往年のブラック・ミュージックをサンプリングしているにもかかわらず、他のミュージシャンとは一味違う不気味な雰囲気を醸し出すトラックと、ドスの効いた声で紡がれる攻撃的なラップが印象的だった93年のデビュー・アルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』で、多くの音楽ファンの度肝を抜いた、ニューヨークのスタッテン・アイランド出身のヒップホップ・グループ、ウータン・クラン。
91年にプリンス・ラキームの名義でトミー・ボーイからアルバムをリリースしているRZAを中心に、彼の従兄弟であるGZAやオール・ダーティー・バスタード(2004年に死去)、既にラッパーとして活動していたゴーストフェイス・キラーやU-ゴッドといった個性豊かな面々からなる彼らは、RZA達が生み出すおどろおどろしいのに中毒性の高いビートと、全身全霊で自分のキャラをアピールする各メンバーのラップを武器に、多くのヒット作を残してきた。
また、メアリーJ.ブライジとのコラボレーション曲でグラミー賞を獲得したメソッド・マンや、マライア・キャリーの”Fantasy”のリミックス版で、主役を押しのける強烈なパフォーマンスを披露したオール・ダーティー・バスタードをはじめ、映画「キル・ビル」の映画音楽を手掛けたRZAや、様々なコラボレーション作品を含む多くのアルバムを残しているゴーストフェイス・キラーなど、各メンバーがソロ・アーティストとしても成功を収めてきた。
このアルバムは、2014年の『A Better Tomorrow』 以来、約3年ぶりとなる新作。すべての楽曲をリーダーのRZAと、彼らのライブをDJとして支えているマスマティックスが制作し、各曲ではメンバーに加え、キラー・プリーストやストリート・ライフのような準メンバー、レッドマンやショーン・プライスなどの人気ミュージシャンが集結、地道な活動で鍛え上げた逞しさとしなやかさを兼ね備えたヒップホップを聴かせている。
アルバムの実質的な1曲目”Lesson Learn'd”は、インスペクター・デックとメソッド・マンのコラボレーション作品。デビュー当時の彼らを思い起こさせる、微妙な揺らぎが不安を掻き立てるビートの上で渋いラップを聴かせるインスペクター・デックと、軽い声質でがなり立てるようなラップを披露するレッドマンのコンビネーションが光る曲だ。どことなくだが、90年代に鮮烈なデビューを飾ったときのことを思い起こさせる。
これに対し、ゴーストフェイス・キラー、メソッド・マン、RZAというソロでも実績豊富な面々に加え、ブロンクス出身のベテラン・ラッパー、ショーン・プライスが参加した”Pearl Harbor”は、ドロドロとしたビートの上で繰り広げられるマイク・リレーが魅力の作品。楽器の演奏とサンプリングを混ぜ合わせたビートの上で、個性豊かな4人のラップが次々と繰り出されるスリリングな曲だ。タイトルからも予想できるように、日本人には少し引っ掛かる内容のリリックだが、それを割り引いても捨てがたい魅力がある。
また、本作に先駆けて公開された”People”は、本作の収録曲では唯一ウータン・クランのメンバー全員が集結した曲。ディプロマッツの”I've Got the Kind of Love”をサンプリングしたソウルフルなトラックの上で、各人が強烈な個性を発揮している佳作。ゲストとして招かれたレッドマンを含めると8人の大人数によるマイク・リレーだが、各人のキャラがきちんと立っているから恐ろしい。
そして、アルバムの収録曲では珍しい、ヴォーカル・パートが入っている”G'd Up”はメソッド・マンに加えてムジー・ジョーンズとR-ミーンが参加した作品。ウータンの面々に比べると、知名度では大幅に劣る面々だが、メソッド・マンに負けない存在感を発揮している。ほかの曲に比べると、ドラムの音を強調したシンプルなトラックだが、サビを担当する泥臭いヴォーカルと合わさるとちょうどいい感じに聴こえる。
尖ったビートとラップで華々しいデビューを飾った彼らだが、今回のアルバムでは2000年以降の彼らの作品で頻繁に見られるような、強烈な印象を与えつつ、聴き手を疲れさせないポップな楽曲が増えていると思う。音楽界のトップ・スターから気鋭のビート・メーカーまで、様々なタイプのアーティストとコラボレーションしながら、映画音楽にも携わるなど、様々な仕事で結果を残してきた経験が、先鋭的だけど大衆的という、独特な作風を育んだのだと思う。
強い個性と、それを支える確かな実力を備えた彼らにしか作れない唯一無二の作品。色々なラッパーが試行錯誤しながら新しい音楽を生み出していた、90年代のヒップホップ・シーンの熱気と、ベテランらしい高い完成度が同居した、懐かしさと新鮮さが同居した面白い音楽だ。
Producer
RZA, Mathematics
Track List
1. Wu-Tang the Saga Continues Intro feat. Rza
2. Lesson Learn'd feat. Inspektah Deck and Redman
3. Fast and Furious feat. Huehef and Raekwon
4. Famous Fighters (Skit)
5. If Time Is Money (Fly Navigation) feat. Method Man
6. Frozen feat. Method Man, Killa Priest and Chris Rivers
7. Berto and the Fiend (Skit) feat. Ghostface Killah
8. Pearl Harbor feat. Ghostface Killah, Method Man, RZA, and Sean Price
9. People Say Wu-Tang Clan feat. Redman
10. Family (Skit)
11. Why Why Why feat. RZA and Swinkah
12. G'd Up feat. Method Man, R-Mean and Mzee Jones
13. If What You Say Is True Wu-Tang Clan feat. Streetlife
14. Saga (Skit) feat. RZA
15. Hood Go Bang feat. Redman and Method Man
16. My Only One feat. Ghostface Killah, RZA, Cappadonna and Steven Latorre
17. Message D5. The Saga Continues Outro feat. RZA
91年にプリンス・ラキームの名義でトミー・ボーイからアルバムをリリースしているRZAを中心に、彼の従兄弟であるGZAやオール・ダーティー・バスタード(2004年に死去)、既にラッパーとして活動していたゴーストフェイス・キラーやU-ゴッドといった個性豊かな面々からなる彼らは、RZA達が生み出すおどろおどろしいのに中毒性の高いビートと、全身全霊で自分のキャラをアピールする各メンバーのラップを武器に、多くのヒット作を残してきた。
また、メアリーJ.ブライジとのコラボレーション曲でグラミー賞を獲得したメソッド・マンや、マライア・キャリーの”Fantasy”のリミックス版で、主役を押しのける強烈なパフォーマンスを披露したオール・ダーティー・バスタードをはじめ、映画「キル・ビル」の映画音楽を手掛けたRZAや、様々なコラボレーション作品を含む多くのアルバムを残しているゴーストフェイス・キラーなど、各メンバーがソロ・アーティストとしても成功を収めてきた。
このアルバムは、2014年の『A Better Tomorrow』 以来、約3年ぶりとなる新作。すべての楽曲をリーダーのRZAと、彼らのライブをDJとして支えているマスマティックスが制作し、各曲ではメンバーに加え、キラー・プリーストやストリート・ライフのような準メンバー、レッドマンやショーン・プライスなどの人気ミュージシャンが集結、地道な活動で鍛え上げた逞しさとしなやかさを兼ね備えたヒップホップを聴かせている。
アルバムの実質的な1曲目”Lesson Learn'd”は、インスペクター・デックとメソッド・マンのコラボレーション作品。デビュー当時の彼らを思い起こさせる、微妙な揺らぎが不安を掻き立てるビートの上で渋いラップを聴かせるインスペクター・デックと、軽い声質でがなり立てるようなラップを披露するレッドマンのコンビネーションが光る曲だ。どことなくだが、90年代に鮮烈なデビューを飾ったときのことを思い起こさせる。
これに対し、ゴーストフェイス・キラー、メソッド・マン、RZAというソロでも実績豊富な面々に加え、ブロンクス出身のベテラン・ラッパー、ショーン・プライスが参加した”Pearl Harbor”は、ドロドロとしたビートの上で繰り広げられるマイク・リレーが魅力の作品。楽器の演奏とサンプリングを混ぜ合わせたビートの上で、個性豊かな4人のラップが次々と繰り出されるスリリングな曲だ。タイトルからも予想できるように、日本人には少し引っ掛かる内容のリリックだが、それを割り引いても捨てがたい魅力がある。
また、本作に先駆けて公開された”People”は、本作の収録曲では唯一ウータン・クランのメンバー全員が集結した曲。ディプロマッツの”I've Got the Kind of Love”をサンプリングしたソウルフルなトラックの上で、各人が強烈な個性を発揮している佳作。ゲストとして招かれたレッドマンを含めると8人の大人数によるマイク・リレーだが、各人のキャラがきちんと立っているから恐ろしい。
そして、アルバムの収録曲では珍しい、ヴォーカル・パートが入っている”G'd Up”はメソッド・マンに加えてムジー・ジョーンズとR-ミーンが参加した作品。ウータンの面々に比べると、知名度では大幅に劣る面々だが、メソッド・マンに負けない存在感を発揮している。ほかの曲に比べると、ドラムの音を強調したシンプルなトラックだが、サビを担当する泥臭いヴォーカルと合わさるとちょうどいい感じに聴こえる。
尖ったビートとラップで華々しいデビューを飾った彼らだが、今回のアルバムでは2000年以降の彼らの作品で頻繁に見られるような、強烈な印象を与えつつ、聴き手を疲れさせないポップな楽曲が増えていると思う。音楽界のトップ・スターから気鋭のビート・メーカーまで、様々なタイプのアーティストとコラボレーションしながら、映画音楽にも携わるなど、様々な仕事で結果を残してきた経験が、先鋭的だけど大衆的という、独特な作風を育んだのだと思う。
強い個性と、それを支える確かな実力を備えた彼らにしか作れない唯一無二の作品。色々なラッパーが試行錯誤しながら新しい音楽を生み出していた、90年代のヒップホップ・シーンの熱気と、ベテランらしい高い完成度が同居した、懐かしさと新鮮さが同居した面白い音楽だ。
Producer
RZA, Mathematics
Track List
1. Wu-Tang the Saga Continues Intro feat. Rza
2. Lesson Learn'd feat. Inspektah Deck and Redman
3. Fast and Furious feat. Huehef and Raekwon
4. Famous Fighters (Skit)
5. If Time Is Money (Fly Navigation) feat. Method Man
6. Frozen feat. Method Man, Killa Priest and Chris Rivers
7. Berto and the Fiend (Skit) feat. Ghostface Killah
8. Pearl Harbor feat. Ghostface Killah, Method Man, RZA, and Sean Price
9. People Say Wu-Tang Clan feat. Redman
10. Family (Skit)
11. Why Why Why feat. RZA and Swinkah
12. G'd Up feat. Method Man, R-Mean and Mzee Jones
13. If What You Say Is True Wu-Tang Clan feat. Streetlife
14. Saga (Skit) feat. RZA
15. Hood Go Bang feat. Redman and Method Man
16. My Only One feat. Ghostface Killah, RZA, Cappadonna and Steven Latorre
17. Message D5. The Saga Continues Outro feat. RZA