melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

TopDawg

Kendrick Lamar - Damn. [2017 Top Dawg Entertainment]

2000年代初頭に音楽活動を開始。2004年にK-ドットの名義で発表したミックス・テープ『Youngest Head Nigga in Charge (Hub City Threat: Minor of the Year)』が、現在も所属するトップ・ドッグ・エンターテイメントのオーナー、アンソニー・ティフスの目に留まり、同レーベルと契約。ザ・ゲームなどの、西海岸出身のヒップホップ・アーティストのオープニング・アクトなどを務めながら、自身の作品をレコーディングしてきた、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー、ケンドリック・ラマーことケンドリック・ラマー・ダックワーズ。

2010年に配信限定で発表したミックス・テープ『Overly Dedicated』が, ビルボードのヒップホップ・R&Bアルバム・チャートに入ると、往年のギャングスタ・ラップを彷彿させるリリックと、様々なビートを自在に乗りこなすスキルが注目を集め、ドクター・ドレが率いるアフターマスと契約。2011年に初のフル・アルバム『Overly Dedicated』をトップ・ドッグから発売すると、気鋭の新人ヒップホップ・アーティストとして多くのメディアに取り上げられる。翌年にはアフターマスからメジャー・デビュー・アルバムとなる『good kid, m.A.A.d city』をリリース。2015年には2枚目のフル・アルバム『To Pimp a Butterfly』を発売。2作連続でプラチナ・セールスを獲得する一方、多くのメディアや愛好家のコミュニティから絶賛され、2016年にはヒップホップ・アーティストでは史上最多となる、グラミー賞11部門にノミネートする快挙を成し遂げた。

本作は、前作から約2年ぶりの新作となる通算3枚目のオリジナル・アルバム。といっても、前回のアルバムが発売されたあとも、編集盤『Untitled Unmastered.』やマルーン5とのコラボレーション・シングル『Don’t Wanna Know』など、多くの作品をリリースしていたので、どちらかと言えば「まだ3作目なのか」という印象を抱いてしまう。

今回のアルバムは、演奏者やゲスト・ミュージシャンが多数参加していた前作に比べると、本作のゲストは少なく、主役のラップとトラックにスポットを当てたシンプルなもの。だが、それ故に彼の実力の高さと、メジャー・デビュー後に更なる進化を遂げたラップのスキルが明確になったように思える。

アルバムの実質的な1曲目”DNA”は前作でも演奏しているギタリストのマット・シェファーが参加した楽曲。マイク・ウィル・メイド・イットがプロデュースしたトラックは、2000年代初頭のジャーメイン・デュプリやリル・ジョンが手掛けたようなバウンズ・ビートだが、ケンドリックは滑らかなラップで軽やかに乗りこなしている。曲の前半と後半で異なるビートを採用している点も面白い。決して斬新な曲ではないのだが、彼の手にかかると新鮮に聞こえるのはなぜだろうか。

これに対し、ドクター・ドレやエミネムの作品にも携わっている、ベーコンことダニエル・タンネンバウムがプロデュースを担当した”Element”はキッド・カプリがヴォーカルで、ジェイムズ・ブレイクがソングライティングで参加している。ウータン・クランの楽曲を彷彿させる不気味なピアノやキーボードの音色が鳴り響き、声ネタやスクラッチを使っているが、特定の楽曲をサンプリングしたものではないらしい。おどろおどろしいトラックに乗せて、言葉を畳みかけるスタイルは、ウータン・クランの一員として華々しいデビューを飾ったころのRZAを思い起こさせる。

一方、本作の中で異彩を放っているのは、リアーナをフィーチャーした”Loyalty”。DJダーヒらが手掛けたトラックは、ブルーノ・マーズの”24K Magic”をサンプリングしたものだ。原曲を知る人にはお馴染みのフレーズを、テンポを落としてループさせたトラックの上で、歌うようにラップする2人の姿が印象的。高揚感が魅力のダンス・ナンバーを陰鬱な雰囲気のヒップホップに組み換える発想の豊かさと、それを具体的な楽曲に落とし込む各人のスキルが光っている。

そして、本作のハイライトともいえるのが、マイク・ウィル・メイド・イットがプロデュースした”Humble”だ。シンセサイザーとギターによるシンプルな変則ビートに乗せて、リズミカルに言葉を繋ぐ姿が格好良い曲。かつてはポップな印象を与えていたバウンズ系のビートを、緊迫感あふれるヒップホップ・ナンバーに生まれ変わらせるケンドリック・ラマーの個性を再認識させられる楽曲だ。

今作は、シンセサイザーを使ったトラックが多く、ゲスト・ミュージシャンも少なくなっているなど、前作や『Untitled Unmastered.』で彼の音楽を知った人には少し地味に映るかもしれない。だが、あらゆるトラックを器用に乗りこなすだけでなく、ダークでスリリングな、ストリートの雰囲気を楽曲に吹き込む彼のスキルは、トラックで使われる音色に関係なく、本作でも堪能できる。

流行の変化に抵抗することも、過剰に順応することもなく、独自の解釈を加えて自身の音楽に染め上げるスキルは、現役のミュージシャンの中では頭一つ抜けている。このアルバムは2017年のヒップホップ・シーンを代表する作品の一つになると思う。

Producer
Anthony "TopDawg" Tiffith, Dr. Dre, Dave "miyatola" Free etc

Track List
1. Blood
2. DNA
3. Yah
4. Element
5. Feel
6. Loyalty feat. Rihanna
7. Pride
8. Humble
9. Lust
10. Love feat. Zacari
11. XXX feat. U2
12. Fear
13. God
14. Duckworth



Damn
Kendrick Lamar
Aftermath
2017-04-14

 

SiR – Her Too [2017 Top Dawg Entertainment]

インターネット上で発表した自作曲が注目を集め、ジル・スコットの『Woman』やタイリースの『Black Rose』にソングライターとして抜擢。2014年にはアンダーソン・パックのアルバム『Venice』に収録されている”Already”にフィーチャーされるなど、音に拘りのあるミュージシャンやファンから高く評価されている、カリフォルニア州イングルウッド出身のシンガー・ソングライター、サーことダリル・ファリス。彼の、2016年作『Her』の続編となる新作EPがこのアルバムだ。

自主制作だった過去の作品から一転、ケンドリック・ラマーやスクールボーイQなどの作品を扱っているトップ・ドーグからリリースされた本作。だが、エフェクターを効果的に使った、繊細で色っぽいヴォーカルと、Qティップやディアンジェロの作品を彷彿させる、古いレコードから取り出したような温かい音色を使った抽象的なビートという作風は変わっていない。本作には収録されていないが、今年の頭にインターネット上で公開した、ドネル・ジョーンズの”Where I Wanna Be”のカヴァーが象徴するような、柳腰の歌声と洗練されたメロディを90年代のイースト・コースト・ヒップホップと融合した、しなやかなヒップホップ・ソウルを聴かせてくれる。

本作のトラック・リストを見て、最初に気になったのは、アルバムの1曲目を飾る”New LA”だ。アンダーソン・パックとキング・メズという、ドクター・ドレの『Compton』でも辣腕を振るっている2人をフィーチャーしたこの曲は、 ハウス・ミュージックっぽい四つ打ちのビートとYMOの”東風”を思い起こさせるアジアン・テイスト溢れる伴奏が不思議な雰囲気を醸し出すダンス・ナンバー。トラックの上をふわふわと揺蕩うコーラスが心地よい曲だ。

それ以外の曲では、ジョージ・アン・マルドロウっぽいしゃがれ声と、ポロポロとつま弾かれるキーボードの伴奏が格好良いヒップホップ・ソウル”Don’t Call My Phone”も面白い。過去にジェイ・ディラのビートを使ったR&B作品をインターネット上で公開していたが、その路線の延長にあるような、抽象的なビートをリズミカルに乗りこなした、軽妙で味わい深いヴォーカルが印象的だ。

また、本作に先駆けてリリースされたマセーゴが客演しているミディアム”Ooh Nah Nah”も捨てがたい、ジャーメイン・デュプリがバウンズ・ビートを使ってリミックスを施した、マックスウェルの”Lifetime”を思い起こさせる、現代的な変則ビートと柔らかい歌声の組み合わせに心が温まる佳曲だ。

この他にも、美しい音色のキーボードを使った伴奏と、ピート・ロックが使いそうな重く、温かいビートを使ったトラックの上で、しゃがれた声を振り絞って語り掛けるように歌うミディアム”The Canvas”や、ヘヴィーなビートと繊細なギターの対照的な個性が光るトラック乗せて、ディアンジェロの”Brown Sugar”のように、リズミカルに言葉を紡ぎ出すヴォーカルが光る”SUGAR”、シンセサイザーを駆使したスペーシーなトラックにエフェクトをかけたヴォーカルの組み合わせが、昔のSF映画のように近未来的な雰囲気を演出する”W$ Boi”など、収録されたどの曲も魅力的で捨て難い、素敵なものばかりだ。

彼の音楽を端的に語るなら、フランク・オーシャンの『Blondie』アンダーソン・パックの『Malib』で取り組んだ、2020年のR&Bを先取りした先進的なサウンドと、ディアンジェロの『Black Messiah』やマット・マーシャンズの『The Drum Chord Theory』が披露した60年代、70年代のソウル・ミュージックの現代的な解釈を両立したものと言っていいと思う。新しいサウンドに挑戦しつつ、昔のブラック・ミュージックの要素を随所に盛り込むことで、奇抜なだけに留まらない、何度も繰り返し聴きたくなる味わい深さを備えているんだと思う。

演奏スタイルもフォーマットも、レーベルの規模も全て違うが、そのクオリティはシドの『Fin』に匹敵する2017年のR&B界にとって重要な作品の一つだと思う。フル・アルバムの発売が今から待ち遠しくなる、充実した内容のEPだ。

Track List
1. New LA feat. Anderson. Paak & King Mez
2. The Canvas
3. Don’t Call My Phone
4. Ooh Nah Nah feat. Masego
5. SUGAR
6. W$ Boi




Her Too [Explicit]
Top Dawg Entertainment
2017-02-10


 
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