ジェイ・ディラやマッドリヴの作品を配給する一方、メイヤー・ホーソンやアロー・ブラックといった通好みのR&Bシンガーを世に送り出したことでも話題になった、ロス・アンジェルスに拠点を置くインディペンデント・レーベル、ストーンズ・スロウ。
近年はアンダーソン・パークとノウレッジの音楽ユニット、ノー・ウォーリーズや、スヌープドッグとディム・ファンクのコラボレーション作品を配給するなど、メジャー・レーベルと契約する人気アーティストと、アンダー・グラウンドな世界で活躍するミュージシャンの競演を手助けしたことで再び注目を集めた彼らが、新たに契約したのがスティミュレイター・ジョーンズこと、サム・ランスフォードだ。
ヴァージニア州ロアノーク出身のサムは、様々な人種や地域の人が交わりあい、新しい音楽を生み出していた70年代、80年代の音楽に強い興味を持つ一方で、ヒップホップのDJとしても活動していた。 そんな彼は、2014年ごろから、現在の名義で音楽を発表。2016年にはストーンズ・スロウのコンピレーション『Sofie’s SOS Tape』に提供した”Soon Never Comes”が注目を集め、同レーベルと契約を結んだ。
本作は、彼にとって初めてのスタジオ・アルバム。全ての曲で、彼自身がプロデュースやソングライティングを担当し、歌声を吹き込むなど、制作の大部分を自身の手で行った力作になっている。
本作で最初に目を惹いたのは、2曲目に収められた”Give My All”。アルバムのリリース直前に発表されたこの曲は、ブリブリと唸りを上げるベースの音色と、洗練されたビートの組み合わせが心地よいディスコ・ナンバー。ベースの音を強調したディスコ・サウンドといえば、レーベル・メイトのディム・ファンクを思い起こさせる。しかし、彼の場合は90年代のヒップホップで多用された、70年代のソウル・ミュージックのような温かい音色を取り入れるなど、細部に変化をつけることで独自性を打ち出している。繊細なハイ・テナーを組み合わせた作風は、ソウル・シンガーがリードを執るファンク・バンドよりも、白人歌手を起用したフュージョン・バンドに近い。
また、『Sofie’s SOS Tape』からの再録曲である”Soon Never Comes”は、ベースの音色を極端に強調したビートと、音数を絞った上物が、ジョージ・アン・マルドロウを連想させるミディアム・ナンバー。奇抜なトラックの上で歌われるのは、グルーヴ・セオリーやシャーデーを連想させる、起承転結がはっきりとした構成と、美しく滑らかなメロディ。2018年のインディー・ヒップホップの手法を用いて、90年代以前のポピュラー・ミュージックを現代に蘇らせた手腕が心に残る佳曲。
これに続く”Need Your Body”は、70年代のソウル・ミュージックのレコードからサンプリングしたような、太く温かい音色を使ったトラックの上で、甘酸っぱい歌声を響かせる姿が印象的な曲。爽やかなメロディとヒップホップのビートを組み合わせた作風は、ラルフ・トレスヴァントの”Sensitivity”にも通じるものがある。ブルーノ・マーズの成功で再評価が進む80年代後半から90年代前半のR&Bを、独自の解釈で新しい音楽として再構築した大胆な発想が面白い。
そして、本作の最後を締めるのは”Give My All”と同時に公開された”Tempt Me With Your Love”。エムトゥーメイの”Juicy Fruits”を思い起こさせる、ゴムボールのように跳ねる音色が心地よいトラックと、流れるようなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。80年代のソウル・ミュージックを彷彿させるフレーズを多用しているが、流麗なメロディと洗練されたアレンジのおかげで、ポップスっぽく聴こえる。
彼の音楽を聴いていて感じるのは、70年代から90年代にかけて流行した、様々なジャンルの音楽を丁寧に聴き込み、自分の作品の糧にしてきた、音楽への深い愛情と造詣だ。当時のサウンドを徹底的に研究し、現在に蘇らせたことは特筆に値する。しかし、彼の凄いところは、当時の音楽を研究するだけでなく、それらを細かく分解して、自分の音楽として再構築している点だ。昔の音楽への傾倒を示すミュージシャンは少なくないが、当時の音を使いつつ、自身の時代に合わせて、新しい音楽に組み替える人は少ない。この深い知識と、鋭いセンスが彼の音楽の魅力だと思う。
多くの人が知る昔の音楽と、同じくらい一般化した最新の録音機材を組み合わせ、独創的なサウンドを生み出した稀有な例。温故知新を地で行く、懐かしさと新鮮さが入り混じたヒップホップ作品だ。
Producer
Stimulator Jones
Track List
1. Water Slide
2. Give My All
3. Feel Your Arms Around Me
4. Together
5. Trippin On You
6. I Want You Too
7. Soon Never Comes
8. Need Your Body
9. Suite Luv
10. Tell Me Girl
11. Tempt Me With Your Love
近年はアンダーソン・パークとノウレッジの音楽ユニット、ノー・ウォーリーズや、スヌープドッグとディム・ファンクのコラボレーション作品を配給するなど、メジャー・レーベルと契約する人気アーティストと、アンダー・グラウンドな世界で活躍するミュージシャンの競演を手助けしたことで再び注目を集めた彼らが、新たに契約したのがスティミュレイター・ジョーンズこと、サム・ランスフォードだ。
ヴァージニア州ロアノーク出身のサムは、様々な人種や地域の人が交わりあい、新しい音楽を生み出していた70年代、80年代の音楽に強い興味を持つ一方で、ヒップホップのDJとしても活動していた。 そんな彼は、2014年ごろから、現在の名義で音楽を発表。2016年にはストーンズ・スロウのコンピレーション『Sofie’s SOS Tape』に提供した”Soon Never Comes”が注目を集め、同レーベルと契約を結んだ。
本作は、彼にとって初めてのスタジオ・アルバム。全ての曲で、彼自身がプロデュースやソングライティングを担当し、歌声を吹き込むなど、制作の大部分を自身の手で行った力作になっている。
本作で最初に目を惹いたのは、2曲目に収められた”Give My All”。アルバムのリリース直前に発表されたこの曲は、ブリブリと唸りを上げるベースの音色と、洗練されたビートの組み合わせが心地よいディスコ・ナンバー。ベースの音を強調したディスコ・サウンドといえば、レーベル・メイトのディム・ファンクを思い起こさせる。しかし、彼の場合は90年代のヒップホップで多用された、70年代のソウル・ミュージックのような温かい音色を取り入れるなど、細部に変化をつけることで独自性を打ち出している。繊細なハイ・テナーを組み合わせた作風は、ソウル・シンガーがリードを執るファンク・バンドよりも、白人歌手を起用したフュージョン・バンドに近い。
また、『Sofie’s SOS Tape』からの再録曲である”Soon Never Comes”は、ベースの音色を極端に強調したビートと、音数を絞った上物が、ジョージ・アン・マルドロウを連想させるミディアム・ナンバー。奇抜なトラックの上で歌われるのは、グルーヴ・セオリーやシャーデーを連想させる、起承転結がはっきりとした構成と、美しく滑らかなメロディ。2018年のインディー・ヒップホップの手法を用いて、90年代以前のポピュラー・ミュージックを現代に蘇らせた手腕が心に残る佳曲。
これに続く”Need Your Body”は、70年代のソウル・ミュージックのレコードからサンプリングしたような、太く温かい音色を使ったトラックの上で、甘酸っぱい歌声を響かせる姿が印象的な曲。爽やかなメロディとヒップホップのビートを組み合わせた作風は、ラルフ・トレスヴァントの”Sensitivity”にも通じるものがある。ブルーノ・マーズの成功で再評価が進む80年代後半から90年代前半のR&Bを、独自の解釈で新しい音楽として再構築した大胆な発想が面白い。
そして、本作の最後を締めるのは”Give My All”と同時に公開された”Tempt Me With Your Love”。エムトゥーメイの”Juicy Fruits”を思い起こさせる、ゴムボールのように跳ねる音色が心地よいトラックと、流れるようなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。80年代のソウル・ミュージックを彷彿させるフレーズを多用しているが、流麗なメロディと洗練されたアレンジのおかげで、ポップスっぽく聴こえる。
彼の音楽を聴いていて感じるのは、70年代から90年代にかけて流行した、様々なジャンルの音楽を丁寧に聴き込み、自分の作品の糧にしてきた、音楽への深い愛情と造詣だ。当時のサウンドを徹底的に研究し、現在に蘇らせたことは特筆に値する。しかし、彼の凄いところは、当時の音楽を研究するだけでなく、それらを細かく分解して、自分の音楽として再構築している点だ。昔の音楽への傾倒を示すミュージシャンは少なくないが、当時の音を使いつつ、自身の時代に合わせて、新しい音楽に組み替える人は少ない。この深い知識と、鋭いセンスが彼の音楽の魅力だと思う。
多くの人が知る昔の音楽と、同じくらい一般化した最新の録音機材を組み合わせ、独創的なサウンドを生み出した稀有な例。温故知新を地で行く、懐かしさと新鮮さが入り混じたヒップホップ作品だ。
Producer
Stimulator Jones
Track List
1. Water Slide
2. Give My All
3. Feel Your Arms Around Me
4. Together
5. Trippin On You
6. I Want You Too
7. Soon Never Comes
8. Need Your Body
9. Suite Luv
10. Tell Me Girl
11. Tempt Me With Your Love