2013年に初のアルバム『2 Cool 4 Skool』をリリースすると、アメリカのR&Bを取り込んだスタイリッシュな作風と、メンバーの若い感性が発揮されたメッセージ性の強い歌詞で、韓国を代表する人気グループの一つとなったBTS。

そんな彼らは、2016年に発表したムーンバートンを取り入れたシングル”Blood Sweat Tears”が、アメリカやヨーロッパを中心に大ヒット。同作を収めたアルバム『Wings』は全米総合アルバム・チャートの26位に入り、翌年にはビルボード・ミュージック・アワードのトップ・ソーシャル部門を受賞するなど、アジアを代表するヴォーカル・グループとしてその名を世界に轟かせた。

本作は、前作『Wings』から約1年ぶりの新作となる11曲入り(配信版は9曲)のミニ・アルバム。2月には『Wings』に新曲を追加した再発盤『You Never Walk Alone』をリリースし、5月には”Blood Sweat Tears”の日本語版”血、汗、涙”を発表、7月には韓国がボーイズ・グループ大国になるきっかけを作った、セオ・タジ&ザ・ボーイズ(余談だが、同グループにはYGエンターテイメントの創業者、ヤン・ヨンソクも在籍している)のデビュー25周年企画として、彼らの”Come Back Home”をカヴァーするなど、精力的に活動していたBTS。だが、7人はその勢いを緩めることなく、今回のアルバムに有り余るエネルギーを注いでいる。

メンバーのラップ・モンスターがプロデュースしたオープニング・トラック”Intro : Serendipity”に続くのは、本作のリード・シングル”DNA”。『Wings』に収められているシングル曲”Not Today”を手掛けたシュープリーム・ボーイが制作を担当、小気味良いギターのカッティングと”Bloood Sweat Tears”を彷彿させるムーンバートンのフワフワとしたビートを融合したトラックが新鮮なアップ・ナンバーだ。曲の途中で”Not Today”を彷彿させる荒々しいEDMのサウンドを組み込むなど、色々な音楽のエッセンスを取り入れながら、一つの楽曲に落とし込む技術が光っている。ファルセットが中心の甘い歌声と、パワフルなラップのコンビネーションをアレンジの妙で活かしている。

だが、本作の目玉はなんといっても”Best Of Me”だろう。2017年のアルバム『Memories...Do Not Open』が各国のヒット・チャートを制覇したアメリカのプロダクション・ユニット、チェインスモーカーズとのコラボレーション曲だ。7人(といっても、うち2人はラップ担当だが)の滑らかな歌声で幕を開けるこの曲は、チェインスモーカーズの持ち味が発揮されたキャッチーな四つ打ちのトラックが格好良いダンス・トラックへと繋がっていくアップ・ナンバー。フランク・オーシャンジョン・レジェンドとコラボレーションしたカルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』を連想させる、エレクトロ・ミュージックとR&Bが融合した楽曲だ。

また、メンバーのラップ・モンスターと、彼らの作品を数多く手掛けてきたPドッグが制作を主導した”Pied Piper”は、ゆったりとしたテンポの”Bloood Sweat Tears”といった趣のミディアム・ナンバー。フワフワとしたシンセサイザーの音色が印象的なトラックに乗せて、しなやかなメロディをじっくりと聴かせるリラックスした雰囲気が心地よい曲だ。彼らの持ち味である、繊細で美しいテナー・ヴォイスが思う存分堪能できる。

そして、ラップ担当の二人にスポットを当てたのが、シュープリーム・ボーイをプロデューサーに起用した”Mic Drop”。ロック・ワイルダーやスコット・ストーチのプロデュース作品を思い起こさせる、シンセサイザーを多用したヒップホップのビートに乗ってワイルドなパフォーマンスを聴かせるミディアム・ナンバーだ。アメリカのR&Bやヒップホップを適度に取り入れつつ、彼らの声質に合わせて、軽妙なラップを取り入れた面白い作品だ。

今回のアルバムでは、『Wings』のスタイリッシュなR&B路線を踏襲しつつ、エレクトロ・ミュージック寄りの曲やギターの演奏を取り入れた曲など、新しい手法にも積極的にチャレンジしている。そのスタイルは、ボーイズIIメンのような本格的なヴォーカル・グループというよりも、プリティー・リッキーやマインドレス・ビヘイビヴァのような、ポップ・スターに近いものだ。しかし、ワン・ダイレクションが活動を休止するなど、ボーイズ・グループの勢いが衰えつつある欧米では、彼らのようにR&Bを取り入れながら、幅広い層をターゲットにしたヴォーカル・グループの需要は、意外に多いのかもしれない。

東アジア出身のポップ・グループがJ-ポップやK-ポップという枠組みを超えて、世界に通じる可能性を感じさせる魅力的な作品。彼らが韓国や日本、それ以外のアジア諸国のグループにどんな影響を与えるか、今から楽しみになる面白いアルバムだ。

Producer
P.Dogg, The Chainsmokers, Ashton Foster, Andrew Taggart etc

Track List
1. Intro : Serendipity
2. DNA
3. Best Of Me
4. Dimple
5. Pied Piper
6. Skit : Billboard Music Awards Speech
7. MIC Drop
8. Go Go
9. Outro : Her
10. Skit: Hesitation and Fear
11. Sea

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