先駆けて公開された”Apeshit”は、ファレル・ウィリアムスがプロデュースした楽曲。使われている楽器の音色こそ、ファレルが多用するシンセサイザーのものだが、彼が提供したビートはミーゴスグッチ・メインのアルバムに入っていそうなトラップ。その上では、ラップのような抑揚を抑えたメロディを歌うビヨンセと、普段通りのダイナミックなラップを繰り出すジェイZという、今までの作品ではなかったタイプのパフォーマンスを披露している。トラップのビートを取り入れているからか、ファレルのプロデュース作品にも関わらず、彼のかわりにミーゴスのクェーヴォとオフセットがコーラスで参加している点も新鮮だ。

これに対し、TLCメアリーJ.ブライジの作品にも携わっているD’マイルと、アーティストとソングライターの両方で活躍しているタイ・ダラ・サインを起用した”Boss”は、ヒップホップの要素を取り入れたスロー・バラード。タイ・ダラ・サインの端正なコーラスは、ヨーロッパの教会音楽にも少し似ている。ビヨンセのヴォーカル・パートは、滑らかなメロディとラップを組み合わせたもの。近年流行のスタイルを、自分の音楽に咀嚼したパフォーマンスに注目。

一方、ジェイZのラップに重きを置いた”713”はクール&ドレがプロデュースを担当。威圧的にも感じるキーボードの伴奏が印象的なビートに乗せて、パンチの効いたパフォーマンスを繰り出すジェイZの姿が聴きどころ。キーボードの伴奏を強調したトラックに引っ掛けて、Dr.ドレの”Still Dre”やコモンの”The Light”などのフレーズを引用した点も面白い。

それ以外では、内田裕也やジョー山中が在籍していた日本のサイケデリック・バンド、フラワー・トラベリング・バンドの”"Broken Strings”をサンプリングした”Black Effect”も見逃せない。昔のレコードから、ヴォーカルや楽器の演奏など、様々なフレーズを抜き出して組み合わせる手法は、ヒップホップではお馴染みのものだが、サンプルの組み合わせ方を変えることで新しい音楽に聴かせている。

本作の面白いところは、既に多くのアーティストが取り組んできた手法を用いながら、他の作品とは一線を画した独自の音楽に仕立て上げているところだろう。歌とラップを組み合わせる手法やサンプリング、トラップといった、流行のスタイルを盛り込みつつ、少し変化をつけることで、独自性を打ち出している。この引用とアレンジのセンスの良さが、二人の音楽の醍醐味だ。

音楽業界のトップをひた走る二人の、鋭い感性と作品に落とし込む技術が光る良作。「ヒップホップはみんな同じ」と思っている人にこそ聴いてほしい、流行のサウンドを用いながら、他のアーティストとは一味違う新鮮に聴こえるセンスと技術が楽しめると思う。

Producer
Beyoncé, Jay-Z, Cool & Dre, Pharrell Williams, D'Mile etc

Track List
1. Summer
2. Apeshit
3. Boss
4. Nice
5. 713
6. Friends
7. Heard About Us
8. Black Effect
9. Lovehappyt
t


EVERYTHING IS LOVE [Explicit]
Parkwood Entertainment/Roc Nation
2018-06-18


Chloe x Halle - The Kids Are Alright [2018 Parkwood Entertainment, Columbia]

ビヨンセが率いるコロンビア傘下の音楽レーベル、パークウッド。彼女の作品を中心に、録音物だけでなく映像作品も送り出している同社からデビューしたのが、クロイとハリーのベイリー姉妹による音楽ユニット、クロイ&ハリーだ。

ジョージア州アトランタ出身の二人は、動画投稿サイトにアップロードしたパフォーマンスをきっかけにレーベルと契約。2016年に『Sugar Symphony』でレコード・デビューを果たした。といっても、姉のクロイは子供のころから役者として活動しており、ビヨンセが主演した映画「The Fighting Temptations」にも出演するなど、遠からぬ縁はあったという。

本作は、彼女達にとって初のスタジオ・アルバム。ディズニー映画「A Wrinkle In Time」や、コメディ番組「Grown-ish」のサウンドトラックに収録された楽曲も含め、ほぼ全ての作品を二人で制作。インターネット経由で色々なジャンルのヒット曲のカヴァーを披露してきた、本記事の執筆時点でクロイが19歳、ハリーが17歳という、10代の若い感性と高い技術を惜しげもなく披露した、新鮮なR&Bを聴かせている。

まず、アルバムに先駆けてリリースされたタイトル曲”The Kids Are Alright”は、シンプルなトラックの上で悠々と歌う二人の姿が印象的なミディアム・ナンバー。ドラムの音は後半まで入らず、後半のビートも音圧を抑えたスタイルは、ヒップホップを経由したR&Bというより、アカペラ作品のようにも聴こえる。二人の歌と伴奏だけで、豊かな表現を聴かせる彼女達のスキルに驚かされる良曲だ。

これに対し、ジョーイ・バッドアスが参加した”Happy Without Me”は、カルディBの”Bodak Yellow”やグッチ・メインの”I Got A Bag”を思い起こさせるトラップのビートが格好良い、ヒップホップ色の強い曲。人気ラッパーを起用した作品でありながら、メロディ部分も二人が担当し、あくまでもR&Bとして聴かせている点が面白い。ジョーイのラップが入る箇所で、ビートが微妙に変化する演出も光っている。

また、 ディズニー映画のサウンドトラック向けに作られた”Warrior”は、R&Bをベースにしつつ、荘厳な雰囲気で纏め上げた伴奏と、二人の歌唱力を活かしたダイナミックなメロディが光るスロー・ナンバー。「ライオンキング」の主題歌として知られるエルトン・ジョンの”Can You Feel the Love Tonight”にも通じる、シンプルだが味わい深い楽曲と、二人の高いヴォーカル技術が堪能できる佳作だ。

そして、本作のボーナス・トラックとして収録されたデビュー曲”Drop”は、シドジャミラ・ウッズの作品を連想させる、泥臭いビートとメロディが心に残るミディアム・ナンバー。トラックを構成する楽器の音を厳選し、音と音の隙間を効果的に使うスタイルは、ディアンジェロの”Brown Sugar”にも通じる。

このアルバムを聴いて真っ先に思い浮かんだのは、マイケル・ジャクソンのヒット曲”Butterfly”を制作したイギリスの女性デュオ、フロエトリーの存在だ。ヒップホップやR&B、映画音楽を飲み込み、多彩な表現を聴かせてくれる彼女達は、往年のソウル・ミュージックと現代のヒップホップを融合した作風や、グラマラスな歌声と繊細な表現で私達を魅了したフロエトリーとよく似ている。しかし、最大の違いは、新しい音楽への向き合い方で、彼女達は、昔のソウル・ミュージックにとらわれず、ポップスや新しいヒップホップの表現技法を盛り込んで、現代のポップスに落とし込んでいる。その点が、ヒップホップを取り入れつつ、ソウル・ミュージックにベースを置いたフロエトリーとは大きく異なる点で、彼女達の持ち味にもなっている。

多くのゲストを侍らせたソロ・シンガーが主流である、現代の欧米の音楽市場では貴重になった、シンガー二人による息の合ったパフォーマンスが楽しめる良作。二人組というシンプルな編成でも多彩な表現が可能なことを証明した、ヴォーカル・グループのお手本のようなアルバムだ。

Producer
Chloe Bailey, Halle Bailey

Track List
1. Hello Friend (Intro)
2. The Kids Are Alright
3. Grown (From Grown-ish)
4. Hi Lo feat. GoldLink
5. Everywhere
6. FaLaLa (Interlude)
7. Fake feat. Kari Faux
8. Baptize (Interlude)
9. Down
10. Galaxy
11. Happy Without Me feat. Joey Bada$$
12. Babybird
13. Warrior (From "A Wrinkle in Time")
14. Cool People
15. Baby on a Plane
16. If God Spoke
17. Drop
18. Fall





The Kids Are Alright
Parkwood Entertainment/Columbia
2018-03-23

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