2009年にストーンズ・スロウからリリースしたインストゥメンタル作品集『Rhythm Trax Vol. IV』が、新しい音に敏感な人々の間で注目を集め、翌年に発売されたヴォーカル曲を含むCD2枚組(アナログ盤は5枚組!!)のアルバム『Toeachizown』で一気にブレイクした、カリフォルニア州パサデナ出身のミュージシャン、ディム・ファンク。彼が2016年にスペインのレーベル、SAFTからリリースしたシングルのアメリカ盤が、自身のレーベル、グライドゾーンから発売された。
彼の音楽は、スレイヴやリック・ジェイムスのような、強靭なベースの音色を効果的に使ったファンク・ミュージック、通称ディスコ・ブギーと呼ばれるスタイルに、ヒップホップ・レーベル出身らしい様々な音色を織り交ぜたもので、80年代の音が好きなソウル・マニアと、比較的若いヒップホップ世代の両方から高く評価されてきた。
今回のEPは、最初のリリース元がハウス・ミュージックのレーベルということもあり、全曲がシンセサイザーやリズム・マシンを使ったインストゥメンタル。だが、デビュー当初から歌のない曲をコンスタントに発表してきた彼なので、本作でも、過去の歌もの楽曲と同じ感覚で楽しめる、ファンキーなダンス・ミュージックを聴かせてくれる。
1曲目の”Break Out”は、四つ打ちのドラムを軸にしたハウス・ナンバー。ラリー・レバンやデリック・メイの例を挙げるまでもなく、ファンクやソウルとテクノやハウスの距離は決して遠くない。けど、ファンク・ミュージシャンのディム・ファンクがここまでハウスに寄った音を作るとは、正直予想していなかった。ただし、曲をじっくりと聞いてみると、ストリングスのように使われるシンセサイザーのハーモニーこそ、ディープ・ハウスの手法だけど、それ以外は、曲の随所で用いられる極端な設定のエフェクターや、ごつごつとした電子音の塊を混ぜ込んだビートなど、ファンクが好きなヒップホップ畑の人間らしい、個性的な音を盛り込んだ毒っ気のある音色が印象的。
続く”Hazy Stomp”は、1曲目とは大きく変わって、ファンク・ミュージックの要素が強く反映された、マイルドで聴きやすいダンス・ナンバー。ファンク・ミュージックの世界では当たり前のように使われる複雑ベース・ラインに、ファンク以外にもヒップホップやハウスで多用されている、往年のリズム・マシンの音色を使ったパーカッションでファンキーなグルーヴを生み出しながら、比較的新しい時代のシンセサイザーを使ったメインのメロディで、しっかりと現代のダンスミュージックに落とし込んだ楽曲。本作では一番、ファンク寄りの楽曲かも。
3曲目の”Your House”は、本作では最もハウス・ミュージックに寄った曲。ベースなどの音色は、他の曲で使われる楽器の音色よりも新しく、パーカッションなどの打楽器も控えめ。また、メインのフレーズもシンセサイザーを手弾きしたものと、彼の作品の中では最もハウス・ミュージックの基本に忠実な作品かもしれない。だが、単なるハウス・ミュージックのトレースに終わらないのが、彼の面白いところ。曲の後半では、リズム・マシンが故障したかのような、不規則なリズムを鳴らしはじめ、エフェクターの強弱も急に変わるなど、悪戯心たっぷりの演出で、古典的なハウス・ミュージックを期待する人をきちんと裏切っている。
正直に言うと、本作をディム・ファンクや彼の音楽が好きな人にお勧めすべきか?と聞かれたら、自分は「Yes」と即答できる自信がない。自分が彼の音楽を好きになったのは、一昔前に使われた古い楽器や、ノイズ交じりの録音機材で作られたチープな出音を、アレンジの妙味で現代の人間の鑑賞にも耐えうるソウル作品に纏め上げていたからだ。もちろん、その後の環境の変化もあって、彼の作品は、1作ごとに雰囲気はガラリと変わることも珍しくなくなったし、新しいスタイルの作品も楽しめた。だが、今回のEPのような、クリアな音質で洗練されたトラックを聴かせるスタイルは、仮に彼の個性が盛り込まれていても、「なんか違う」と思ってしまうのだ。
誤解を与えないように言っておくけど、僕はこの作品を愛聴している。単純な展開の曲が多い、テクノ、ハウスでは珍しい毒っ気のある展開や、EDMでは味わえないファンキーなグルーヴは、ファンクの世界に育てられ、ヒップホップの世界でのし上がったディム・ファンクの真骨頂だと思うし、それを四つ打ちの世界で発揮したことは、ただ感嘆するばかりだ。でも、彼に求められている音楽はこれじゃないよなあ、そう思ってしまうのも正直なところだ。
Producer
Dam-Funk
1. Break Out
2. Hazy Stomp
3. Your House
彼の音楽は、スレイヴやリック・ジェイムスのような、強靭なベースの音色を効果的に使ったファンク・ミュージック、通称ディスコ・ブギーと呼ばれるスタイルに、ヒップホップ・レーベル出身らしい様々な音色を織り交ぜたもので、80年代の音が好きなソウル・マニアと、比較的若いヒップホップ世代の両方から高く評価されてきた。
今回のEPは、最初のリリース元がハウス・ミュージックのレーベルということもあり、全曲がシンセサイザーやリズム・マシンを使ったインストゥメンタル。だが、デビュー当初から歌のない曲をコンスタントに発表してきた彼なので、本作でも、過去の歌もの楽曲と同じ感覚で楽しめる、ファンキーなダンス・ミュージックを聴かせてくれる。
1曲目の”Break Out”は、四つ打ちのドラムを軸にしたハウス・ナンバー。ラリー・レバンやデリック・メイの例を挙げるまでもなく、ファンクやソウルとテクノやハウスの距離は決して遠くない。けど、ファンク・ミュージシャンのディム・ファンクがここまでハウスに寄った音を作るとは、正直予想していなかった。ただし、曲をじっくりと聞いてみると、ストリングスのように使われるシンセサイザーのハーモニーこそ、ディープ・ハウスの手法だけど、それ以外は、曲の随所で用いられる極端な設定のエフェクターや、ごつごつとした電子音の塊を混ぜ込んだビートなど、ファンクが好きなヒップホップ畑の人間らしい、個性的な音を盛り込んだ毒っ気のある音色が印象的。
続く”Hazy Stomp”は、1曲目とは大きく変わって、ファンク・ミュージックの要素が強く反映された、マイルドで聴きやすいダンス・ナンバー。ファンク・ミュージックの世界では当たり前のように使われる複雑ベース・ラインに、ファンク以外にもヒップホップやハウスで多用されている、往年のリズム・マシンの音色を使ったパーカッションでファンキーなグルーヴを生み出しながら、比較的新しい時代のシンセサイザーを使ったメインのメロディで、しっかりと現代のダンスミュージックに落とし込んだ楽曲。本作では一番、ファンク寄りの楽曲かも。
3曲目の”Your House”は、本作では最もハウス・ミュージックに寄った曲。ベースなどの音色は、他の曲で使われる楽器の音色よりも新しく、パーカッションなどの打楽器も控えめ。また、メインのフレーズもシンセサイザーを手弾きしたものと、彼の作品の中では最もハウス・ミュージックの基本に忠実な作品かもしれない。だが、単なるハウス・ミュージックのトレースに終わらないのが、彼の面白いところ。曲の後半では、リズム・マシンが故障したかのような、不規則なリズムを鳴らしはじめ、エフェクターの強弱も急に変わるなど、悪戯心たっぷりの演出で、古典的なハウス・ミュージックを期待する人をきちんと裏切っている。
正直に言うと、本作をディム・ファンクや彼の音楽が好きな人にお勧めすべきか?と聞かれたら、自分は「Yes」と即答できる自信がない。自分が彼の音楽を好きになったのは、一昔前に使われた古い楽器や、ノイズ交じりの録音機材で作られたチープな出音を、アレンジの妙味で現代の人間の鑑賞にも耐えうるソウル作品に纏め上げていたからだ。もちろん、その後の環境の変化もあって、彼の作品は、1作ごとに雰囲気はガラリと変わることも珍しくなくなったし、新しいスタイルの作品も楽しめた。だが、今回のEPのような、クリアな音質で洗練されたトラックを聴かせるスタイルは、仮に彼の個性が盛り込まれていても、「なんか違う」と思ってしまうのだ。
誤解を与えないように言っておくけど、僕はこの作品を愛聴している。単純な展開の曲が多い、テクノ、ハウスでは珍しい毒っ気のある展開や、EDMでは味わえないファンキーなグルーヴは、ファンクの世界に育てられ、ヒップホップの世界でのし上がったディム・ファンクの真骨頂だと思うし、それを四つ打ちの世界で発揮したことは、ただ感嘆するばかりだ。でも、彼に求められている音楽はこれじゃないよなあ、そう思ってしまうのも正直なところだ。
Producer
Dam-Funk
1. Break Out
2. Hazy Stomp
3. Your House