後にイマチュアを成功に導く、同郷の音楽プロデューサー、クリス・ストークスが率いるダンス・グループで音楽業界入りのチャンスを掴み、幼いころからプリンスの”Diamonds & Pearls”などのミュージック・ビデオに出演。その一方で、姉妹と結成した女性版イマチュアのガールズ・グループGyrl(ギャル)の一員としても活動してきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身の日系アメリカ人のシンガー・ソングライター、ミラJことジャミーラ・アキコ・キロンボ。

ギャルの一員としては、イマチュアのツアーに帯同したほか、グループの名義でもシングル”Play Another Slow Jam”や”Get Your Groove On”などをヒットさせている。その後、彼女はデイム・フォーという別のグループに移籍。こちらでもシングル”How We Roll”などを残している。

そんな彼女は、2000年代初頭にソロへと転向。オマリオンなどの作品に客演しながら、マーカス・ヒューストンなどが参加した初のソロ作品『Split Personality』を制作するも、諸々の事情でお蔵入りとなる。しかし、2012年にジャパロニアの名義でミックス・テープを発表。その後、自身の名義でも作品を公開し70万ダウンロードを達成するヒット作となる。

その後、彼女はモータウンと契約、2014年にメジャー・レーベル作となるEP『M.I.L.A.』をリリースする。このアルバムは、DJマスタードやK.E.オン・ザ・トラックなどが制作を担当し、B.O.B.やタイ・ダラ・サインなどがゲストとして参加し、配信限定のデビュー作とは思えない豪華なもので、全米R&B/ヒップホップ・チャートの22位に入った。また、2016年には2作目のEP『213』を発表。クリス・ストークスやマーカス・ヒューストンとともに、彼女自身もプロデュースに携わり、R&Bが好きな人の間で高い評価を受けた。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる、彼女にとって3枚目のEP。インディー・レーベルのサイレント・パートナーから発売された作品だが、収録曲のほぼすべてを、彼女の楽曲に携わってきたアイリッチことイマニュエル・ジョーダン・リッチがプロデュース。ソングライティングを彼女自らが手掛けた、アーティストとしてのミラJにスポットを当てたものになっている。

アルバムのオープニングを飾る”No Fux”はピアノの演奏をバックにしっとりと歌う姿が魅力的なスロー・ナンバー。低音を強調した艶めかしい歌声が、大人の色気を醸し出している。ピアノとヴォーカルを組み合わせた本格的なバラードを最初に持っていくスタイルは、バラードの表現力で名を上げたマーカス・ヒューストンを連想させる。

これに対し、”New Crib”はシンセサイザーを多用したヒップホップ寄りのトラックと、ゆったりとしたミラJのヴォーカルが心地よいミディアム・ナンバー。バラードにヒップホップの要素を取り入れたスタイルは、トレイ・ソングスやオマリオンの音楽によく似ている。大人の色気と表現力が発揮された佳作だ。

また、ヒップホップ色の強い作品としては”Move”が面白い。トラップやクランクを取り入れた高揚感のあるトラックに、ラガマフィンを取り入れた荒々しいヴォーカルが格好良いミディアム・ナンバーだ。地声を織り交ぜたワイルドな歌唱はリル・キムやフォクシー・ブラウン、ニッキー・ミナージュといった人気女性ラッパーの手法を踏襲したものだ。ハードなヒップホップとセクシーなR&Bを混ぜ合わせるスキルが光っている。

そして、本作の収録曲でも異彩を放っているのが”Fuckboy”だ。一度発表された曲をリミックスして再リリースした、彼女の思い入れの強さを感じさせる曲。90年代のヒップホップを連想させる。古いレコードからサンプリングしたような太く温かい音色を使ったビートをバックに、軽妙なヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバーだ。ヒップホップの要素を取り入れたミディアム・テンポのトラックと、グラマラスなヴォーカルの組み合わせはメアリーJ.ブライジの『My Life』の収録曲を思い起こさせる。

今回のアルバムは、モータウンを離れ、気心の知れたプロデューサーと二人三脚で制作した、彼女の個性が強く反映されたアルバムだ。しかし、その作風は流行の音を適度に取り入れつつ、歌とラップを上手に使い分けた、バランスの取れたものになっている。自らが制作の主導権を握り、持ち味を存分に発揮しつつも、流行の音をしっかりと取り入れて、リスナーの心を掴むスタイルは、若いころから流行のサウンドに触れてきた彼女の本領が発揮されたものといっても過言ではないだろう。

妹、ジェーン・アイコがガラントの作品に起用されるなど、注目を集める中、経験も実績も豊富な姉の存在感をアピールした面白いアルバムだと思う。本作をきっかけに彼女が再び注目を集め、表舞台に返り咲いてくれたらいいなと思わせる、高いクオリティの作品だ。

Producer
iRich

Track List
1. No Fux
2. La La Land
3. Transform U
4. I Do Love You feat. IRich
5. New Crib
6. Lit
7. Doomed
8. Longway
9. Move
10. Fuckboy
11. Drippin
12. Body
13. Bonfire





Dopamine
SILENT PARTNER ENTERTAINMENT/NOVEMBER REIGN
2017-04-07