1994年にアルバム『Usher』でデビュー。その後、約20年の間に、7枚のスタジオ・アルバムと9曲の全米ナンバー・ワン・ヒットを含む50枚のシングルをリリースしている、テキサス州ダラス生まれ、チャタヌーガ育ちのシンガー・ソングライター、アッシャーことアッシャー・レイモンド4世(貴族っぽい名前で格好いいな)。彼にとって通算8枚目となるスタジオ・アルバムが本作だ。
2012年の『Lookin' For Myself』以来、4年ぶりのアルバムになる本作。実は、2014年に『UR』というタイトルでリリースされる予定だったのだが、諸般の事情で御蔵入り。全ての収録曲を入れ替えたうえで、2年後に改めてリリースされる運びとなった。(2001年にもアルバム『All About U』が発売中止になっているが、この時は収録曲の漏洩などが原因だったうえ、"Pop Ya Collar"などのシングル曲は『8701』に収録されている。なお『UR』から先行リリースされた3曲のシングル曲は、日本盤にボーナス・トラックとして収められている)
これまでのアルバムでは、ジャーメイン・デュプリ作のチキチキ・ビートが格好良いスロー・ナンバー"You Make Me Wanna..."や、リル・ジョンがプロデュースとラップで参加して「クランク&B」というスタイルを流行らせた"Yeah!"、ポロウ・ダ・ドンが手がけたEDMを彷彿させる華やかなシンセサイザーのリフが印象的な"Love in This Club"など、何度もトレンドを生み出してきたアッシャー。だが、前作『Lookin' For Myself』では、従来の作品をブラッシュアップしたような、彼にしては保守的な楽曲が目立っていた。
2012年の『Lookin' For Myself』以来、4年ぶりのアルバムになる本作。実は、2014年に『UR』というタイトルでリリースされる予定だったのだが、諸般の事情で御蔵入り。全ての収録曲を入れ替えたうえで、2年後に改めてリリースされる運びとなった。(2001年にもアルバム『All About U』が発売中止になっているが、この時は収録曲の漏洩などが原因だったうえ、"Pop Ya Collar"などのシングル曲は『8701』に収録されている。なお『UR』から先行リリースされた3曲のシングル曲は、日本盤にボーナス・トラックとして収められている)
これまでのアルバムでは、ジャーメイン・デュプリ作のチキチキ・ビートが格好良いスロー・ナンバー"You Make Me Wanna..."や、リル・ジョンがプロデュースとラップで参加して「クランク&B」というスタイルを流行らせた"Yeah!"、ポロウ・ダ・ドンが手がけたEDMを彷彿させる華やかなシンセサイザーのリフが印象的な"Love in This Club"など、何度もトレンドを生み出してきたアッシャー。だが、前作『Lookin' For Myself』では、従来の作品をブラッシュアップしたような、彼にしては保守的な楽曲が目立っていた。
今回のアルバムも、基本的な路線は前作と同じ。制作陣には、パーティネクストドアやメトロ・ブーミンのような若手から、ラファエル・サディークやトリッキー・スチュアートのような大ベテランまで、幅広い世代の実力派クリエイターを起用し、2016年の流行を取り入れた、マッチョでセクシーな、大人のアッシャーのR&Bを聴かせている。
アルバムに先駆けて公開されたロック・シティプロデュースの"No Limit" は、彼が活動の拠点を置くアトランタ出身のラッパー、ヤング・サグをフィーチャーしたダンス・チューン。アメリカ南部発のビート、トラップを取り入れた変則的なトラックが特徴的だが、2人は個性的なビートを器用に乗りこなしている。 "Yeah!"や"Love in This Club"のポジションを継承した、本作の看板に当たる楽曲だ。
次に面白いのが、パーティネクストドアがプロデュースした"Let Me"だ。レディ・フォー・ザ・ワールドが86年に発表したスロウ・ジャム"Love You Down"をサンプリングしたこの曲は、原曲の色っぽい女声を引用して、ロマンティックな雰囲気にまとめつつ、OVO一派が得意とする、ラップのように言葉を畳み掛ける独特のR&Bを聴かせている。パーティネクストドアのカラーが強い曲にもかかわらず、アッシャーの音楽に聴こえるのは、経験を積んで色々な曲に対応できるようになったからだと思う。
一方、長年に渡ってR&B界を支えてきた名コンビ、ザ・ドリーム&トリッキー・スチュアートが手がけた"Bump"と、ラファエル・サディークが作った"Champions"は、ちょっと癖のあるトラックと美しいメロディが印象的。前者は、マイアミが誇る伝説のラッパー、ルークの声をサンプリングしたテンションの高いビートに乗せて、彼らお得意の甘酸っぱいメロディが飛び交うミディアム・ナンバー。シンプルなメロディに色々な感情を込めるアッシャーの表現力と、奇抜なトラックも自然体で乗りこなすセンスの良さが光っている。
また、後者は、彼がボクサー役で出演した映画「Hands of Stone」のサウンドトラック用に提供した楽曲。楽器の音色を効果的に使ったR&Bが高く評価される彼だが、この曲ではカリブ海地域で使われるようなパーカッションを多用した、どちらかというとユッスーン・ドゥールやエイコンのようなアフリカのポップスに近い曲。 中盤からはパナマのシンガー・ソングライター、ルーベン・ブラデスの朴訥とした歌声が加わり、色々な国の音楽が混ざり合った坩堝のような状態になる展開が面白い。色々なバックボーンを持つ人々が集まり、一つの作品を生み出すパワーこそ、アメリカの財産なのだと再認識させられる名曲だ。
こうやってみると、今回のアルバムは、過去の作品と比べて間違いなく地味だと思う。収録曲を聴いても、新しいトレンドを生み出しそうな曲はなかったし、本作の商業的な結果も、彼の実績を考えれば手放しで喜べるものではなかった。だが、それぞれのトラックやメロディは、クリエイターの持ち味が存分に発揮された、難しいけど面白い曲や、シンプルだけど味わい深い曲が揃っている。それをしっかりと歌い込んで、一つの音楽として完成したことは、もっと評価されるべきだろう。
現在のR&B界において、「歌って踊れる歌手」や「スマートだけどマッチョな歌手」というキャラクターはもはや飽和状態だ。そんな中でライバルが増えると、奇抜な手法で周囲と差別化を図ろうとする人が多いにもかかわらず、自分の歌唱力一本で、流行のサウンドを自分の血肉に変えて、周囲と差別化した独自の音楽に染め上げるアッシャーのスキルは流石のものだと思う。30代ながら20年以上の芸歴を積んできた彼だからこそできる、円熟した表現力とトレンドを嗅ぎ分けるセンスが光る。大人のための最先端のR&B作品だ。
Producer
Coup D'Etat, Mark Pitts, Usher Raymond IV etc
Track List
1. Need U
2. Missin U
3. No Limit feat. Young Thug
4. Bump
5. Let Me
6. Downtime
7. Crash
8. Make U a Believer
9. Mind of a Man
10. FWM
11. Rivals feat. Future
12. Tell Me
13. Hard II Love
14. Stronger
15. Champions [From the Motion Picture "Hands of Stone"]