melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Crystal Thomas – Now Dig This! [2021 Dialtone]

アメリカ南部、ルイジアナ州の一帯は沼などの湿地が多いことから、バイユー・ゲート(bayou gate)と呼ばれている。

また、ニューオーリンズを含むこの地は、ファンク・バンドのミーターズやゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソンといった、有名なミュージシャンを生み育てきた。この土地で演奏されるユニークな音楽はニューオーリンズ・ジャズ・ニューオーリンズ・ファンクと呼ばれている

ルイジアナ州北西の都市、シュリーブポート出身のシンガー、クリスタル・トーマスはこの地域の将来を担うことを嘱望されている、期待の若手(といっても妙齢だが)だ。

今回のアルバムでは、2年前に出た前作に引き続き、ラッキー・ピーターソンやチャック・レイニーといった、現代のアメリカを代表するベテランのブルース・ミュージシャンとコラボレーション。新曲に加えて、往年のブルースやソウルの楽曲をカバーすることで、当時の音楽が持つ熱量を現代に甦らせている。

彼女の力量は、アルバムのオープニングを飾るバーバラ・ウエストのカヴァー、"I'm A Fool For My Baby"を聴けばよくわかる。ルイジアナ音楽界の重鎮、トゥーサン・マクニール作の激しいダンス・ナンバーを堂々と歌い上げている。50年代のアメリカでは、ブルースがダンス音楽として重用されていたが、その頃の熱気を完璧に再現している。

また、"Blues Funk"はタイトル通りのブルースとファンクが合わさった音楽、ブルース・ファンクのスタイルで演奏されるアップ・ナンバー、ブルースの持つ怪しげな雰囲気と、ファンクの持つ色気が同居した楽曲は、間違いなく「ブルース・ファンク」だ。

また、ミディアム、スロー・ナンバーにも見逃せない曲が多い。特にジャニス・ジョップリンの楽曲をブルースにアレンジした"One Good Man“や、ジャズ・オルガン奏者、シャーリー・スコット作のスロー・ナンバー"The Blues Ain't Nothing But Some Pain”では、トーマスの大胆な表現と力強い歌声を余すことなく聴くことができる。

本作では彼女の恵まれた身体能力が生み出す迫力のある声と、豊富なステージ経験で培われた表現力が遺憾なく発揮されている。また、本作で彼女と共演しているチャック・レイニーやラッキー・ピーターソンといったベテラン・ミュージシャン達は、熟練の技を遺憾なく発揮している。彼女達の高い演奏技術と豊かな経験が、新旧の楽曲に命を吹き込んでいるのだ。

ルイジアナの豊かな音楽文化が堪能できる佳作。いつの日かライブで観たいと思わせる説得力が心に残る。

Track List
1. I'm A Fool For You Baby
2. I Don't Worry Myself
3. Take Yo' Praise
4. Ghost Of Myself
5. Blues Funk
6. One Good Man
7. No Cure For The Blues
8. Can't You See What You're Doing To Me
9. The Blues Ain't Nothing But Some Pain
10.Let's Go Get Stoned



No Cure For The Blues
DIALTONE RECORDS
2021-03-05


 

PM Warson - True Story [2021 Legare Records]

ロンドン発のシンガー・ソングライター、PMワーソンは、イギリスの豊かな音楽シーンを象徴するアーティスト。ヴォーカルや作詞作曲だけでなく、ギターやオルガンなど、複数の楽器を操るマルチなプレイヤーなのだ。

そんな彼が2021年にリリースした、キャリア初のアルバムは、老練な演奏とダイナミックな表現が光る作品だ。

人間にしか作れない、絶妙な揺らぎを含むドラム、ふくよかな低音を鳴らすベース、艶かしい音色のギターや、いなたいヴォーカルといった演奏は、多くのミュージシャンが自らのスタイルを模索していた、50年代、60年代のソウル・ミュージックを彷彿させる。

また、本作では多くの曲にホーン・セクションやコーラス隊が参加。多人数のバンドが分厚い音の塊を響かせる、60年代後期のソウル・ミュージックの要素も兼ね備えている。

そんな彼の音楽だか、懐かしさより新鮮さの方が強く感じられる。現代の録音機材を取り入れて、音の解像度を高めたり、随所に現代的な表現を盛り込んでいることが大きいと思う。

古い音楽の焼き直しではなく、解釈を加えて新しい音楽として再構築した、本当の意味でのヴィンテージ・ミュージックだ。

Producer
PM Warson

Track List
1.Losing & Winning
2.Seen You Around
3.In Conversation
4.Say The Word
5.I Don't Need No Doctor
6.(Don't) Hold Me Down
7.True Story
8.To Be Alone With You
9.You Gotta Tell Me
10.(Just) Call My Name




In Conversation
Légère Recordings
2021-02-19


    Yesung - Beautiful Night [2021 SM Entertainment]

    平昌五輪の閉会式でのパフォーマンスが「オリンピックの歴史上、最もSNSで話題になった瞬間」という大記録を打ち立てたEXO、アジア人歌手としては史上2組目となる、全米アルバムチャート1位を記録したSuperM、現在は各メンバーのソロ活動が注目を集める少女時代など、多くのタレントを世に送り出してきた韓国SMエンターテイメント

    同社に所属するスーパージュニアは、バラエティ番組での活躍や中南米へのツアーなど、 他のグループとは一味違う、ユニークな活動でも知られるベテラン・グループだ。同グループのメンバーであるイェサンは、「芸術的な声」という意味の芸名を持ち、韓国音楽界でも卓越した美しい声で知られている。

    そんな彼は、グループがデビューすると間もなくソロ曲を発表。その後も2021年までに3枚のEPと1枚のスタジオ・アルバム、多くのシングルを世に出している。

    今回発表された3年ぶりの新作EPは、意外にもシティ・ポップ路線の作品。アルバムのオープニングを飾る“Beautiful Night”は、煌びやかなシンセサイザーと艶かしいギターやサックスの組み合わせが心地よいアップナンバーだ。続く“Phantom Pain”は、ディアンジェロのブラウンシュガーを彷彿させるシンプルなメロディと伴奏で、透き通ったヴォーカルの良さを余すことなく伝えている。 このほかにも、レトロなリズムボックスが鳴らす軽やかなビートと、甘酸っぱいメロディが心に残る“Fireworks”のような、モダンな音色を上手に使ったR&Bが目立っている。

    この説明だけを読むと、本作は近年、アジア各地で流行している日本の80年代のポップスをなぞったアルバムのように感じる人もいるだろう。だが、本作からはそういう雰囲気が微塵も感じられない。それは、随所に当時の音楽の要素を入れながら、それと一緒に現代的な表現を盛り込んでいるからだろう。

    それを象徴するのが、柔らかい音色のギターをバックに歌う”Like Us“だ。この曲ではふくよかな楽器の音色をバックに、韓国のドラマや映画で耳にすることが多い、歌手の表現力を引き出す美しいメロディを聴かせている。この、80年代の日本のポップスから楽器の音色やメロディを参考にしながら、あくまでも現代の韓国のポップスとして聴けるように作っているところが、本作の特著なのだ。

    「芸術的な声」という呼び名の彼にしか作れない。美しいメロディと豊かな表現力が印象的な作品。「ヒップホップが強い国」という韓国のイメージを良い意味で壊してくれる。


    Producer
    Lee Soo Man etc

    Track List
    1. Beautiful Night
    2. Phantom Pain
    3. Corazon Perdido (Lost Heart)
    4. Fireworks
    5. No More Love
    6. Like Us
    7. A Letter in the Wind








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