melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

RCA

H.E.R. - I Used to Know Her: The Prelude – EP [2018 RCA]

H.E.R.ことガブリエル・ウィルソンは、カリフォルニア州ヴァレーホ出身のシンガー・ソングライター。

出身地や本名、1997年生まれの21歳(本稿執筆時点)であること以外、自身に関する情報を殆ど公表していない彼女。あえて自身の素性を隠すことで、リスナーの関心を自身の音楽に向けさせてきた。

2016年から17年にかけて、2枚のEP『H.E.R. Vol. 1』『H.E.R. Vol. 2』を発表。2017年10月には、2作の収録曲を一枚に纏めた初のスタジオ・アルバム『H.E.R.』をリリース。配信限定の新人の作品ながら、エリカ・バドゥやシドを思い起こさせる、神秘的でモーダルな彼女の歌声と、ロバート・グラスパーやアンドレ・ハリスが制作に携わった楽曲で注目を集めてきた。

本作は、『H.E.R.』から約9か月の間隔で発売された彼女にとって3枚目のEP。制作は過去の作品にも関わっているスワッガー・シリアスらに加え、ドレイクなどのアルバムに参加しているウィリス・レーンや、タイ・ダラ・サインなどの楽曲を作っているD’マイルなどが担当。これまでの録音とは一味違う、新しいスタイルの楽曲に挑戦している。

アルバムの1曲目は、DJスクラッチをフィーチャーした”Lost Souls ”。ローリン・ヒルの名曲”Lost Ones”からインスピレーションを受けたというこの曲は、同曲のフレーズをサンプリングし、ローリンnのように歌とラップを織り交ぜたパフォーマンスを披露したミディアム・ナンバー。”Lost Ones”自体が、シスター・ナンシーが82年に発表したシスター・ナンシーの”Bam Bam”をサンプリングした泥臭いビートの楽曲ということもあり、この曲もDJプレミアやピート・ロックが作りそうな、 90年代のサンプリングを効果的に使ったヒップホップに落とし込まれている。

続く”Against Me”はウィリス・レーンが制作を主導したスロー・ナンバー。シンセサイザーを使った幻想的なサウンドの上で、丁寧に歌い込む彼女の姿が光っている。ドラムの音圧を抑え、低音の伴奏で重厚さを醸し出したトラックは、ドレイクの作品に少し似ている。前作までの彼女の作風を踏襲しつつ、切り口を変えた曲作りが魅力だ。

インターリュードを挟んだ後の”Could've Been”は、デビュー前から何度も共演してきたブライソン・ティラーとのデュエット曲のデュエット曲。エリック・ベリンガートレイ・ソングスの作品も手掛けているD’マイルズが作るトラックは、重いドラムの音を軸にしたしっとりとした雰囲気のもの。他の曲では、尖ったビートを取り入れることが多い両者が、ここでは滑らかな歌声で丁寧な歌を聴かせているのが新鮮だ。

そして、これに続く”Feel a Way”はリアーナアッシャーミゲルなどの楽曲に関わっているフリッパが手掛けた作品。ドレイクの”God’s Plan”を思い起こさせる、リズミカルなシンセサイザーの伴奏が印象的な曲だ。軽快な伴奏を含むトラックを、切ない雰囲気のメロディが魅力のミディアムに取り入れて、楽曲に軽妙な雰囲気を与える演出が面白い。

本作の最後を締めるのは、カリ・ウチスなどの作品を手掛けてきたジェフリー・ギトルマンがプロデュースした”As I Am”。ギターやフィンガー・スナップを用いた、フォーク・ソングっぽい演奏の上で、みずみずしい歌声を響かせるゆったりとした楽曲。透き通った歌声とR&Bのビート、ギターなどのアコースティックな伴奏を組み合わせたスタイルは、インディア・アリーにも少し似ているが、この曲では彼女の持つは少し陰鬱な雰囲気で独自性を打ち出している。

今回のEPは、ごく少数のクリエイターと制作してきたこれまでの作品から一転、色々なR&Bシンガーの曲に関わってきたプロデューサー達を起用し、流行のサウンドを積極的に取り入れたものになっている。しかし、多くのヒット・メイカーを起用しながら、流行の音をそのまま使うのではなく、自分の音楽性に合わせて咀嚼している。この一作品ごとに少しずつスタイルを変えて、リスナーを飽きさせず、次回作への期待を抱かせる手法が、彼女の音楽が注目される一因だと思う。

自身の音楽で勝負してきたH.E.R.の、第二章の幕開けを飾る作品といっても過言ではない、新しいスタイルに挑戦した良作。独創的な作風で周囲を驚かせてきた彼女が、次のステップに踏み出した新境地だ。

Producer
BassmanFoster, Cardiak, Dernst "D'Mile" Emile II, Flippa, Jeff Gitelman, Jeffrey Gitelman, Swagg R'Celious & Wallis Lane

Track List
1. Lost Souls feat. DJ Scratch
2. Against Me
3. Be On My (Interlude)
4. Could've Been feat. Bryson Tiller
5. Feel a Way
6. As I Am






Aretha Franklin - Sings The Great Diva Classics [2014 RCA, Sony]

力強い歌声とダイナミックな表現で、クイーン・オブ・ソウルと呼ばれ、1987年には女性初のロックの殿堂入りを果たしたアレサ・フランクリン。

メンフィス生まれ、デトロイト育ちの彼女は、高名な牧師である父と、有名なゴスペル歌手の母(ただし、彼女はアレサとは別居していた)を両親に持っていたこともあり、幼いころから頻繁に教会で歌っていた。

そんな彼女は、1961年にコロンビア・レコードからレコード・デビューを果たすが、当初はジャズやポップスなど、様々なスタイルに取り組んでいた。

そんな彼女の転機になったのは、1966年のアトランティック・レコードへの移籍。同社を率いるジェリー・ウェクスラーは、彼女の並外れたスケールのヴォーカルに着目し、その魅力を引き出す重厚なソウル・ミュージックに力を入れるようになる。

1967年の移籍第一弾アルバム『I Never Loved a Man the Way I Love You』が、ゴールド・ディスクを獲得するヒット作となった彼女は、その後も多くの作品を発表。今も多くのシンガーに歌い継がれ、2018年にはアカデミー賞を獲得したチリ映画「ナチュラル・ウーマン」でも使われた”(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”を収めた『Lady Soul』や、ポール・マッカートニーが彼女に歌ってもらうことを念頭に制作したという、ビートルズの”Let It Be”のカヴァーを含む『This Girl's in Love with You』など、多くの名作を録音してきた。

このアルバムは、2012年の『Aretha: A Woman Falling Out of Love』以来となる、彼女の通算41枚目のスタジオ・アルバム。また、彼女にとって、生前最後に録音されたスタジオ作品でもある。

本作では、エッタ・ジェイムスやグラディス・ナイトといった、彼女とともに60年代の音楽シーンを盛り上げてきたアーティストの作品から、アリシア・キーズやアデルといった、親子ほどの年の差がある現代のミュージシャンまで、新旧の人気女性シンガーの楽曲をカヴァー。プロデュースはクライヴ・デイヴィスやベイビーフェイスといったヴォーカル作品に強い人から、アンドレ3000のような個性派まで、バラエティ豊かな面々が担当している。

1曲目は、エッタ・ジェイムスが60年に発表した”At Last”。2008年の映画「キャデラック・レコード」でビヨンセがカヴァーし、同じ年にはバラク・オバマの大統領就任記念イベントで歌われたことで、幅広い年代の人に知られるようになったバラードだ(余談だが、エッタ・ジェイムスは自分の代表曲を他の人が大統領の就任記念イベントで歌ったことに激昂したらしい)。

ベイビーフェイスがプロデュースした今回のカヴァーは、オーケストラや管楽器を盛り込んだ上品な伴奏が印象的。緩急、強弱とも振れ幅が大きく、高い歌唱力が求められる楽曲をしっかりと歌い切っているのは流石としか言いようのない。オーケストラの繊細な音を活かしつつ、ヴォーカルの良さを引き立てるベイビーフェイスの制作技術も凄い。

続く”Rolling In The Deep ”は、本作の収録曲では最も新しい、アデルの2011年の楽曲のカヴァー。ロック色の強いアデルの作品の良さを生かした、荒々しい演奏とパワフルなヴォーカルの組み合わせが強く心に残る。武骨な演奏とゴスペルを連想させる分厚いコーラスを組み合わせたアレンジは、粗削りで泥臭いサウンドが魅力の60年代のサザン・ソウルに通じるものがある。曲中でさりげなくマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの”Ain't No Mountain High Enough”を挟み込む演出も気が利いている。

また、グロリア・ゲイナーが78年にリリースしたディスコ・クラシックを歌った”I Will Survive”は、ジャズ畑のハーヴィー・メイソンJr.とハウス・ミュージックに強いテリー・ハンターがプロデュースを担当。洗練されたバック・トラックの上で、楽曲の優雅な雰囲気を守りつつ、パワフルな歌声を響かせる姿が聴きどころ。アレサを含め、多くのシンガーを苦しめていたディスコ音楽だが、この時点のアレサは、完全に自分の音楽にしている。余談だが、曲の途中で「Survivor」に引っ掛けて、デスティニーズ・チャイルドの”Survivor”のフレーズを挟み込む演出は、2曲の音楽性の違いを感じさせないアレンジも含め非常に面白い。

そして、個人的に面白いと思ったのが、アリシア・キーズが2007年に発売した”No One”のカヴァー。元々レゲエ色の強い楽曲を、より緩く、明るい音色を多用した演奏で本格的なレゲエ作品としてリメイクしている。アレサのような力強く、雄大な歌唱が魅力の歌手と、ゆったりとした雰囲気のレゲエは、あまり相性が良くないが、彼女は起用に乗りこなしている。プロとしてのキャリアも半世紀を超え老練なパフォーマンスを身に着けた彼女の演奏が堪能できる。

今回のアルバムの良いところは、原曲の魅力とアーティストの個性を絶妙なバランスで融合していることだ、エッタ・ジェイムスやグロリア・ゲイナー、アデルといった新旧の名シンガーが世に送り出した名曲を、原曲の良さを損ねることなく、自分の音楽に染め上げている。原曲を忠実になぞるわけでも、独創的なアレンジを聴かせるわけでもなく、大ベテランの経験を活かして、丁寧に歌い込む手法が本作の良さを生み出している。

アレサ・フランクリンという唯一無二の名歌手と、彼女を支える名プロデューサー達の技術によって、ソウル・ミュージックの可能性を広げた傑作。歌い手や演奏者の数だけ、色々な表情を見せるヴォーカル曲の醍醐味が堪能できる傑作だ。

Producer
André "3000" Benjamin, Antonio Dixon, Aretha Franklin, Clive Davis, Kenny "Babyface" Edmonds, Harvey Mason, Jr. etc

Track Listt (括弧内は原曲を歌ったアーティスト)
1. At Last (Etta James)
2. Rolling In The Deep (Adele)
3. Midnight Train To Georgia (Gladys Knight & the Pips)
4. I Will Survive (Gloria Gaynor)
5. People (Barbra Streisand)
6. No One (Alicia Keys)
7. I’m Every Woman (Chaka Kahn & Whitney Houston) / Respect (Aretha Franklin)
8. Teach Me Tonight (Dinah Washington)
9. You Keep Me Hangin’ On (The Supremes)
10. Nothing Compares 2 U (Sinead O'Connor)






Childish Gambino - This Is America [2018 RCA]

2016年に発表したアルバム『Awaken, My Love!』が、アメリカ国内だけで50万枚を売り上げ、グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートするなど、ミュージシャンとしても大きな成功を収めた、チャイルディッシュ・ガンビーノこと、ドナルド・グローヴァー。

その一方で、俳優としても、コメディ・ドラマ「アトランタ」で高い評価を受け、スター・ウォーズのスピンオフ作品や、実写版「ライオン・キング」に出演するなど、着実に実績を残していった。

この曲は、『Awaken, My Love!』以来となる新作。チャイルディッシュ・ガンビーノとしては最後のアルバムになると発表している、次回作に先駆けて公開された楽曲だが、同じ時期に「同作には収録されない」というコメントが出るなど、様々な情報が錯綜している。

今回のシングルは、これまでも彼の音楽を一緒に作ってきた、ルドヴィグ・ゴランソンとグローヴァーの共同制作、共同プロデュース作品。電子音の冷たく、刺々しい音色を使ったビートは、現在流行しているヒップホップやトラップのものだが、低音を抑え気味にして、パーカッションなどの音を強調することで、フェラ・クティや彼の息子、ショーン・クティが得意とするアフロ・ビートっぽく仕立てている点が面白い。曲の途中で、リズムを細かく変える演出を盛り込むことで、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックの象徴である「中毒性のあるループ」と、アフリカ音楽やアメリカのブルースを含む、世界各地の土着の音楽が持つ「変幻自在のアレンジ」を同居させている点も見逃せない。

また、この上に乗るヴォーカルは、ラップやブルース、フォーク・ソングなど、様々な音楽の手法を用いて、「現代のアメリカ」を描写したもの。社会問題に切り込む作品自体は無数にあるが、この曲では、抽象的で比喩的な表現を採り入れることで、政治的な作品に芸術性と娯楽性を付け加えている。

この曲の魅力は、歌、トラック、振付、映像表現など、あらゆる手段を用いて「アメリカ社会」に切り込みつつ、きちんとエンターテイメント作品に落とし込んでいるところだろう。歌やトラック以外に目を向けると、本作のミュージック・ビデオでは、ミンストレル・ショウやアフロ・ビートの表現や、現代舞踏の手法を織り交ぜたパフォーマンスを披露する一方、映像そのものも、カメラワークから小物まで、細部にも気を配った作品になっている。おそらく、コメディから先鋭的な音楽まで、あらゆる表現の世界を経験してきた彼の感性によるものが大きいだろう。

コメディアン、俳優、ミュージシャンと、多彩な顔を持ちながら、全ての分野で高い成果を上げてきたドナルドの豊かな才能が凝縮された珠玉の一品。インターネットによって、映像作品を気軽に楽しめるようになった現代ならではの傑作だ。

Producer
Donald Glover Ludwig Göransson

Track List
1. This Is America



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