イギリスのスピードメーターやニュー・マスターサウンズ、フランスのシャオリン・テンプル・ディフェンダーズなど、ヨーロッパの各地から、世界に向けて熱いサウンドを発信しているファンク・バンド達。その中でも、黒人音楽のファンにとどまらず、幅広い層から注目を集めているのが、スペインを中心にヨーロッパ全土で活躍する7人組、ジ・エキサイトメンツだ。

一口にファンク・バンドと言っても、その音楽性はバンドによって様々。ソウル・ミュージックが原点のバンドもいれば、ジャズ・バンドが音楽性を広げる中でファンクに近づいていったグループもいる。若いバンドの中には、ヒップホップが音楽の原体験というバンドも少なくない。そして、彼らの場合は、リズム&ブルースやソウルから影響を受けながら、同時にロック(ロックンロールを含む)からも多くの影響を受けているという点が特徴だ。これは余談だが、彼らが所属するペニマン・レコード自体が、ガレージ・ロックやパンク・ロックの旧譜を再発するビジネスから始まったレーベル。だが、次第に、自社でも新譜を制作するようになり、彼らやリンボーズなどの作品をリリースする、総合レーベルへと転身。今の形になったのだ。

だが、ここでちょっと触れておきたいのが、ヨーロッパにおける黒人音楽の扱いだ。ビートルズやローリング・ストーンズの例を挙げるまでもなく、ヨーロッパのロック・ミュージシャンやそのファンの中には、アメリカのリズム&ブルースやブルースは、自分達が好きなアメリカの音楽のルーツと考え、蒐集、研究するミュージシャンが少なくない。そして、研究に夢中になる余り、音楽性をそっちの方面にシフトする人達も、少数ではあるが存在する。イギリスのロック・シンガー、イーライ・ペイパーボーイ・リードなどはその最たる例だろう。

さて、本題に戻ろう、彼らにとって、2013年の『Sometimes Too Much Ain´t Enough』以来の新録となる本作。といっても、所属レーベルやプロデューサー、録音スタジオといった環境は前作とほとんど同じ。プロデューサーには、ジャズやラテン音楽の録音を数多く手がけているマーク・テナと、ニューヨークを拠点に活動するガレージ・ロック・バンド、ザ・ラウンチ・ハンズのマイク・マリコンダが参加し、録音作品としての完成度はもちろん、ライブ向けのレパートリーとしても"使える"曲を用意している。

アルバムのオープニングを飾る曲で、同作からの先行シングルでもある"The Mojo Train"は、マーサ・リーヴス&ヴァンデラスの"Please Mr. Postman"の演奏を分厚くして、ヴォーカルを色っぽくしたミディアム・ナンバー。この曲のように、アンサンブルが肝になるポップな曲もきっちりこなせるところが、このバンドのすごいところ。ココ・ジーン・デイヴィスの力強く、溌剌とした歌が、重厚な楽曲にポップな印象を与えている。

一方、シングルのB面に収められている"I'll Be Waiting"(日本盤CDにはボーナス・トラックで収録)は、分厚いホーンを控え、パーカッションやギターを効果的に使った、ラテン・テイストの強い曲。60年代のアメリカでは、ラテン音楽を取り入れたポップスが数多く作られたが、それを意識した現行の黒人音楽バンドは珍しい。マーク・テナの手腕が光る魅力的な楽曲。

もちろん、それ以外にも見逃せない名演は多い。スペインのガレージ・ロック・バンド、ザ・メオウズのエンリック・ボッサーが作った"Wild Dog"は、8ビートと勇ましいホーン・セクションの組み合わせが、初期のモータウン作品や、彼らに影響を受けた英国のロックを彷彿させるアップ・ナンバー。彼女の、ソウル・ミュージックに染まりすぎない、歯切れの良い歌が、楽曲に軽快さを与えている。本作にハイライトとも言える名曲。

そして、もう一つだけ言及したいのが"Take It Back"の存在。ジェイムズ・ブラウンのステージを連想させる仰々しいオープニングに始まり、分厚いホーンの音色が下から支える、重厚な伴奏をバックに、サム・デイヴの"Soul Man"を思い起こさせる親しみやすいメロディーを繰り出すキャッチーなアップ・ナンバー。スマートな外見からは想像できない、貫禄たっぷりの歌声が素敵なソウル・ナンバーだ。

彼らの音楽の面白いところは、高いスキルを持ちながら、曲に応じて色々なスタイルを使い分けているところだろう。その象徴とも言えるのがヴォーカルのココ・ジーン・デイヴィスで、曲によって、パンク・ロックの歌手のように荒っぽく歌ったり、アメリカのソウル・シンガーのように貫禄たっぷりの歌を聴かせたりと、柔軟に演奏スタイルを変えている。しかも、それぞれのスタイルが自分本来の姿かのように、完璧に演じ切っている点はもっと評価されてもいいと思う。

もちろん、色々な楽曲に合わせて、柔軟に演奏スタイルを変えるバンド・メンバーや、彼らの持ち味を引き出しつつ、多くの人に親しまれそうな曲に落とし込む制作陣の技術も侮れない。色々な音楽を経験しているメンバーだからこそ作れる、ソウル・ミュージックの美味しいところが凝縮された佳作だ。

Producer
Marc Tena, Mike Mariconda

Track List
1. The Mojo Train
2. Fire
3. Wild Dog
4. Take It Back
5. Breaking the Rule
6. Everything Is Better Since You've Gone
7. Chicken Pickin'
8. Four Loves
9. Hold On Together
10. Did I Let You Down
11. Back to Memphis
12. I Want More
13. I'll Be Waiting (Bonus Track)





ブレイキング・ザ・ルール
ジ・エキサイトメンツ
Pヴァイン・レコード
2017-02-15