melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Sony

Craig David - The Time Is Now [2018 Speakerbox, Sony]

1999年にイギリスのシングル・チャートで2位になった、アートフル・ドジャーのシングル”Re-Rewind (The Crowd Say Bo Selecta)”のヴォーカルを担当したことで注目を集め、翌年には自身名義のメジャー・デビュー曲”Fill Me In”が同チャートで1位を獲得、アメリカでも総合シングル・チャートの15位に入る大ヒットとなった、ハンプシャー州サウスハンプトン出身のシンガー・ソングライター、クレイグ・デイヴィッド。

グレナダ系の父と、ユダヤ系の母(母方の親族がユダヤ教徒)の間に生まれ、8歳以降は母のもとで育てられた彼は、地元の大学を卒業後、ヴォーカル・グループの一員として活動を開始。その一方で、アートフル・ドジャーなどのクリエイターの作品にも客演するなど、活動の舞台を広げていった。

“Fill Me In”を収録したアルバム『Born to Do It』が、イギリスだけで180万枚を売り上げる大ヒットになった後も、2016年までに複数のレーベルで5枚のアルバムを発表。そのほとんどがゴールド・ディスクに認定されるなど、イギリスを代表するR&Bシンガーとして多くの足跡を残してきた。

このアルバムは、2016年の9月に発売された前作『Following My Intuition』からわずか1年という短い間隔でリリースされた通算7枚目のスタジオ・アルバム。ガラージとR&Bを組み合わせたスタイルで、デビュー・アルバム以来のアルバム・チャートを獲得した前作の流れを意識したのか、プロデューサーにはジャーン・マリーやフレーザーTスミスといった、R&Bとガラージの両方に強いイギリスのクリエイターを中心に起用。また、海外勢では前作に引き続きカナダのケイトラナダに加え、オランダのディズトーションなどを招き、エレクトロ・ミュージックとR&Bを融合した楽曲に取り組んでいる。

アルバムに先駆けて発表された”Heartline”は、色鮮やかな音色と四つ打ちのビートを組み合わせた作風が武器のクリエイター、ジョナス・ブルーがトラックを担当。ゆったりとしたテンポの四つ打ちのビートを取り入れて、ハウス・ミュージックのスタイリッシュな雰囲気を残しつつ、華やかな音色と軽妙なメロディを使ってポップにまとめたダンス・ナンバー。彼の持ち味である尖ったサウンドとキャッチーなメロディが両立された佳曲だ。

また、ディズトーションが制作に参加した”For The Gram”は、グライムを連想させる刺々しい音を多用したトラックと、トラップの手法を混ぜ合わせたビートが面白いミディアム。荒々しいビートや、ラガマフィンを組み合わせたスタイルが、レゲエやヒップホップ、ドラムンベースなどが混ざり合っているイギリスの音楽シーンを象徴しているようで興味深い。

そして、イギリスのロック・バンド、バスティルとのコラボレーション曲である”I Know You”は、フレーザーTスミスがプロデュースしたミディアム・ナンバー。バスティン・ケブやムラ・マサを彷彿させる繊細な音色を選ぶセンスと、90年代のティンバランドやジャーメイン・デュプリを連想させるチキチキ・ビートの組み合わせが魅力の作品だ。太くしなやかな声のクレイグと、ダン・スミスのスマートな歌唱の対比が光っている。

そして、ケイトラナダがプロデュースに名を連ね、ゴールドリンクがゲストとして参加した”Live In The Moment”は、本作では珍しい、ヒップホップ色の強い曲。ベンデス・バンドが81年に発表した”I Was There”を切り刻んで組み合わせたトラックは、ヒップホップの手法を踏襲したもの、しかし、洗練されたサウンドが心地よい原曲の雰囲気を残したアレンジは、アメリカの音楽ではあまり見られないもの。起承転結のはっきりした展開やメリハリのついたメロディは、”7 Days”や”Walking”のような初期のヒット曲を思い起こさせる。

今回のアルバムでは、彼の持ち味であるエレクトロ・ミュージックやヒップホップの要素を組み合わせたトラックと、キャッチーだけどスタイリッシュなメロディ、そして滑らかな歌声が一体になったR&B作品を披露している。R&Bの醍醐味である美しいメロディや歌声を大切にしつつ、アメリカのミュージシャンが使わない音を積極的に取り入れる姿勢が、多くのミュージシャンが鎬を削る、R&Bの世界で、彼の存在を差別化してきたと思う。

「2ステップの貴公子」の枠を超え、「UKソウルの帝王」と呼ぶにふさわしい存在となった彼の、音楽への造詣の深さと、高い表現力が遺憾なく発揮されたアルバム。アメリカの音楽とは一味違う、イギリスのR&Bを知る入門編にオススメ。

Producer
Tre Jean-Marie, Fraser T Smith, Kaytranada, Jonas Blue etc

Track List
1. Magic
2. Heartline
3. Brand New
4 . Going On
5. Love Me Like It's Yesterday
6. For The Gram
7. Get Involved feat. JP Cooper
8. I Know You feat. Bastille
9. Live In The Moment feat. GoldLink
10. Love Will Come Around
11. Somebody Like Me feat. AJ Tracey
12. Focus
13. Reload (Craig David and Chase & Status)
14. Talk to Me
15. Talk to Me Pt. II feat. Ella Mai





The Time Is Now (Deluxe)
Craig David
Speakerbox
2018-01-26

Steve Aoki - Steve Aoki Presents Kolony [2017 Ultra Records, Sony]

2010年代以降、クラブ・ミュージックの主役になりつつあるEDM。ディプロやカルヴィン・ハリスのようなDJやクリエイターは、ウィル・アイ・アムやリアーナといったヒップホップ、R&B畑のミュージシャンを巻き込むことで、お茶の間にも進出。オーディオ機器のアイコンとして採用されるなど、クラブとは縁遠い人々の間も知られる存在となった。

スティーヴ・アオキも、このムーブメントを代表するクリエイターの一人。フロリダ州のマイアミに生まれ、カリフォルニア州のニューポートで育った彼は、ロッキー青木の名前でプロレスラーとして活躍し、のちに鉄板焼きレストラン「ベニハナ」を創業した青木廣彰を父に持つ日系人。大学生のころから、音楽活動をしていた彼は、96年に自身のレーベルを設立。アクロバティックなDJとキャッチーな作風で人気を集めてきた。

そんな彼は、2010年にウィル・アイ・アムとのコラボレーション曲”I'm in the House”を発表すると、イギリスのシングル・チャートにランクイン。2012年には初のアルバム『Wonderland』をリリース。LMFAOやリル・ジョンを招いた本作は、エレクトロ・ミュージックのアルバムとしては異例の全米アルバム・チャート入りを果たした。

その後も、DJやレコーディングを精力的にこなした彼は、現在では世界で五指に入る人気DJと称されるまでになった。

このアルバムは、2015年の『Neon Future』以来となる、通算4枚目のフル・アルバム。前作同様、多くのラッパーを招いた、ヒップホップ色の強い作品になっている。

本作の収録曲で最初に目を引いたのは、オランダを拠点に活動するDJチーム、イエロー・クロウとのコラボレーション・シングル”Lit”。オートチューンを使ったT-ペインのヴォーカルと、グッチ・メインの重いラップが格好良い作品。シンセサイザーを刺々しいビートと、T-ペインのロボット・ヴォイスがうまく噛み合った良作だ。

また、カナダのDJユニット、DVBBSやジョージア州出身のラッパー、2チェインズが参加した”Without You”は、サイレンのような音色が印象的なビートをバックに、泥臭いラップを聴かせる2チェインズの存在が光っている。2チェインズの作品同様、シンセサイザーを駆使したトラップ寄りの楽曲だが、エレクトロ・ミュージックの世界で育った面々がトラックを作ると、よりキャッチーで躍動感のあるものに聞こえるから不思議だ。

また、ミーゴスとリル・ヨッティをフィーチャーした”Night Call”は、本作の収録曲でも特にヒップホップ寄りの作品。チキチキという高音と、唸るような低音の組み合わせが心地よいビートに乗って軽妙なラップを聴かせている佳曲。リル・ヨッティやミーゴスのアルバムに入っていそうな作品だが、細かいところに工夫を凝らして、差別化を図っている点は流石の一言。

そして、バッド・ボーイに多くの作品を残しているメイスを招いた”$4,000,000”は、スティーヴ・アオキと同じ西海岸発のEDMユニット、バッド・ロイヤルが制作に携わり、ビッグ・ギガンティックのサックスやドラムの演奏を盛り込んだ作品。昔のソウル・ミュージックをサンプリングしたサウンドで一世を風靡したバッド・ボーイの音楽を彷彿させる部分と、EDMの手法を混ぜ合わせたトラックが新鮮に映る。

今回のアルバムは、彼の前作やディプロやカルヴィン・ハリスの近作同様、ヒップホップやR&Bのトレンドをエレクトロ・ミュージックに取り入れたものだ。その中でも、彼の音楽はEDMの高揚感とヒップホップの奇抜さを丁寧に取り入れたサウンドが印象的、EDM畑のクリエイターは、変則的なビートにも対応できる、アメリカ南部出身のラッパーや、海外のミュージシャンとコラボレーションが多いが、彼もその流れを踏襲している。

本格的なクラブ・ミュージックでありながら、自宅や通勤、通学中の鑑賞にも耐えうる良質なポップス作品。エレクトロ・ミュージックを聴いたことがない人にこそ、手に取ってほしいアルバムだ。

Producer
Steve Aoki, Yellow Claw, DVBBS, Bad Royale, Ricky Remedy

Track List
1. Kolony Anthem feat. Bok Nero, ILoveMakonnen
2. Lit feat. Gucci Mane, T-Pain
3. Without You feat. 2 Chainz
4. How Else feat. ILoveMakonnen, Rich The Kid
5. Been Ballin feat. Lil Uzi Vert
6. Night Call feat. Lil Yachty, Migos
7. $4,000,000 feat. Big Gigantic, Ma$e
8. If I Told You That I Love You feat. Wale
9. No Time feat. Jimmy October
10. Thank You Very Much feat. Sonny Digital







Boyz II Men - Under The Streetlight [2017 MasterWorks, Sony]

これまでに6000万枚以上のレコードを売り上げ、ボーイズ・グループとしては歴代トップ10、黒人男性だけで構成されたグループとしてはジャクソン5に次ぐ2位という記録を残しているフィラデルフィア出身のヴォーカル・グループ、ボーイズIIメン。

85年に同じハイスクールに通う5人によって結成されたこのグループは、当時流行していたニュー・エディションを意識したスタイルで活動を始めると、たちまち地元で話題になる。その後、公演でフィラデルフィアを訪れていたベル・ヴィヴ・デヴォー(ニュー・エディションのメンバーで構成されたグループ)の前で演奏を披露したことをきっかけにプロへの道を歩み始め、91年にモータウンからアルバム『Cooleyhighharmony』でメジャーデビュー。アメリカ国内だけで900万枚を売り上げる大ヒットとなる。

また、翌年には映画「ブーメラン」のサウンドトラックに収録されている”End of the Road”が全米総合シングル・チャートで13週連続1位という大記録を残すと、94年にはアルバム『II』をリリース。アメリカ国内だけで1200万枚を売り上げるなど、こちらも大きな成功を収める。また、同作からシングル・カットされたシングル”I'll Make Love to You”が全米総合シングル・チャートで連続14周1位という記録を残している。

そして、95年にはマライア・キャリーとのコラボレーション曲”One Sweet Days”をリリース。この曲は全米総合シングル・チャートの1位を16週間守り抜き、2017年にルイス・フォンスイの”Despacito”が同じ記録を樹立するまで、唯一無二の記録としてその名を残した。

しかし、2000年代に入ると周囲の人々との音楽性の食い違いや、ファンから求められる音楽と自分達のスタイルのギャップなどに苦しみ、活動が停滞するようになる。

そんな中でリリースされたがこのアルバム。2014年の『Collide』以来、約3年ぶり通算12枚目のLPとなる本作では、「クラシカルで、ハーモニーを大切にしたサウンド」をコンセプトに掲げ、50年代、60年代のソウル・クラシックのカヴァーを中心に収録。ゲストとしてテイク6やブライアン・マックナイト、ジミー・マーチャントのような実力派シンガーを招いた、本格的なヴォーカル・アルバムに仕上げている。

アルバムの1曲目を飾るのは、50年代に一世を風靡したヴォーカル・グループ、フランキー・ライモン&ティーンエイジャーズが56年に発表した大ヒット曲”Why Do Fools Fall In Love”のカヴァー。今回はジミー・マーチャントを招き、10代半ばの少年たちが世に放った名曲を円熟した歌声と正確無比なハーモニーで歌い直している。シンプルな編成のバンドをバックに、ポップなメロディを軽やかに歌い上げるリード・シンガーと、息の合ったコーラス・ワークのコンビネーションが光っている。変声期前後の少年達が歌っていたオリジナルとは一味違う、老練なパフォーマンスが素敵な作品。

続く”A Thousand Miles Away ”は、ニューヨークのクイーンズ発のコーラス・グループ、ハートビートが57年にリリースした作品のリメイク。美しいコーラスに拘ったスタイルで30年以上活動し、日本にも多くのファンがいるアラバマ州ハンツビル出身のヴォーカル・グループ、テイク6とのコラボレーション。ボーイズIIメンの3人とテイク6の6人、合計9人による荘厳なコーラスが心地よいスロー・ナンバー。ソウル・ミュージックと言えば、パワフルなヴォーカルが魅力の作品が多いが、この曲では9人の高い歌唱力を活かした、緻密なコーラス・ワークで勝負している。

また、リトル・アンソニー&インペリアルズが58年に発表した”Tears On My Pillow”のカヴァーは、90年代から活躍しているバラーディア、ブライアン・マックナイトを招いた作品。この曲もオリジナルは少年グループによる録音だが、こちらはブライアン・マックナイトの滑らかな歌声を軸にした上品なバラードに纏め上げている。この曲や”Why Do Fools Fall In Love”のような、キッズ・グループの作品を、声域も技術も異なる大人が歌うのは一筋縄にはいかないが、彼らは曲に応じてコラボレーション相手を変えることで、楽曲の隠れた魅力を引き出しながら、自分達の音楽に染め上げている。

そして、本作の収録曲では唯一、女性シンガーを起用した”Anyone Who Knows What Love Is”は、ニューオーリンズ出身の歌姫、アーマ・トーマスが64年にリリースした作品のカヴァー。アメリカの 人気テレビ・ドラマ「グリー」のメルセデス・ジョーンズ役でも有名な女優のアンバー・ライリーを招き、アメリカの音楽史に残るディーヴァの作品に正面から取り組んだ、本作の収録曲では異色の録音だ。ほかの作品では見られない、パワフルな歌唱を披露する3人も素晴らしいが、若き日のアーマが降臨したような、堂々とした歌いっぷりのアンバーの存在が輝いている。彼女が担当したパートが、本作のハイライトといっても過言ではない。

今回のアルバムでは、50年代から60年代のソウル・ミュージックを数多く取り上げているが、収録曲に耳を傾けると、往年のサウンドを忠実に再現したものとも、現代風にアレンジしたものとも異なる、独創的な解釈に驚かされる。伴奏を生演奏にすることで、往年のソウル・ミュージックを彷彿させるシンプルだけど温かく、ポップでコミカルなものにまとめられている。しかし、現代のシンガーに合わせてヴォーカルは艶やかで洗練されたものになっているのは、2017年に本作をリリースする彼らのバランスが発揮されたものといっても過言ではないだろう。

その実力で、ポピュラー・ミュージック界に多くの足跡を残してきたヴォーカル・グループが、豊かな経験と高い技術をフルに活かして、自分達のルーツ・ミュージックに取り組んだ意欲作。今時のR&Bやヒップホップが好きな人にこそ聴いて欲しい、それぞれの時代に個性豊かな作品を残してきた、黒人音楽の世界の一端を垣間見れる面白いアルバムだと思う。

Track List
1. Why Do Fools Fall In Love feat. Jimmy Merchant
2. A Thousand Miles Away feat. Take 6
3. Stay
4. I Only Have Eyes For You
5. Up On The Roof
6. I’ll Come Running Back To You feat. Brian McKnight
7. Tears On My Pillow feat. Brian McKnight
8. A Sunday Kind Of Love feat. Brian McKnight
9. Anyone Who Knows What Love Is feat. Amber Riley
10. Ladies Man



a

Under the Streetlight
Masterworks
2017-10-20

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