ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Universal

Dizzee Rascal - Raskit [2017 Dirtee Stank Recordings, Island Records]

やんちゃな生活を送っていたハイスクール時代に音楽に目覚め、2000年代初頭にはドラムン・ベースのDJとして活動。2003年にXLレコードからアルバム『Boy in da Corner』でレコード・デビューを果たすと、グライム・シーンを代表するミュージシャンとして頭角を現した、ロンドンのカンバーウェル出身のMCでプロデューサー、ディジー・ラスカルことディラン・ミルズ。彼にとって、2013年の『The Fifth』以来、約4年ぶり6枚目となるオリジナル・アルバム。

本国での人気に比べ、日本での知名度が今ひとつな彼だが、ジャスティン・ティンバーレイクやN.E.R.D.と一緒にアメリカ・ツアーを行い、2012年のロンドン・オリンピックの開会式では、代表曲の”Bonkers”を大観衆の前で披露するなど、イギリスを代表するミュージシャンとして、音楽シーンを牽引してきた。

今回のアルバムでは、カルドやサルヴァといったアメリカ出身のクリエイターや、ジ・アーケイドやヘヴィー・トラッカーズなどのイギリス出身のプロデューサーを起用。彼のウリであるグライムを核にしつつ、トラップやクランクといった、彼らに影響を与えてきたアメリカのヒップホップを取り入れた作品になっている。

本作の2曲目に収められている”Wot U Gonna Do?”は、ロス・アンジェルス出身のDJ、ヴァレンティノ・カーンがプロデュース。リル・ジョンやミーゴスなどの作品で耳にするような、シンセサイザーを駆使したトラップ・ビートに乗って、畳み掛けるように言葉を繰り出すアグレッシブな作品だ。 数多くの変則ビートを乗りこなしてきた彼らしく、この曲でも、最初から最後までエネルギッシュなラップを聴かせてくれる。同じようなビートを使っても、MCの解釈で全く違う音楽に聴こえる点が面白い。

また、本作に先駆けてリリースされたシングル曲“Space”は、ロス・アンジェルス出身のクリエイター、サルヴァとの共作。この曲では、2ステップやグライムを彷彿させる小刻みに鳴らされるドラムを取り入れつつ、ウェイルやミーゴスのアルバムに入っていそうな、ミディアム・テンポの作品に落とし込んでいる。この曲では、畳み掛けるようなラップを披露し、グライムの疾走感を残しつつ、アメリカのヒップホップのようにも聴かせている点に注目してほしい。

一方、テル・アビブ出身のダン・ファーバーを起用した”Ghost”は、中東の音楽っぽい笛の音色を取り入れたリフと、グライムのビートを融合させたサウンドが印象的な曲だ。彼の持ち味である、エネルギッシュなラップと先鋭的トラックの融合が心地よい。過去の作品を踏襲しつつ、それを進歩させた佳曲だ。

また、スローテンポの楽曲では、ロンドン発のプロダクション・チーム、ジ・アーケイドが制作に参加、ゲスト・ヴォーカルにニコを起用した”The Way I Am”が存在感を発揮している。柔らかい音色のシンセサイザーを多用したロマンティックな伴奏と、ドラムの音が乱れ飛ぶ荒々しいビートの組み合わせが光るトラックと、野太いディジー・ラスカルのラップ。テヴィン・キャンベルを彷彿させるニコの甘酸っぱい歌声が一体化した魅力的な作品だ。サビをシンガーが担当していることもあり、本作の収録曲の中では最もアメリカのヒップホップに近い雰囲気を醸し出している。

10年以上に渡って、クラブ・シーンとヒット・チャートの両方で奮闘し、結果を残してきた彼だけあって、今回のアルバムも非常にクオリティが高い。しかし、本作は過去の録音に比べて、アメリカのヒップホップやR&Bに近しいように思える。恐らく、ファレル・ウィリアムスの”Happy”のような2000年代の黒人音楽よりもアップテンポな作品や、カルヴィン・ハリスなどのエレクトロ・ミュージック畑のクリエイターが黒人シンガーを起用するようになったことで、楽曲のテンポやトラックについて、聴き手側も柔軟な考えができるようになったからだろう。

時代を先取りし過ぎた名手の感性が、正しかったことを裏付ける佳作。10年以上前からヒップホップとエレクトロ・ミュージックの融合してきた彼の音楽を、心ゆくまで堪能してほしい。

Producer
Dizzee Rascal, Cardo, Darkness, Deputy, Dan Farber etc

Track List
1. Focus
2. Wot U Gonna Do?
3. Space
4. I Ain't Even Gonna Lie
5. The Other Side
6. Make It Last
7. Ghost
8. Business Man
9. Bop N' Keep It Dippin'
10. She Knows What She Wants
11. Dummy
12. Everything Must Go
13. Slow Your Roll
14. Sick A Dis
15. The Way I Am
16. Man Of The Hour




Raskit
Dizzee Rascal
Imports
2017-07-28

Mura Masa ‎– Mura Masa [2017 Anchor Point, Interscope, Universal Music, Polydor UK]

ギターやベース、ドラムやヴォーカルまで何でもこなし、パンクからゴスペルまで、色々な音楽に取り組んできた、イギリスのガーンジー島出身のDJでプロデューサー、ムラ・マサことアレックス・クロッサン。彼にとって待望のフル・アルバムが本作だ。

ハドソン・モーホークの作品を聴いてエレクトロ・ミュージックに開眼。動画投稿サイトなどを通して、ジェイムス・ブレイクやSBTRKT、ゴリラズなどの音楽を研究した彼は、自身もエレクトロ・ミュージックを作るようになる。そして、2014年に初の作品”Lotus Eater”を音楽配信サイトに投稿すると、ラジオ番組に取り上げられるなど話題を呼ぶ。その後、大学進学のため、サセックス州ブライトンに移り住むと、ステージにも立つようになり、現地ではレコード・デビュー前ながらチケットが完売するほどの人気だった。

そんな実績が買われ、ドイツのジャカルタ・レコードと契約した彼は、2015年に初のEP『Someday Somewhere』を発表。BBCのプレイリストに入るなど、高い評価を受ける、そして、自身のレーベル、アンカー・ポイントを立ち上げた彼は、ポリドールインタースコープとも配給契約を結ぶ。また、2016年にはエイサップ・ロッキーとのコラボレーション曲”Love$ick”を発表。2017年には、イギリスのラッパー・ストームジーの”First Things First”をプロデュース。同じ年には、イギリスの女性シンガー、ナオのリミックス・アルバム『For All We Know - The Remixes』で”In the Morning”を担当して話題になった。

本作は、彼にとって初のフル・アルバム。アサップ・ロッキーやナオのほか、ブラーやゴリラズでおなじみのデーモン・アルバーンも参加するなど、気鋭の新人のメジャー・デビュー作にふさわしい、豪華な顔ぶれが集結している。

アルバムに先駆けて発表された”Love$ick”は、エイサップ・ロッキーをフィーチャーしたヒップホップ色の強い曲。スティール・パンやトイ・ピアノの音色を使った色鮮やかなトラックと、荒々しいラップの組み合わせが面白い曲。電子音楽を中心に、色々な音楽への造詣が深いムラ・マサの柔軟な発想が光っている。

続く”1 Night”は、イギリス出身の女性シンガー、チャーリーXCXとコラボレーションした、前曲同様、カラフルなトラックが魅力のアップ・ナンバー。”Love$ick”はヒップホップのビートを取り入れていたが、こちらの曲はカリプソやレゲトンの要素を盛り込んだポップで軽妙なサウンドが印象的。チャーリーXCXの爽やかで甘酸っぱいヴォーカルと、陽気なトラックの相性も素晴らしい。

また、アイルランド出身、ロンドン在住の女性クリエイター、ボンザイを起用した楽曲。感情をむき出しにしたワイルドなヴォーカルと、精密なリズムを刻む電子音楽の対称的な音のコンビネーションが光る佳曲。エレクトロ・ミュージックでありながら、どこか生演奏のような雰囲気を感じさせるアレンジが格好良い。

そして、本作の収録曲では最も早く公開された”Firefly”はナオがゲストで参加。妖精のような可愛らしい歌声で、軽快な電子音の上を舞うように歌う姿が魅力的。彼女のアルバムでも感じたことだが、ナオの歌声はポップなトラックと組み合わせると最も輝くと思う。

今回のアルバムでは、既に公開されてる作品同様、R&Bやカリプソなど、色々な音楽の要素を取り入れつつ、音色を選別に工夫を凝らすことで、一貫性のある独自の音楽を構築している。このような作品を生み出す、音楽に対する造詣の深さと、鋭い聴覚が彼の持ち味なのだと思う。

弱冠21歳(本作の発表時点)でこのクオリティ。今後、どんな進化を遂げてくれるのか楽しみな、期待の若手による傑作だ。

Producer
Mura Masa

Track List
01. Messy Love
02. Nuggets feat. Bonzai
03. Love$ick feat. A$AP Rocky
04. 1 Night feat. Charli XCX
05. All Around The World feat. Desiigner
06. give me The ground
07. What If I Go feat. Bonzai
08. Firefly feat. Nao
09. NOTHING ELSE! feat. Jamie Lidell
10. helpline feat. Tom Tripp
11. Second 2 None feat. Christine & The Queens
12. Who Is It Gonna B feat. A. K. Paul
13. Blu feat. Damon Albarn





Mura Masa
Mura Masa
Imports
2017-07-14

Jay-Z - 4:44 [2017 Roc Nation]

1996年にアルバム『Reasonable Doubt』でメジャー・デビュー。以後、多くの作品でプラチナ・ディスクを獲得。全米アルバム・チャートの1位に送り込むだけでなく、シンセサイザー主体のトラックが中心だった時代に、ソウル・ミュージックをサンプリングしたトラックで、ヒップホップ・シーンの流行を一変させた『The Blueprint』など、沢山の傑作を残してきた、ニューヨークのブルックリン出身のラッパーで実業家、ジェイZことショーン・カーター。

本作は彼にとって通算13枚目のオリジナル・アルバム。自身が経営するロック・ネイションからのリリースで、彼が経営陣に名を連ねるストリーミング・サイト「TIDAL」で1週間早く公開。その後、CDや配信で発売、という戦略を採用した作品だ。

過去の作品では、気鋭の若手を含む多くのプロデューサーを起用してきたジェイZだが、本作ではプロデュースを自身とシカゴ出身のプロデューサー、ノーI.Dの手で行っている。しかし、ゲストにはフランク・オーシャンやダミアン・マーリーなどが参加。ヒップホップ界のトップ・ランナーにふさわしい、斬新でキャッチーな作品を聴かせている。

アルバムに先駆けてMVが公開された”The Story of O.J.”は、ニーナ・シモンの”Four Women”とファンク・インクの”Kool Is Back”をサンプリングしたおどろおどろしいトラックが印象的な曲。ニーナ・シモンのピアノとヴォーカルを解体、引用したトラックはオーティス・レディングの楽曲をサンプリングした”Otis”にも匹敵するソウルフルなもの。肩の力を抜いてゆったりとラップを繰り出すジェイZの存在が、楽曲の不気味さに拍車をかけている。ソウル・ミュージックをサンプリングしつつ、過去の作品とは違うものを生み出すセンスに驚かされる。

それ以外の曲に目を向けると、フランク・オーシャンをフィーチャーした ”Caught Their Eyes”は、ニーナ・シモンの代表曲”Baltimore”をサンプリング。レゲエのゆったりとしたビートに、ニーナ・シモンの泥臭い歌声を組み合わせる手法は、予想外の一言。レゲエの要素を盛り込んだトラックでも、普段の荒々しいフロウで自分の音楽に染め上げるジェイZの姿が格好良い。曲の隙間を埋めるフランク・オーシャンのヴォーカルもいい味を出している。

また、本作のタイトル・トラックである”4:44”では、ハンナ・ウィリアムス&ザ・アファーメイションズの"Late Nights and Heartbreak"を引用。『The Blueprint』でも多用された、ヴォーカルを中心にソウル・ミュージックの印象的なフレーズを繰り返し使う手法を採用したトラックが印象的な作品。過去の作品では、テンポを変えるなど、色々と加工を施していたが、この曲では原曲のフレーズの切り取り方に工夫を凝らすことで、トラックに起伏を与える。ジェイZのラップも安定している。

そして、2002年の『The Blueprint 2: The Gift & The Curse』以降、多くの作品で共演している妻、ビヨンセとのコラボレーション曲”Family Feud”は、ゴスペル・グループ、クラーク・シスターズの”Ha-Ya”を引用。ゴスペル曲を引用したトラックといえば、カニエ・ウエストの”Jesus Walks"を思い起こさせる。また、ビヨンセのヴォーカルはこれまでの作品と比べると控えめで、ヴォーカルというよりは声ネタに近い扱い。ジェイZのダイナミックなフロウが堪能できる佳曲だ。

今回のアルバムは、4年ぶりの新作ということで、多くの期待を抱いた人も少なくないと思うが、そういう人からすると、物足りない作品かもしれない。ソウル・ミュージックやジャズをサンプリングしたトラックも、過去の楽曲とは一味違うが、音楽シーンの潮流を塗り替えるものではないと思う。しかし、どんなトラックもしっかりと乗りこなし、自分の色に染め上げるジェイZのパフォーマンスは、彼が紛れもないトップ・ランナーであることを裏付けていると思う。

ヒップホップ業界を揺るがし続けてきたトップ・ランナーのアルバムでは異色の、安定したパフォーマンスが光る佳作。彼の音楽を聴いて育った大人にこそ聴いてほしい、落ち着いた雰囲気の作品だ。

Producer
Jay-Z, No I.D.

Track List
1. Kill Jay Z
2. The Story of O.J.
3. Smile feat. Gloria Carter
4. Caught Their Eyes feat.Frank Ocean
5. 4:44
6. Family Feud feat. Beyoncé
7. Bam feat. Damian Marley
8. Moonlight
9. Marcy Me
10. 11.Adnis
12. We Family
13. MaNyfaCedGod



4:44
Jay-Z
Roc Nation
2017-07-07

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