melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2016年11月

Black Dylan – Hey Stranger [2016_Black Dylan Records]

シンガー・ソングライターのワフェンデと、DJやプロデューサーとしても活動しているニュープレックスによる、デンマーク発のソウル・ユニット、ブラック・ディランにとって1枚目のオリジナル・アルバム。

2015年にアルバムに先駆けてリリースされたシングル”Don’t Wanna Be Alone”では、初期のシュープリームスやヴァンデラスを彷彿させるポップでキャッチーなサウンドと、ジョン・レジェンドを思い起こさせる、泥臭い声で丁寧に歌うワフェンデの姿が印象的だった二人。待望のファースト・アルバムでは、同曲のような60年代以前のソウルから影響を受けたことを伺わせる楽曲が、数多く収められている。

アルバムの発売前にリリースされたもう一つのシングル曲“Hey Stranger”は、曇ったホーンの音色と、今時のR&Bっぽい打ち込みによる安定したビートを組み合わせて、アナログ楽器の温かい音色と精密な演奏技術で独特のサウンドを生み出した、モータウンの作風を現代に蘇らせたアップ・ナンバー。この他にも、フィンガー・スナップとウッドベースっぽい音色のベースを使って、街頭で演奏されていた初期のドゥー・ワップっぽく聴かせたミディアム”The One”。崩れ落ちるような歌と演奏で、初期のジェイムズ・ブラウンのダイナミックなパフォーマンスを取り入れつつ、ヒップホップで用いられるような硬いビートを使うことで、21世紀のリズム&ブルース像を示したスロー・ナンバー”She Said I Was A Failure”など、60年代以前のソウル・ミュージックやリズム&ブルースのスタイルをベースに、新しい楽器も積極的に使って、新しいブラック・ミュージックの形を感じさせる良曲が揃っている。

往年の黒人音楽を現代風にアレンジしたと聞くと、メイヤー・ホーソンやジョン・レジェンドを思い出す人もいるかもしれない。実際、ワフェンデの歌を聴くと、ジョンに似た部分も見受けられる。しかし、彼の歌声はロック・シンガーのように硬く、ソウル・シンガーに多いゴスペルの影響が薄いうえ、バックのトラックも音数を絞り込んだシンプルなもので、現行のR&Bとリズム&ブルースの中間にあるものだと思う。この点で、分厚いトラックを背景に、豊かな声を披露するほかのソウル・シンガーとは一線を画しているだろう。

イギリスのイーライ・ペイパーボーイ・リードやフランスのベン・ロンクル・ソウルに続く、欧州発のソウル・リヴァイバル。初期のルーファス・トーマスやバレット・ストロングのような、60年代初頭のソウルやリズム&ブルースを現代風にリメイクした、ありそうでなかったアルバムだ。

Track List
1. Hey Stranger
2. Get Up Child
; 3. Don’t Wanna Be Alone
4. You’re Getting Stronger
5. The One
6. She Said I Was A Failure
7. Who Got My Back
8. Keep Your Eyes On The Road
9. Papa
10. Hummin’





Hey Stranger
Black Dylan
Imports
2016-09-02

After 7 – Timeless [2016_eOneMusic]

80年代から90年代にかけて、多くのヒット曲を生み出してきた、シンガー・ソングライター、プロデューサーのベイビーフェイス。彼の兄弟達によるヴォーカル・グループ、アフター7の実に21年ぶりとなるオリジナル・アルバムが本作だ。

プロデューサーに、ベイビーフェイスや彼の右腕であるダリル・シモンズが名を連ね、SWVやフェイス・エヴァンスの近作を配給した、eOneが配給している本作。この前情報だけでも、90年代に一世を風靡した、ベイビーフェイスの流麗でキャッチーなR&Bが現代に蘇ることを期待してしまう人は少なくないだろう。このアルバムでは、そのような往年のファンの期待に応えるかのように、90年代の彼らのスタイルを踏襲した、美しいメロディの楽曲をたっぷりと収めている。

アルバムのオープニングを飾る”Runnin’ Out”は、ベイビーフェイスの”Every Time I Close My Eyes”を思い起こさせる、シンプルで落ち着いたトラックの上で、一つ一つの言葉をシックなメロディに乗せて、丁寧に紡ぎ出してみせるロマンティックなバラード。この曲だけでも、90年代のR&Bが好きな人なら買って損はないと断言できるほど、クオリティが高いスロー・ナンバー。また、数少ないミディアム・ナンバーの一つで、ベイビーフェイスもセルフ・カヴァーした”I Want You”は、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”が好きだった人にはたまらない、甘酸っぱい雰囲気のメロディを軽やかに歌う4人の姿が魅力的な、本作を代表する楽曲だ。それ以外にも、”If I”や”Lovin’ You All My Life”、”More Than A Woman”など、ベイビーフェイスがボーイズ II メンやトニ・ブラクストンに提供してきた、大人の色気を感じさせる、ロマンティックなメロディを踏襲したスロー・ナンバーやミディアム・ナンバーが続く。いずれの曲も、ベイビーフェイス、エドモンズ兄弟の持ち味が存分に発揮された、美しいメロディと、シンプルだが味わい深いトラックが上手い具合に融合した、大人向けのR&Bに仕上がっている。

デビュー・アルバムのタイトルに引っ掛けた、2015年の『Return To The Tender Lover』では、80年代の跳ねるようなリズムの上で、華麗なメロディを泳ぐように歌い、当時のソウル・ミュージックが持つ、煌びやかな雰囲気を現代に復活させたベイビーフェイス。これに対し、90年代風の重く、落ち着いたビートの上で、流れるようなメロディを大切に歌い、当時のR&Bの持つロマンティック雰囲気が、21世紀の音楽シーンでも通じることを証明したAfter7。エドモンズ兄弟が牽引した、20世紀のR&Bが持つ美しいメロディが、長い時を経ても色褪せない、「タイムレス」なものであることを、このアルバムが証明した。ボーイズ・II・メンやテヴィン・キャンベルのヒット曲に心を奪われた世代なら見逃せない、2016年の隠れた最高傑作だろう。

Track List
1. Runnin' Out
2. Let Me Know
3. More Than Friends
4. I Want You
5. Too Late
6. Lovin' You All My Life
7. If I
8. Everything
9. Betcha By Golly Wow
10. Home

Executive Producer
Babyface, Daryl Simmons, Kevon Edmonds




Timeless
After 7
Ent. One Music
2016-10-14

Bruno Mars – 24K Magic [2016_Atlantic]

2010年に『Doo-Wops & Hooligans』でデビューして以来、発表した曲が全てヒットしている、ハワイ出身のシンガー・ソングライター、ブルーノ・マース。彼にとって、2012年の『Unorthodox Jukebox』以来となる3枚目のオリジナル・アルバム。

これまでの作品では、60~70年代のソウル・ミュージックやディスコ音楽のエッセンスを取り入れつつ、それを現代的なポップスに落とし込んできた彼。本作では、その路線をベースに、黎明期のヒップホップや、70年代終わりのモダンなファンク。80年代末から90年代初頭にかけて流行したR&Bへと、スタイルをシフトしている。

彼の音楽性を変えたのは、2014年にリリースされた”Uptown Funk”の成功だろう。イギリス出身のDJ兼プロデューサー、マーク・ロンソンがブルーノをフィーチャーしたこの曲は、ギャップ・バンドやバーケイズに象徴される、70年代後半から盛り上がってきたファンク・サウンドを、ヒップホップのビートと融合したことで、幅広い世代に親しまれた。本作も、この曲の手法を踏襲していて、先行リリースされた”24K Magic”では、オートチューンをトークボックスのように用いたオープニングや、ヴォーカルとバンド・メンバーのコール&レスポンス。キラキラとした音色のシンセサイザーをアクセントに使った演奏など、80年代のファンク・バンドを彷彿させる演出を多用している。他の曲も同様で、シャラマーを彷彿させるシンセサイザーの音色が、美しいメロディとファルセットを引き立てるバラード”Versace On The Floor”や、黎明期をヒップホップを彷彿させるファンクの演奏を複雑な形に組みなおしたビートの上で、ラップのように歌う”Perm”など、マークロンソンやダフトパンクの影響で一躍注目を集めた、70年代後半から80年代初頭の音楽のエッセンスが、これでもかという勢いで注ぎ込まれている。

だが、本当に面白いのは最後の2曲だろう。ニュージャック・スウィングを再現したような”Finesse”では、跳ねるようなビートの上で、軽妙なメロディを爽やかに歌い切り、ベイビーフェイスが制作に参加した”Too Good To Say Goodbye”では、彼の初期作品を思い起こさせるしっとりとしたメロディに、華やかなシンセサイザーで彩を添えたロマンティックなバラードを、当時の雰囲気そのままに歌いつつ、自分の音楽へと染め上げている。

マーク・ロンソンやダフトパンクの作品で、80年代前半の音楽が注目を集める中。ベイビーフェイスやジョデシなど、80年代後半から90年代にかけて活躍したミュージシャンにも、光が当たりつつある。このアルバムは、その流れを本格的なものにする一つのきっかけになるかもしれない。ポップスの世界に新しい風を吹き込む、ゲーム・チェンジャーの登場を歓迎したい。

Track List
1. 24K Magic
2. Chunky
3. Perm
4. That's What I Like
5. Versace On The Floor
6. Straight Up & Down
7. Calling All My Lovelies
8. Finesse
9. Too Good To Say Goodbye

Producer
Jeff Bhasker,Emile Haynie,Shampoo Press & Curl The Stereotypes




24K MAGIC
BRUNO MARS
ATLAN
2016-11-18





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