melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

TopDawg

Various Artist - Black Panther The Album [2018 Top Dawg, Aftermath, Interscope]

2017年には4枚目のスタジオ・アルバム『Damn』を発表。複数の国でゴールド・ディスクを獲得し、同作に収録されているシングル”Humble”は、各国の年間チャートに名前を連ねる大ヒットとなった、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー、ケンドリック・ラマー。2018年1月に開催されたグラミー賞では、主要部門のうち、最優秀レコードと最優秀アルバムの2部門にノミネートし、ラップ部門を総なめにするなど、2017年を代表するヒップホップ・アーティストとして、華々しい成果を上げた彼の2018年最初の作品は、アフリカ系アメリカ人が主人公のマーベル・コミックを実写化した、ハリウッド映画のサウンド・トラック。

彼が在籍するレーベル、トップ・ドーグから発売されたこのアルバムでは、同レーベルの所属アーティストを中心に、ジェイムス・ブレイクやウィークエンド、アンダーソン・パークなど、凝ったサウンドで多くの音楽ファンを魅了してきた面々が集結。斬新なサウンドとキャッチーな曲作りで、聴き手を魅了している。

本作の1曲目は、ケンドリック・ラマーと同郷のプロデューサー、マーク・スピアーズが手掛けるタイトル・トラック”Black Panther”。60年代のポピュラー・ミュージックから引用したような、ロマンティックなピアノの伴奏に始まり、シンセサイザーを駆使したおどろおどろしいビートへと繋ぐ展開が新鮮な作品。トラックの変化に合わせて、ラップのスタイルを変えるケンドリック・ラマーのテクニックも光っている。

これに続く”All the Stars”は、プロデュースをマークとロンドン出身のアル・シャックスが担当した、ケンドリック・ラマーとシーザのコラボレーション曲。エムトゥーメイの”Juicy Fruits”を彷彿させる、スタイリッシュなビートに乗って、爽やかな歌声を響かせるシーザと、切れ味の鋭いラップを聴かせるケンドリック・ラマーのコンビネーションが格好良いミディアム・ナンバー。強烈な存在感を発揮しながら、息の合ったパフォーマンスを見せる姿は、多くのシンガーとヒット曲を残してきた、ナズやジェイZを思い起こさせる。

また”Humble”の共作者としても有名な、マイク・ウィル・メイド・イットが制作に参加した”King's Dead ”は、ジェイ・ロックやフューチャーといった、実力に定評のあるラッパーに加え、ビヨンセやフランク・オーシャンのアルバムにも拘わっているジェイムス・ブレイクを起用。マイクが得意とするチキチキ・ビートの上で、三人が豊かな個性を遺憾なく発揮している。ジェイムス・ブレイクのヴォーカルを含め、最小限の音数でスリリングなヒップホップを聴かせるテクニックは、流石としか言えない。

そして、本作の最後を締める”Pray For Me”は、2016年のアルバム『Starboy』が年を跨いで売れ続けた、カナダ出身のシンガー・ソングライター、ウィークエンドとのコラボレーション曲。ウィークエンドがダフト・パンクと録音した大ヒット曲”Starboy”の共作者でもあるドック・マッキンネイに加え、ドレイクやニッキー・ミナージュに楽曲を提供しているカナダ出身のヒット・メイカー、フランク・デュークスが制作者に名を連ねるこの曲は、アナログ・シンセサイザーの太く、柔らかい音色を使ったトラックが”、Starboy”を連想させるミディアム・ナンバー。殺伐とした雰囲気の作品が多いケンドリック・ラマーに合わせて、哀愁を帯びたメロディや伴奏を取り入れた構成が心憎い。”Starboy”の路線を踏襲しつつ、このアルバムに合わせて絶妙な調整を加えた佳作だ。

本作の聴きどころは、強烈な個性で台頭したトップ・ドーグの面々の持ち味を際立たせながら、ゲスト・ミュージシャンやアルバム全体の構成で、作品全体に起伏をつけているところだろう。単独名義の作品ではアクが強過ぎて使いづらいスタイルの楽曲を録音しつつ、曲ごとにプロデューサーやアーティストの組み合わせを変えることで、パフォーマーの個性を引き出しつつ、アルバムにメリハリをつけている。また、映画という一つの軸を持つことで、バラエティ豊かな楽曲を揃えつつ、一本筋が通った作品に仕立てている点も見逃せないだろう。

ケンドリック・ラマーやシーザを輩出したトップ・ドーグの、高い実力が遺憾なく発揮された名盤。2018年初頭に発表されたアルバムだが、この年を代表する作品になりそうな風格さえ感じる。

Producer
Anthony "Topdawg" Tiffith, Kendrick Lamar, Dave "Miyatola" Free etc

Track List
1. Black Panther - Kendrick Lamar
2. All the Stars - Kendrick Lamar, SZA
3. X - Schoolboy Q, 2 Chainz, Saudi
4. The Ways - Khalid, Swae Lee
5. Opps - Vince Staples, Yugen Blakrok
6. I Am - Jorja Smith
7. Paramedic! - SOB X RBE
8. Bloody Waters - Ab-Soul, Anderson .Paak, James Blake
9. King's Dead - Jay Rock, Kendrick Lamar, Future, James Blake
10. Redemption Interlude
11. Redemption - Zacari, Babes Wodumo
12. Seasons - Mozzy, Sjava, Reason
13. Big Shot - Kendrick Lamar, Travis Scott
14. Pray For Me - The Weeknd, Kendrick Lamar





Black Panther: The Album
Various Artists
ユニバーサル ミュージック合同会社
2018-02-10

SiR - November [2018 Top Dawg Entertainment]

インターネット上に公開した作品から火が付き、ジル・スコットやアンダーソン・パック、タイリースなど、多くの有名ミュージシャンの作品に起用されてきたカリフォルニア州イングルウッド出身のシンガー・ソングライター、サーことダリル・ファリス。

2015年にケンドリック・ラマーシーザ、スクールボーイQなどを擁する西海岸のレーベル、トップ・ドーグと契約。同社に所属するミュージシャンを含む、色々なアーティストの支援を受けながら、2枚のEPを録音すると、その先進的な作風が高い評価を受ける。また、DJジャジー・ジェフによる音楽プロジェクト、ザ・プレイリストや元デスティニーズ・チャイルドのラトーヤ・ラケットの作品に参加するなど、色々な場所で腕を振るってきた。

彼女にとって、このアルバムは、2017年のEP『HER TOO』以来、約11か月振りとなる新作。それと同時に、フレッシュ・セレクトから発表した2015年の『Fresh Sundays』以来となる、トップ・ドーグでは初のフル・アルバムでもある。ゲストにはイギリスのシンガー・ソングライター、エッタ・ボンドやレーベル・メイトのスクールボーイQが参加し、収録曲のプロデュースをアンドレ・ハリスやDJカリル、ハーモニー・サミュエルズなどが担当。商業面で大きな成果を上げつつ、音楽通を唸らせる作品を残してきた面々が集結し、尖った感性と繊細な表現が魅力の彼女の持ち味を、巧みに引き出している。

アルバムの実質的な1曲目となる”That's Alright”はJ.LBSデュースした曲。太く、粗削りな重低音がエイドリアン・ヤングやジェイ・ディラを思い出させるミディアム・ナンバーだ。エフェクターの影響か、若い男性のような爽やかで芯の強い声が強く心に残る。シーザやシドにも通じる部分があるが、彼女達とは一線を画したしなやかさが印象的な佳曲だ。

これに対し、スクールボーイQをフィーチャーした”Something Foreign”は、哀愁を帯びたピアノの伴奏が物悲しい雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。ニューヨークを拠点に活動するプロデューサー、サクソンが作る、古いレコードから抜き出したような温かい音色が心地よい。ATCQやナズの初期作品を連想させる、ヒップホップのエッセンスを盛り込みつつ、繊細なヴォーカルで彼女の音楽に落とし込んでいる。

また、エッタ・ボンドが客演した “Something New”は、チャンス・ザ・ラッパーなどの楽曲を手掛けているラスカルがプロデュースした曲。リズム・マシンのビートと、ギターなどの上物を組み合わせたトラックは、インディア・アリーやジル・スコットの作風に近い。所々でタメを効かせるなど、ビートを自在に乗りこなすサーと、細くしなやかな歌声を活かすため、リズムに忠実に歌うエッタの対照的な歌唱が面白い。

そして、本作に先駆けて公開された”Summer in November”はアンドレ・ハリスがビートを手掛けたミディアム・ナンバー。重く柔らかい音色のドラムとベースの上で、太いシンセサイザーの音色が響く重厚なトラックの上で、色っぽい歌声を響かせている。温かいサウンドはブライトサイド・オブ・ダークネスやデルズが70年代に残した、甘いムードと洗練されたメロディ、泥臭い伴奏が同居したシカゴ・ソウルの名曲を連想させる良作だ。

今回の作品では、DAWソフトやシンセサイザーを多用しつつ、太く荒々しい音色を使って、往年のソウル・ミュージックが持つ泥臭さを積極的に取り込んでいる。この、往年のソウル・ミュージックを意識したサウンドが、繊細でしなやかな、だけど少し荒々しいヴォーカルと合わさり、いつの時代の音楽とも一味違う作品に仕立て上げている。このヒップホップやR&B、ソウル・ミュージックを飲み込み、自分の音楽に昇華する大胆さが、彼女の強みだと思う。

トップ・ドッグの最終兵器といっても過言ではない、恵まれた歌声と高い技術、鋭い音楽センスを兼ね備えた彼女の才能が、名プロデューサーの手によって開花した捨て曲のない良質なアルバム。5年後の音楽を先取りしながら、昔のソウル・ミュージックやヒップホップの良さをきちんと受け継いだ、稀有な作品だ。

Producer
Andre Harris, Dj Kahlil, J.LBS, Raskals, Saxon

Track List
1. Gone
2. That's Alright3. Something Foreign feat. ScHoolboy Q
4. D'Evils
5. Something New feat. Etta Bond
6. I Know
7. Never Home
8. War
9. Better
10. Dreaming of Me
11. Summer in November





November [Explicit]
Top Dawg Entertainment
2018-01-19

SZA - Ctrl [2017 Top Dawg RCA]

2014年4月、ケンドリック・ラマーやスクールボーイQなどが所属する、トップ・ドッグ初の女性シンガーとして、デビュー作となるEP『Z』をリリースした、ミズーリ州セントルイス生まれ、ニュージャージー州メイプルウッド育ちのシンガー・ソングライター、SZA(シザ)ことソラーナ・イマーニ・ロウェ。

放送局のプロデューサーでムスリムの父と、大手通信会社勤務でクリスチャンの母の間に生まれた彼女は、一般のアメリカ人向けの教育と並行して、ムスリムとしての教育も受けてきた。そのため、9.11のテロ事件が起きた後には、身に着けていたヒジャブを巡って、いじめを受けたこともあるなど、苦労もしてきたようだ。

その後、進学した大学では海洋生物学を専攻。世界を股にかける科学者になることを夢見たが、資金の問題もあり一度断念。お金を稼ぐために音楽活動を始めたという。

そんな彼女は、2011年に、当時のボーイフレンドの会社が、ケンドリック・ラマーのライブのスポンサーをしていた縁で、レーベルのオーナーであるテレンス・ヘンダーソンの知己を得る。そして、彼のレーベルでレコーディングをする機会を得た彼女は、2012年には自身初のミックステープとなる『See.SZA.Run』を録音。ドレイクフランク・オーシャンにも匹敵する先鋭的な作風で、熱心な音楽ファンの間で注目を集めた。また、翌年には2枚目のミックステープ『S』を公開。こちらも高い評価を受けた。

今回のアルバムは、彼女にとって初のフル・アルバムで、メジャー・デビュー作でもある。ブライソン・ティラーカリードなどの作品を扱っているRCAからの配給で、ケンドリック・ラマーやスクールボーイQなどのレーベル・メイトのほか、ファレル・ウィリアムスやフランク・デュークスといった売れっ子プロデューサーが多数参加した、豪華な作品になっている。

アルバムの1曲目に入っている”Supermodel”は、ファレルとニコ・シーガルがプロデュースした作品。ファレルがかかわった曲では珍しい、爪弾くように演奏されるギターをバックに訥々と歌う姿が印象的な、フォーク・ソングっぽい作品。しかし、フォーク・ソングの要素を盛り込みながら、太いベースの音や力強いヴォーカルで、きちんとソウル・ミュージックに落とし込む技は流石の一言。シザの歌唱力と、ファレル達のプロデュース能力の高さを再確認させられる曲だ。

続く”Love Galore”は、2015年に”Ok Alright”で共演しているトラヴィス・スコットをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。メンフィス出身のプロデューサー、サンクゴット4コディが制作を担当。90年代のR&Bを連想させる、柔らかい音色のシンセサイザーを使ったトラックと、シザのキュートな歌声が光るミディアムだ。ドレイクを彷彿させる、ラップのような歌い方も格好良い。脇を固めるトラヴィス・スコットのラップも存在感を発揮している。全体的に、インターネットのシドの作品とよく似た雰囲気の、90年代テイスト溢れる曲だ。

また、新作『Damn.』も好評なケンドリック・ラマーを招いた”Doves In the Wind”は、ラスヴェガス出身のキャメロン・オスティーンがプロデュース。古いレコードからサンプリングしたような、太く温かい音色のビートをバックに、可愛らしい歌声でラップをするように言葉を繋ぐミディアム・ナンバー。シザのヴォーカルにあわせて、高音を多用してゆっくりとラップをするケンドリック・ラマーの器用な一面も面白い。”Love Galore”同様、90年代の音楽の影響が垣間見えるが、ヒップホップ寄りのビートと、若き日のモニカやブランディを連想させるキュートな歌唱が印象的な曲だ。

そして、本作に先駆けて公開された”Drew Barrymore”は、彼女が客演したリアーナの”Consideration”を一緒に制作している、カーター・ラングやタイラン・ドナルドソンと共作したもの。スロー・テンポのトラックに乗せて、エネルギーを発散するかのように、自由かつ大胆に歌う彼女の姿が印象的な曲。ゆったりとしたテンポのトラックや、荒々しいメロディ、奔放なヴォーカルは”Consideration”とよく似ているが、こちらのほうがビートの音圧が低い分、リスナーの耳を歌に引き付けやすいと思う。

本作の面白いところは、90年代以降の色々なR&B作品のエッセンスを取り入れつつ、過去の楽曲とは違う独自色を打ち出しているところだ。その象徴ともいえるのが”Drew Barrymore”のような曲で、メロディやトラックにリアーナの”Consideration”の要素を盛り込みつつ、ヴォーカルに気を惹かせる編曲で、きちんと差別化を図っている。柔軟な発想で色々なスタイルを取り込みつつ、細部まで気を配ったアレンジが彼女の魅力だと思う。

ビリー・ホリデーからウータン・クランまで、色々な音楽に親しんできた豊かな感性が生み出す新鮮な音楽と、それを形にする豊かな表現力、そして、細部にまで気を配った演出が一体化した、懐かしいようで新鮮な作品。今時のR&Bが好きな人はもちろん、それ以前の時代のヴォーカル作品が好きな人にもお勧めできる、魅力的な作品だ。

Producer
Anthony "Top Dawg" Tiffith, Best Kept Secret, Frank Dukes, Pharrell Williams, Terrace Martin etc

Track List
1. Supermodel
2. Love Galore feat. Travis Scott
3. Doves In the Wind feat. Kendrick Lamar
4. Drew Barrymore
5. Prom
6. The Weekend
7. Go Gina
8. Garden (Say It Like Dat)
9. Broken Clocks
10. Anything
11. Wavy (Interlude) feat. James Fauntleroy II
12. Normal Girl
13. Pretty Little Birds feat. Isaiah Rashad
14. 20 Something





Ctrl
Sza
RCA
2017-06-09

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