2005年にデフ・ジャムから『Music of the Sun』でデビュー。同作に収められた”Pon de Replay”が大ヒットしたことでトップ・スターの仲間入りを果たした、バルバドス出身のシンガー・ソングライター、リアーナことロビン・リアーナ・フェティ。その後も、2015年までに7枚のオリジナル・アルバムと、ジェイZをフィーチャーした”Umbrella”やクリス・ブラウンが制作に参加した”Disturbia”、カルヴィン・ハリスを起用した”We Found Love”などのヒット曲を残し続け、ビヨンセと並ぶ2000年以降のR&Bシーンを代表する女性シンガーに上り詰めた。そんな彼女にとって、2012年の『Unapologetic』以来、約3年ぶり通算8枚目となるフル・アルバムがこの『Anti』だ。

祖国バルバドスの音楽とアメリカのR&Bを融合した”Pon de Replay”でブレイクした当初は、若者向けのダンス・ナンバーを歌うポップスターのように見られていたが、”Umbrella”をはじめとする重厚なミディアムやスロー・ナンバーをヒットさせたあとは、本格的な歌唱力を備えたディーヴァとして保守的なソウル・ファンからも一定の評価を得られるようになった。

本作は、ジェイZが率いるロック・ネイションに移籍後第一作目となるフル・アルバム。といっても、デビュー前の彼女をデフ・ジャムに紹介するなど、以前から縁の深い二人だけあって、作風に大きな変化はない。

アルバムの1曲目、セントルイス出身のシンガー、SZAをフィーチャーした”Consideration”は、ケンドリック・ラマーの作品でもペンを執ったタイラン・ドナルドソン作のスロー・ナンバー。ゆったりとしたビートの上で、貫禄のある歌声を響かせるリアーナと、ちょっと癖のあるSZAのヴォーカルが絡み合う不思議な曲だ。電子楽器を使っているのに、エリカ・バドゥの楽曲かと錯覚するくらい、大きく揺らぐリズムが面白い。

一方、ビヨンセやアリシア・キーズの作品も手掛けているジェフ・バスカーがプロデュースした”Kiss It Better”は、力強いビートと派手なギター演奏を盛り込んだロック風のバラード。毛色は多少違うが、同年にリリースされたアデルの”Hello”にも通じるところがある、流行り廃りのない安定したメロディと壮大なスケールのアレンジが気になる楽曲だ。

これに対し、R&Bのトレンドの最先端を走ったのはドレイクが参加した”Work”だ。ドレイクの作品を数多く手掛けているプロデューサー、ノア・シャビブが手掛けるこの曲は、デビュー当時の彼女の音楽を思い起こさせる、西インド諸島のリズムとメロディを取り入れたダンスナンバー。ドレイクの音楽が好きな人にはお馴染みの、透き通った音色のシンセサイザーを使ったトラックが、陽気なメロディに切ない雰囲気を盛り込んでいる。アレクサンダー・オニールの85年のヒット曲”If You Were Here Tonight”や、パーティネクストドアのコーラスといった小ネタを盛り込むセンスも見逃せない。

これ以外にも、グッチ・メインなどを手掛けているDJマスタードがプロデュースした、重苦しいトラックとラップ風歌唱が印象的な”Needed Me”や、オーストラリアのポップ・シンガー、ケヴィン・パーカーが手掛ける、強烈な音響効果が生み出す、シャーデーを彷彿させる幻想的なパフォーマンスが斬新な”Same Ol’ Mistakes”。エミネムの”Stan”にサンプリングされたことでも有名な、ダイドの”Thank You”を大幅に改変した、陰鬱な雰囲気のミディアム・ナンバー”Never Ending”といった、新旧の流行を取り入れつつ、それを再解釈した、懐かしさと新鮮さが入り混じった曲が並んでいる。

本作でも、彼女の音楽のクオリティは高いレベルで安定している。だが、それ以上に印象的なのは、彼女同様、2000年以降のR&B業界を代表する女性シンガーの一人で、ジェイZとも縁の深い、ビヨンセの2016年作『Lemonade』との対比だと思う。ジェイムス・ブレイクやケンドリック・ラマーといった気鋭のクリエイターを起用し、積極的に新しいトレンドを生み出そうとするビヨンセに対し、ドレイクやティンバランドといった、既に多くのヒット作を残しているアーティストを招いて、流行のサウンドに新しい解釈を加えた楽曲を生み出すリアーナという対照的な手法は、好き嫌いは抜きにして大変興味深い。

服飾の世界には、斬新なデザインで積極的に新しいトレンドを生み出すモード系のデザイナーと、過去のデザインを踏襲しつつ、時代の空気を捉えてそれをアップデートするクラシック系のデザイナーがいる。R&Bシンガーに置き換えれば、ビヨンセは前者で、リアーナは後者のタイプなのだと思う。直近の流行を踏まえた上で、そのちょっと先の流行を意識した彼女の音楽は、若者向けの人気シンガーらしい新鮮さと、年を重ねた人々でも安心して楽しめる安定感を両立した、幅広い層にウケるものだと思う。

Producer
Robyn Rihanna Fenty, Kuk Harrell etc

Track List
1. Consideration feat. SZA
2. James Joint
3. Kiss It Better
4. Work feat. Drake
5. Desperado
6. Woo
7. Needed Me
8. Yeah I Said It
9. Same Ol’ Mistakes
10. Never Ending
11. Love On The Brain
12. Higher
13. Close To You
14. Goodnight Gotham
15. Pose
16. Sex With Me





Anti (Deluxe, Explicit)
Rihanna
ユニバーサルミュージック合同会社
2016-02-05