2005年にアルバム『I Gotta Make It 』でデビュー。エボニーズの”It's Forever”をサンプリングし、トゥウィスタを起用したミディアム・ナンバー”Gotta Make It”で、カニエ・ウエストやジャズト・ブレイズの成功でR&B界の一大ブームとなった「早回し」を自分の音楽に取り込む若々しい感性を見せる一方、21stセンチュリーの”Child”をサンプリングしたロマンティックなミディアム・バラード”Gotta Go”のような、歌唱力で勝負する曲もしっかり歌い切る高い表現力も兼ね備えたことで、幅広い世代から支持を集めたヴァージニア州ピーターズバーグ出身のシンガー・ソングライター、トレイ・ソングスことトレメイン・アルドン・ネヴァーソン。
その後も、スターゲイトが手掛けるふわふわとしたトラックと流麗なメロディが心地よいアップ・ナンバー”Can’t Help But Wait”と、リル・ウェインやジム・ジョーンズも手掛けているヤング・ヤニーをプロデューサーに起用した、トラップ・ビートとR.ケリーを彷彿させるセクシーなラップ風ヴォーカルが格好良い”Say Aah”、マイアミ出身のケイン・ビーツが手掛ける変則ビートの上で、ニッキー・ミナージュとポップでセクシーなコラボレーションを披露する”Bottoms Up”や、リコ・ラヴが手掛けるシンセサイザーを駆使したポップなトラックと壮大なメロディが印象的なミディアム”Heart Attack”など、多くのヒット曲を生み出してきた。
今回のアルバムは、2014年にリリースされた『Trigga』以来、約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。直近の2作品はラッパーを起用した楽曲と彼のヴォーカルを強調した楽曲をバランスよく配置した構成で、全米アルバム・チャートの1位を獲得していることもあり、本作への期待も非常に高かった。
そして今、彼の最新作を聴いているのだが、まず驚いたのは、彼の大胆な路線変更だ。これまでの作品ではラッパーを起用して流行のビートを乗りこなした、ヒップホップ色の強い曲を複数収録していたが、今回のアルバムでは、ゲストは”Game With Play”で客演しているマイク・エンジェルのみで、彼の参加曲も、ロマンティックなメロディを強調したバラードと、これまでのアルバムと比べて、ヴォーカルを聴かせることに重きを置いたR&B作品になっている。
アルバムの実質的な1曲目”Come Over”は、彼に数多くの楽曲を提供してきたトロイ・テイラー作のバラード。ドラムを基調にしたシックなビートの上で瑞々しい歌声を響かせる姿が美しいスロー・ナンバーだ。セクシーな女声を間に挟んだ色っぽいヴォーカルは、アル・グリーンやロナルド・アイズレーをスタイリッシュにしたような雰囲気さえ感じさせる。
これに対し、リコ・ラヴが楽曲を提供した”Playboy”は、ブライアン・マックナイトやジョーの作品を思い起こさせるシンプルなバック・トラックに乗せて、スマートな歌声を力いっぱい張り上げるスロー・バラード。フィンガー・スナップをアクセントに使った伴奏をバックに、今にも泣き崩れそうな勢いで、感情を剥き出しにしながら歌うトレイの姿が印象的だ。
一方、本作では希少なヒップホップ色の強い楽曲に”Nobody Else But You”がある。クリス・ブラウンの”Lonely Dancer”やトレヴァー・ジャクソンの”Mixtape”等を手掛けている、エレクトロ畑出身の気鋭のクリエイター、アレックス・アイザックが手掛けるこの曲は、リュダクリスのような南部出身のラッパーの音楽を連想させる、シンセサイザーを多用した軽妙なトラックの上で、ラップのように言葉を繋ぐ姿が光るミディアム・ナンバー。ゲスト・ミュージシャンを招かなくても、ヒップホップのビートを自分の音楽に取り込めるようになった、彼の進化が垣間見れる興味深い楽曲だ。
そして、本作で最も印象に残ったのはミュージック・ソウルチャイルドの”Radio”や『Trigga』に収録されたている”Y.A.S. (You Ain't Shit)”を制作しているプロダクション・チーム、L&Fの一員であるクリストファー・ウマナが手掛けたバラード”Song Goes Off”だ。シスコの”Incomplete”を思い起こさせるダイナミックで滑らかなメロディと、女声のような透き通った音色のシンセサイザーを含む、複数の電子音を上手に組み合わせたスタイリッシュなトラックが心地よいスロー・バラード。個人的な感想だが、彼のキャリアを代表する名曲だと思う。
最初にも書いたが、今回のアルバムは、トレンドを意識してはいるものの、全体としては彼自身の歌を聴かせることに徹した、これまでの作品以上にR&Bへとシフトしたアルバムだと思う。おそらく、過去の2作品が商業的に成功し、バラードのヒット曲も送り出せるようになったことが一番大きいが、アデルやビヨンセがミディアム、スローのヒット曲を送り出し、ジョーやブライアン・マックナイトなど、バラードに定評のあるベテランも活発な動きを見せるなど、一時期に比べてバラードを歌うシンガーにとって有利な環境ができたことも無関係ではないだろう。
50分弱のアルバムに流行のサウンドとヴォーカル作品の醍醐味を凝縮した、ヴォーカル好きのための本格的なR&Bアルバム。「2017年を象徴する男性ヴォーカルの作品は何か?」と聞かれたら、間違いなく本作が候補に挙がると思う。
Producer Troy Taylor, Dwayne Nesmith, Patrick Hayes etc
Track List
1. The Prelude
2. Come Over
3. Number 1 Fan
4. Nobody Else But You
5. Playboy
6. The Sheets... Still
7. Song Goes Off
8. She Lovin It
9. Animal
10. IXI
11. Priceless
12. What Are We Here For
13. Games We Play feat. MIKExANGEL
14. Picture Perfect
15. Break From Love
その後も、スターゲイトが手掛けるふわふわとしたトラックと流麗なメロディが心地よいアップ・ナンバー”Can’t Help But Wait”と、リル・ウェインやジム・ジョーンズも手掛けているヤング・ヤニーをプロデューサーに起用した、トラップ・ビートとR.ケリーを彷彿させるセクシーなラップ風ヴォーカルが格好良い”Say Aah”、マイアミ出身のケイン・ビーツが手掛ける変則ビートの上で、ニッキー・ミナージュとポップでセクシーなコラボレーションを披露する”Bottoms Up”や、リコ・ラヴが手掛けるシンセサイザーを駆使したポップなトラックと壮大なメロディが印象的なミディアム”Heart Attack”など、多くのヒット曲を生み出してきた。
今回のアルバムは、2014年にリリースされた『Trigga』以来、約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。直近の2作品はラッパーを起用した楽曲と彼のヴォーカルを強調した楽曲をバランスよく配置した構成で、全米アルバム・チャートの1位を獲得していることもあり、本作への期待も非常に高かった。
そして今、彼の最新作を聴いているのだが、まず驚いたのは、彼の大胆な路線変更だ。これまでの作品ではラッパーを起用して流行のビートを乗りこなした、ヒップホップ色の強い曲を複数収録していたが、今回のアルバムでは、ゲストは”Game With Play”で客演しているマイク・エンジェルのみで、彼の参加曲も、ロマンティックなメロディを強調したバラードと、これまでのアルバムと比べて、ヴォーカルを聴かせることに重きを置いたR&B作品になっている。
アルバムの実質的な1曲目”Come Over”は、彼に数多くの楽曲を提供してきたトロイ・テイラー作のバラード。ドラムを基調にしたシックなビートの上で瑞々しい歌声を響かせる姿が美しいスロー・ナンバーだ。セクシーな女声を間に挟んだ色っぽいヴォーカルは、アル・グリーンやロナルド・アイズレーをスタイリッシュにしたような雰囲気さえ感じさせる。
これに対し、リコ・ラヴが楽曲を提供した”Playboy”は、ブライアン・マックナイトやジョーの作品を思い起こさせるシンプルなバック・トラックに乗せて、スマートな歌声を力いっぱい張り上げるスロー・バラード。フィンガー・スナップをアクセントに使った伴奏をバックに、今にも泣き崩れそうな勢いで、感情を剥き出しにしながら歌うトレイの姿が印象的だ。
一方、本作では希少なヒップホップ色の強い楽曲に”Nobody Else But You”がある。クリス・ブラウンの”Lonely Dancer”やトレヴァー・ジャクソンの”Mixtape”等を手掛けている、エレクトロ畑出身の気鋭のクリエイター、アレックス・アイザックが手掛けるこの曲は、リュダクリスのような南部出身のラッパーの音楽を連想させる、シンセサイザーを多用した軽妙なトラックの上で、ラップのように言葉を繋ぐ姿が光るミディアム・ナンバー。ゲスト・ミュージシャンを招かなくても、ヒップホップのビートを自分の音楽に取り込めるようになった、彼の進化が垣間見れる興味深い楽曲だ。
そして、本作で最も印象に残ったのはミュージック・ソウルチャイルドの”Radio”や『Trigga』に収録されたている”Y.A.S. (You Ain't Shit)”を制作しているプロダクション・チーム、L&Fの一員であるクリストファー・ウマナが手掛けたバラード”Song Goes Off”だ。シスコの”Incomplete”を思い起こさせるダイナミックで滑らかなメロディと、女声のような透き通った音色のシンセサイザーを含む、複数の電子音を上手に組み合わせたスタイリッシュなトラックが心地よいスロー・バラード。個人的な感想だが、彼のキャリアを代表する名曲だと思う。
最初にも書いたが、今回のアルバムは、トレンドを意識してはいるものの、全体としては彼自身の歌を聴かせることに徹した、これまでの作品以上にR&Bへとシフトしたアルバムだと思う。おそらく、過去の2作品が商業的に成功し、バラードのヒット曲も送り出せるようになったことが一番大きいが、アデルやビヨンセがミディアム、スローのヒット曲を送り出し、ジョーやブライアン・マックナイトなど、バラードに定評のあるベテランも活発な動きを見せるなど、一時期に比べてバラードを歌うシンガーにとって有利な環境ができたことも無関係ではないだろう。
50分弱のアルバムに流行のサウンドとヴォーカル作品の醍醐味を凝縮した、ヴォーカル好きのための本格的なR&Bアルバム。「2017年を象徴する男性ヴォーカルの作品は何か?」と聞かれたら、間違いなく本作が候補に挙がると思う。
Producer Troy Taylor, Dwayne Nesmith, Patrick Hayes etc
Track List
1. The Prelude
2. Come Over
3. Number 1 Fan
4. Nobody Else But You
5. Playboy
6. The Sheets... Still
7. Song Goes Off
8. She Lovin It
9. Animal
10. IXI
11. Priceless
12. What Are We Here For
13. Games We Play feat. MIKExANGEL
14. Picture Perfect
15. Break From Love