複数の楽器を操り、作曲もできる、アンバー・ナヴラン(ヴォーカルも担当)、マックス・ブリック、アンドリス・マットソンによる、カリフォルニア州ロス・アンジェルス発3人組ソウル・バンド、ムーンチャイルド。

2014年に発表したシングル『TheTruth』と、同曲を収めた2枚目のアルバム『Please Rewind』が配信限定ながら大ヒットとなり、イギリスのTru ThoughtsからCD化。また、ステージでも、スティーヴィー・ワンダーやジル・スコット、ジ・インターネットと共演するなど、縦横無尽の活躍を見せてきた。

今回のアルバムは『Please Rewind』から3年ぶりとなる3作目。ディアンジェロなどを手掛けてきたジェレミー・モストにインスパイアされた本作は、ディアンジェロやエリカ・バドゥのような、生演奏にソウル・ミュージックとヒップホップの要素を組み合わせた、ネオ・ソウルと呼ばれるスタイルの作風が特徴的。収録曲では、彼の手法を踏襲しつつ、自分達の音楽性に合わせて、色々な形にアレンジした楽曲を聴かせている。

アルバムの実質的な1曲目で、本作からの先行シングルでもある”Cure”は、ゆったりとした雰囲気の印象的なスロー・ナンバー。甘いギターの音色と、柔らかいキーボードの伴奏が心地よい。曲調は違うが、エリカ・バドゥの”Certainly”を思い起こさせる、透き通った歌声も魅力的。大規模なロック・フェスよりも、小規模な音楽ホールが似合いそうだ。

これに対し、4曲目に収められている”Every Part (for Linda)”は、色々な音色のシンセサイザーを使た伴奏と、、パーカッションを効果的に使ったヒップホップっぽいビートが格好良いミディアム。本作の収録曲では、最もディアンジェロやエリカ・バドゥの作風に近いものだが、彼らに比べると、シンプルで洗練されているように思う。演奏と比べて、一歩引いたところから丁寧に歌うヴォーカルが、電子音を多用した楽曲の不思議な雰囲気を強調している。

また、個人的には最も面白かった曲が”Run Away”だ。サーラ・クリエイティブ・パートナーズやプラチナム・パイド・パイパーズを連想させる、各音を微妙にずらした、癖のあるビートと、シンセサイザーを多用した幻想的な雰囲気の伴奏が光るミディアム・ナンバー。このようなビートはジョージ・アン・マルドロウの作品に時々登場するが、彼らの曲はヴォーカルの声域をフルに使った、メリハリのあるメロディで、ヒップホップ色を薄めているのが特徴的だ。

そして、本作のハイライトと呼んでも過言ではないのが”Show The Way”だ。温かい音色のキーボードや、パーカッションを効果的に使った軽妙なトラックと、アンバーの爽やかな歌声が魅力的な曲は、どことなくアメール・ラリューを思い起こさせる、優雅で神秘的なミディアム・ナンバー。従来の作風を残しつつ、ヒップホップの要素を盛り込んでいる。

彼らの音楽の面白いところは、インディア・アリーやマックスウェルのように、スタイリッシュで洗練された音色を使いながら、エリカ・バドゥやディアンジェロのように、奇抜なアレンジやフレーズを随所に盛り込むセンスだろう。あくまでも優雅に、流麗な音を響かせる楽器が、随所で抽象的なフレーズや、奇想天外なメロディを鳴らすあたりは、なかなか面白い。また、アンバーの繊細な歌声が、様々なギミックが盛り込まれた楽曲を、優雅な流麗なソウル・ミュージックに纏め上げている点も大きいと思う。

ヒップホップやソウル・ミュージック、ジャズなどのエッセンスを取り入れながら、どのジャンルにも分類できない、独創的な音楽に仕立て上げている彼ら。これらの曲をライブではどのように演奏するのか、演奏風景を想像するのも楽しい。バンドによる録音の新しい可能性を感じさせる作品だ。

Producer
Moonchild, Andris Mattson, Max Bryk

Track List
1. Voyager (intro)
2. Cure
3. 6am
4. Every Part (for Linda)
5. Hideaway
6. The List
7. Doors Closing
8. Run Away
9. Think Back
10. Now And Then
11. Change Your Mind
12. Show The Way
13. Let You Go





Voyager
Moonchild
Tru Thoughts
2017-05-26