ハードなラップとビートを武器に、アイドル・グループの新しいロール・モデルを提示した1TYMEや、”江南スタイル”で非英語曲のダウンロード・セールス記録を樹立したPSY、”Fantastic Baby”や”Bang Bang Bang”などのヒット曲を残し、アジアのヴォーカル・グループの存在を世界に知らしめたBIGBANGなど、多くの名アーティストを輩出してきた韓国のYGエンターテイメント。同社では数少ない女性ソロ・シンガーの一人が、ソウル近郊の富川(プチョン)市出身のシンガー・ソングライター、リー・ハイだ。
2012年に韓国のオーディション番組「K-Pop Star」の第1シーズンで優勝した彼女は、同年にYGエンターテイメントと契約。2013年にデビュー作『First Love』を発表すると、その透き通った歌声と繊細な表現が高い評価を受け、ビルボード誌の特集「21Under 21」(これから飛躍が期待される、21人の21歳未満のアーティスト)にジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデと一緒に取り上げられた。また、2016年には2枚目のアルバム『Seoulite』を発表。その一方で、事務所主催のツアーで、日本のステージも経験。BIGBANGや2Ne1、Epik Highといった看板アーティストや、WinnerやiKon(当時はTeam B名義)といった勢いのある若手が活躍するステージで存在感を発揮してきた。
本作は、そんな彼女の日本デビュー作。これまでに発表してきた2枚のアルバムの収録曲に加え、彼女が携わってきたコラボレーション曲や、客演作品、既発曲に日本語詞をつけた新録曲などを収めた2枚組のスタジオ・アルバム。本作の発表時点で21歳という若さながら、多くの録音を残してきた彼女のキャリアを総括したものになっている。
本作の1曲目は『Seoulite』からの先行シングル”Breathe”。2017年12月にこの世を去ったSHINeeのジョンヒョンがペンを執った、切ない雰囲気のスロー・ナンバーだ。低音を抑え、ストリングスを贅沢に使ったアレンジは、フランク・シナトラにも通じるものがある。ジョンヒョンの繊細な感性が生み出すメロディとリリックの魅力をきちんと引き出す、リーの丁寧な歌唱が光る佳曲だ。原曲の良さを残しつつ、日本語のポップスに生まれ変わらせた日本語版も必聴。個人的には、ジョンヒョンが歌ったオリジナル版が残っているのか、気になるところだ。
また、Winnerのミノを招いた”World Tour”は、メアリーJ.ブライジの90年代の作品を連想させるアップ・テンポのヒップホップ・ソウル。サンプリング時にレコードの回転数を速くして、音に癖をつける手法はカニエ・ウエストなどの作品でよく知られているものだ。可愛らしい歌声で力強いパフォーマンスを披露するリー・ハイと、芯の強く、太い声で、パンチの効いたラップを繰り出すミノのラップも格好良い。スター性と実力を兼ね備えた二人だから歌える、本格的なヒップホップ・ソウルだ。
それ以外の曲では、レーベルの企画シングルとしてリリースされた、楽童ミュージシャンのイ・スン・ヒュンとのコラボレーション曲”I'm Different”も見逃せない曲だ。図太いシンセサイザーの音色を使うことで、ジャズのビッグ・バンドのような華やかでグラマラスな伴奏と、リズム&ブルースの要素を取り込んだ軽快なビートは、アウトキャストのようなアメリカ南部出身のヒップホップ・ミュージシャンを思い起こさせる。攻撃的で切れ味鋭いラップを得意とするiKonのボビーが、この曲ではネリーを彷彿させる軽妙なラップを披露している点も面白い。R&B以外の音楽にも造詣が深い二人の持ち味を活かした個性的な作品だ。
そして、彼女が携わった曲の中では、Epik Highが2013年に発表したシングル”Happy Ending”の日本語版が飛びぬけている。オリジナル版では韓国のロック・バンド、ローラーコースターのチョ・ウン・スンが担当していたサビのパートを、この曲ではリー・ハイが担当。破滅的な別れを迎える男性の気持ちを描いたラップ・パートに対し、二人の関係が終わったことを暗示するように淡々と歌うサビの組み合わせが面白い。不慣れな日本語の歌唱をそのまま使うことで、壊れゆく二人の関係を表現した演出が新鮮だ。
彼女の魅力は、ヒップホップの影響が乏しいヴォーカル・スタイルでありながら、本格的なR&B作品に聴こえるところだ。透き通った歌声で淡々と歌うスタイルは、力強い歌声でトラックを飲み込むビヨンセやリアーナの表現技法とは対極のものだ。にもかかわらず、聴き手にはR&Bとして受け取れるのは、ポップスの世界で受け入れられるヒップホップ、R&Bを手掛けてきたEpik Highの面々やディーンといったクリエイターの存在が大きいだろう。
新しいサウンドを取り入れながら、各国のポピュラー音楽を取り入れて進化し続けるR&Bがアジアに根差したことを感じさせる良盤。歌謡曲のエッセンスを適度に取り入れたヴォーカルや作風は、肩の力を抜いてゆっくりと楽しむのに最適だ。
Producer
Teddy Park, Tablo, DJ Tukutz, Lee Hi, Kang Euk Jin, RE:ONE, Deanfluenza etc
Track List
Disc 1
1. Breathe
2. Fool For Love
3. Up All Night feat. Tablo (from Epik High)
4. Special feat. Jennie (from BlackPink)
5. Video feat. Bobby (from iKon)
6. Rose
7. Missing U
8. Fxxk Wit Us feat. Dok2
9. Hold My Hand
10. My Star
11. It’s Over
12. Official feat. Incredivle
13. World Tour feat. Mino (from Winner)
14. Turn It Up
15. I'm Different feat. Bobby (from iKon) , Hi Suhyun
16. 1,2,3,4
17. Breathe -Japanese Version-
Disc 2
1. Rose -Japanese Version-
2. Scarecrow
3. One-Sided Love
4. Dream
5. Because
6. Am I Strange
7. Blues
8. Passing By
9. It's Cold feat. Lee Hi / Epik High
10. Happen Ending feat. Lee Hi -Japanese Version- / Epik Highhappen Ending feat. Lee Hi -Japanese Version- / Epik High
11. Here Come The Regrets feat. Lee Hi / Epik High
2012年に韓国のオーディション番組「K-Pop Star」の第1シーズンで優勝した彼女は、同年にYGエンターテイメントと契約。2013年にデビュー作『First Love』を発表すると、その透き通った歌声と繊細な表現が高い評価を受け、ビルボード誌の特集「21Under 21」(これから飛躍が期待される、21人の21歳未満のアーティスト)にジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデと一緒に取り上げられた。また、2016年には2枚目のアルバム『Seoulite』を発表。その一方で、事務所主催のツアーで、日本のステージも経験。BIGBANGや2Ne1、Epik Highといった看板アーティストや、WinnerやiKon(当時はTeam B名義)といった勢いのある若手が活躍するステージで存在感を発揮してきた。
本作は、そんな彼女の日本デビュー作。これまでに発表してきた2枚のアルバムの収録曲に加え、彼女が携わってきたコラボレーション曲や、客演作品、既発曲に日本語詞をつけた新録曲などを収めた2枚組のスタジオ・アルバム。本作の発表時点で21歳という若さながら、多くの録音を残してきた彼女のキャリアを総括したものになっている。
本作の1曲目は『Seoulite』からの先行シングル”Breathe”。2017年12月にこの世を去ったSHINeeのジョンヒョンがペンを執った、切ない雰囲気のスロー・ナンバーだ。低音を抑え、ストリングスを贅沢に使ったアレンジは、フランク・シナトラにも通じるものがある。ジョンヒョンの繊細な感性が生み出すメロディとリリックの魅力をきちんと引き出す、リーの丁寧な歌唱が光る佳曲だ。原曲の良さを残しつつ、日本語のポップスに生まれ変わらせた日本語版も必聴。個人的には、ジョンヒョンが歌ったオリジナル版が残っているのか、気になるところだ。
また、Winnerのミノを招いた”World Tour”は、メアリーJ.ブライジの90年代の作品を連想させるアップ・テンポのヒップホップ・ソウル。サンプリング時にレコードの回転数を速くして、音に癖をつける手法はカニエ・ウエストなどの作品でよく知られているものだ。可愛らしい歌声で力強いパフォーマンスを披露するリー・ハイと、芯の強く、太い声で、パンチの効いたラップを繰り出すミノのラップも格好良い。スター性と実力を兼ね備えた二人だから歌える、本格的なヒップホップ・ソウルだ。
それ以外の曲では、レーベルの企画シングルとしてリリースされた、楽童ミュージシャンのイ・スン・ヒュンとのコラボレーション曲”I'm Different”も見逃せない曲だ。図太いシンセサイザーの音色を使うことで、ジャズのビッグ・バンドのような華やかでグラマラスな伴奏と、リズム&ブルースの要素を取り込んだ軽快なビートは、アウトキャストのようなアメリカ南部出身のヒップホップ・ミュージシャンを思い起こさせる。攻撃的で切れ味鋭いラップを得意とするiKonのボビーが、この曲ではネリーを彷彿させる軽妙なラップを披露している点も面白い。R&B以外の音楽にも造詣が深い二人の持ち味を活かした個性的な作品だ。
そして、彼女が携わった曲の中では、Epik Highが2013年に発表したシングル”Happy Ending”の日本語版が飛びぬけている。オリジナル版では韓国のロック・バンド、ローラーコースターのチョ・ウン・スンが担当していたサビのパートを、この曲ではリー・ハイが担当。破滅的な別れを迎える男性の気持ちを描いたラップ・パートに対し、二人の関係が終わったことを暗示するように淡々と歌うサビの組み合わせが面白い。不慣れな日本語の歌唱をそのまま使うことで、壊れゆく二人の関係を表現した演出が新鮮だ。
彼女の魅力は、ヒップホップの影響が乏しいヴォーカル・スタイルでありながら、本格的なR&B作品に聴こえるところだ。透き通った歌声で淡々と歌うスタイルは、力強い歌声でトラックを飲み込むビヨンセやリアーナの表現技法とは対極のものだ。にもかかわらず、聴き手にはR&Bとして受け取れるのは、ポップスの世界で受け入れられるヒップホップ、R&Bを手掛けてきたEpik Highの面々やディーンといったクリエイターの存在が大きいだろう。
新しいサウンドを取り入れながら、各国のポピュラー音楽を取り入れて進化し続けるR&Bがアジアに根差したことを感じさせる良盤。歌謡曲のエッセンスを適度に取り入れたヴォーカルや作風は、肩の力を抜いてゆっくりと楽しむのに最適だ。
Producer
Teddy Park, Tablo, DJ Tukutz, Lee Hi, Kang Euk Jin, RE:ONE, Deanfluenza etc
Track List
Disc 1
1. Breathe
2. Fool For Love
3. Up All Night feat. Tablo (from Epik High)
4. Special feat. Jennie (from BlackPink)
5. Video feat. Bobby (from iKon)
6. Rose
7. Missing U
8. Fxxk Wit Us feat. Dok2
9. Hold My Hand
10. My Star
11. It’s Over
12. Official feat. Incredivle
13. World Tour feat. Mino (from Winner)
14. Turn It Up
15. I'm Different feat. Bobby (from iKon) , Hi Suhyun
16. 1,2,3,4
17. Breathe -Japanese Version-
Disc 2
1. Rose -Japanese Version-
2. Scarecrow
3. One-Sided Love
4. Dream
5. Because
6. Am I Strange
7. Blues
8. Passing By
9. It's Cold feat. Lee Hi / Epik High
10. Happen Ending feat. Lee Hi -Japanese Version- / Epik Highhappen Ending feat. Lee Hi -Japanese Version- / Epik High
11. Here Come The Regrets feat. Lee Hi / Epik High