2014年4月、ケンドリック・ラマーやスクールボーイQなどが所属する、トップ・ドッグ初の女性シンガーとして、デビュー作となるEP『Z』をリリースした、ミズーリ州セントルイス生まれ、ニュージャージー州メイプルウッド育ちのシンガー・ソングライター、SZA(シザ)ことソラーナ・イマーニ・ロウェ。

放送局のプロデューサーでムスリムの父と、大手通信会社勤務でクリスチャンの母の間に生まれた彼女は、一般のアメリカ人向けの教育と並行して、ムスリムとしての教育も受けてきた。そのため、9.11のテロ事件が起きた後には、身に着けていたヒジャブを巡って、いじめを受けたこともあるなど、苦労もしてきたようだ。

その後、進学した大学では海洋生物学を専攻。世界を股にかける科学者になることを夢見たが、資金の問題もあり一度断念。お金を稼ぐために音楽活動を始めたという。

そんな彼女は、2011年に、当時のボーイフレンドの会社が、ケンドリック・ラマーのライブのスポンサーをしていた縁で、レーベルのオーナーであるテレンス・ヘンダーソンの知己を得る。そして、彼のレーベルでレコーディングをする機会を得た彼女は、2012年には自身初のミックステープとなる『See.SZA.Run』を録音。ドレイクフランク・オーシャンにも匹敵する先鋭的な作風で、熱心な音楽ファンの間で注目を集めた。また、翌年には2枚目のミックステープ『S』を公開。こちらも高い評価を受けた。

今回のアルバムは、彼女にとって初のフル・アルバムで、メジャー・デビュー作でもある。ブライソン・ティラーカリードなどの作品を扱っているRCAからの配給で、ケンドリック・ラマーやスクールボーイQなどのレーベル・メイトのほか、ファレル・ウィリアムスやフランク・デュークスといった売れっ子プロデューサーが多数参加した、豪華な作品になっている。

アルバムの1曲目に入っている”Supermodel”は、ファレルとニコ・シーガルがプロデュースした作品。ファレルがかかわった曲では珍しい、爪弾くように演奏されるギターをバックに訥々と歌う姿が印象的な、フォーク・ソングっぽい作品。しかし、フォーク・ソングの要素を盛り込みながら、太いベースの音や力強いヴォーカルで、きちんとソウル・ミュージックに落とし込む技は流石の一言。シザの歌唱力と、ファレル達のプロデュース能力の高さを再確認させられる曲だ。

続く”Love Galore”は、2015年に”Ok Alright”で共演しているトラヴィス・スコットをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。メンフィス出身のプロデューサー、サンクゴット4コディが制作を担当。90年代のR&Bを連想させる、柔らかい音色のシンセサイザーを使ったトラックと、シザのキュートな歌声が光るミディアムだ。ドレイクを彷彿させる、ラップのような歌い方も格好良い。脇を固めるトラヴィス・スコットのラップも存在感を発揮している。全体的に、インターネットのシドの作品とよく似た雰囲気の、90年代テイスト溢れる曲だ。

また、新作『Damn.』も好評なケンドリック・ラマーを招いた”Doves In the Wind”は、ラスヴェガス出身のキャメロン・オスティーンがプロデュース。古いレコードからサンプリングしたような、太く温かい音色のビートをバックに、可愛らしい歌声でラップをするように言葉を繋ぐミディアム・ナンバー。シザのヴォーカルにあわせて、高音を多用してゆっくりとラップをするケンドリック・ラマーの器用な一面も面白い。”Love Galore”同様、90年代の音楽の影響が垣間見えるが、ヒップホップ寄りのビートと、若き日のモニカやブランディを連想させるキュートな歌唱が印象的な曲だ。

そして、本作に先駆けて公開された”Drew Barrymore”は、彼女が客演したリアーナの”Consideration”を一緒に制作している、カーター・ラングやタイラン・ドナルドソンと共作したもの。スロー・テンポのトラックに乗せて、エネルギーを発散するかのように、自由かつ大胆に歌う彼女の姿が印象的な曲。ゆったりとしたテンポのトラックや、荒々しいメロディ、奔放なヴォーカルは”Consideration”とよく似ているが、こちらのほうがビートの音圧が低い分、リスナーの耳を歌に引き付けやすいと思う。

本作の面白いところは、90年代以降の色々なR&B作品のエッセンスを取り入れつつ、過去の楽曲とは違う独自色を打ち出しているところだ。その象徴ともいえるのが”Drew Barrymore”のような曲で、メロディやトラックにリアーナの”Consideration”の要素を盛り込みつつ、ヴォーカルに気を惹かせる編曲で、きちんと差別化を図っている。柔軟な発想で色々なスタイルを取り込みつつ、細部まで気を配ったアレンジが彼女の魅力だと思う。

ビリー・ホリデーからウータン・クランまで、色々な音楽に親しんできた豊かな感性が生み出す新鮮な音楽と、それを形にする豊かな表現力、そして、細部にまで気を配った演出が一体化した、懐かしいようで新鮮な作品。今時のR&Bが好きな人はもちろん、それ以前の時代のヴォーカル作品が好きな人にもお勧めできる、魅力的な作品だ。

Producer
Anthony "Top Dawg" Tiffith, Best Kept Secret, Frank Dukes, Pharrell Williams, Terrace Martin etc

Track List
1. Supermodel
2. Love Galore feat. Travis Scott
3. Doves In the Wind feat. Kendrick Lamar
4. Drew Barrymore
5. Prom
6. The Weekend
7. Go Gina
8. Garden (Say It Like Dat)
9. Broken Clocks
10. Anything
11. Wavy (Interlude) feat. James Fauntleroy II
12. Normal Girl
13. Pretty Little Birds feat. Isaiah Rashad
14. 20 Something





Ctrl
Sza
RCA
2017-06-09