melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

XL

Kaytranada ‎– 99.9%[2016 XL Recordings]

15歳のときに楽曲制作を始め、2010年以降はケイトラナダ名義でプロデュースやリミックス、ヨーロッパやオセアニア地域を含む世界各地でのライブ活動などを行なっている、ハイチのポルトープランス生まれ、カナダのモントリオール育ちのクリエイター、ルイス・ケヴィン・セレスティン。彼にとって、初のフル・アルバムとなる作品が、英国のXLレコーディングスからリリースされた。

これまではビート・メイカーとして、主に電子音楽の分野で楽曲制作やDJ、ライブ活動などを行う一方、プロデューサーや演奏者として、ジ・インターネットの2015年作『Ego Death』に収録されている"Gift"や、アンダーソン・パックが2016年に発表した『Malib』に収録の"Lite Weight"、バッドバッドノットグッドの2016年作『IV』に収録されている"Lavender"を手がけるなど、色々なジャンルの音楽に携わってきた彼。今回のアルバムでは、これらのコラボレーションを通して培った、幅広い人脈をフル活用して、ヴォーカル曲やラップものにも挑戦。インストゥメンタル曲やリミックスを通して磨かれた音に対する鋭いセンスと、シンガーの持ち味を活かした、親しみやすい作風の好作品に仕上げている。

まず、収録された15曲の中から、ヴォーカルものに目を向けると、クレイグ・デイヴィッドをフィーチャーした"Got It Good"と、アンダーソン・パックを起用した"Glowed Up"の2曲が目立っている。音と音の隙間を多めにとった、抽象的なトラックを採用している両曲。だが、前者はジェイ・ディラの作品を彷彿させるシンプルなビートに乗せて、流麗なメロディをじっくりと歌い込む、電子音楽版ディアンジェロといった趣の楽曲。耳元を爽やかに抜ける電子音と、クレイグのクールな歌声がマッチした佳曲だ。一方、後者は、電子音楽畑出身らしいルイスが作る前衛的なトラックと、ラップもこなせるパックのリズム感が光る楽曲。コンピュータでなければ作れない、ドラムから上物まで全てが異なる変則的なリズムを刻むトラックと、そこから一定のリズムを見出し、正確なメロディを紡ぎ出すパックのセンスが合わさった、奇抜だけど緻密な楽曲。この2曲は、ヴォーカルの個性に応じて、色々なスタイルを使い分けるケイトラナダの技術力が堪能できる名演だ。

それ以外の曲では、ドラマーが参加した2曲も面白い。まず、ストーンズ・スロウから3枚のアルバムを発表しているドラマーのカリーム・リギンズとトロント出身のシンガー・ソングライター、リヴァー・ティバーが参加した"Bus Ride"。こちらは、ジェイ・ディラやコモンの作品でも披露している、カリームの複雑なのに正確無比なビートと、リヴァー・ティバーのストリングスやホーンが心地よいインスト・ヒップホップ。また、彼らの作品でも共演しているカナダのジャズ・バンド、バッドバッドノットグッドと組んだ"Weight Off"は、カリーム・リギンズとは対極の荒っぽいけど力強く、勢いのある演奏が格好良い人力ドラムンベース。バンド演奏ならではの、ダイナミックなグルーヴが魅力的だ。

だが、彼の本領が発揮されているのは、コンピュータを駆使したインストゥメンタルだろう。中でも、ブラジルの女性シンガー、ガル・コスタの"Pontos de Luz"をサンプリングした"Lite Spots"は、ブラジル音楽独特のリズムを、前衛的な電子音楽の構成にうまくはめ込んだ、DJの経験も豊かな彼の編集センスが発揮された楽曲だ。

XLといえば、インディペンデント・レーベルでありながら、アデルやプロディジーなどの有名ミュージシャンの作品を取り扱う一方で、タイラー・ザ・クリエイターやジェイミーxxのような気鋭のアーティスト、ボビー・ウーマックの『Bravest Man in the Universe』や、ギル・スコット・ヘロンの『I'm New Here』といった大物の作品まで配給してきた英国の名門レーベル。その中でも、ボビー・ウーマックやギル・スコット・ヘロンのアルバムでは、経験豊かなミュージシャンとフレッシュな感性で評判の高いクリエイターをコラボレーションさせることで、先鋭的でありながら、キャッチーで聴きやすい音楽を聴かせてくれた。今回のアルバムでは、そのときのノウハウが活かされており、ケイトラナダの斬新なサウンドを、幅広い層から受け入れられているゲストの個性を合わせて、とっつきやすい楽曲に着地させているように映る。

ビート・メイカーの作る音楽というと、コンピュータを使った奇抜な作品をイメージする人も少なくない。だが、このアルバムでは斬新さを保ちつつ、尖った音楽に慣れていないリスナーの耳に届くよう、細かいところまで配慮されている。20代前半とは思えない、鋭い感性と老練さが両立された傑作だと思う。


Producer
Kaytranada

Track List
1. Track Uno
2. Bus Ride feat. Karriem Riggins and River Tiber
3. Got It Good feat. Craig David
4. Together feat. AlunaGeorge and GoldLink
5. Drive Me Crazy feat. Vic Mensa
6. Weight Off feat. BADBADNOTGOOD
7. One Too Many feat. Phonte
8. Despite the Weather
9. Glowed Up feat. Anderson .Paak
10. Breakdance Lesson N.1.
11. You're the One feat. Syd
12. Vivid Dreams feat. River Tiber
13. Lite Spots
14. Leave Me Alone feat. Shay Lia
15. Bullets feat. Little Dragon





99.90%
Kaytranada
Xlrec
2016-05-06

Sampha - Process [2017 Young Turks, XL Recordings]

2010年にCD-Rでリリースした自主制作のEP『Sundanza』でデビュー。同作に収められている、ソウル・ミュージックと電子音楽やヒップホップを融合した個性的なサウンドが、新しい音に敏感な音楽ファンやミュージシャンの間で注目を集めた、サウス・ロンドンのモーデン出身のシンガー・ソングライター、サンファことサンファ・シセイ。彼にとって初のフル・アルバムが、XL傘下のインディー・レーベル、ヤング・タークスから発表された。

デビュー後の彼は、アーロン・ジェロームの音楽プロジェクト、SBTRKTやドレイク、カニエ・ウエスト、フランク・オーシャン、ソランジュなど、先進的な音楽性で多くのファンを魅了する人気ミュージシャンの作品に、制作やヴォーカルで参加し、その美しい歌声と鋭いセンスを披露してきた。

そんな彼にとって、CD形式では初のアルバムとなる本作では、マックスウェルの柔らかいテナーヴォイスとサム・スミスの洗練された歌唱、それにフライング・ロータスのように巧みな電子音の使い方と、Jディラを思い起こさせる厳選した音色を巧みに配置したビートが合わさった、独特の世界観を感じさせる傑作だ。

まず、アルバム発売に先駆けて発表された”Blood On Me”は、ナズやギャングスターの音楽を連想させる、90年代のヒップホップっぽい軽快なビートに、電子音を絡めたトラックを使ったアップ・ナンバー。そんなトラックの上で、感情をむき出しにしながら、泣きじゃくるように激しく歌うサンファの姿が印象的。

また、もう一つの先行リリース曲”Timmy's Prayer”は、カニエ・ウエストが制作に参加したミディアム・ナンバー。管楽器のような音色のシンセサイザーが物悲しい雰囲気を醸し出すトラックでは、他の曲と同じように、シンセサイザーを使ったビートも、どこか哀愁を帯びたように聴こえる。こんな重く、暗い雰囲気の曲に、サンファはロックのビートとギターを奏でるように多くの電子音を盛り込んで、ブラッド・オレンジやレディオヘッドのようなオルタナティブ・ロックっぽい前衛的な楽曲に纏め上げている。彼の歌も、この曲ではどこかラフで爽やかな感じがする、ロック色の強い佳曲だ。

それ以外にも、ガラージっぽい軽妙なビートに、軽い音色のスネアと電子音を組み合わせた高速で鋭いビートの上で、リバーブをかけたファルセットを響かせるアップ・ナンバー”Kora Sings”や、ピアノとシンセサイザーを使った神秘的な伴奏をバックに、繊細な歌声を絞り出すように歌い上げるバラード”(No One Knows Me) Like The Piano”なども、R&Bが好きな人には魅力的だと思う。

だが、彼の本領が発揮されているのは、やっぱり電子音楽とソウル・ミュージックを融合させたミディアム・ナンバーだろう。このアルバムでは”Reverse Faults”や”Under”、”Incomplete Kisses”などがそれに該当する。その中でも、”Incomplete Kisses”は電子楽器の音色に空間処理を施して作った幻想的なトラックの上を、エフェクトがかかったサンファのヴォーカルが響き渡るミディアム・ナンバー。メロディ自体は、フランク・オーシャンやアンダーソン・パックの流れを汲む、ソウル色の薄いR&Bといったところだが、ジェイムズ・ブレイクやフライング・ロータスの系譜に立つ、電子音楽とポップスを融合したトラックや、両者を結び付け、一つに纏め上げる音響技術のおかげで、彼にしか作れない個性的なソウル・ミュージックに仕上がっているのが面白い。

彼の音楽をじっくり聞くと、個別の要素は色々なミュージシャンにルーツを求めることができると思う。ファルセットを駆使したヴォーカル・スタイルは、マーヴィン・ゲイにはじまり、近年ではマックスウェルやロビン・シックなどが採用しているし、感情をむき出しにする繊細なヴォーカルはレディオヘッドのトム・ヨークなど、ロック・ミュージシャンを中心に多くの歌手が取り入れている。電子音楽をポップスに援用する手法も、フライング・ロータスやジェイムズ・ブレイク、ジェイ・ディラなどの作品で見られるもので、全て、純粋な彼のアイディアではない。

だが、彼の面白いところは、色々な音楽で使われている手法を集め、一つの音楽に詰め込みつつ、引用や加工の仕方を工夫することで、各手法の特徴と残しながら、自分の音楽に仕立て上げている点だと思う。その象徴が”Timmy's Prayer”で、電子音を多用しながら、ロックのビートに、レディオヘッドっぽい退廃的なメロディ、サム・スミス風のスタイリッシュなヴォーカルという、タイプの異なる音楽のエッセンスを、一つの作品に詰め込みつつ、きちんと整合性を取っている点が、彼の音楽の特徴だと思う。2013年に、デーモン・アルバーンがボビー・ウーマックの『Bravest Man in the Universe』でエレクトロ・ミュージックとソウルの融合に挑戦していたが、このアルバムは同作の手法を磨き上げ、ソウルと電子音楽を完全に一体化しつつ、各要素の特徴を残した作品といってよいだろう。

これだけ多くの要素を詰め込みつつ、一つの作品に落とし込むセンスはただものではないと思う。カニエ・ウエストの『The Life of Pablo』やソランジュの『A Seat at the Table』が好きだった人にはぜひ聴いてほしい、個性的な発想と緻密な構成、高い演奏技術が光る良作だ。

Producer
Sampha Sisay, Rodaidh McDonald

Track List
1. Plastic 100C
2. Blood On Me
3. Kora Sings
4. (No One Knows Me) Like The Piano
5. Take Me Inside
6. Reverse Faults
7. Under
8. Timmy's Prayer
9. Incomplete Kisses
10. What Shouldn't I Be?






 

Bobby Womack - Bravest Man in the Universe [2012 XL Recordings]

サム・クックに引き上げられて音楽業界に入り、ジャニス・ジョップリンやアレサ・フランクリンとも仕事をしてきたアメリカ音楽界の生き証人、ボビー・ウーマック。50年以上のキャリアを誇る彼にとって、21世紀最初のオリジナル作品であり、生前最後のスタジオ録音となった2012年のアルバムは、ブラーやゴリラズの中心人物であるデーモン・アルバーンとの競作。

両者の競演は、ゴリラズの3作目『Plastic Beach』に収められている”Stylo”でも行われているが、アルバム1枚分の共同作業となると今回が初めて。ブリティッシュ・ロックの枠に留まらず、ヒップホップやエレクトロなどを積極的に取り入れてきたデーモンと、流行のサウンドを取り入れつつも、ヴォーカル&ギターという昔ながらのスタイルにこだわってきたボビーが、どのような化学反応を起こすのか、とても気になるところだ。

で、肝心の中身だが、アルバムのオープニングを飾る”The Bravest Man In The Universe”では、地鳴りのような重低音が鳴り響くベース・ミュージックをトラックに採用している。前衛的な作風のロック・バンドではしばし用いられる演奏スタイルだが、ソウル・シンガーの楽曲で使われるのは非常に珍しい。この曲では、ボビーの空気を切り裂くような激しいバリトン・ヴォイスと、地響きのような重低音を正面からぶつけ、楽曲に緊迫感と荘厳な雰囲気を与えているのは面白い。

また、それ以外の曲に目を向けると、レディオ・ヘッドやフライング・ロータスを彷彿させる、「間」を効果的に使った伴奏と、若干20代(当時)のシンガー・ソングライター、ラナ・デル・レイの神秘的なヴォーカルをフィーチャーした”Dayglo Reflection”や、各楽器に強烈なエフェクトをかけて、ダブやサイケデリック・ロックとは異なるアプローチで、幻想的なサウンドを構築した”Whatever Happened To The Times”。洗練されたシンセサイザーの音色と、精密なビートからなるハウス・トラックの上で、熱いシャウトを張り上げみせる”Love Is Gonna Lift You Up”など、電子楽器を単なる生楽器の代替品に留めず、新しいサウンドやアレンジを生み出すツールとして積極的に活用した曲が目立つ。

だが、それと同時に、加齢による衰えこそ見えるものの、前衛的なトラックを目の前にしても動じることなく、若いころ変わらないパワフルなヴォーカルを愚直に響かせるボビーの存在が、楽曲にある種の懐かしさと普遍性を与えていると思う。

彼らの音楽を聴くと、どんなに時代が変わっても、歌手に求められるものは変わらないことを再認識させられる。ボビーのような「歌」で相手の心に何かを残してくれる歌手が、これからも増えてほしいと願うばかりだ。

Producer
Damon Albarn, Richard Russell

Track List
1. The Bravest Man In The Universe
2. Please Forgive My Heart
3. Deep River
4. Dayglo Reflection feat. Lana Del Rey
5. Whatever Happened To The Times
6. Stupid
7. If There Wasn't Something There
8. Love Is Gonna Lift You Up
9. Nothin' Can Save Ya feat. Fatoumata Diawara
10. Jubilee (Don't Let Nobody Turn You Around)





Bravest Man in the Universe
Bobby Womack
Xl Recordings
2012-06-12


 
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