ナイジェリア生まれ、アトランタ育ちのヒップホップ・ミュージシャン、ダイエ・ジャック。高校時代はプログラミングにのめり込み、ニューヨーク大学時代は、チャンス・ザ・ラッパーやジョーイ・バッドアスといったミュージシャン達の音楽を聴いてヒップホップに夢中になった彼は、2014年に大学の冬期休暇を利用して、初のミックステープ『Hello World』(余談だが、アルバム名はプログラミングを学ぶ人が最初に取り組むコードの通称だ)を制作、発表する。

同作が注目を集めた彼は、ドクター・ドレやエミネムをブレイクさせたことでも知られるマイク・エリゾンドの口添えを得て、2015年にワーナー・ミュージックと契約。同年には初のEP『Soul Clitch』を配信限定で発売。歌とラップを織り交ぜた親しみやすい作風が高い評価を受けた。その後は、キラー・マイクをフィーチャーした”Hands Up”やアリアナ・グランテの”Sometimes”、トリ・ケリーの”Expensive”など、多くの有名ミュージシャンとコラボレーションを経験。その一方で、複数のツアーに帯同するなど、多忙な日々を過ごしていた。

本作は、彼にとって初めてのフル・アルバムで、初のフィジカル・リリース作品。ケイティ・ペリーなどを手掛けているクラス・アーランドや、50セントなどに楽曲を提供しているマイク・エリゾンドなど、有名ミュージシャンの作品に携わっているクリエイターが集結し、2016年に発表したEP『Surf The Wave』の収録曲やシングルで発売された曲のリミックスなどを収録した、豪華なアルバムになっている。

アルバムの1曲目に収められている、本作のタイトル・トラック”No Data”は、彼自身の手で制作された曲。80年代のヒップホップを連想させる、コンピューターを使って作られたポップなビートと、キーボードを演奏して録音したような、シンプルだけどキャッチーな上物、LLクールJを思い起こさせるワイルドでリズミカルなラップが格好良い曲。NWAやKRS-ワンのような、80年代後半から90年代初頭のラッパーを思い起こさせる荒々しいフロウと、シンセサイザーを多用した現代的なサウンドの共存が新鮮だ。

一方、2016年にシングルで発表された”Lady Villain”は、マイク・エリゾンドのプロデュース作品。ファットバック・バンドやアイズレー・ブラザーズのようなソウル・バンドが、80年代に録音したバラードを連想させる、シンセサイザーを駆使したメロウな伴奏が印象的なトラックに乗って、ファレル・ウィリアムズやスリーピー・ブラウンにも似ているセクシーなファルセットを響かせるミディアム・ナンバー。歌とラップを自在に使い分けるダイエの器用なヴォーカルが、楽曲に親しみやすさと大人っぽさを同居させている。

そして、『Surf The Wave』にも入っているシングル曲”Raw”は、マイアミ出身のデンゼル・カリーと、ヴァージニア・ビーチ出身のグリム・デイヴをフィーチャーしたリミックス・ヴァージョンを収録。重厚なベース・ラインが印象的なトラックは、マイク・エリゾンドのプロデュースによるものだ。彼が携わってきたドクター・ドレや50セントの曲を彷彿させる、重く、緊張感に溢れるトラックの上で、3人が個性溢れるラップを聴かせている。歌とラップを織り交ぜたスタイルが特徴的な、彼の作品では異色の、ハードなラップで勝負した曲だ。

また、マイク・エリゾンドと、アッシャーやジャスティン・ビーバーなどの作品を手掛けているダーンスト・エミールが携わっている”Casino”は、80年代のディスコ音楽を思い出させるポコポコというリズム・マシーンの音色と、乾いた音のギターやシンセサイザーの伴奏が、80年代のディスコ音楽を連想させるアップ・ナンバー。ドラムとシンセサイザーの伴奏を強調した爽やかなトラックと、地声のラップとファルセット中心の歌を使い分け、楽曲に起伏を与えるスタイルは、ファレル・ウィリアムズがサビを歌ったネプチューンズのプロデュース作品にもちょっと似ている。

彼の音楽は、キャッチーなフレーズをひたすら反復させるヒップホップのビートをベースにしつつ、曲調に応じてキーボードやギターの音色を盛り込んだポップなトラックと、ワイルドなラップとセクシーなヴォーカルを上手に使い分けたパフォーマンスが一つに同居した、親しみやすいものだ。そのスタイルは、ドレイクのような歌とラップを使い分けるアーティストよりも、ラッパーとヴォーカリストとのコラボレーション作品がヒットチャートを席巻した2000年代初頭のヒップホップに近い印象を受ける。

このアルバムのリリース時点で23歳にもかかわらず、聴き手の心をつかんで離さないキャッチーだけど緻密で完成度の高い音楽を聴かせてくれるダイエ。アッシャーTLCオーガナイズド・ノイズといった、アトランタ出身の偉大な先人の楽曲に負けず劣らずの、魅力的な作品だと思う。

Producer
Klas Ahlund, Mike Elizondo, Dernst Emile II, Lars Stalfors, Noah Passovoy

Track List
1. No Data
2. Deep End (Jayvon Remix)
3. Supernatural feat. Donmonique
4. Finish Line
5. Data Love Interlude
6. Lady Villain
7. Bully Bully
8. Raw (Remix) feat. Denzel Curry & Grim Dave
9. Need Some Mo' Interlude
10. Casino
11. Kick - Door
12. No Data Outro





No Data
Daye Jack
Warner Bros / Wea
2017-05-05