2014年に配信限定でリリースした、1作目のミックス・テープ『Cloud 19』が、アメリカの音楽情報サイトで「2014年を代表するアルバム・ランキング」の28位に選出され、翌2015年に発表した2作目のミックス・テープ『You Should Be Here』が、自主制作の作品ながら、ビルボードのR&B・ヒップホップ・アルバム・チャートで8位を獲得。ザ・ウィークエンドやミゲルと並んで、グラミー賞のベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートするなど、メジャー・レーベルと契約する前から華々しい活躍を見せている、カリフォルニア州オークランド出身のシンガー・ソングライター、ケラーニことケラーニ・アシュリー・パニッシュ。
『You Should Be Here』の発売直後にアトランティックと契約すると、ジャスティン・ビーバーや元ワン・ダイレクションのゼインの楽曲でフィーチャーされたり、映画『スーサイド・スクアッド』のサウンド・トラックに新曲を提供したりと、アルバム・リリース前の新人にもかかわらず多くの大舞台を経験してきた。
そして契約から約2年、2017年1月にアトランティックから発表された『SweetSexySavage』は、彼女にとってキャリア初のフル・アルバムであり、自身名義の録音では初めてCDで発売された作品だ(CDRも含めれば『You Should Be Here』などがフィジカル・リリースされている)。
『You Should Be Here』ではチャンス・ザ・ラッパーやBJザ・シカゴ・キッドなど、豪華なゲストが参加していたが、今作ではリル・スージーが”Piece Of Mind”にフィーチャーされた程度。ほとんどの曲は彼女一人で歌っている。しかし、プロデューサーにはアリシア・キーズやモニカなどを手掛けているポップ&オークや、トレイ・ソングスやウィズ・カリファなどの作品に関わっているフィーザーストーンズなど、R&Bやヒップホップ界隈の実力者を揃えている。
アルバムの収録曲に目を向けると、2016年にリリースされたシングル曲”Distraction”は、ポップ&オークがプロデュースしたミディアム・ナンバー。オール・セインツの新曲と勘違いしそうな、爽やかな歌声から始まるイントロにはちょっと驚くが、その後は、キュートな歌声を振り絞って粘り強く歌い込む、ポップなようでディープな曲。マイアにも似ている可愛らしい声と、K.ミシェルのようなタフな喉を兼ね備えた彼女のヴォーカルが思う存分味わえる。
それ以外の曲では、エイコンの”Don't Matter”(余談だが、この曲自体がボブ・マーレイの”Zimbabwe”をサンプリングしている)をサンプリングした”Undercover”も面白い。アフリカの広い大地を想像させるスケールの大きなバラードを解体、再構築して、跳ねるようなビートのミディアム・ナンバーに作り変えたチャーリー・ヒートの手腕には、ひたすら脱帽するしかない。エイコンの持ち味である、アフリカ音楽を連想させる華やかな音色のビートを上手に活用した佳曲だ。
また、この他にも、デニシア・アンドリューズとブリタニー・コネイのコンビが携わった”CRZY”は、シンセサイザーを多用したミディアム・バラード。リアーナの”Umbrella”が大ヒットしたあと、R&B界に一大ブームを巻き起こした、シンセサイザーを使った扇情的なトラックと、力強くアグレッシブなヴォーカルが合わさった、聴きごたえのある曲も収められている。
こうやって聴いてみると、彼女の音楽の特徴は大きく分けると二つあるように思える。一つは個性的な声、もう一つは新旧のR&Bと適度な距離を置いたトラックだ。
まず、彼女のヴォーカルだが、ケラーニの声はマイアやニベアの流れを汲む、可愛らしさをウリにしたシンガーだ。実際、そんな彼女の歌声を活かした、ポップな節回しが収録曲の随所で顔を覗かせている。しかし、それは彼女の一面に過ぎず、”Distraction”や”CRZY”のサビなど、じっくりと歌い込むことが求められる場所では、クリセット・ミッシェルやシリーナ・ジョンソンのような力強く、表情豊かな歌声も披露するなど、単なるポップ・スターとも、本格的なディーヴァとも違う、独自の立ち位置を発揮している。
一方、トラックはポップ&オークをはじめとする、プロデューサー陣の存在が大きい。”Distraction”や”CRZY”のような、 コンピューターが制作環境の中心になった現代らしい、電子楽器主体のトラックがある一方で、アリーヤの”More Than A Woman”を取り入れた”Too Much”や、ニュー・エディションの”If It Isn't Love”を使った”In My Feelings”など、80年代から2000年代前半にヒットしたR&Bも存在感を発揮している。中でも、後者の楽曲は、原曲の音を組み替えたり、元ネタとは全く異なるタイプのメロディと組み合わせたりすることで、往年のR&Bのエッセンスを取り込みつつ、2017年の新作らしい、新鮮な楽曲に仕立て上げている。
ウィークエンドやサム・スミス、ブルーノ・マーズなど、色々な国から実力派の男性シンガーがデビューする中、女性シンガーはビヨンセやリアーナなど、キャリアの長い中堅~ベテラン・シンガーの活躍が目立つばかりで、女性ヴォーカルが好きな人には、ちょっと寂しい時代が長い間続いていた。大衆性と実力を兼ね備えた彼女は、そんな流れを打ち破って、女性シンガーの時代を復活させてくれるかもしれない。そう思わせる内容だった。
Producer
Pop & Oak, Matt Campfield, Danny Klein etc
Track List
1. Intro
2. Keep On
3. Distraction
4. Piece Of Mind
5. Undercover
6. CRZY
7. Personal
8. Not Used To It
9. Everything Is Yours
10. Advice
11. Do U Dirty
12. Escape
13. Too Much
14. Get Like
15. In My Feelings
16. Hold Me By The Heart
17. Thank You
18. I Wanna Be
19. Gangsta (From “Suicide Squad The Album”)
『You Should Be Here』の発売直後にアトランティックと契約すると、ジャスティン・ビーバーや元ワン・ダイレクションのゼインの楽曲でフィーチャーされたり、映画『スーサイド・スクアッド』のサウンド・トラックに新曲を提供したりと、アルバム・リリース前の新人にもかかわらず多くの大舞台を経験してきた。
そして契約から約2年、2017年1月にアトランティックから発表された『SweetSexySavage』は、彼女にとってキャリア初のフル・アルバムであり、自身名義の録音では初めてCDで発売された作品だ(CDRも含めれば『You Should Be Here』などがフィジカル・リリースされている)。
『You Should Be Here』ではチャンス・ザ・ラッパーやBJザ・シカゴ・キッドなど、豪華なゲストが参加していたが、今作ではリル・スージーが”Piece Of Mind”にフィーチャーされた程度。ほとんどの曲は彼女一人で歌っている。しかし、プロデューサーにはアリシア・キーズやモニカなどを手掛けているポップ&オークや、トレイ・ソングスやウィズ・カリファなどの作品に関わっているフィーザーストーンズなど、R&Bやヒップホップ界隈の実力者を揃えている。
アルバムの収録曲に目を向けると、2016年にリリースされたシングル曲”Distraction”は、ポップ&オークがプロデュースしたミディアム・ナンバー。オール・セインツの新曲と勘違いしそうな、爽やかな歌声から始まるイントロにはちょっと驚くが、その後は、キュートな歌声を振り絞って粘り強く歌い込む、ポップなようでディープな曲。マイアにも似ている可愛らしい声と、K.ミシェルのようなタフな喉を兼ね備えた彼女のヴォーカルが思う存分味わえる。
それ以外の曲では、エイコンの”Don't Matter”(余談だが、この曲自体がボブ・マーレイの”Zimbabwe”をサンプリングしている)をサンプリングした”Undercover”も面白い。アフリカの広い大地を想像させるスケールの大きなバラードを解体、再構築して、跳ねるようなビートのミディアム・ナンバーに作り変えたチャーリー・ヒートの手腕には、ひたすら脱帽するしかない。エイコンの持ち味である、アフリカ音楽を連想させる華やかな音色のビートを上手に活用した佳曲だ。
また、この他にも、デニシア・アンドリューズとブリタニー・コネイのコンビが携わった”CRZY”は、シンセサイザーを多用したミディアム・バラード。リアーナの”Umbrella”が大ヒットしたあと、R&B界に一大ブームを巻き起こした、シンセサイザーを使った扇情的なトラックと、力強くアグレッシブなヴォーカルが合わさった、聴きごたえのある曲も収められている。
こうやって聴いてみると、彼女の音楽の特徴は大きく分けると二つあるように思える。一つは個性的な声、もう一つは新旧のR&Bと適度な距離を置いたトラックだ。
まず、彼女のヴォーカルだが、ケラーニの声はマイアやニベアの流れを汲む、可愛らしさをウリにしたシンガーだ。実際、そんな彼女の歌声を活かした、ポップな節回しが収録曲の随所で顔を覗かせている。しかし、それは彼女の一面に過ぎず、”Distraction”や”CRZY”のサビなど、じっくりと歌い込むことが求められる場所では、クリセット・ミッシェルやシリーナ・ジョンソンのような力強く、表情豊かな歌声も披露するなど、単なるポップ・スターとも、本格的なディーヴァとも違う、独自の立ち位置を発揮している。
一方、トラックはポップ&オークをはじめとする、プロデューサー陣の存在が大きい。”Distraction”や”CRZY”のような、 コンピューターが制作環境の中心になった現代らしい、電子楽器主体のトラックがある一方で、アリーヤの”More Than A Woman”を取り入れた”Too Much”や、ニュー・エディションの”If It Isn't Love”を使った”In My Feelings”など、80年代から2000年代前半にヒットしたR&Bも存在感を発揮している。中でも、後者の楽曲は、原曲の音を組み替えたり、元ネタとは全く異なるタイプのメロディと組み合わせたりすることで、往年のR&Bのエッセンスを取り込みつつ、2017年の新作らしい、新鮮な楽曲に仕立て上げている。
ウィークエンドやサム・スミス、ブルーノ・マーズなど、色々な国から実力派の男性シンガーがデビューする中、女性シンガーはビヨンセやリアーナなど、キャリアの長い中堅~ベテラン・シンガーの活躍が目立つばかりで、女性ヴォーカルが好きな人には、ちょっと寂しい時代が長い間続いていた。大衆性と実力を兼ね備えた彼女は、そんな流れを打ち破って、女性シンガーの時代を復活させてくれるかもしれない。そう思わせる内容だった。
Producer
Pop & Oak, Matt Campfield, Danny Klein etc
Track List
1. Intro
2. Keep On
3. Distraction
4. Piece Of Mind
5. Undercover
6. CRZY
7. Personal
8. Not Used To It
9. Everything Is Yours
10. Advice
11. Do U Dirty
12. Escape
13. Too Much
14. Get Like
15. In My Feelings
16. Hold Me By The Heart
17. Thank You
18. I Wanna Be
19. Gangsta (From “Suicide Squad The Album”)