2010年代初頭からアトランタを拠点に活動。配信限定ながら、複数の作品を発表し、耳の速い音楽ファンから注目を集めていたノースダコタ出身のシンガー・ソングライター、エルハエことジャマール・ジョーンズ。

2016年にアトランティックと契約。同年に配信限定のアルバム『All Have Fallen』でメジャー・デビューを果たすと、その後もガウヴィの”Rock n Roll”に客演するなど、ジャンルの枠を超えた活躍を見せる。

本作は、そんな彼にとって2枚目のフル・アルバム。タイ・ダラ・サインやエリック・ベリンガーなど、実力には定評のある叩き上げのミュージシャン達を招き、トラップ等の要素を盛り込んだトラックに乗せて、ラップとヴォーカルを組み合わせたパフォーマンスを聴かせる、2017年のトレンドを的確に押さえたR&Bを披露している。

アルバムからの先行シングル”Something”は、カナダ出身のシンガー・ソングライター、パーティーネクストドアが2016年にシングル限定でリリースした”Don’t Do It For You No More”をサンプリングしたアップ・ナンバー。オリジナル・ナンバーのトラックを取り入れつつ、高音を強調することで、パーティーネクストドアのウリである色鮮やかなサウンドを際立たせている。パーティーネクストドアに比べると、滑らかでテナー寄りの声質を活かして、丁寧な歌唱を聴かせるR&Bナンバーにリメイクした点は面白い。

また、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』や『DAMN.』等で辣腕を振るってきたロス・アンジェルス出身のプロデューサー、テラス・マーティンが制作を担当した”Bang Your Line”は、ロス・アンジェルス出身のラッパー、タイ・ダラ・サインをフィーチャーしたスロー・ナンバー。トラップの要素を取り入れた、チキチキという音が印象的なビートと、オートチューンで加工したヴォーカルが印象的な曲だ。シンセサイザーとオートチューンを駆使した、爽やかなサウンドが心地良い。個性的な声質を活かした掛け合いもいい味を出している。

そして、シカゴ出身のロッキー・フレッシュをフィーチャーした”Circa 09'”は、フロリダ出身のアヨ・ザ・プロデューサーなどがプロデュースで参加。トレイ・ソングスアッシャーの作品を思い起こさせるロマンティックなメロディと、甘い歌声が印象的なスロー・ナンバー。ロッキー・フレッシュの武骨なラップが、彼の歌声の柔らかさを引き立てている点も見逃せない。

だが、本作の目玉はエリック・ベリンガーが客演した”Slip & Fall”だろう。ソングライターとしても活躍しているエリックとのコラボレーション作品は、触ったらとろけそうなほど、甘く繊細なメロディと歌声が魅力のスロー・ナンバー。声質こそ違うものの、声域が近いテナーの二人によるデュエットということもあり、滑らかにバトンを繋げている点も面白い。ディアンジェロを”Untitled”を彷彿させる、エリックの空気を切り裂くようなファルセットもたまらない。

彼の音楽は、ラップやトラップなど、現代の流行をしっかりと押さえているものの、あくまでもメロディと歌声をじっくりと聴かせることに主軸を置いたR&Bだ。しかも、新しいサウンドを取り入れながら、奇抜さや斬新さのみに頼らず、ニーヨやドリームが作りそうな、流麗でロマンティックなメロディにフォーカスを当てた作品に落とし込んでいる点が、他のアーティストとは大きく違うと思う。

90年代のR.ケリーやジョーのように、美しいメロディのR&Bをベースにしつつ、ブラック・ミュージックのトレンドを取り入れた音楽が堪能できる。音楽配信よりもCDやアナログ・レコードで音楽を楽しんできた世代の人にこそ聴いてほしい佳作だ。

Producer
Aaron Sumlin, Ayo The Producer, Fortune etc

Track List
1. Admit It (Intro)
2. Something
3. Bang Your Line feat. Ty Dolla $ign
4. Drama
5. Otherside
6. Blue (Interlude)
7. Circa 09' feat. Ro
ckie Fresh
8. It's Not a Race
9. Slip & Fall feat. Eric Bellinger
10. You