ケレラことケレラ・ミザンクリストスはワシントンD.C.出身のシンガー・ソングライター。

エチオピア系アメリカ人の彼女は、2010年ごろからロス・アンジェルスを拠点に音楽活動を開始。大学を卒業したあとは、カフェなどでジャズ・スタンダードを歌うシンガーとしての活動を皮切りに、メタル・バンドやエレクトロ・ミュージックのユニットなど、色々なジャンルの音楽グループで経験を積んできた。

そんな彼女は、エレクトロ・ミュージックのユニット、ティーンガールズ・ファンタジーが2012年にリリースしたアルバム『Tracer』に収録されている”EFX”に参加したことをきっかけに、キングダムなどが所属するフェイド・トゥ・マインドと契約。2013年に初のミックス・テープ『Cut 4 Me』をリリースすると、ソランジュやビヨークを彷彿させる先鋭的な音楽性で、熱心な音楽ファンや評論家から高い評価を受けた。

その後も、ロンドンに拠点を置くクラブ・ミュージックの名門、ワープ・レコードから複数のシングルを発表する一方、ゴリラズの『Humanz』やソランジュの『A Seat At The Table』といった、各国の人気ミュージシャンの作品に参加。一度聴いたら忘れられない個性的な歌声と、神秘的な雰囲気で存在感を発揮してきた。

本作は、彼女にとって初のフル・アルバム。彼女のシングルを配給してきたワープからのリリースで、収録曲は2017年に入ってから録音されたもの。プロデューサーにはロンドンを拠点に活動するジャム・シティやロス・アンジェルス在住のアリエル・レックシェイドなど、各国の実力派クリエイターを起用し、彼女の豊かな表現力と繊細な歌声を活かした、魅力的なポップスを聴かせている。

アルバムのオープニングを飾る”Frontline”はジャム・シティのプロデュース、ロックネイション所属のシンガー・ソングライター、サミュエル・デューが制作に参加したミディアム・ナンバー。ジャーメイン・デュプリやティンバランドが90年代に録音したような、チキチキというハットの音色が印象的なビートの上で、フェイス・エヴァンスを彷彿させるグラマラスな歌声を響かせた作品。90年代のR&Bのエッセンスを取り入れることで、電子音を多用したビートを聴きやすくする発想が面白い。

続く”Waitin”は、ジャム・シティとアリエル・レックシェイドに加え、カナダ出身のシンガー・ソングライター、モッキーが制作に携わっている国際色豊かな作品。シンセサイザーを駆使したスタイリッシュなトラックの上で、しなやかな歌声を聴かせるアップ・ナンバー。軽妙なメロディを盛り込んだスタイルは『All For You』を出した頃のジャネット・ジャクソンにも少し似ている。尖った雰囲気を残しつつ、ポップに纏め上げた佳作だ。

また、本作に先駆けて発表された”LMK”は、ソランジュの作品にも携わっているクウェスとジャム・シティの共同プロデュース作品。電子音を効果的に使った軽快でモダンなトラックの上で、軽やかな歌声を聴かせるミディアム・ナンバー。音楽性はイギリスの女性シンガー、ナオのそれに近いが、繊細で甘酸っぱいヴォーカルはデビュー当時のブランディやマイアにも少し似ている。ロマンティックなメロディと洗練されたビートが格好良い、キャッチーな曲だ。

そして、ニューヨークを拠点に活動するプロダクション・チーム、ダブル・ダッチを招いた”Blue Light”は、シンセサイザーの音を重ねた荘厳な伴奏が印象的なミディアム・ナンバー。ファルセットを上手に使ってセクシーな歌声が心地よいと思っていたら、ビヨビヨと唸るような電子音を取り入れた先鋭的なトラックへと切り替わる奇抜な作品。斬新な演出を盛り込みつつ、始まりから終わりまで、一つの曲として聴かせる彼女の手腕が光っている。

このアルバムの面白いところは、エレクトロ・ミュージック分野で実績を上げているミュージシャンをプロデューサーに起用しつつも、マニア向けの前衛音楽ではなく、親しみやすいポップス作品に落とし込んでいるところだろう。恐らく、彼女の声質やヴォーカル・スタイルが、マイアやジャネット・ジャクソンのような可愛らしく聴きやすい、ポップ・スターの素質を備えている点が大きいと思う。

ウィークエンドSZAなど、エレクトロ・ミュージックとR&Bを融合したスタイルのミュージシャンの活躍が目立つ中で、ポップスの手法を取り入れる卓越した技術で存在感を示す彼女。常に新しいスタイルが生まれ、作品化されているエレクトロ・ミュージックの面白さを分かりやすく伝えてくれる傑作だ。

Producer

Jam City, Ariel Rechtshaid, Kwes, Mocky, Kingdom etc

Track List
1. Frontline
2. Waitin
3. Take Me Apart
4. Enough
5. Jupiter
6. Better
7. LMK
8. Truth Or Dare
9. S.O.S.
10. Blue Light
11. Onanon
12. Turn To Dust
13. Bluff
14. Altadena





Take Me Apart
Kelela
Warp Records
2017-10-06