イギリス出身の歌手らしい、流れるようなヴォーカルと、アメリカのR&Bから強い影響を受けた、ヒップホップ色の強いキャッチーなトラックで、多くのR&Bファンに強烈な印象を残した98年の傑作アルバム『Crucial』で知られる、ロンドン出身のシンガー・ソングライター、アリ・テナント。彼にとって、実に19年ぶりとなる新作がこの『Get Loved』だ。
前作の発売から本作がリリースされるまでの間、コンピレーション・アルバムや他のアーティストの楽曲で彼の名前を見ることは何度かあったが、肝心の彼自身の名義での新曲はほとんどなかった。だが、その間も彼は、ジェシーJやブルーといったイギリスのR&Bシンガーやポップ・グループに楽曲を提供したり、XファクターやヴォイスUKなどのオーディション番組で、参加者への歌唱指導を担当したりと、主に裏方として多忙の日々を送っていたようだ。
さて、本作の話に入ろう。20代のときに発表した前作と、40代になってから録音した今回のアルバムを聴き比べて、まず気になったのはアリの歌声の変化だ。しなやかなヴォーカルは前作のときと変わらないが、本作では声に渋みが加わり、感情表現の幅が広がるなど、R&Bシンガーとして、さらに成熟したように思える。また、バック・トラックに目を向けると、前作同様、アメリカのヒップホップを意識したものも多いが、それ以外にも、ドゥームやエクスパンションのような、イギリスのR&Bシーンをリードするレーベルの作品を意識したスタイリッシュなものや、アンソニー・ハミルトンやライフ・ジェニングスが録音しそうな、ソウルとヒップホップを融合した泥臭いビートも登場するなど、前作の路線を踏襲しつつ、バラエティを増やしている。
個別の収録曲に目を向けると、アルバムのオープニングを飾る”Superstar”は、いかにもイギリスのR&Bといった趣の、コンピューターを使ったスタイリッシュなビートに、ホーンっぽい音色を使った上物が心を掻き立てる華やかなダンス・ナンバー。アリのヴォーカルは豊かな歌声を軽やかに操り、洗練されたトラックに溶け込み、一体化している。
そして、続く”Switch”は、コントローラーズが87年に発表した”My Secret Fantasy”をサンプリングした、ミディアム・ナンバー。チェコのラップ・グループ、ケイオズの”Z Klece Do Hrobu”やクッキン・ソウルの”Sky's the Limit (Cookin' Soul Remix)”などでも使われている有名なネタだが、どちらかといえば暗く、しっとりとしたトラックで使われるロマンティックなミディアム・ナンバーを、陽気で爽やかなトラックのアクセントに使った発想は斬新だ。アリの歌もファルセットを多用したセクシーなもので、前作に収録された”Feelin’ You”を彷彿させるキャッチーで色っぽいヒップホップ・ソウルだ。
一方、”Tell Me What You Want”や”Get 2Gether”は、アンソニー・ハミルトンやジャヒームを連想させる、泥臭いミディアム・ナンバー。60年代のサザン・ソウルを再現したような、ロー・ファイな音を使ったビート上で、ファルセットを混ぜつつ、粘り強く歌い上げる姿が強く印象に残る。前作にもミディアム・ナンバーは収録されていたが、ここまでドロドロとした曲は初めてだったと思う。そして、これらのスタイルは、タイトル・トラックの”Get Loved”や”If I Was Your Man”など、他の曲でも採用されており、本作の大きな特徴になっている。
だが、本作の真の目玉は、”No Forgiving”だと思う。AZの”Sugar Hill”やコンプトン・モスト・ウォンテッドの”It's a Compton Thang”など、多くのヒップホップ作品にサンプリングされてきた、ジューシーの”Sugar Free”を引用したこの曲は、前作に収録された”Feelin’ You”の続編のような、”大ネタ”を使ったキャッチーなトラックと流麗なメロディ、そして、ファルセットを多用した色っぽいヴォーカルが心地よいアップ・ナンバーだ。
このように、今回のアルバムは、泥臭いトラックや粘っこいヴォーカルなど、現代の歌手にも強い影響を与えている、60年代のアメリカのソウル・ミュージックのエッセンスを取り込みつつ、21世紀を生きる私達にとって親しみやすい、キャッチーで洗練された作品に落とし込んだ楽曲が目立っている。おそらく、アーティストとして経験を積みながら、裏方として、多くの人の心に訴えるかけるパフォーマンスが求められるポップ・シンガー達と向き合ってきたことが大きかったのだと思う。
19年も待ったことを忘れてしまうくらい、捨て曲のない充実した作品。次回のリリースは2036年なんて言わないでよ(笑)
Track List
1. Superstar
2. Switch
3. Tell Me What You Want
4. Get 2Gether
5. Don’t Say
6. Get Loved
7. If I Was Your Man
8. Cry
9. Suffer 4 Love
10. Where She Lays
11. The Roof
12. No Forgiving
13. Grown & Sexy
前作の発売から本作がリリースされるまでの間、コンピレーション・アルバムや他のアーティストの楽曲で彼の名前を見ることは何度かあったが、肝心の彼自身の名義での新曲はほとんどなかった。だが、その間も彼は、ジェシーJやブルーといったイギリスのR&Bシンガーやポップ・グループに楽曲を提供したり、XファクターやヴォイスUKなどのオーディション番組で、参加者への歌唱指導を担当したりと、主に裏方として多忙の日々を送っていたようだ。
さて、本作の話に入ろう。20代のときに発表した前作と、40代になってから録音した今回のアルバムを聴き比べて、まず気になったのはアリの歌声の変化だ。しなやかなヴォーカルは前作のときと変わらないが、本作では声に渋みが加わり、感情表現の幅が広がるなど、R&Bシンガーとして、さらに成熟したように思える。また、バック・トラックに目を向けると、前作同様、アメリカのヒップホップを意識したものも多いが、それ以外にも、ドゥームやエクスパンションのような、イギリスのR&Bシーンをリードするレーベルの作品を意識したスタイリッシュなものや、アンソニー・ハミルトンやライフ・ジェニングスが録音しそうな、ソウルとヒップホップを融合した泥臭いビートも登場するなど、前作の路線を踏襲しつつ、バラエティを増やしている。
個別の収録曲に目を向けると、アルバムのオープニングを飾る”Superstar”は、いかにもイギリスのR&Bといった趣の、コンピューターを使ったスタイリッシュなビートに、ホーンっぽい音色を使った上物が心を掻き立てる華やかなダンス・ナンバー。アリのヴォーカルは豊かな歌声を軽やかに操り、洗練されたトラックに溶け込み、一体化している。
そして、続く”Switch”は、コントローラーズが87年に発表した”My Secret Fantasy”をサンプリングした、ミディアム・ナンバー。チェコのラップ・グループ、ケイオズの”Z Klece Do Hrobu”やクッキン・ソウルの”Sky's the Limit (Cookin' Soul Remix)”などでも使われている有名なネタだが、どちらかといえば暗く、しっとりとしたトラックで使われるロマンティックなミディアム・ナンバーを、陽気で爽やかなトラックのアクセントに使った発想は斬新だ。アリの歌もファルセットを多用したセクシーなもので、前作に収録された”Feelin’ You”を彷彿させるキャッチーで色っぽいヒップホップ・ソウルだ。
一方、”Tell Me What You Want”や”Get 2Gether”は、アンソニー・ハミルトンやジャヒームを連想させる、泥臭いミディアム・ナンバー。60年代のサザン・ソウルを再現したような、ロー・ファイな音を使ったビート上で、ファルセットを混ぜつつ、粘り強く歌い上げる姿が強く印象に残る。前作にもミディアム・ナンバーは収録されていたが、ここまでドロドロとした曲は初めてだったと思う。そして、これらのスタイルは、タイトル・トラックの”Get Loved”や”If I Was Your Man”など、他の曲でも採用されており、本作の大きな特徴になっている。
だが、本作の真の目玉は、”No Forgiving”だと思う。AZの”Sugar Hill”やコンプトン・モスト・ウォンテッドの”It's a Compton Thang”など、多くのヒップホップ作品にサンプリングされてきた、ジューシーの”Sugar Free”を引用したこの曲は、前作に収録された”Feelin’ You”の続編のような、”大ネタ”を使ったキャッチーなトラックと流麗なメロディ、そして、ファルセットを多用した色っぽいヴォーカルが心地よいアップ・ナンバーだ。
このように、今回のアルバムは、泥臭いトラックや粘っこいヴォーカルなど、現代の歌手にも強い影響を与えている、60年代のアメリカのソウル・ミュージックのエッセンスを取り込みつつ、21世紀を生きる私達にとって親しみやすい、キャッチーで洗練された作品に落とし込んだ楽曲が目立っている。おそらく、アーティストとして経験を積みながら、裏方として、多くの人の心に訴えるかけるパフォーマンスが求められるポップ・シンガー達と向き合ってきたことが大きかったのだと思う。
19年も待ったことを忘れてしまうくらい、捨て曲のない充実した作品。次回のリリースは2036年なんて言わないでよ(笑)
Track List
1. Superstar
2. Switch
3. Tell Me What You Want
4. Get 2Gether
5. Don’t Say
6. Get Loved
7. If I Was Your Man
8. Cry
9. Suffer 4 Love
10. Where She Lays
11. The Roof
12. No Forgiving
13. Grown & Sexy







