melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Warner

PartyNextDoor - Seven Days [2017 OVO Sound, Warner Bros.]

2010年のデビュー・アルバム『Thank Me Later』がアメリカ国内だけで400万枚以上のセールスを記録し、その後に発売した3枚のアルバム全てがプラチナ・ディスクに認定されているドレイクを筆頭に、ロイ・ウッドやマジッド・ジョーダンといった個性豊かなシンガーや、ボイ・ワンダやノア・シェビブといったヒット・メイカーを擁するカナダのレーベル、OVOサウンド

同レーベルに所属するアーティストの中でも、ドレイクと並んで特に多くのヒット曲を残しているのが、ミンサガ生まれのシンガー・ソングライター、パーティーネクストドアことジャーロン・アンソニー・ウエストウェイトだ。

2013年に同レーベルの第1弾アーティストとして契約した彼は、同年のEP『PartyNextDoor』を皮切りに、2017年までに2枚のフル・アルバムと3枚のEPをリリース。うち、2枚のフル・アルバムが立て続けに全米R&Bチャートとヒップホップ・チャートを制覇し、2016年には彼が参加したドレイクの”Come & To See Me”がグラミー賞にノミネートするなど、カナダを代表するシンガーの一人に躍り出た。

この勢いは2017年に入ってからも変わらず、2月には3作目のEP『Colours』を発表。それ以外もDJキャリッドのアルバム『Grateful』にソングライターとして携わりながら、ドレイクの『More Life』やカルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol.1』にシンガーとして参加するなど、多くの作品を残している。

このアルバムは、『Colours』から僅か7か月という短い間隔でリリースされた4枚目のEP。プロデューサーには過去の作品にも携わっているフランク・デュークスや、レーベルメイトのT-マイナスのほか、ロック・ミュージシャンのアンドリュー・ワットのような、ちょっと意外な面々も参加。ゲストにはホールジーやリック・ロスが参加し、新しいスタイルに挑戦する彼を支えている。

本作の1曲目は、彼自身が作詞作曲とプロデュースを担当した”Bad Intentions”は、シンプルなトラックと柔らかい歌声が魅力のミディアム・ナンバー。ラップのように言葉数を増やしつつ、滑らかなメロディを聴かせる技術は流石としか言いようがない。歌手としてもソングライターとしても活躍している彼の持ち味が発揮された佳曲だ。

これに対し、ホールジーとコラボレーションした”Damage”は四つ打ちのビートを取り入れたアップ・ナンバー。フランク・デュークスとT-マイナスがプロデュースしたこの曲は、ヒップホップの太くて重い音色を使ったビートの上で、軽妙なメロディを聴かせるポップな曲だ。2017年に入ってからも、元ワン・ダイレクションのゼインやビッグバンのG-ドラゴンなど、世界各地のポップ・スターとヒット曲を作っているフランク・デュークスの経験が反映された、親しみさが光るダンス・ナンバーだ。

これに対し、リック・ロスをフィーチャーした”Better Man”は、デビュー作の頃から彼の作品に携わっているG.ライが制作に参加したミディアム・ナンバー。バス・ドラムの音を軸にしたシンプルなトラックをバックに、しっとりと歌うパーティーネクストドアの姿が印象的な作品だ。ラップの要素を排した流れるようなメロディを丁寧に歌う手法は、ジョーブライアン・マックナイトのような、90年代から活躍するベテラン・シンガーを彷彿させる。主役の歌を絶妙なタイミングで盛り立てるリック・ロスのラップもいい味を出している。

そして、本作の収録曲の中でも特に異彩を放っているのが、アンドリュー・ワットと共作した”The Right Way”だ。彼の作品では珍しい、ギターの演奏をバックに訥々と言葉を繋ぐフォーク・ソング寄りのミディアム・ナンバーは、テリー・キャリアーを彷彿させる温かく繊細な歌声が心地よい作品だ。シンセサイザーを駆使した現代的なトラックが多い彼だが、アコースティック・サウンドとの相性も素晴らしい。彼の意外な一面が垣間見える面白い曲だ。

今回のアルバムでは、四つ打ちを取り入れたポップな曲や、ギターの演奏をバックに歌った曲など、これまでの作品ではあまり見られなかったスタイルの曲にも取り組んでいる。しかし、本作を通して聴いた印象は、奇抜で斬新に聴こえる曲はむしろ少ないように思える。おそらく、彼が多くのレコーディングやステージを経験する中で、自身の軸となる音楽性を確立し、それを軸に作品を録音したからだと思う。

本作の発表時点で24歳にもかかわらず、色々な音楽を取り込んでもブレることのない確固とした音楽性と、新しい音楽を取り入れる柔軟さが発揮された味わい深い作品。鋭意制作中という3枚目のフル・アルバム『Club Atlantis』ではどんな音楽を聴かせてくれるのか、今から楽しみだ。

Producer
PartyNextDoor, Frank Dukes, Andrew Watt, T-Minus, G.Ry etc

Track List
1. Bad Intentions
2. Never Played Me
3. Damage with Halsey
4. Better Man feat. Rick Ross
5. Best Friends
6. The Right Way
7. Love Me Again





Seven Days [Explicit]
OVO Sound/Warner Bros.
2017-09-30

TLC - TLC [2017 852 Musiq, Sony Music Red, Warner, Cooking Vinyl]

1992年、ニュー・ジャック・スウィングを取り込んだダイナミックなサウンドと、個性的な歌声を持つT-ボスとチリのヴォーカル、そして、レフト・アイのエネルギッシュなラップが一つの音楽の中で炸裂したダンス・ナンバー”Ain't 2 Proud 2 Beg”で、華々しいデビューを飾り、続く”Baby-Baby-Baby”では一転、ロマンティックなバラードを披露してR&Bチャートを制覇した、T-ボス、レフト・アイ、チリによるアトランタ発の3人組ガールズ・グループ、TLC。

上の2曲を含むデビュー・アルバム『Ooooooohhh... On the TLC Tip』が、アメリカ国内だけで400万枚以上のセールスを上げ、SWVやアン・ヴォーグと並ぶアメリカを代表するガールズ・グループの一つになった彼女らは、94年に2枚目のアルバム『CrazySexyCool』を発表。同郷のプロダクション・チーム、オーガナイズド・ノイズが制作した”Waterfalls”や、当時所属していたラ・フェイスの共同経営者で、アメリカを代表するヒット・メイカーの一人だったベイビーフェイス作のバラード”Diggin' on You”などを収めた同作は、アメリカ国内だけで1100万枚以上を売り上げ、女性ヴォーカル・グループ初のダイアモンド・ディスクを獲得。「史上最も売れた女性グループのアルバム」として、ポピュラー・ミュージックの歴史にその名を刻んだ。

紆余曲折を経て、99年には3枚目のアルバム『FanMail』を発表。アメリカ国内だけで600万枚、日本でも100万枚を売り上げるなど、健在っぷりをアピールしたが、2002年にレフト・アイが事故死。以後、ステージには何度か立っているものの、グループとしての活動は停滞する。

本作は、レフト・アイの没後に発表された2002年の『3D』から、実に15年ぶりとなる5枚目のアルバム。有名なプロデューサーを起用して、レフト・アイが生前に録音した音源を使った前作に対し、本作はT-ボスとチリの2人が中心になって制作している。

アルバムに先駆けてリリースされた“Way Back”は、今回が初共演となるスヌープ・ドッグをフィーチャー。アッシャーの”Mind Of Man”やラトーヤの”I'm Ready”などを手掛けてきたD’マイルがプロデュース。ミディアム・テンポのトラックに乗せて、甘くゆったりと歌う姿は”Diggin' on You”や”Baby-Baby-Baby”を彷彿させる。ミディアム・バラードの途中でラップを挟むスタイルは”Waterfalls”を思い起こさせるが、この曲でラップを披露しているのは、どんな曲でもアグレッシブなラップを聴かせるレフト・アイではなく、柳のように飄々と言葉を繋ぐスヌープ。TLCとスヌープの相性の良さに驚かされると同時に、レフト・アイの存在の大きさを再確認させられる。

また、今回のアルバムで異彩を放っているのがブラック・アイド・ピーズの”Where Is The Love”などに携わってきた、ロン・フェアのプロデュース作品。アース・ウィンド&ファイアの”September”やボビー・ヘブの”Sunny”のフレーズを引用したアップ・ナンバー。往年の名曲を引用したトラックは過去の作品でもあったが、メロディに取り込んだ楽曲はこれが初めて。新録曲を手掛けながら、再発ビジネスにも関わっているロンの持ち味が発揮されたキャッチーな曲だ。

また、本作の収録曲では一番最初に公開された”Hater”は、シャキーラやピンクに楽曲を提供しているマイケル・バスビーが手掛けた作品。彼女達が得意とするミディアム・テンポの楽曲だが、これまでのアルバムには少なかった明るい雰囲気に仕上げている。レフト・アイのかわりにラップ・パートも担当する二人の姿が印象的。二人の対称的な声質を活かしたポップでキャッチーなものだ。

そして、クリス・ブラウンなどの楽曲を手掛けているコリー・マークスが制作を担当したシングル”Joy Ride”は、彼女らの持ち味を活かした粘り強いメロディが魅力のミディアム。ヒップホップのビートをベースに、ギターやホーンの伴奏を盛り込んだトラックは『CrazySexyCool』の収録曲を連想させる。

今回のアルバムでは、彼女達の代表曲に多いミディアム・テンポの作品を中心に揃えつつ、時代の変化に合わせて新しい音色やフレーズを盛り込み、2017年のTLCの音楽として楽しめるものに纏めている。また、2人のヴォーカルも往時の雰囲気を残しつつ、経験を重ねてしなやかさを増していると思う。しかし、90年代の雰囲気を残している分、レフト・アイが欠けた穴の大きさが目立っており、素晴らしいパフォーマンスでありながら、どこか物足りなさを感じさせる。シュープリームスに始まり、ディスティニーズ・チャイルドやフィフス・ハーモニーまで、メンバーが入れ替わったり脱退したりしたグループは少なくないが、一人が欠けただけで大きく雰囲気が変わってしまうのは、三人全員がグループにとって欠かせない存在だった彼女達だけだと思う。

ポピュラー・ミュージックの歴史に残る名グループの集大成にふさわしい、充実した作品。ヴォーカル・グループの歴史上数少ない、全員が際立った個性を持っていた3人の偉大さを再確認させてくれる佳作だと思う。

Producer
Dunlap Exclusive, D'Mile etc

Track List
1. No Introduction
2. Way Back feat. Snoop Dogg
3. It’s Sunny
4. Haters
5. Perfect Girls
6. Interlude
7. Start a Fire
8. American Gold
9. Scandalous
10. Aye Muthafucka
11. Joy Ride
12. Way Back feat. Snoop Dogg (Extended Version)




TLC
TLC
ワーナーミュージック・ジャパン
2017-06-30

Plaza - Shadow [2017 OVO Sound, Warner]

ドレイクパーティネクストドアといった人気アーティストが所属し、世界中の音楽ファンの関心をカナダに向けさせた、トロントに拠点を置くOVOサウンド。彼らのほかにも、ロイ・ウッズやマジッド・ジョーダンなど、実力に定評のある若手を数多く擁する同レーベルが、新たに送り出したのがトロント出身のシンガー、プラザだ。

6月10日のラジオ番組で契約を発表。その二日後にデビュー作『Shadow』を発表した彼は、2016年2月に契約したdvsn以来の新人。本名や年齢など、細かい情報は不明だが、声やアーティスト写真を見る限り、かなり若い男性シンガーのようだ。

このアルバムは、彼のメジャー・デビュー作となる5曲入りのEP。2016年に自主制作で発表したEP『One』以来となる新作で、前作同様、彼の中性的で美しいテナーが堪能できるR&B作品になっている。

1曲目に収められている”Karma”は、ピアノにもオルゴールにも似ている、切ない音色を使った伴奏が印象的なミディアム・バラード。繊細なテナー・ヴォイスが楽曲の物悲しい雰囲気を強調している。甘酸っぱいヴォーカルはテヴィン・キャンベルにも似ているし、ファルセットはマックスウェルっぽくも聴こえる。また、シンセサイザーを使ってヒップホップの要素を盛り込んだトラックはレーベルの先輩、パーティネクストドアを彷彿させる。デビュー作の1曲目にふさわしい、初々しい歌唱が魅力的だ。

続く”Personal”は、ビートを強調したトラックと、中音域を多用した大人っぽいヴォーカルが素敵なミディアム・ナンバー。コンピューターを使って作った、ヒップホップのビートとシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックはトレイ・ソングスなどの楽曲に、爽やかな中音域を多用したヴォーカルはソーモに少し似ている。

そして、3曲目の”Over”は”Personal”同様、ヒップホップ色の強いトラックが印象的なミディアム。シンセサイザーの音を重ねた上物は、シャーデーなどの作品を思い起こさせる神秘的なものだ。硬い声質でラップをするように歌う姿は、アンダーソン・パックに通じるものがある。

また、”Run This”はヒップホップ色の強いトラックだが、ファルセットを多用したロマンティックなヴォーカルが光るミディアム・バラード。柔らかい声で切々と歌う姿はBJザ・シカゴ・キッドやスモーキー・ロビンソンに通じるものがある。ポップで聴きやすいが、切ない雰囲気も醸し出している素敵な曲だ。

そして、アルバムの最後を飾る”Love You Again”は、重いビートと物悲しい雰囲気のメロディの組み合わせが印象的なミディアム。性別は違うが神秘的で繊細なヴォーカルはインターネットのシドにも似ている。メロディを丁寧に歌う姿が光る曲だ。

今回のEPを聴く限り、彼はドレイクやパーティネクストドアのような、歌とラップを使い分ける人ではなく、ロイ・ウッズのような歌だけで勝負していくアーティストのようだ。年齢などはわからないが、若さ溢れる爽やかな歌声と、色々な表情を見せる歌唱力は、スモーキー・ロビンソンやマイケル・ジャクソンにも通じる稀有なものを感じさせる。また、トラックは奇抜なものが少なくシンプルで、彼の歌唱力をアピールするのに一役買っている。ドレイクやパーティネクストドアを聴いた時の新鮮さと、トレイ・ソングスやエリック・ベネイのような本格的なヴォーカルを楽しめる本作は、歌とラップを使い分けるアーティストが増えた現代では、とても新しい音楽に聴こえる。

ラップと歌を使い分けるスタイルで、世界中のミュージシャンに新しい表現手法を提示したドレイクとは正反対のアプローチで、音楽の面白さを提案した佳作。次はどんな曲を聴かせてくれるのか、今から楽しみな気鋭の新人だ。

Track List
1. Karma
2. Personal
3. Over
4. Run This
5. Love You Again





a

OVO Sound/Warner Bros.
2017-06-12

記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    読者登録
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ