ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Sony

Wyclef Jean - Carnival III:The Fall And Rise Of A Refugee [2017 Heads Music, Legacy]

ローリン・ヒルやプラス・ミッチェルと結成したヒップホップ・グループ、フージーズとして93年にアルバム『Blunted on Reality』でメジャー・デビュー。中南米やアフリカの音楽を取り入れた独特のスタイルで注目を集め、1996年にリリースした2作目『The Score』はアメリカ国内だけで600万枚も売れた大ヒット作となった、ハイチ共和国のクロワ・デ・ブーケ生まれ、アメリカのニューヨーク育ちのラッパー、ワイクリフ・ジョン。

また、ソロ・アーティストとして2016年までに7枚のフル・アルバムを発表し、プロデューサーとしても、サンタナの『Supernatural』やデスティニーズ・チャイルドの”No No No”を手掛けるなど、多くのヒット作を残している。

このアルバムは、今年の2月にリリースしたEP『J'ouvert』以来7か月ぶり、フル・アルバムとしては2009年の『From the Hut, To the Projects, To the Mansion』以来8年ぶりとなる新作。自身のレーベル、ヘッズ・ミュージックが制作、フージーズや彼のソロ作品を取り扱ってきたソニー系列のレガシーが配給を担当している。

本作の収録曲で、最初に目を惹くのが3曲目の”Borrowed Time”だ。フレンチ・モンタナなどの作品を手掛けているアルベルト・ヴァッカリーノが共同プロデューサーとして参加した曲。シンセサイザーを使ったシンプルなトラックの上で、ラッパーらしい硬い声で淡々と歌ったアップ・テンポの作品。音数を絞った伴奏としなやかで流れるようなメロディのおかげで、カリブ海の音楽の要素を取り入れつつも洗練された印象を与える良曲だ。

だが、一番の目玉は、その次に収められている本作からの先行シングル”Fela Kuti”だろう。アフリカの民族音楽とアメリカの黒人音楽を融合した、アフロ・ビートというスタイルで音楽の歴史に名を残したナイジェリア出身のミュージシャン、フェラ・クティの名を冠したこの曲は、ドレイクの”Ice Melts”などを作ったスーパー・マリオ(この名前も凄い)のプロデュース作。華やかな打楽器の音色が心を掻き立てるアップ・テンポのトラックが格好良い。カリブ海に浮かぶ島国ハイチ出身のワイクリフだが、同地にもカリプソのような明るくキャッチーなビートが魅力の音楽が沢山あるので、違和感はあまりない。ルーツ・ミュージックを咀嚼して現代の音楽のように聴かせる、ワイクリフの持ち味が発揮されている。

一方、この曲とは違う意味で目立っているのが、エレクトロ・ミュージックの分野で有名なプロダクション・チーム、ザ・ノックスが制作に携わり、マイアミ出身のラッパー、ランチマネー・ルイスがゲスト・ミュージシャンとして参加した”What Happened To Love”だ。四つ打ちのビートにバキバキというシンセサイザーの伴奏を組み合わせたEDMのトラックに乗せて、朴訥とした声を響かせるダンス・ナンバー。ヴォーカル曲も多いワイクリフだが、この曲ではメロディ部分のラップを担当、サビをランチマネー・ルイスが歌っている。EDMの要素を取り入れたり、サビの部分をゲストのラッパーに歌ってもらったりと、色々な工夫を凝らすことで、新しい取り組みを自分の音楽に纏め上げる彼のコーディネート技術が光っている。

もちろん、それ以外の曲には従来の作風を踏襲した曲もたくさんある。例えばテディ・ライリーを招いた”Trapicabana”では、ギターなどの楽器の音色と、コンピューターを使ったヒップホップのビートを組み合わせて、ソウル・ミュージックの温かい雰囲気と、ヒップホップやR&Bの現代的な雰囲気を一つの作品に同居させている。このようなアコースティック楽器と電子楽器を共存させたサウンドは、彼の真骨頂と言ってもいいだろう。

今回のアルバムは『J'ouvert』から間を挟まずにリリースされた作品だが、彼の音楽は過去の作品を踏襲しつつ、今までの作品以上に新しいスタイルを積極的に取り入れている。EDMやアフロ・ビートを取り入れたのは、その最たるものだが、どれだけ新しい音を取り入れても、一聴しただけで「彼の音」とわかるのは、カリブ系の音楽やソウル・ミュージックなど色々な音楽の要素が混ざり合った、彼のスタイルがベースになっているからだろう。

往年のソウル・ミュージックや中南米の音楽など、色々なジャンルの音楽を混ぜ合わせ一つにすることで、唯一無二の音楽性を確立した、彼のスタイルを2017年仕様にアップ・デートした佳作。アメリカの豊かな音楽を基本にしつつ、新曲を発表するたびに新しい音を取り込んできた、彼の個性が遺憾なく発揮されていると思う。

Producer
Wyclef Jean, Madeline Nelson, Alberto Vaccarino, Supah Mario, The Knocks etc

Track List
1. Slums feat. Jazzy Amra, H1DaHook Marx Solvila
2. Turn Me Good
3. Borrowed Time
4. Fela Kuti
5. Warrior feat. T-Baby
6. Shotta Boys feat. STIX
7. Double Dutch feat. D.L. Hughley, Eric Nimmer
8. What Happened To Love feat. Lunch Money Lewis, The Knocks
9. Carry On feat. Emeli Sandé
10. Concrete Rose feat. Hannah Eggan, Izolan
11. Trapicabana feat. Riley
12. Thank God For The Culture feat. Marx Solvila, J’Mika, Leon Lacey






Fifth Harmony - Fifth Harmony [2017 Sony]

イギリスの人気オーディション番組「Xファクター」のアメリカ版に出場したアリー・ブルック、ノーマン・コーディ、ローレン・ハウレギ、ダイナ・ジェーン、カミラ・カベロの5人からなるガールズ・グループ、フィフス・ハーモニー。

2013年にリリースした初のEP『Better』が全米総合チャートを6位に入り、同作からのシングル曲”Miss Movin’ On”がゴールド・ディスクを獲得するなど、幸先のいいスタートを切った彼女達は、2015年に1枚目のフル・アルバム『Reflection』を発表。全米チャートの5位をはじめ、カナダとニュージーランドで8位に入るなど、各国のヒット・チャートにその名を刻んできた。その後も、2016年に発売した2枚目のアルバム『7/27』が複数の国のヒット・チャートでトップ10圏内に入るなど、アメリカを代表するガールズ・グループへの道を、着実に登って行った。

このアルバムは、グループにとって3枚目となるLP。2016年の終わりにカミラ・カベロがグループを脱退して、4人組として再スタートを切った彼女達にとって初めてのアルバムとなる。

アルバムに先駆けて発売されたシングル曲”Down”は、ビヨンセやジェイソン・デルーロの作品も手掛けている、ボルティモア出身のプロデューサー、アモことジョシュア・コールマンが制作を担当。チャッキー・トンプソンやドリームが作りそうな、シンセサイザーの音色を多用した爽やかなトラックと彼女達のキュートな歌声が印象的なアップ・ナンバー。軽快なビートとメロディを軸にしながら、曲の途中に挟み込まれたグッチ・メインのラップ・パートでトラックを変えるなど、随所に凝った演出を盛り込んでいる。

続く、もう一つのシングル曲”He LIke That”も、アモのプロデュース作品。こちらは、80年代のウェイン・ワンダーやUB40を思い起こさせる、ゆったりとしたトラックと軽妙なメロディが心地よいレゲエ風ナンバー。可愛らしい歌声の合間に、地声を使った力強い歌唱を挟み込むことで、楽曲に起伏を付けている。オーディション番組で鍛えられた彼女達らしい、豊かな表現力と親しみやすさが光る曲だ。

一方、エレクトロ・ミュージックのプロデューサー、スカイレックスと、アッシャーやクリス・ブラウンなどの楽曲に携わってきたプー・ベアのコンビによる”Angel”は、プー・ベアもペンを執ったアッシャーの”Burn”を連想させるチキチキ・ビートが印象的なミディアム・ナンバー。奇抜な楽曲を作ることが多いスカイレックスだが、この曲ではジャーメイン・デュプリを連想させる、シンセサイザーを多用したチキチキ・ビートに近いものを提供。彼女達の溌剌としたヴォーカルを引き立てている。2000年代前半にアッシャーやマライア・キャリーが発表していたような、親しみやすいメロディのR&Bが、現代のクリエイターのフィルターを挟むと新鮮に聴こえるのは面白い。

そして、もう一つ見逃せない曲が、ドリームラブが手掛けた”Messy”だ。セレーナ・ゴメスやニッキー・ミナージュなどに楽曲を提供してきたポップス畑の作家が用意したのは、甘酸っぱいメロディとそれを引き立てるシンプルなアレンジが光るミディアム・バラード。グラマラスな歌声や艶めかしいパフォーマンスは、”Touch My Body”などの楽曲でセクシーなヴォーカルを披露していたマライア・キャリーを彷彿させる。最年長のアリソンでさえ24歳と、全員が20代前半のグループとは思えない、大人っぽい歌唱が魅力的だ。

カミラの脱退を経た後の作品だが、各人の歌唱力がレベルアップしたこともあり、パワー・ダウンした印象はない。むしろ、経験を積んで各メンバーの個性が際立つようになり、メンバーの個性とグループとしての一体感を両立した音楽が増えたようにも思える。

デスティニーズ・チャイルドやTLCなどが活動を休止、もしくは縮小し、アメリカのポップス市場からガールズ・グループの存在感が薄れていく中、唯一無二の存在となりつつある彼女達の持ち味が遺憾なく発揮されている。TLCやスパイス・ガールズのように、世界を股にかける存在になると思わせる、高いスター性とヴォーカル・スキルが楽しめる佳作だ。

Producer
Ammo, DallasK, Poo Bear, Skrillex etc

Track List
1. Down feat. Gucci Mane
2. He LIke That
3. Sauced Up
4. Make You Mad
5. Deliver
6. Lonely Night
7. Don't Say Love Me
8. Angel
9. Messy
10. Bridges





Fifth Harmony
Fifth Harmony
Epic
2017-08-25

The Isley Brothers & Santana - Power Of Peace [2017 Sony Legacy]

57年にシングル”The Cow Jumped Over the Moon”で表舞台に登場して以来、60年もの間、音楽業界の一線で活躍しているソウル・グループ、アイズレー・ブラザーズ。一方、66年の結成以降、50年以上、コンスタントに作品を発表し、多くのステージに立ち続けたロック・バンド、サンタナ。この音楽業界屈指のキャリアを誇る、2組のベテランによる初のコラボレーション作品が『Power Of Peace』だ。

アイズレー・ブラザーズにとっては2006年の『Baby Makin' Music』以来、実に10年ぶり(ただし、2013年にはロナルドのソロ作品『This Song Is For You』がeOneから発売されている)、サンタナにとっては2016年の『Santana IV』以来のアルバムとなる本作。ロナルド(ヴォーカル)とアーニー(ギター)のアイズレー兄弟と、カルロス(ギター)とシンディ・ブラックマン(ギター)のサンタナ夫妻に加え、名うてのスタジオ・ミュージシャン達が参加。『Santana IV』や彼らのステージでも披露された、ソウル・ミュージックとロックの距離が近かった時代の、ダイナミックでワイルドな黒人音楽に取り組んでいる。

アルバムの1曲目は、チェンバー・ブラザーズの68年のヒット曲”Are You Ready People”(原題は”Are You Ready”)のカヴァー。ストリングスなどを使った分厚い演奏のオリジナルに対し、こちらではツイン・ギターやパーカッションなど、演奏者を絞った伴奏を取り入れている。荒々しいパーカッションの演奏が乱れ飛ぶ前奏から、鋭いギターの音色が耳に突き刺さるハードな伴奏へとつながる展開が格好良い。『It's Our Thing』や『Get Into Something』でも披露していた、ロナルドの激しいシャウトも聴きどころだ。

これに続くのは、ヴァージニア州ポーツマス出身のシンガー・ソングライター、スワンプ・ドッグが70年に発表した”Total Destruction To Your Mind”のカヴァー。原曲もギターやベースの音色を強調した、泥臭いロック・ナンバーだったが、彼らはそれをより攻撃的な作品にリメイク。鍵盤を叩くようなキーボードの伴奏や、荒っぽいヴォーカルはオリジナルを踏襲しているが、ダイナミックなギター・ソロを加えるなど、よりハードなアレンジを施している。バーケイズのような泥臭さと荒々しさが同居したロック・サウンドと、ロナルドの柔らかい歌声、スワンプ・ドッグのキャッチーなメロディを一つに融合させた面白い作品だ。

そして、スティーヴィー・ワンダーが73年に発表した楽曲”Higher Ground”のリメイクは、原曲よりもテンポを落とし、ドロドロとしたファンク・チューンにまとめ上げたミディアム・ナンバー。ハモンド・オルガンの伴奏を目立つように配置するなど、原曲の雰囲気を残しながら、ジミ・ヘンドリックスを思い起こさせる荒々しいギターの音色を加えるなど、オリジナルとは一味違うアレンジを施している。原曲を知らない人が聴いたら、ジミ・ヘンドリックスの曲のカヴァーと勘違いしてもおかしくない、ワイルドで幻想的なパフォーマンスが格好良い曲だ。

それ以外の曲で、ぜひ聞いてほしいのが、本作が初出となる”I Remember”だ。97年にシンディが制作したスロー・ナンバーは、シンディのキュートなヴォーカルと、ロナルド・アイズレーの滑らかなハイ・テナーの相性の良さが光る、ロマンティックなメロディの曲だ。曲の起承転結が明確な点や、しっとりとしたメロディは、アイズレー・ブラザーズやサンタナというよりも、アース・ウィンド&ファイアの”Reasons”や”After The Love Has Gone”にも近い印象。シンディの可愛らしいヴォーカルを優しく包み込む、ロナルドの貫禄あふれる歌声もいい味を出している。

今回のアルバムでは、スティーヴィー・ワンダーや、チェンバー・ブラザーズ、インプレッションズなど、60年代、70年代のソウル・ミュージックの名曲や、そのスタイルを踏襲した新曲を中心に、色々なスタイルの作品を収録している。しかし、どの曲も彼らの手による大胆なアレンジが施されており、何度も繰り返し聴かないと元ネタがわからないほど、大きく変わった曲も少なくない。だが、どれだけ奇想天外な解釈を加えても、当時の音楽によく似た雰囲気を感じることができるのは、刺々しいギターの音色や、力強いドラムの演奏、そして滑らかでグラマラスなロナルドのヴォーカルなど、彼らが経験し、演奏してきた、70年代のソウル・ミュージックのエッセンスを、丁寧に取り入れているからだろう。

色々なジャンルの音楽が花開き、融合と分裂を繰り返しながら互いに刺激を与えあっていた60年代後半から70年代の音楽の醍醐味を思う存分堪能できる傑作。人間が演奏する音楽の奥深さを感じてほしい。

Producer
Carlos Santana, Cindy Blackman Santana

Track List
1. Are You Ready People
2. Total Destruction To Your Mind
3. Higher Ground
4. God Bless The Child
5. I Remember
6. Body Talk
7. Gypsy Woman
8. I Just Want To Make Love To You
9. Love, Peace, Happiness
10. What The World Needs Now is Love Sweet love
11. Mercy Mercy Me (The Ecology)
12. Let The Rain Fall On Me
13. Let There Be Peace On Earth





パワー・オブ・ピース
サンタナ&アイズレー・ブラザーズ
SMJ
2017-08-09

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