melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年02月

Ray BLK - Durt [2016 Ray BLK Self Release]

BBCが主催し、DJや評論家、ライブ・イベントのブッキング担当者などの投票によって決定される英国の音楽賞「Sound of ...」。2003年の第1回以降、アデルやコリーヌ・ベリー・レイ、サム・スミスといった、後に英国の音楽シーンを代表する面々が受賞し、若手音楽家の登竜門と位置付けられてきた同賞を2017年に獲得したのが、ナイジェリア出身、サウス・ロンドン育ちのシンガー・ソングライター、レイ・ブラックことリタ・エクウェラだ。

2016年に発表された本作は、彼女にとって2枚目のEP。このアルバムは同賞の獲得者では初となる、レーベルとの契約を結ばずにリリースされた作品。また、同賞の1位(=Winner)獲得者のアルバムでは極めて珍しい、配信限定で販売された作品でもある。

9歳の頃から自分の音楽を作っていたという彼女。その頃から、既に色々なミュージシャンの作風を研究しており、特に、テレビから流れるミッシー・エリオットやリュダクリスのパフォーマンスに強い影響を受けたという。そして、13歳の時には、同じ学校に通っていたMNEKと音楽ユニットを結成。そのユニットではビヨンセやマドンナなどとも仕事をしている。

その後、彼女はロンドンのブルネル大学に進学。そこでは、英文学を専攻する傍らで、初のソロ作品となるEP『Havisham』をレコーディング。R&Bやヒップホップ、トラップをベースにした個性的なサウンドと、チャールズ・ディゲンズの『大いなる遺産』に登場するミス・ハヴィシャムに触発された文学的なリリックで、自主制作の録音ながら多くの人から注目を集めた。

今回のアルバムも、基本的な路線は前作と同じ。エレクトロ・ミュージックやトラップなどを取り入れた斬新なビートと、文学少女(?)らしい、言葉の響きやリズムにも気を配った歌やラップが光る好作品だ。

まず、本作の収録曲で目を引くのは、アルバムに先駆けて発表された"5050"だ。ゴム毬のように跳ねる電子音を組み合わせて作られた変則的なビートに乗せて繰り出されるのは、スウェーデンのロック・バンド、カーディガンズの世界的ヒット曲"Lovefool"のメロディ。多くの人に親しまれている有名なポップスのメロディを引用しつつ、間に鋭い語り口のラップを挟み込んで、最先端のヒップホップに着地させるセンスと技術は恐ろしいの一言だ。

一方、リヴァプールを拠点に活動するエレクトロ・ミュージックのクリエイター、SGルイスとコラボレーションした"Chill Out"は、ラップとヴォーカルを巧みに使い分けた、電子音楽版ローリン・ヒルといった趣のミディアム・ナンバー。SGルイスのフワフワとした肌触りが心地よいトラックの上で、透き通った歌唱とワイルドなラップを同時にこなすリタのスキルが思う存分堪能できる楽曲だ。また、ロンドンを拠点に活動するラッパー、レッチ32をフィーチャーした"Gone"は、そのローリン・ヒルが在籍していたラップ・グループ、フージーズを彷彿させる、レコードや生楽器の音色を多用した温かいトラックを使ったミディアム・ナンバー。レッチの武骨で泥臭いラップとリタの気怠そうに歌うヴォーカルが、アコースティック楽器の音色とマッチしている佳曲だ。

そして、もう一つ見逃せないのは、ロンドン出身のラッパー、ストームジーが参加した"My Hood"だ。電子楽器とサンプリングを上手に組み合わせた、ゆったりとレイド・バックしたビートの上で、切ない気持ち荒っぽい歌い方で表現したレイと、言葉を冷静に淡々と紡ぎ出すストームジーの対照的な個性が光る楽曲。モニカにも似た感情豊かでダイナミックなヴォーカルや、アリーヤの『Age Ain't Nothing But a Number』を思い起こさせるシンセサイザーとサンプリング音を上手に使い分けたトラックが、90年代のR&Bを彷彿させる名曲だ。

既に多くの人が言及している通り、彼女の音楽はローリン・ヒルやミッシー・エリオットのような、歌とラップを上手に使い分けるアメリカの女性ミュージシャンの系譜に連なるアーティストだ。だが、その一方で、彼女の作品には、イギリスで流行しているエレクトロ・ミュージックとヒップホップが融合した音楽、グライムやトラップのエッセンスを絶妙な匙加減で混ぜ込んでいる点が特徴的だ。そのバランス感覚の良さが、イギリスのミュージシャンの魅力であるラジカルな感性と、アメリカのミュージシャンのような親しみやすさを両立しているのだと思う。

2ステップの要素を取り入れた楽曲で、アメリカを含む世界各地のヒット・チャートを席巻したクレイグ・デイヴィッドの再来を予感させる、イギリスの尖ったR&Bの魅力をわかりやすく咀嚼した、面白いアルバム。今後の飛躍が楽しみな、才気溢れるシンガーの魅力が凝縮された傑作だと思う。

Producer
Ray BLK

Track List
1.Baby Girlz
2.5050
3.Chill Out feat. SG Lewis
4.Gone feat. Wretch 32
5.Hunny
6.My Hood feat. Stormzy
7.Durt






Kaytranada ‎– 99.9%[2016 XL Recordings]

15歳のときに楽曲制作を始め、2010年以降はケイトラナダ名義でプロデュースやリミックス、ヨーロッパやオセアニア地域を含む世界各地でのライブ活動などを行なっている、ハイチのポルトープランス生まれ、カナダのモントリオール育ちのクリエイター、ルイス・ケヴィン・セレスティン。彼にとって、初のフル・アルバムとなる作品が、英国のXLレコーディングスからリリースされた。

これまではビート・メイカーとして、主に電子音楽の分野で楽曲制作やDJ、ライブ活動などを行う一方、プロデューサーや演奏者として、ジ・インターネットの2015年作『Ego Death』に収録されている"Gift"や、アンダーソン・パックが2016年に発表した『Malib』に収録の"Lite Weight"、バッドバッドノットグッドの2016年作『IV』に収録されている"Lavender"を手がけるなど、色々なジャンルの音楽に携わってきた彼。今回のアルバムでは、これらのコラボレーションを通して培った、幅広い人脈をフル活用して、ヴォーカル曲やラップものにも挑戦。インストゥメンタル曲やリミックスを通して磨かれた音に対する鋭いセンスと、シンガーの持ち味を活かした、親しみやすい作風の好作品に仕上げている。

まず、収録された15曲の中から、ヴォーカルものに目を向けると、クレイグ・デイヴィッドをフィーチャーした"Got It Good"と、アンダーソン・パックを起用した"Glowed Up"の2曲が目立っている。音と音の隙間を多めにとった、抽象的なトラックを採用している両曲。だが、前者はジェイ・ディラの作品を彷彿させるシンプルなビートに乗せて、流麗なメロディをじっくりと歌い込む、電子音楽版ディアンジェロといった趣の楽曲。耳元を爽やかに抜ける電子音と、クレイグのクールな歌声がマッチした佳曲だ。一方、後者は、電子音楽畑出身らしいルイスが作る前衛的なトラックと、ラップもこなせるパックのリズム感が光る楽曲。コンピュータでなければ作れない、ドラムから上物まで全てが異なる変則的なリズムを刻むトラックと、そこから一定のリズムを見出し、正確なメロディを紡ぎ出すパックのセンスが合わさった、奇抜だけど緻密な楽曲。この2曲は、ヴォーカルの個性に応じて、色々なスタイルを使い分けるケイトラナダの技術力が堪能できる名演だ。

それ以外の曲では、ドラマーが参加した2曲も面白い。まず、ストーンズ・スロウから3枚のアルバムを発表しているドラマーのカリーム・リギンズとトロント出身のシンガー・ソングライター、リヴァー・ティバーが参加した"Bus Ride"。こちらは、ジェイ・ディラやコモンの作品でも披露している、カリームの複雑なのに正確無比なビートと、リヴァー・ティバーのストリングスやホーンが心地よいインスト・ヒップホップ。また、彼らの作品でも共演しているカナダのジャズ・バンド、バッドバッドノットグッドと組んだ"Weight Off"は、カリーム・リギンズとは対極の荒っぽいけど力強く、勢いのある演奏が格好良い人力ドラムンベース。バンド演奏ならではの、ダイナミックなグルーヴが魅力的だ。

だが、彼の本領が発揮されているのは、コンピュータを駆使したインストゥメンタルだろう。中でも、ブラジルの女性シンガー、ガル・コスタの"Pontos de Luz"をサンプリングした"Lite Spots"は、ブラジル音楽独特のリズムを、前衛的な電子音楽の構成にうまくはめ込んだ、DJの経験も豊かな彼の編集センスが発揮された楽曲だ。

XLといえば、インディペンデント・レーベルでありながら、アデルやプロディジーなどの有名ミュージシャンの作品を取り扱う一方で、タイラー・ザ・クリエイターやジェイミーxxのような気鋭のアーティスト、ボビー・ウーマックの『Bravest Man in the Universe』や、ギル・スコット・ヘロンの『I'm New Here』といった大物の作品まで配給してきた英国の名門レーベル。その中でも、ボビー・ウーマックやギル・スコット・ヘロンのアルバムでは、経験豊かなミュージシャンとフレッシュな感性で評判の高いクリエイターをコラボレーションさせることで、先鋭的でありながら、キャッチーで聴きやすい音楽を聴かせてくれた。今回のアルバムでは、そのときのノウハウが活かされており、ケイトラナダの斬新なサウンドを、幅広い層から受け入れられているゲストの個性を合わせて、とっつきやすい楽曲に着地させているように映る。

ビート・メイカーの作る音楽というと、コンピュータを使った奇抜な作品をイメージする人も少なくない。だが、このアルバムでは斬新さを保ちつつ、尖った音楽に慣れていないリスナーの耳に届くよう、細かいところまで配慮されている。20代前半とは思えない、鋭い感性と老練さが両立された傑作だと思う。


Producer
Kaytranada

Track List
1. Track Uno
2. Bus Ride feat. Karriem Riggins and River Tiber
3. Got It Good feat. Craig David
4. Together feat. AlunaGeorge and GoldLink
5. Drive Me Crazy feat. Vic Mensa
6. Weight Off feat. BADBADNOTGOOD
7. One Too Many feat. Phonte
8. Despite the Weather
9. Glowed Up feat. Anderson .Paak
10. Breakdance Lesson N.1.
11. You're the One feat. Syd
12. Vivid Dreams feat. River Tiber
13. Lite Spots
14. Leave Me Alone feat. Shay Lia
15. Bullets feat. Little Dragon





99.90%
Kaytranada
Xlrec
2016-05-06

The Excitements - Breaking The Rules [2016 Penniman]

イギリスのスピードメーターやニュー・マスターサウンズ、フランスのシャオリン・テンプル・ディフェンダーズなど、ヨーロッパの各地から、世界に向けて熱いサウンドを発信しているファンク・バンド達。その中でも、黒人音楽のファンにとどまらず、幅広い層から注目を集めているのが、スペインを中心にヨーロッパ全土で活躍する7人組、ジ・エキサイトメンツだ。

一口にファンク・バンドと言っても、その音楽性はバンドによって様々。ソウル・ミュージックが原点のバンドもいれば、ジャズ・バンドが音楽性を広げる中でファンクに近づいていったグループもいる。若いバンドの中には、ヒップホップが音楽の原体験というバンドも少なくない。そして、彼らの場合は、リズム&ブルースやソウルから影響を受けながら、同時にロック(ロックンロールを含む)からも多くの影響を受けているという点が特徴だ。これは余談だが、彼らが所属するペニマン・レコード自体が、ガレージ・ロックやパンク・ロックの旧譜を再発するビジネスから始まったレーベル。だが、次第に、自社でも新譜を制作するようになり、彼らやリンボーズなどの作品をリリースする、総合レーベルへと転身。今の形になったのだ。

だが、ここでちょっと触れておきたいのが、ヨーロッパにおける黒人音楽の扱いだ。ビートルズやローリング・ストーンズの例を挙げるまでもなく、ヨーロッパのロック・ミュージシャンやそのファンの中には、アメリカのリズム&ブルースやブルースは、自分達が好きなアメリカの音楽のルーツと考え、蒐集、研究するミュージシャンが少なくない。そして、研究に夢中になる余り、音楽性をそっちの方面にシフトする人達も、少数ではあるが存在する。イギリスのロック・シンガー、イーライ・ペイパーボーイ・リードなどはその最たる例だろう。

さて、本題に戻ろう、彼らにとって、2013年の『Sometimes Too Much Ain´t Enough』以来の新録となる本作。といっても、所属レーベルやプロデューサー、録音スタジオといった環境は前作とほとんど同じ。プロデューサーには、ジャズやラテン音楽の録音を数多く手がけているマーク・テナと、ニューヨークを拠点に活動するガレージ・ロック・バンド、ザ・ラウンチ・ハンズのマイク・マリコンダが参加し、録音作品としての完成度はもちろん、ライブ向けのレパートリーとしても"使える"曲を用意している。

アルバムのオープニングを飾る曲で、同作からの先行シングルでもある"The Mojo Train"は、マーサ・リーヴス&ヴァンデラスの"Please Mr. Postman"の演奏を分厚くして、ヴォーカルを色っぽくしたミディアム・ナンバー。この曲のように、アンサンブルが肝になるポップな曲もきっちりこなせるところが、このバンドのすごいところ。ココ・ジーン・デイヴィスの力強く、溌剌とした歌が、重厚な楽曲にポップな印象を与えている。

一方、シングルのB面に収められている"I'll Be Waiting"(日本盤CDにはボーナス・トラックで収録)は、分厚いホーンを控え、パーカッションやギターを効果的に使った、ラテン・テイストの強い曲。60年代のアメリカでは、ラテン音楽を取り入れたポップスが数多く作られたが、それを意識した現行の黒人音楽バンドは珍しい。マーク・テナの手腕が光る魅力的な楽曲。

もちろん、それ以外にも見逃せない名演は多い。スペインのガレージ・ロック・バンド、ザ・メオウズのエンリック・ボッサーが作った"Wild Dog"は、8ビートと勇ましいホーン・セクションの組み合わせが、初期のモータウン作品や、彼らに影響を受けた英国のロックを彷彿させるアップ・ナンバー。彼女の、ソウル・ミュージックに染まりすぎない、歯切れの良い歌が、楽曲に軽快さを与えている。本作にハイライトとも言える名曲。

そして、もう一つだけ言及したいのが"Take It Back"の存在。ジェイムズ・ブラウンのステージを連想させる仰々しいオープニングに始まり、分厚いホーンの音色が下から支える、重厚な伴奏をバックに、サム・デイヴの"Soul Man"を思い起こさせる親しみやすいメロディーを繰り出すキャッチーなアップ・ナンバー。スマートな外見からは想像できない、貫禄たっぷりの歌声が素敵なソウル・ナンバーだ。

彼らの音楽の面白いところは、高いスキルを持ちながら、曲に応じて色々なスタイルを使い分けているところだろう。その象徴とも言えるのがヴォーカルのココ・ジーン・デイヴィスで、曲によって、パンク・ロックの歌手のように荒っぽく歌ったり、アメリカのソウル・シンガーのように貫禄たっぷりの歌を聴かせたりと、柔軟に演奏スタイルを変えている。しかも、それぞれのスタイルが自分本来の姿かのように、完璧に演じ切っている点はもっと評価されてもいいと思う。

もちろん、色々な楽曲に合わせて、柔軟に演奏スタイルを変えるバンド・メンバーや、彼らの持ち味を引き出しつつ、多くの人に親しまれそうな曲に落とし込む制作陣の技術も侮れない。色々な音楽を経験しているメンバーだからこそ作れる、ソウル・ミュージックの美味しいところが凝縮された佳作だ。

Producer
Marc Tena, Mike Mariconda

Track List
1. The Mojo Train
2. Fire
3. Wild Dog
4. Take It Back
5. Breaking the Rule
6. Everything Is Better Since You've Gone
7. Chicken Pickin'
8. Four Loves
9. Hold On Together
10. Did I Let You Down
11. Back to Memphis
12. I Want More
13. I'll Be Waiting (Bonus Track)





ブレイキング・ザ・ルール
ジ・エキサイトメンツ
Pヴァイン・レコード
2017-02-15


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