2011年、18歳の時に発表したミックステープ『Killer Instinct Vol.1』をきっかけに注目を集め、R&Bとトラップを融合した独特の作風が、熱心な音楽ファンの間だけでなく、一般の音楽好きからも高い評価を受けた、ケンタッキー州ルイスヴィル出身のシンガー・ソングライターでラッパーの、ブライソン・ティラーことブライソン・ジャン・ティラー。

そんな彼は、『Killer Instinct Vol.1』を公開した後も、ストリーミング・サイトなどを通して楽曲を発表。そこで公開した楽曲がティンバランドやドレイクの目に留まり、RCAOVOからメジャー・デビューのオファーを受け、RCAと契約する。

2015年には、メジャー・デビュー作となるフル・アルバム『Trapsoul』をリリース。その名の通り、トラップとR&Bを融合した彼の音楽は、ヒップホップが好きな人、R&Bが好きな人の両方から愛聴され、全米総合チャートの8位、R&B、ヒップホップ・チャートの2位を獲得。プラチナ・ディスクにも認定された。また、同作からカットされた3枚のシングル”Don’t”、”Exchange”、”Sorry Not Sorry”もプラチナ・ディスクを獲得、前二者はダブル・プラチナにも認定される大ヒットとなった。

本作は、前作から2年ぶりとなる、2枚目のオリジナル・アルバム。前作がR&Bシンガーのデビュー作としては異例のヒットになり、2017年には、アメリカの雑誌フォーブスの特集で、「30歳以下の重要人物30人」の一人に選ばれる(ほかには、ガラントウィークエンドジャスティン・スカイなどが選ばれている)など、多くの人が期待する中で発売された新作だ。

プロデューサーには、前作で”Sorry Not Sorry”など、3曲を担当したティンバランドの名前こそないものの、リアーナの”Work”などを手掛けたボーイ・ワン・ダやアヨが前作に引き続き参加、それ以外にも、フランク・デュークスやテディ・ウォルトンなど、豪華な面々が並んでいる。

アルバムの実質的な1曲目である”No Longer Friends”は、スウィフDとグレイブズがプロデュースした曲。電子音を使った重いドラムと、チキチキという音色が印象的なトラップ・ビートに乗って、じっくりと歌を聴かせるスロー・ナンバー。歌に重きを置きながら、随所でラップに切り替えることでリスナーを飽きさせない配慮が心憎い。トゥイートの”My Place”をサンプリングしたトラックも、いい味を出している。

これに対し、NESが手掛けた”We Both Know”は、バス・ドラムの音を軸にしたシンプルなトラックをバックに、語りかけるように歌う姿が印象的なバラード。チェンジング・フェイシスの”Stroke It Up”を引用したトラックも格好良い。歌とラップを使い分ける技術が彼の魅力だが、この曲のように、メロディのついたラップもこなせるから凄い。

また、ボーイ・ワン・ダがペンを執った”Run Me Dry”は、本作では珍しいアップ・ナンバー。ドレイクの”Passionfruit”にも似ている、明るい音色を使ったレゲトン風のビートに乗って、軽妙な歌を聴かせている。ドレイクの”Passionfruit”はメロディをしっかりと歌ったR&B作品だったが、こちらは喋るように歌うラップ寄りの曲。南国風の明るいビートを前にして、ラッパーのドレイクと、R&Bシンガーのブライソンが対称的な解釈を加えた点は興味深い。

そして、本作からの先行シングルでもある”Somethin Tells Me”は、ドレイクの”The Motto”やリュダクリスの”How Low”などを手掛けてきた、カナダ出身のプロデューサー、T-マイナスが制作した曲。電子音を組み合わせたトラックは、トラップのスタイルそのものだが、テンポを徹底的に落としたスロー・バラード。トレイ・ソングスやマーカス・ヒューストンの作品を思い起こさせる、じっくりと「歌」を聴かせる曲だが、華やかな電子音を盛り込んだビートのおかげで、キャッチーで聴きやすい雰囲気にまとまっている。ある意味、彼の作風を象徴する曲。

彼の音楽は、R&Bとトラップを融合させた斬新さに目が向けられやすいが、メロディや歌にじっくりと耳を傾けてみると、その緻密さに驚かされる。曲のタイプに応じて声色を使い分け、ラップと歌を融合させた歌唱や、声色を変えて疑似デュエットのように仕立てたものなど、多彩な演出を用意している。それだけでなく、歌声やメロディを聴かせるタイプのバラードでは、丁寧でダイナミックなヴォーカルも聴かせてくれる。この本格的なヴォーカルと色々なスタイルを取り込む器用さ、トラップの要素を取り入れたキャッチーなビートを組み合わせた作風が、彼の音楽をキャッチーだけど奥深いものにしていると思う。

ヒップホップの技術を用いて、とっつきにくいと感じる人もいる本格的なR&Bを、聴きやすいものに仕立て直した面白い作品。R.ケリーやドレイクのように、ヒップホップとR&Bの融合しつつ、彼らとは違うアプローチを見せた彼の音楽は、多くの人にR&Bの魅力を気づかせるきっかけになりそうだ。

Producer
Boi-1da, Frank Dukes, Illmind, Hollywood Hot Sauce, Keyz, T-Minus, Wondagurl etc

Track List
1. Rain on Me (Intro)
2. No Longer Friends
3. Don't Get Too High
4. Blowing Smoke
5. We Both Know
6. You Got It
7. In Check
8. Self-Made
9. Run Me Dry
10. High Stakes
11. Rain Interlude
12. Teach Me a Lesson
13. Stay Blessed
14. Money Problems / Benz Truck
15. Set It Off
16. Nevermind This Interlude
17. Before You Judge
18. Somethin Tells Me
19. Always (Outro)





True to Self
RCA
2017-06-23