イギリスの人気オーディション番組「Xファクター」のアメリカ版に出場したアリー・ブルック、ノーマン・コーディ、ローレン・ハウレギ、ダイナ・ジェーン、カミラ・カベロの5人からなるガールズ・グループ、フィフス・ハーモニー。

2013年にリリースした初のEP『Better』が全米総合チャートを6位に入り、同作からのシングル曲”Miss Movin’ On”がゴールド・ディスクを獲得するなど、幸先のいいスタートを切った彼女達は、2015年に1枚目のフル・アルバム『Reflection』を発表。全米チャートの5位をはじめ、カナダとニュージーランドで8位に入るなど、各国のヒット・チャートにその名を刻んできた。その後も、2016年に発売した2枚目のアルバム『7/27』が複数の国のヒット・チャートでトップ10圏内に入るなど、アメリカを代表するガールズ・グループへの道を、着実に登って行った。

このアルバムは、グループにとって3枚目となるLP。2016年の終わりにカミラ・カベロがグループを脱退して、4人組として再スタートを切った彼女達にとって初めてのアルバムとなる。

アルバムに先駆けて発売されたシングル曲”Down”は、ビヨンセやジェイソン・デルーロの作品も手掛けている、ボルティモア出身のプロデューサー、アモことジョシュア・コールマンが制作を担当。チャッキー・トンプソンやドリームが作りそうな、シンセサイザーの音色を多用した爽やかなトラックと彼女達のキュートな歌声が印象的なアップ・ナンバー。軽快なビートとメロディを軸にしながら、曲の途中に挟み込まれたグッチ・メインのラップ・パートでトラックを変えるなど、随所に凝った演出を盛り込んでいる。

続く、もう一つのシングル曲”He LIke That”も、アモのプロデュース作品。こちらは、80年代のウェイン・ワンダーやUB40を思い起こさせる、ゆったりとしたトラックと軽妙なメロディが心地よいレゲエ風ナンバー。可愛らしい歌声の合間に、地声を使った力強い歌唱を挟み込むことで、楽曲に起伏を付けている。オーディション番組で鍛えられた彼女達らしい、豊かな表現力と親しみやすさが光る曲だ。

一方、エレクトロ・ミュージックのプロデューサー、スカイレックスと、アッシャーやクリス・ブラウンなどの楽曲に携わってきたプー・ベアのコンビによる”Angel”は、プー・ベアもペンを執ったアッシャーの”Burn”を連想させるチキチキ・ビートが印象的なミディアム・ナンバー。奇抜な楽曲を作ることが多いスカイレックスだが、この曲ではジャーメイン・デュプリを連想させる、シンセサイザーを多用したチキチキ・ビートに近いものを提供。彼女達の溌剌としたヴォーカルを引き立てている。2000年代前半にアッシャーやマライア・キャリーが発表していたような、親しみやすいメロディのR&Bが、現代のクリエイターのフィルターを挟むと新鮮に聴こえるのは面白い。

そして、もう一つ見逃せない曲が、ドリームラブが手掛けた”Messy”だ。セレーナ・ゴメスやニッキー・ミナージュなどに楽曲を提供してきたポップス畑の作家が用意したのは、甘酸っぱいメロディとそれを引き立てるシンプルなアレンジが光るミディアム・バラード。グラマラスな歌声や艶めかしいパフォーマンスは、”Touch My Body”などの楽曲でセクシーなヴォーカルを披露していたマライア・キャリーを彷彿させる。最年長のアリソンでさえ24歳と、全員が20代前半のグループとは思えない、大人っぽい歌唱が魅力的だ。

カミラの脱退を経た後の作品だが、各人の歌唱力がレベルアップしたこともあり、パワー・ダウンした印象はない。むしろ、経験を積んで各メンバーの個性が際立つようになり、メンバーの個性とグループとしての一体感を両立した音楽が増えたようにも思える。

デスティニーズ・チャイルドやTLCなどが活動を休止、もしくは縮小し、アメリカのポップス市場からガールズ・グループの存在感が薄れていく中、唯一無二の存在となりつつある彼女達の持ち味が遺憾なく発揮されている。TLCやスパイス・ガールズのように、世界を股にかける存在になると思わせる、高いスター性とヴォーカル・スキルが楽しめる佳作だ。

Producer
Ammo, DallasK, Poo Bear, Skrillex etc

Track List
1. Down feat. Gucci Mane
2. He LIke That
3. Sauced Up
4. Make You Mad
5. Deliver
6. Lonely Night
7. Don't Say Love Me
8. Angel
9. Messy
10. Bridges





Fifth Harmony
Fifth Harmony
Epic
2017-08-25