melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2016年12月

The Dream – Love You To Death EP [2016 Roc Nation]

2000年代半ば、ニーヨが『In My Own Words』でブレイクして以来、これまでソングライターとして裏方で活躍していたミュージシャンが、自身の名義でも作品をリリースすることが珍しくなくなった。この中にはゴードン・チェンバースのように、ある程度の成功を収めた人もいれば、曲作りの才能には恵まれていても、シンガーとしては幸運に恵まれず、成功することができなかった人も数多くいた。

そんな中、ザ・ドリームことテリウス・ナッシュは、ソロ・シンガーとしても息の長い活動を続けるソングライターの一人。

作家としては、リアーナの”Umbrella”やマライア・キャリーの”Touch My Body”、ブリトニー・スピアーズの”Me Against The Music”など、多くのヒット曲を手掛けてきた一方で、自身の名義でも6枚のフル・アルバム(うち1枚はテリウス・ナッシュ名義)と1枚のEPをリリースしている。

キャピトルから2015年に発表されたEP『Crown』以来となる新作は、ジェイ・Zが率いるロック・ネイションからリリースされた5曲入りのミニ・アルバム。本作でもこれまでの作品と同様、ほぼすべての楽曲を自身の手で制作、プロデュースしており、作品のクオリティは極めて安定している。

アルバムのオープニングを飾る”Lemon Lean”では、過去の作品でもおなじみのラップとヴォーカルの中間のようなスタイルの歌を使ったミディアム・バラード。甘い歌声で語り掛けるように歌うドリームの姿と、弾き語り風のシンセサイザーをアクセントに使ったモダンなトラックが格好良い。続く”College Daze”では、静かに唸るようなベースの音色とシンセサイザーの伴奏をバックに、しみじみと歌うバラード。ファルセットを多用したサビの部分が、クリス・ブラウンやオマリオンの曲にも少し似ている。

また、外部のプロデューサーが制作にかかわっている”Rih-Flex”と”Madness”は、彼らの個性が発揮された、ドリームの曲としては新しいタイプの作品。

まず、ジェローム・ポッターやサミュエル・グリズマーが参加した”Rih-Flex”は、リアーナの”Umbrella”を思い起こさせる荘厳でダークなトラックに、ほとんどラップといっても差し支えない、しゃべるようなメロディが乗っかったミディアム・ナンバー。カニエ・ウエストの2016年作『The Life Of Pablo』に参加している面々だけあって、音色を絞り込みつつ、リスナーに強烈な印象を残すトラック作りのテクニックは、頭一つ抜けている。そして、モニカやボーイズ・II・メンなど、多くのR&Bアーティストを手掛けている、カルロス・マッキンニーやジェローム・ゴードン、テヴィン・ゴードンが参加した”Madness”は、こちらもカニエ・ウエストっぽい、少ない音数のトラックを使ったミディアム・ナンバー。ラップのような歌が、隙間だらけのトラックの上で響く光景が、寂しい雰囲気を醸し出している。

そして、アルバムの最後を飾る”Ferris Wheel”は、柔らかいシンセサイザーの音色と、強力なフィルターをかけた幻想的なトラックが、ラリー・レバンがプレイした80年代のハウス・ミュージックを彷彿させるアップ・ナンバー。オートチューンやトーク・ボックスでヴォーカルを加工する曲は珍しくないが、エフェクターを使って自分自身を素材にしてしまうのは斬新かもしれない。

2作連続の配信限定作品だが、各楽曲への力の入れ具合は過去の作品と変わらない。フルアルバムのリリースが楽しみだ。

Producer
Terius "The-Dream" Nash

Track List
1. Lemon Lean
2. College Daze
3. Rih-Flex
4. Madness
5. Ferris Wheel

 





Bobby Womack - Bravest Man in the Universe [2012 XL Recordings]

サム・クックに引き上げられて音楽業界に入り、ジャニス・ジョップリンやアレサ・フランクリンとも仕事をしてきたアメリカ音楽界の生き証人、ボビー・ウーマック。50年以上のキャリアを誇る彼にとって、21世紀最初のオリジナル作品であり、生前最後のスタジオ録音となった2012年のアルバムは、ブラーやゴリラズの中心人物であるデーモン・アルバーンとの競作。

両者の競演は、ゴリラズの3作目『Plastic Beach』に収められている”Stylo”でも行われているが、アルバム1枚分の共同作業となると今回が初めて。ブリティッシュ・ロックの枠に留まらず、ヒップホップやエレクトロなどを積極的に取り入れてきたデーモンと、流行のサウンドを取り入れつつも、ヴォーカル&ギターという昔ながらのスタイルにこだわってきたボビーが、どのような化学反応を起こすのか、とても気になるところだ。

で、肝心の中身だが、アルバムのオープニングを飾る”The Bravest Man In The Universe”では、地鳴りのような重低音が鳴り響くベース・ミュージックをトラックに採用している。前衛的な作風のロック・バンドではしばし用いられる演奏スタイルだが、ソウル・シンガーの楽曲で使われるのは非常に珍しい。この曲では、ボビーの空気を切り裂くような激しいバリトン・ヴォイスと、地響きのような重低音を正面からぶつけ、楽曲に緊迫感と荘厳な雰囲気を与えているのは面白い。

また、それ以外の曲に目を向けると、レディオ・ヘッドやフライング・ロータスを彷彿させる、「間」を効果的に使った伴奏と、若干20代(当時)のシンガー・ソングライター、ラナ・デル・レイの神秘的なヴォーカルをフィーチャーした”Dayglo Reflection”や、各楽器に強烈なエフェクトをかけて、ダブやサイケデリック・ロックとは異なるアプローチで、幻想的なサウンドを構築した”Whatever Happened To The Times”。洗練されたシンセサイザーの音色と、精密なビートからなるハウス・トラックの上で、熱いシャウトを張り上げみせる”Love Is Gonna Lift You Up”など、電子楽器を単なる生楽器の代替品に留めず、新しいサウンドやアレンジを生み出すツールとして積極的に活用した曲が目立つ。

だが、それと同時に、加齢による衰えこそ見えるものの、前衛的なトラックを目の前にしても動じることなく、若いころ変わらないパワフルなヴォーカルを愚直に響かせるボビーの存在が、楽曲にある種の懐かしさと普遍性を与えていると思う。

彼らの音楽を聴くと、どんなに時代が変わっても、歌手に求められるものは変わらないことを再認識させられる。ボビーのような「歌」で相手の心に何かを残してくれる歌手が、これからも増えてほしいと願うばかりだ。

Producer
Damon Albarn, Richard Russell

Track List
1. The Bravest Man In The Universe
2. Please Forgive My Heart
3. Deep River
4. Dayglo Reflection feat. Lana Del Rey
5. Whatever Happened To The Times
6. Stupid
7. If There Wasn't Something There
8. Love Is Gonna Lift You Up
9. Nothin' Can Save Ya feat. Fatoumata Diawara
10. Jubilee (Don't Let Nobody Turn You Around)





Bravest Man in the Universe
Bobby Womack
Xl Recordings
2012-06-12


 

Musiq Soulchild & Syleena Johnson – 9ine [2013 Shanachie]

2001年のデビュー以来、フィラデルフィア発の次世代シンガーとして、”Just Friends(Sunny)”や”Half Crazy”などのヒット曲を立て続けに送り出してきたミュージック・ソウルチャイルド。かたやシカゴ・ブルース界の重鎮シル・ジョンソンの娘として、自身の名義でも7枚のアルバムを発表してきたシリーナ・ジョンソン。シカゴとフィラデルフィア、両都市を代表する新世代シンガーのコラボレーション作品が、2013年に発売された本作だ。

両者によるレコーディング作品での競演は、意外にもこれが初めて。だが、生バンドと機械を使ったトラックの両方に強く、ミディアム、スロー・テンポを中心にじっくりと歌い込む音楽スタイルという共通点を持っている、二人の歌の相性は想像以上に良い。そんな二人の作品は、カルヴィン・リチャードソンによるボビー・ウーマックのカヴァー集や、リーラ・ジェイムズによるエッタ・ジェイムズのカヴァー集など、本格的なソウル作品も手掛けてきたニュージャージーのシャナチー・レコードということもあり、主役の歌をじっくり聴かせるアルバムになっている。

物腰柔らかなミュージックと、逞しいシリーナの歌声を結びつけた本作の基調となるスタイルは、意外にもレゲエ。ルチアーノやジュニア・リードにもリディム(レゲエのトラックのこと)を提供している、DJフレヴァーによるトラックは、80年代の終盤、ベレス・ハモンドやウェイン・ワンダーなどの作品でよく見られた、チープな音色のシンセサイザーを使ったもので、高性能なDAWソフトが普及した21世紀の音楽に聴き慣れた耳には、新鮮に映るから面白い。レゲエのゆったりとした雰囲気と、インディー・レーベルらしいチャレンジ精神に溢れる楽曲で、2人の実力派シンガーの意外な一面を引き出している。

アルバムの看板となる”Feel The Fire”は、いかにもダンス・ホール・レゲエらしい、勇ましい雄叫びから始まるミディアム・ナンバー。いつもより色っぽいシリーナのヴォーカルが聴きどころだ。一方、ミュージックとシリーナが肩の力を抜いてゆったりと歌い上げる”Slow Love”や、まったりとしたトラックの上で、シリーナの母性を感じさせる柔らかい歌唱が光る”Pieces Of You”、のんびりとした演奏をバックに、普段の2人からは想像できない、肩の力を抜いたデュエットを披露する”Bring Me Down”など、DJフレヴァーが生み出す緩やかなビートをバックに、肩の力を張らない、リラックスした雰囲気の中で伸び伸びとソウルフルな歌声を響かせている。

作品全体を通して聞くと、少し単調に聞こえる部分もあるが、それは高い水準でまとまった本作の統一感の裏返しで、退屈さとは違うものだと思う。2人の実力派シンガーの、普段とは違う一面と、高い歌唱力が楽しめる。

Producer
Flava McGregor

Track List
1. Alright
2. Feel The Fire
3. The Hunger
4. Slow Love
5. So Big
6. Never Had
7. Pieces Of You
8. Bring Me Down
9. Promise
10. Feel The Fire (Dancehall Stylee)





9ine
Musiq Soulchild & Syleena Johnson
Shanachie
2013-09-24

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