2000年代中盤に音楽活動を開始。2013年にシングル『Time For A Change』でレコード・デビューすると、その後はライブやDJといった表舞台での活動も精力的にこなしつつ、オリジナル曲やテンプテーションズの"Cloud Nine"やイーライ・ペイパーボーイ・リードの"WooHoo"などのリミックスをサウンドクラウド上で発表。電子音楽の手法を用いてR&Bやヒップホップに独自の視点からアプローチをしてきた、パリを拠点に活動するクリエイターのフレンチ・キウイ・ジュース。彼にとって、初のフル・アルバムが本作だ。

フランスの音楽シーンに目を向けると、ダフト・パンクやディミトリ・フロム・パリ、ステファン・ポンポニャックといったエレクトロ・ミュージック畑のミュージシャンや、レ・ヌビアンズやフィンガズ、ベン・ロンクル・ソウルなどのヒップホップ、R&Bに強いアーティストなど、日本にも負けず劣らずの(もしかしたら日本以上に)バラエティ豊かな市場がある。また、それ以外にも、マイルス・デイヴィスやアート・ブレイキーの魅力をアメリカ人より先に見出し、評価してきた鋭い審美眼と、人種に囚われず、良い音楽を評価する厳しくも温かいがある。そんなフランスの音楽シーンで磨かれ、育まれた彼の豊かな感性は、本作でも遺憾無く発揮されている。

アルバムの1曲目に入っている"We Ain't Feeling Time"はジミー・スミスを彷彿させる、激しい鍵盤楽器のアドリブで幕を開けるミディアム・ナンバー。そこからメロウな管楽器(多分サックス)と甘いコーラスが絡み合うイントロへと続き、絶妙なタイミングで彼のヴォーカルが展開されるミディアム・ナンバー。電子楽器と生楽器を組み合わせた、モダンだけど柔らかいサウンドと、マックスウェルやレミー・シャンドを連想させる繊細なファルセットが気持ち良い佳曲だ。

そして、同曲に続く"Skyline"はポロポロと鳴り響くキーボードやギターなどの音色と、フライング・ロータスやジェイムズ・ブレイクなどの作品を思い起こさせる、シンプルで音の隙間を強調したビートの組み合わせが、日本の「能」のように優雅で神秘的な雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。演奏やヴォーカルで垣間見える、色々な音楽に触れてきた彼ならではの、絶妙な力加減、多彩なフレーズ選びが堪能できる良曲だ。

これに対し、(((o)))が参加した"Vibin' Out"は、アメール・ラリューを連想させるスタイリッシュな女性ヴォーカルをフィーチャーした、甘酸っぱい雰囲気のミディアム・バラード。ミニー・リパートンやシリータ・ライトのように繊細な表現を聴かせるヴォーカルが胆になった、清涼感のある楽曲だ。

そして、本作の中でも最初期に作られた曲の一つである”Lying Together”は、女性ヴォーカルやハンド・クラップを効果的に使った、インストゥルメンタル・ナンバー。ヒップホップの軽快なビートと、シンセサイザーを使った重厚なハーモニーが癖になる、軽妙なようで荘厳、温かいようでどこか冷たい、不思議な感覚を覚える作品だ。

全体を通して感じることは、豊かな感情表現や絶妙な揺らぎを含む歌や演奏のような、ソウル・ミュージックやR&Bの醍醐味とも言える要素をきちんと押さえている一方、テンプテーションズやオーティス・レディング、ジョン・レジェンドやビヨンセの曲を聴いたときに感じるような、泥臭さ、汗臭さ、迫りくるような威圧感といったR&B、ソウル・ミュージックのシンガーの魅力になっている要素を削り落とした、スタイリッシュで洗練された音楽になっている。おそらく、電子楽器と生楽器の両方を使いこなしてきた経験や、インストゥルメンタル作品とヴォーカル曲の両方を手掛けてきた経験が、彼の音楽を特定のジャンルに束縛されない、柔軟で個性的なものにしたのだと思う。

電子音楽畑の経験と、ブラック・ミュージックのリミックスを経験してきた彼独特の、鋭い視点と楽曲構築技術が光る良作。ジェイムズ・ブレイクやアンダーソン・パック、フランク・オーシャンのような、異ジャンルの音楽を取り入れるセンスが魅力のR&Bシンガーが好きな人にはたまらない。ジャンルを横断した作風が魅力の良作だ。

Producer
French Kiwi Juice

Track List
1. We Ain't Feeling Time
2. Skyline
3. Better Give U Up
4. Go Back Home
5. Vibin' Out feat. (((O)))
6. Canggu
7. Blessed
8. Die With A Smile
9. Lying Together (interlude)
10. Lying Together
11. Joy
12. Why Are There Boundaries





French Kiwi Juice
Fkj
Roche Musique
2017-03-03