melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Joe – My Name Is Joe Thomas [2016 Plaid Takeover]

93年のデビュー以降、マライア・キャリーとのデュエット曲”Thank God I Found You”や、ミスティカルがラップで参加したテディ・ライリー作のダンス・ナンバー”Stutter”などのヒット曲を数多く発表してきた、ジョージア州はコロンバス出身のシンガー・ソングライター、ジョーにとって12枚目となるオリジナル・アルバム。

生演奏のダイナミックなサウンドを活かしたヴィンテージ・ミュージックや、80年代のディスコ・サウンドからインスピレーションを得た楽曲など、新しいスタイルの音楽が次々と登場する中、彼のように一時代を築いたミュージシャンの多くは、流行の音楽を取り入れたり、コアな音楽ファンをターゲットに据えたインディー・レーベルへと移籍したり、もしくはライブ中心の活動へと軸足を移したりと、戦略の修正を余儀なくされている。そんな中、彼は所属レーベルこそ何度も変わっているが、20年以上、自分のスタイルを守りながら、コンスタントに有力レーベルから作品をリリースしてきた。

2014年の『Bridges』に引き続き、米BMG傘下のプライド・テイクオーバーから発表された本作は、1999年にリリースされた彼の代表作『My Name Is Joe』に引っ掛けたタイトルに違わない、あの頃と同じジョーのサウンドが次々と繰り出される懐かしい作品だ。1曲目の”Lean Into It”のイントロを聴いた瞬間から、しっとりとしたメロディとシンプルで無駄のないバック・トラック、感情をむき出しにしつつも、艶を失わない滑らかな歌声が織りなす、彼のロマンティックな世界が眼前に広がっている。

その後も、フラメンコ・ギターの色っぽい音色とパーカッションをアクセントに使った、エロティックな空気が流れるミディアム・バラード”Wear The Night”や、グッチ・メインをゲストに招いたシンセサイザーの無機質なトラックが印象的なミディアム”Happy Hour”、電子音と楽器の音色が複雑に絡んだ、不思議な雰囲気のバラード”Lay Your Down”など、新しい音やゲストを加えつつも、滑らかな声で語り掛けるように歌う彼のスタイルで、全ての曲をジョー節に染め上げている。中でも、声だけでも存在感があるグッチ・メインに、あえて抑え気味の声でラップをさせて、ロマンティックなラブ・ソングのアクセントにして見せた”Happy Hour”などは、個性的なゲストやプロデューサーで自分の音楽を磨き上げてきたジョーらしい起用術だ。

もっとも、このアルバムのハイライトは”Our Anthem”と”Hello”だろう。オーティス・レディングの”Try a Little Tenderness”をサンプリングした前者は、ファンファーレのようなお馴染みのイントロにはじまり、崩れ落ちるようなピアノのフレーズや、メトロノームのように精密なリズムを刻むパーカッションといった、原曲のフレーズを取り込みつつ、同曲にインスパイアされたメロディ(替え歌?)を朗々と歌いつつ、最後にはオリジナル・ヴァージョンのサビを原曲に忠実な形で披露するという、大胆なアプローチを見せる。滑らかな歌声が武器のジョーが、その声を活かしつつ、オーティスの荒れ狂うような歌唱を再現したところに、ベテランにしか出せない表現の幅が垣間見える。

また、アデルの2014年作『25』に収録されている大ヒット曲”Hello”のカヴァーは、2010年代屈指の人気を誇る女性シンガーのダイナミックな歌唱が印象的なポップ・バラードを、数多くの名バラードを残してきたジョーの解釈で本格的なR&Bバラードにリメイクしている。アレンジは原曲に忠実なものだが、曲中では通常のしっとりとしたヴォーカルに加え、荒々しい地声やかすれるようなファルセットなどを使い分け、原曲の爆発するような感情表現を残しつつ、豊かな歌声を聴かせるソウル・バラードに生まれかわらせている。サビで聴かせる、泣き崩れるようなヴォーカルは、もはや楽曲に新しい意味を与えている。

長い時間かけて一つのスタイルを磨き上げてきたシンガーにしかできない、大胆な表現と繊細なアレンジの妙味が光っている。歌の職人と呼んでも過言ではない、一つの道を究めたシンガーの完成された技が堪能できる魅力的な作品だ。

Producer
Joe, Gerald Isaac etc

Track List
1. Lean Into It
2. Don’t Lock Me Out
3. Wear The Night
4. So I Can Have You Back
5. No Chance
6. Happy Hour feat. Gucci Mane
7. Hollow
8. Hurricane
9. Cant’ Run From Love
10. Tough Guy
11. Lay you Down
12. I Swear
13. Love Centric
14. Celebrate You
15. Our Anthem
16. Hello
17. Happy Hour (Original Mix)




マイ・ネーム・イズ・ジョー・トーマス
ジョー
Pヴァイン・レコード
2016-12-14

Mavis Staples ‎– Livin' On A High Note [2016 Anti]

60年代以降のソウル・ミュージック界を支えてきたベテランが次々と鬼籍に入る中、アレサ・フランクリンやシル・ジョンソンと並んで一線で活躍し続けるシンガーの一人に、メイヴィス・ステイプルズがいる。家族と結成したゴスペル・グループ、ステイプル・シンガーズの一員として、ヴィージェイやスタックスといった名門レーベルから多くの傑作を発表し、70年代には”I’ll Take You There”や”Let’s Do It Again”などを残してきた、シカゴが送り出した名シンガーの一人だ。

ステイプル・シンガーズ解散後は、ソロ活動を本格的に始動。ボブ・ディランとのデュエット曲や、ライ・クーダがプロデュースしたアルバムを発表するなど、ジャンルの枠を超えた活躍を見せてきた。

2013年の『One True Vine』以来となるこのアルバムでは、オルタナティブ・ロック・バンド、シー&ヒムのメンバー、M.ワードがプロデュースを担当。彼の他にも、ベン・ハーパーやボン・イヴェールのジャズティン・ヴァーノン、ニック・ケイヴといったオルタナティブ・ロックのミュージシャンや、アロー・ブラックなどの若いソウル・ミュージシャンが集まり、当時の音楽を踏まえつつ、現代の音楽のエッセンスを注ぎ込んだ、2016年仕様のソウル・ミュ-ジックを作ってくれた。

ベンジャミン・ブッカーのペンによる”Take Us Back”では、60年代にタイムスリップしたのではないかと思うほど、泥臭くて粘っこいサウンドを提供。それをバックに、彼女は地声を中心にした重厚で貫禄のある歌声を響かせている。また、アロー・ブラック作の”Tommorow”では、オーティス・レディングの”(Sittin’ On) Doc Of The Bay”を彷彿させる、一音一音つま弾くように鳴らされるギターをアクセントに、目の前の人に語り掛けるように歌うミディアム・ナンバー。また、70年代に数枚のシングル盤を残した通好みのソウル・シンガー、ダニー・ジェラルドが参加した”Dedicated”では、シンプルな編成のバンドによるゆったりとした演奏をバックに、耳元で囁くような優しい歌い方で、リスナーの心を夢の世界に運んでくれる。

デビューから50年以上の時を経て、御年70を超えたメイヴィスの歌は、緩やかとはいえ加齢の影響が隠せなくなっている。だが、力任せに歌うことが難しくなった分、膨大な数のレコーディングやステージで培った力加減の妙や表現の幅が、彼女の表現に幅をもたらすと同時に、親子ほどの年の差があるミュージシャンとのコラボレーションからも、往年のソウル・ミュージックのエッセンスを見つけ出し、自分の作品に取り込んでしまう柔軟さをもたらしたように見える。

60年代、70年代のソウル・ミュージック・シーンを体験しているミュージシャンが少なくなっているが、当時の音楽のDNAは、後の世代に着実に伝えられている。そして、なんらかのきっかけがあれば、往年のソウル・ミュージックは形を変えて蘇ってくれる。そんな希望を感じた。

Producer
M.Ward

Track List
1. Take Us Back
2. Love And Trust
3. If It’s A Light
4. Action
5. High Note
6. Don’t Cry
7. Tomorrow
8. Dedicated
9. History Now
10. One Love
11. Jesus Lay Down Beside Me
12. MLK Song




Livin' On A High Note
Mavis Staples
Anti
2016-02-19

Alicia Keys – Here [2016 RCA]

R&Bシンガーらしからぬ華奢な身体から放たれる力強い歌声と、クラシック音楽の教育を受けたという本格的なピアノの演奏を組み合わせたスタイルで、2001年のデビュー以降、発表したアルバムのほとんどがナンバー・ワン・ヒットを獲得してきたニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、アリシア・キーズ。彼女にとって、2012年の『As I Am』以来となるオリジナル・アルバムが本作だ。

今回のアルバムでは、彼女にとって公私両面のパートナーであるスウィズ・ビーツが大半の曲をプロデュース。DMXやイブを輩出したラフライダーズの一員としてデビューして以来、作風の幅を広げつつ、ビヨンセやジェニファー・ハドソンなどのR&Bシンガーも手掛けるようになった実績豊富なヒット・メイカーが、知的なたたずまいとパワフルな歌声を兼ね備えた彼女にマッチした、シンプルだが味わいのあるプロダクションを提供している。

アルバムのオープニングを飾る”The Gospel”は、ウータン・クランの”Shaolin Brew”のトラックを使った、泥臭いサウンドが格好良いミディアム・ナンバー。不気味で陰鬱、でもどこか温かいRZAのトラックの上で荒々しいヴォーカルを聴かせる姿は、音楽性は大きく異なるがメイヴィス・ステイプルズやオーティス・レディングなどのサザン・ソウル・シンガーにも通じる躍動感がある。この路線は、スウィズ・ビーツがプロデュースした”Pawn It All”でも見られ、跳ねるようなドラムの音の上で、耳元に絡みつくようなドロドロとした歌を聴かせている。

一方、ナズの代表曲の一つ”One Love”のトラックを引用し、ロイ・エアーズが演奏に参加した”She Don't Really Care_1 Luv”では、Q-Tip作のふわふわとしたビートと一体化するような、肩の力を抜いた軽妙な歌唱を披露している。肩の力を抜いても、音程や起伏を正確に歌い切る技術は本作の聴きどころだ。また、エミリー・サンデーがソングライティングに参加した”Kill Your Mama”では、ギター一本というシンプルな伴奏をバックに、ポップス寄りのメロディを朗々と歌い上げ、エディ・ブリッケル&ニュー・ボヘミアンズとA$AP Rockyが参加した”Blended Family (What You Do For Love)”では、緻密だがどこか粗削りなバンド・サウンドをバックに、語り掛けるようなヴォーカルを聴かせている。また、彼のアルバムでデュエットも披露しているファレル・ウィリアムズが手掛けた”Work On It”では三拍子のリズムを乗りこなすという荒業も見せている。

だが、それ以上に見逃せないのは、彼女の楽曲を彩るピアノの演奏だろう。モーツァルトなどのクラシック音楽に若いころから触れてきた彼女にしかできない、88個の鍵盤全部を使ったダイナミックな演奏は、もはやもう一人のヴォーカルのような存在で、彼女の音楽に豊かな表情をもたらしている。

個性豊かな楽曲に、きちんと適応する高い技術と豊かな表現力、そして、それを支えるスタッフが揃ったことで生まれた、噛めば噛むほど味が出るスルメのようなアルバム。「自分のスタイル」を確立することのお手本のような作品だ。

Producer
Alicia Keys, Swezz Beats

Track List
1. The Beginning (Interlude)
2. The Gospel
3. Pawn It All
4. Elaine Brown (Interlude)
5. Kill Your Mama
6. She Don't Really Care_1 Luv
7. Elevate (Interlude)
8. Illusion Of Bliss
9. Blended Family (What You Do For Love)
10. Work On It
11. Cocoa Butter (Cross & Pic Interlude)
12. Girl Can't Be Herself
13. You Glow (Interlude)
14. More Than We Know
15. Where Do We Begin Now
16. Holy War
17. Hallelujah
18. In Common





Here
Alicia Keys
RCA
2016-11-11

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