2012年ごろに音楽活動を開始。自作曲をインターネット上で発表する一方、ライブも精力的にこなしてきた、イギリスのロイヤル・レミントン・スパ出身のクリエイター、バスティン・ケブことセブ・ジョーンズ。

2015年には、初のアルバム『Dinking In The Shadows Of Zizou』を発表。電子音楽とヒップホップやファンクを混ぜた独特の作風が、新しい音楽に敏感な人々の間で注目を集めた。

その後も、フランスのプロデューサー、クワイエット・ドーンや、イギリスのファンク・バンド、ペーパータイガー等の作品で、楽曲制作やリミックスを担当。特に、ペーパー・タイガーの”Weight In Space ‎”をリミックスしたものは、同作の発売元であるイギリスのレーベルワー・ワー・45sのコンピレーションにも収められるなど、好評を博した。

今回のアルバムは、2年ぶりの新作となる2枚目のオリジナル・アルバム。影響を受けたミュージシャンとして、トム・ウェイツやサン・ラ、アリス・コルトレーンを上げ、多くの映像作品に親しんできたという、芸術への造形と鋭い嗅覚と、電子楽器だけでなく、ギターやフルートなど、色々な楽器を操る技術を兼ね備えた彼だけあって、本作でも電子楽器の先鋭的なサウンドと、生楽器の柔らかい音色を組み合わせた、ソウルフルな音楽を聴かせている。

アルバムの実質的な1曲目である”Pick Up”は、ジェイ・ディラを彷彿させる、微妙な揺らぎが心地よいビートと、サックスやキーボードの温かい音色が混ざり合ったトラックの上で、ファンカデリックを彷彿させる幻想的なヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバー。一つ一つの楽器の音を微妙にずらし、聴き手の感覚を揺さぶるテクニックが心憎い。

これに対し、アルバムに先駆けて公開されたもう1つの曲である”Cashmere”は、シンセ・ドラムの重い音色を使って、ダブを連想させるゆったりとしたビートを組んだミディアム・ナンバー。エフェクターを多用して、幻想的な雰囲気を演出しつつ、きらきらとしたシンセサイザーの音色を混ぜ込むことで、輪郭をはっきりさせている点が面白い。

また、”Night Hustle”はシンセ・ドラムやアナログ・シンセを使った、モダンなトラックで始まったと思いきや、急にヒップホップのビートに切り替わる奇想天外な曲。サーラ・クリエイティブ・パートナーズを彷彿させる、生音と電子楽器を組み合わせたソウルフルなトラックと、映画『死刑台のエレベーター』のような起伏のある展開が印象的な曲だ。

そして、本作の収録曲で唯一、ゲスト・ミュージシャンを起用した”Fit Rare”は華やかなシンセサイザーの音色と、荒っぽい管楽器の演奏のループが耳に残る、ヒップホップ色の強い曲。リズムに乗って言葉を繋ぐラップというよりも、音楽の上で強烈なメッセージを放つギル・スコット・ヘロンのような詩人に近い、カッポのラップもセブの先鋭的なビートと上手くかみ合って、独特の存在感を放っている。

彼の音楽の面白いところは、一つ一つの曲が起伏のある構成を持っている点と、ヴォーカルや各楽器が、異なるリズムやメロディを奏でながら、それらが組み合わさって一つの音楽を作り上げている点だと思う。それはまるで、映画監督がカメラを通して、役者の動きや背景を切り取り、一つの作品に落とし込む行為を音楽でやっているようだ。

映画監督のように作品全体を見渡し、一つの作品を組み立てる技術と、ジャズやロック、ソウルなど、多彩な音楽に触れてきた豊かな感性が生み出す、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品。サン・ラが現在も生きていたら、こんなアルバムを作るんじゃないかな?と思わせる不思議な音楽だ。

Producer
Seb Jones

Track List
1. Intro
2. Pick Up
3. Cashmere
4. My Lovely Wool
5. The Lug
6. Night Hustle
7. Rare Fit
8. Fit Rare feat. Cappo
9. Glue (The End)
10. Nocturnal/Midnight Shift (Serious Thumb)
11. Town
12. Yela
13. The Cut
14. Glue (Daydream)
15. Younger
16. Crumbs




22.02.85 [12 inch Analog]
Bastien Keb
First Word
2017-03-03