melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

YG

iKon - I Decide EP [2020 YG Entertainmen,avex]

アルバム『MADE』が全世界で500万枚を売上げ、2000年代、10年代を代表するボーイズ・バンドとして君臨し続けたビッグバンを筆頭に、「ガール・クラッシュ」という言葉が生まれる前から、「同世代の女性が憧れるガールズ・グループ」というスタイルで唯一無二の地位を築き上げた2NE1、彼女たちの路線を踏襲し、世界的な成功を納めたブラックピンクなど、多くの名グループを送り出してきた韓国の名門YGエンターテイメント

2016年に同社が送り出した男性グループ、iKONは、ソングライティングとラップを担当するB.I.、Bobbyを中心に、個性豊かな面々からなる7人組。中でも、ラップ担当の二人は、クラブ・シーンからのし上がってきた腕自慢のMCが多数参加している人気オーディション番組「Show Me The Money」で奮闘。デビュー前のアイドルの卵が、百戦錬磨のラッパー達を押しのけて優勝するという快挙を成し遂げた。

また、グループはデビュー後に韓国、日本、中国の三ヶ国で新人賞を獲得。2018年にリリースした”Love Senario”は、「観客と一緒に歌うヒップホップ」という、斬新なコンセプトと親しみやすいメロディが高く評価され大ヒット。全米アルバム・チャートを制覇したBTSや、アジアを中心に絶大な人気を誇るトゥワイスの作品を押しのけ、同年の韓国で最も売れたシングル曲になった。

しかし、2019年には自身のトラブルが原因で、リーダーのB.I.が脱退。その後は、グループの活動が停滞する中で、88ライジングが主催するイベントに出演するなど、試行錯誤の日々が続いた。

本作は、彼らにとって約1年ぶりとなる新作。本来は2019年中にリリースされる予定だったが、B.I.の脱退に伴って一度お蔵入りになったものだ。今回リリースされたものでは、彼が歌ったパートを別のメンバーの歌で録り直し、新曲を追加したものになっている。

アルバムのオープニングを飾る”Ah Yeah”はマーチング・バンドのリズムを取り入れたミディアム・ナンバー。規則正しいマーチのリズムの上で、あえてリズムを崩したように歌うスタイルがヒップホップっぽい。“Love Senario”で見せたヒップホップと異ジャンルの融合を押し進めつつ、よりラップを強調した作風の楽曲だ。

続く“Dive”はアコースティック・ギターとハーモニカの音色をアクセントに使ったアップ・ナンバー。前奏はカントリー音楽のそれそのものだが、ヴォーカル・パートは80年代の韓国の歌謡曲の要素をふんだんに盛り込んでいる。カントリー音楽の音やラップを効果的に使うことで、韓国人にとって耳なじみのあるメロディを新鮮な音楽のように聴かせるテクニックが心憎い。“Love Senario”の続編にも聴こえるこの曲は、日本人にも懐かしく感じられる心地よさが印象的だ。

これに対し“All the world”はアナログ・シンセサイザーの透き通った音色を効果的に使った、ダンス・ナンバー。ピコピコという電子音を挟み込みんだトラックは、アフリカ・バンバータのような80年代のヒップホップや、スレイヴのような70年代のディスコ・ブギーに近いものだ。日本でも人気があるタキシードディム・ファンクのサウンドを、韓国向けにアレンジした手腕が魅力だ。

そして、今回の再始動に合わせて書き下ろされた”Flower”は、ヴォーカルのドンヒョクが制作、プロデュースした曲。ギターの伴奏から始まるこの曲は、切ない雰囲気のメロディから爽やかなサビへと続く展開が聴きどころ。ビッグバンの人気曲”声を聞かせて”の路線を踏襲した佳曲だ。

今回のアルバムは、大成功を収めた前作『Return』で見せた、ヒップホップと他のジャンルの音楽の融合を進めつつ、6人組としての新たなスタイルを模索したものだ。特に、「歌うようにラップする」スタイルが魅力だったB.I.の穴を埋める5人のヴォーカルと、グループ唯一のラッパーとして重責を担うことになったBobbyの役割分担を工夫した跡が見受けられる。また、B.I.が残してきた楽曲を採用しつつ、グループの楽曲の大部分を手掛けてきた彼抜きで作った新曲を追加するなど、6人組として新たな一歩を踏み出そうとする意欲もうかがえる。

グループに対する逆風に真正面から立ち向かい、変わらない魅力と新たな一面を披露してくれた逸品。ヒップホップがポップスを組み合わせた作風を進化させた6人の姿が堪能できる良作だと思う。

Producer
B.I., Millenium, Diggy, HRDR etc

Track List
1. Ah Yeah
2. Dive
3. All The World
4. Holding On
5. Flower





Zion.T - ZZZ [2018 Black Label, YG Entertainment]

2016年にYGエンターテイメント傘下のブラック・レーベルに移籍後すると、翌年に発表したEP『OO』がビルボードのヒートシーカーズ・チャート(総合アルバム・チャートの100位以内、およびジャンル別チャートの10位以内に一度も入ったことのないアーティストが対象のチャート)に入るスマッシュ・ヒットとなり、2017年にはロンドン公演、2018年初頭には北米ツアーを敢行するなど、日本よりも欧米で人気のあるシンガー・ソングライター、ザイオン.Tこと、キム・ヘス。

2017年末に発表したシングル”Snow”が韓国チャートを制覇し、2018年にはサマー・ソニックに出演して日本デビューを果たすなど、着実に成果を上げてきた彼。個性的な音楽性とアプローチで、これまでに日本に進出した韓国人アーティストとは異なる方面からファンを増やしてきた。

本作は、『OO』から約1年半の間隔を経てリリースされた通算3枚目のEP。楽曲制作では、ピージェイやジョー・リーといったブラック・レーベルの同僚を起用し、ゲストにはレッド・ベルベットのスルギやヒョゴのオ・ヒュクといった、YGエンターテイメントのアーティストの作品ではあまり名前を見ない面々を招いている。

アルバムに先駆けて発表されたシングル曲”Hello Tutorial”は、SMエンターテイメント所属の女性グループ、レッド・ベルベットのスルギをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。ビッグバンや2Ne1の楽曲を手掛け、今年に入ってからはビッグバンのV.I.のアルバムからの先行シングル、”1,2,3!”を手掛けたことでも話題になったソ・ウンジンが制作に参加した曲だ。ミリオン・セラーを達成した前作のシングル曲”The Song”を彷彿させる柔らかいメロディを歌うザイオン.Tと、彼の声を優しく包むような柔らかいシンセサイザーの伴奏、線は細いが芯の強い声が印象的なスルギのヴォーカルの組み合わせが心に残るバラード。YGに移籍する前には、スルギの所属事務所の先輩にあたる、シャイニーのジョンヒョンの作品に客演したことがあるものの、傘下のレーベルとはいえYG所属のアーティストがSMの所属アーティストとコラボレーションするのは異例。G-ドラゴンやPSY、ダイナミック・デュオといった、韓国を代表する大物アーティストの作品に関わってきた彼の個性と社交性が遺憾なく発揮された楽曲だ。

これに対し、Eセンスと組んだ”Malla Gang”は、90年代のマスター・Pやティンバランドの音楽を思い起こさせる、バウンス・ビートを取り入れたヒップホップ作品。刺々しい音色を使うことが多いバウンス・ビートの作品では珍しい、バンドの生演奏のようにも聞こえる柔らかい音を使ったトラックが新鮮だ。しなやかなテナー・ヴォイスを活かした小回りの利くザイオン.Tのラップが堪能できる。ラップから歌へと、切れ目なく繋ぐ技術も光っている。Eセンスの荒っぽいラップが楽曲に起伏をつけている点も面白い。

また、一時はYG傘下のハイランドに在籍していたこともあるオルタナティブ・ロック・バンド、ヒョゴのオ・ヒュクが客演した”Sleep Talk”は、マーヴィン・ゲイの”Got To Give It Up”を連想させる、スタイリッシュでセクシーなグルーヴが心地よいアップ・ナンバー。マックスウェルを思い起こさせる繊細な声で囁きかけるように歌うザイオン.Tと、ブラッド・オレンジにも似た声で気だるそうに歌うオ・ヒュクのコンビネーションが聴きどころ。往年のソウル・ミュージックのエッセンスを盛り込みつつ、現代の新しい音楽として聴かせる両者の手腕には感服する。

そして、本作の隠れた目玉は、CD盤のボーナス・トラックである”Snow”だ。2017年末に発表されたこの曲は、韓国を代表するバラードの歌い手、イ・ムンセとのコラボレーション作品。ストリングスとキーボードの音色を組み合わせた伴奏の上で、切ないメロディに豊かな表情を吹き込む二人のヴォーカルが魅力的だ。歌謡曲の世界で育ったイ・ムンセと、ヒップホップの世界でキャリアを積んできたザイオン.Tという、世代も音楽性も異なる二人が、一つのメロディを異なる解釈で歌い上げている点に注目してほしい。アメリカのR&Bでは少なくなった、メロディを丁寧に歌い込むスタイルが心に残る曲だ。

今回のアルバムでは、『OO』で見せたアコースティック楽器の音色を積極的に取り入れつつも、ソウル・ミュージックのアレンジは影を潜め、ヒップホップの制作手法を用いた現代的な作品に仕上げている。しかし、過去のアルバムのように電子楽器を使わず、柔らかい音色のアコースティック系の楽器の音色を使ってヒップホップのビートを組み立てている点は新鮮だ。おそらく、彼の繊細な声と表現を活かすために、今回のような手法を取ったのだろう。

ジャズやボサノバの歌手を連想させるきめ細やかな表現力で、日本や欧米で人気のパワフルな歌い越えのR&Bシンガーとは一線を画した独創的なR&Bが堪能できる良作。何回も時間をかけて聴きたくなる、大人の鑑賞に堪えうる緻密で完成度の高いアルバムだ。

Producer
Zion.T, Joe Rhee, Oh Hyuk, Park Jun Woo, PEEJAY, Seo Wonjin, Slom, Yoon Suk Chul

Track
1. Ideal
2. Hello Tutorial feat. SEULGI from Red Velvet
3. My Luv
4. Malla Gang feat. E SENS
5. Uh Huh
6. Sleep Talk feat. Oh Hyuk
7. Untold Story
8. SNOW feat. Lee Moon Sae





Epik High - We've Done Something Wonderful [2017 YG Entertainment]

ビッグバンBTS、2Ne1など、ヒップホップやR&Bを取り入れたダンス・ヴォーカル・グループが、世界を舞台に活躍している韓国発のミュージシャン達。彼らのように、デビュー直後からテレビ番組や大きなステージでスポット・ライトを浴び続ける面々がいる一方で、クラブやライブ・ハウスで地道に結果を残し、トップまで上り詰めた人々もいる。その代表格が、タブロ、ミスラ・ジン、DJトゥーカッツからなる3人組のヒップホップ・グループ、エピック・ハイだ。

スタンフォードの大学院を修了し、韓国に戻ってきた韓国系カナダ人のタブロと、韓国出身のミスラ・ジン、DJトゥーカッツが2001年に結成したこのグループは、ソウル市のクラブなどでライブを重ねつつ、2004年に初のスタジオ・アルバム『Map of the Human Soul』をリリースした。

また、2005年の『Swan Songs』以降は、メイン・ストリームのポップスを取り入れた作風にシフトし、2007年の『Remapping the Human Soul』は、アンダー・グラウンド・シーン出身のミュージシャンとしては異例の、12万枚を売り上げるヒットを記録。以後、韓国を代表するヒップホップ・グループとして広く知られるようになった。

しかし、2009年にトゥーカッツが、2010年にミスラが兵役のため活動を休止すると、同じ時期にタブロ(彼はカナダの市民権があるため兵役には就いていない)の学歴を巡る誹謗中傷事件(この事件は大学がコメントを発表し、多くの逮捕者が出るなど、単なる誹謗中傷とは呼べない激しいものだった)が発生。一転して苦境に立たされる。しかし、この事件が解決したのとほぼ同じ時期に、タブロの奥さんが所属していた縁でYGエンターテイメントと契約。2014年には自分達を中傷した人々へのメッセージ・ソング”Born Hater”で華々しい復活を遂げた。

このアルバムは、2014年の『Shoebox』以来となる通算9枚目、YGエンターテイメント移籍後の作品としては2枚目となるスタジオ・アルバム。YGエンターテイメントの看板タレント、テディ・パクやビッグバンのSOLといったビック・ネームは不参加だが、プロデューサーにはクワイエットやドックスキンといったストリート発の人気ミュージシャンが参加。ゲストにはクワイエットやサイモン・ドミニクのようなヒップホップ界の大物から、ウィナーのミノやリー・ハイといったYGエンターテイメントの後輩、”Good Day や”You & I”などのヒット曲を持つ韓国を代表する女性シンガーIUや、韓国の人気ロック・バンド、ヒュゴのオ・ヒュクのような、ヒップホップ以外のジャンルのミュージシャンまで、バラエティ豊かな面々を揃えている。

本作からのリード・シングルは”Love Story”はIUをフィーチャーした作品。ヒップホップのビートとストリングスを組み合わせたロマンティックなトラックや、終わりを迎える恋人達の姿を、絶妙な言葉選びで克明に描いたラップが印象的な曲。『Shoebox』に収録されている、彼らの代表曲”Happy Ending”の流れを踏襲した作品だ。日本盤に収められている日本語バージョンでは楽童ミュージシャンのスヒュンがヴォーカルを担当しているので、両者を聴き比べてほしい。

これに続く”No Thanxxx”は、元2PMのジェイ・パクと一緒にAOMGを経営しているサイモン・ドミニクと、イリオネア・レコードを経営するクワイエットという、韓国のヒップホップ界を代表する大物二人に加え、人気オーディション番組「Show Me The Money」での活躍も話題になった、ウィナーのミノも参加しているハードなヒップホップ作品。ウッド・ベースの音をループさせた大人っぽい雰囲気のトラックで、良識派が聴いたら眉をひそめそうな過激な言葉を繰り出している。ミノとサイモン・ドミニクの歌詞の内容を巡って論争が巻き起こるなど、良くも悪くもアメリカのヒップホップのスタイルを踏襲した彼らしさが発揮されている。

また、ヒョゴのオ・ヒュクが参加した”Home Is Far Away ”はタブロがプロデュースした作品。切ない雰囲気のトラックと、哀愁を帯びたメロディを丁寧に歌うヴォーカルをフィーチャーした作風は”Love Story”の男性版といった趣。ドラマや映画を通して、多くの名バラードが生まれている韓国の音楽文化と、彼らが傾倒するヒップホップを上手く融合させた良曲だ。

これに対し、先日、日本デビューを果たしたリー・ハイをフィーチャーした”Here Come The Regrets”はDJトゥーカッツが制作を主導した変則ビートの楽曲。ラップ・パートではティンバランドやジャーメイン・デュプリを思い起こさせるチキチキ・ビートを取り入れつつ、リー・ハイが歌うサビではアデルの”Hello”を連想させるロック・バラードの要素を盛り込んでいる。ロックとヒップホップ、両方の美味しいところを融合させた佳曲だ。

彼らの魅力は、歌謡曲やR&Bが人気の韓国の音楽市場に適応しつつ、その中で独創的なヒップホップを作り上げたところだ。アイドル・グループやロック・バンド、歌謡曲の歌手がしのぎを削る韓国で、クラブで磨き上げた自分達のスタイルを貫きつつ、流行の音を取り込むことで、商業的な成功と個性的な作風を両立している。この、自分達の環境に適応しつつ、自国の音楽を本格的なヒップホップに組み込んだところが、彼らの面白いところだと思う。

世界各地に広まり、現地の文化と融合して個性的な進化を遂げたヒップホップの面白さを再確認できる良作。アメリカのヒップホップに傾倒しつつ、アメリカとは異なる文化を持つ国で、自分達の音楽を磨き上げた彼らの、逞しさとしたたかさが心に残る作品だ。

Producer
Tablo, DJ Tukutz, DOCSKIM, The Quiett, The Chancellor etc

Track List
1. People Scare Me
2. Love Story feat.IU
3. No Thanxxx feat.Mino, Simon Dominic & The Quiett
4. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk
5. Here Come The Regrets feat.Lee Hi
6. The Benefits Of Heartbreak feat.Lee Suhyun Of Akmu
7. Bleed
8. Tape 2002 7 28
9. Us Against The World
10. Lost One feat.Kim Jong Wan Of Nell
11. Munbae-Dong feat.Crush
12. Love Story feat.Lee Suhyun Of Akmu -Japanese Version- -Bonus Track- 13. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk -Japanese Mix- -Bonus Track-






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