2007年にジャイルズ・ピーターソン率いるブランズウッドからアルバム『The Dreamer』でデビュー。その後は、フィンランドのリッキー・トリックやアメリカのインパルス!など、複数の名門レーベルに録音を残したあと、2012年にブルー・ノートと契約した、ミネソタ州ミネアポリス出身のヴォーカリスト、ホゼ・ジェイムズ。同レーベルに加入した後は、ノラ・ジョーンズやロバート・グラスパーとともに、ジャズとポピュラー・ミュージック、ソウル・ミュージックやR&Bを融合した音楽で、ジャズの新しい形を作り上げるとともに、ジャズ・リスナーの裾野を広げることに大きく貢献してきた。
この作品は、2014年に発表された2枚の新録『While You Were Sleeping』『Yesterday I Had the Blues』以来、3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。『While You Were Sleeping』ではブルー・ノートでの初作『No Beginning No End』以降の作品で見せている、ネオ・ソウルやオルタナティブR&Bのエッセンスを取り入れた、前衛的なパフォーマンスを聴かせてくれた一方で、『Yesterday I Had the Blues』では、ビリー・ホリデイに関する楽曲をピアノ・トリオ+ヴォーカル(一部の曲ではキーボードも担当)という編成で演奏して、歌手や演奏者としての実力の高さもしっかりとアピールしていた。
このような、対照的な個性を持つ2作品を経てリリースされた今回のアルバムは、デビュー以来、彼に付きまとう「ジャズ」や「ネオ・ソウル」というイメージからの脱却を狙った意欲作。
アルバムのオープニングを飾る”Always There”は、ゴムボールのように跳ねるバス・ドラムと、ストリングスやコーラスのような荘厳でクールなシンセサイザーの伴奏が、神秘的な雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。カニエ・ウエストの『The Life Of Pablo』や、ザ・ウィークエンドの『Starboy』を彷彿させる、デジタル音源を効果的に使ったポップで前衛的なビートが印象的だ。
しかし、クリスチャンR&Bシンガーのマリ・ミュージックをフィーチャーした”Let It Fall”では一転、ギターやパーカッションの武骨だけど柔らかい音色を演奏の中軸に据えた、心地よいバラードを聴かせてくれる。スタイリッシュな歌唱のホゼと、荒削りなヴォーカルのマリという、声質も歌唱スタイルの異なる二人が。互いに相手の持ち味を引き出し、楽曲に起伏をつけているのが面白い。
そして、本作からのリード・トラック”Live Your Fantasy”はマーク・ロンソンのブレイク以降、ブラック・ミュージック業界の鉄板ネタになりつつある、ディスコ音楽とファンク・ミュージックが融合した”Uptown Funk”スタイルの楽曲。もっとも、カニエ・ウエストやジェイミーxxも愛聴する彼の音楽は、電子楽器の冷たい音色を効果的に使った、SF映画の世界のような、近未来的な雰囲気すらも感じさせる佳曲。電子音を強調した楽曲ということで、ホゼと同郷の大物、プリンスやザ・タイムの音楽にもちょっと似ている。
また、ディスコ音楽とファンク・ミュージックの融合という視点に立てば”Ladies Man”も捨てがたい。ギターのカッティングやホーンセクションの活用という意味では、最も“Uptown Funk”に近いスタイルかもしれない。
それ以外にも”You Know I Know”や”Closer”、”I'm Yours”なども見逃せない佳曲が並んでいる。90年代にR&Bで多用されたチキチキというビートや、ささやきかけるようなヴォーカルがなんとも言えない雰囲気を醸し出しているミディアム”You Know I Know”や、フライング・ロータスやサンダーキャットが作りそうな、歪んだ低音が鳴り響くビートの上で、しっとりとした歌声を響かせる”Closer”のように前衛的なトラックをウリにする曲が存在感を示している一方で、ピアノをバックにホゼとオレータがじっくりと歌を聴かせる”I'm Yours”で締めるなど。アナログとデジタル、最先端とクラシックの両方に目を配り、配置に拘った構成が魅力的だ。
彼のインタビューを読む限り、ディアンジェロなどのネオ・ソウルを扱うミュージシャンと比較されることや、デビューまでの経緯や現在の所属レーベルを根拠に、新しいジャズを切り開く開拓者というイメージを持たれることをかなり気にしていたようだ。だが、実際の彼は、好きな音楽がヒップホップジャズ、トラップ、エレクトロと、年相応の幅広い趣味で、それらの要素を融合した音楽を志向している彼からすれば、ネオ・ソウルもジャズも好きな音楽の一つに過ぎないのだろう。
そして、本作を聴く限り、そんな彼の趣向はきちんと作品に結びついていると思う。電子楽器の使い方は、カニエやウィークエンド、ザ・インターネットのような、R&B,ヒップホップのトレンドを牽引するミュージシャンの影響が反映されている一方で、メロディはディアンジェロやエリカ・バドゥのような、ちょっと癖のあるネオ・ソウル・シンガーの作風とジャズ・ヴォーカル作品のスタイルが融合したものだ。そして、ホゼのヴォーカルは、都会育ちの洗練された歌唱をベースに、自分の声を楽器のように大胆に使って、色々な曲調にも柔軟に対応している。このような、アーティストとしての自己主張の強さと、シンガーとしての適応能力の高さが、彼の最大の強みだと思う。
ジャズ・シンガーがジャズ以外の音楽も取り込み、一人のアーティストとして脱皮した結果、歌と演奏が一体となって斬新な音楽へと結びついた名作が生まれた。ジャズの世界で培われた高い演奏技術と、新しい音楽に敏感な感性が生み出したブラック・ミュージック傑作だと思う。
Producer
Antario Holmes, Like Minds
Track List
1. Always There
2. What Good Is Love
3. Let It Fall feat. Mali
4. Last Night
5. Remember Our Love
6. Live Your Fantasy
7. Ladies Man
8. To Be With You
9. You Know I Know
10. Breakthrough
11. Closer
12. I'm Yours feat. Oleta Adams
この作品は、2014年に発表された2枚の新録『While You Were Sleeping』『Yesterday I Had the Blues』以来、3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。『While You Were Sleeping』ではブルー・ノートでの初作『No Beginning No End』以降の作品で見せている、ネオ・ソウルやオルタナティブR&Bのエッセンスを取り入れた、前衛的なパフォーマンスを聴かせてくれた一方で、『Yesterday I Had the Blues』では、ビリー・ホリデイに関する楽曲をピアノ・トリオ+ヴォーカル(一部の曲ではキーボードも担当)という編成で演奏して、歌手や演奏者としての実力の高さもしっかりとアピールしていた。
このような、対照的な個性を持つ2作品を経てリリースされた今回のアルバムは、デビュー以来、彼に付きまとう「ジャズ」や「ネオ・ソウル」というイメージからの脱却を狙った意欲作。
アルバムのオープニングを飾る”Always There”は、ゴムボールのように跳ねるバス・ドラムと、ストリングスやコーラスのような荘厳でクールなシンセサイザーの伴奏が、神秘的な雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。カニエ・ウエストの『The Life Of Pablo』や、ザ・ウィークエンドの『Starboy』を彷彿させる、デジタル音源を効果的に使ったポップで前衛的なビートが印象的だ。
しかし、クリスチャンR&Bシンガーのマリ・ミュージックをフィーチャーした”Let It Fall”では一転、ギターやパーカッションの武骨だけど柔らかい音色を演奏の中軸に据えた、心地よいバラードを聴かせてくれる。スタイリッシュな歌唱のホゼと、荒削りなヴォーカルのマリという、声質も歌唱スタイルの異なる二人が。互いに相手の持ち味を引き出し、楽曲に起伏をつけているのが面白い。
そして、本作からのリード・トラック”Live Your Fantasy”はマーク・ロンソンのブレイク以降、ブラック・ミュージック業界の鉄板ネタになりつつある、ディスコ音楽とファンク・ミュージックが融合した”Uptown Funk”スタイルの楽曲。もっとも、カニエ・ウエストやジェイミーxxも愛聴する彼の音楽は、電子楽器の冷たい音色を効果的に使った、SF映画の世界のような、近未来的な雰囲気すらも感じさせる佳曲。電子音を強調した楽曲ということで、ホゼと同郷の大物、プリンスやザ・タイムの音楽にもちょっと似ている。
また、ディスコ音楽とファンク・ミュージックの融合という視点に立てば”Ladies Man”も捨てがたい。ギターのカッティングやホーンセクションの活用という意味では、最も“Uptown Funk”に近いスタイルかもしれない。
それ以外にも”You Know I Know”や”Closer”、”I'm Yours”なども見逃せない佳曲が並んでいる。90年代にR&Bで多用されたチキチキというビートや、ささやきかけるようなヴォーカルがなんとも言えない雰囲気を醸し出しているミディアム”You Know I Know”や、フライング・ロータスやサンダーキャットが作りそうな、歪んだ低音が鳴り響くビートの上で、しっとりとした歌声を響かせる”Closer”のように前衛的なトラックをウリにする曲が存在感を示している一方で、ピアノをバックにホゼとオレータがじっくりと歌を聴かせる”I'm Yours”で締めるなど。アナログとデジタル、最先端とクラシックの両方に目を配り、配置に拘った構成が魅力的だ。
彼のインタビューを読む限り、ディアンジェロなどのネオ・ソウルを扱うミュージシャンと比較されることや、デビューまでの経緯や現在の所属レーベルを根拠に、新しいジャズを切り開く開拓者というイメージを持たれることをかなり気にしていたようだ。だが、実際の彼は、好きな音楽がヒップホップジャズ、トラップ、エレクトロと、年相応の幅広い趣味で、それらの要素を融合した音楽を志向している彼からすれば、ネオ・ソウルもジャズも好きな音楽の一つに過ぎないのだろう。
そして、本作を聴く限り、そんな彼の趣向はきちんと作品に結びついていると思う。電子楽器の使い方は、カニエやウィークエンド、ザ・インターネットのような、R&B,ヒップホップのトレンドを牽引するミュージシャンの影響が反映されている一方で、メロディはディアンジェロやエリカ・バドゥのような、ちょっと癖のあるネオ・ソウル・シンガーの作風とジャズ・ヴォーカル作品のスタイルが融合したものだ。そして、ホゼのヴォーカルは、都会育ちの洗練された歌唱をベースに、自分の声を楽器のように大胆に使って、色々な曲調にも柔軟に対応している。このような、アーティストとしての自己主張の強さと、シンガーとしての適応能力の高さが、彼の最大の強みだと思う。
ジャズ・シンガーがジャズ以外の音楽も取り込み、一人のアーティストとして脱皮した結果、歌と演奏が一体となって斬新な音楽へと結びついた名作が生まれた。ジャズの世界で培われた高い演奏技術と、新しい音楽に敏感な感性が生み出したブラック・ミュージック傑作だと思う。
Producer
Antario Holmes, Like Minds
Track List
1. Always There
2. What Good Is Love
3. Let It Fall feat. Mali
4. Last Night
5. Remember Our Love
6. Live Your Fantasy
7. Ladies Man
8. To Be With You
9. You Know I Know
10. Breakthrough
11. Closer
12. I'm Yours feat. Oleta Adams