melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年04月

Chrisette Michele - Milestone [2016 Caroline Records, Rich Hipster]

社会学者と父と心理学者の母の間に生まれ、彼女自身もマルーン5のアダム・レヴィンやフージーズのワイクリフ・ジョンを輩出したファイブ・タウン・カレッジでヴォーカル・パフォーマンスを専攻。卒業後には、プロのシンガーとして活動を開始し、レコード・デビュー前の新人にも関わらず、ジェイZの”Lost One”や、ナズの”Can't Forget About You”、ゴーストフェイス・キラーの”Slow Down”など、名だたる大物の楽曲にフィーチャーされてきた、ニューヨークのセントラル・アイスリップ地区出身のシンガー・ソングライター、クリセット・ミッチェルこと、クリセット・ミッチェル・ペイン。

2007年にデフ・ジャムから満を持してデビュー作『I Am』を発表すると、20代前半(当時)とは思えない、貫禄のある落ち着いた歌唱と妖艶な歌声を披露。おしゃれな音楽に敏感な人から、熱狂的なソウル愛好家まで、多くの人々から注目を集めた。中でも、アルバムのオープニングを飾る”Like A Dream”は、近年でもラジオやライブの開演前BGMなどでしばし耳にするR&Bクラシックとなっている。

その後も、2015年までにデフ・ジャムやモータウンなどから、3枚のフル・アルバムと3枚の1枚のEP、3作のミックス・テープを発表。その一方で、自身名義のツアーをこなしつつ、メアリーJ.ブライジやキーシャ・コールの公演にも携わるなど、多忙な日々を送ってきた。だが、激務の中でも作品の質は衰えることなく、2009年にはウィル・アイ・アムをフィーチャーした”Be OK”でグラミー賞を獲得。他の作品でも、グラミー賞やソウル・トレイン・アワードなど、多くの音楽賞にノミネート、好セールスを記録してきた。

今回のアルバムは2015年に発表したEP『The Lyricists' Opus』と同じく、自身のレーベル、リッチ・ヒップスターからのリリース。配給元がモータウンからキャロラインに変わったが、制作の指揮をデビュー作から彼女の録音に携わっているダグ・エリソンがプロデュースを担当するなど、新たな環境でもスタイルを大きく変えることなく、従来の路線を踏襲した、豪華でロマンティックな大人向けのR&B作品に纏め上げている。

アルバムに先駆けて発表されたシングル曲”Unbreakable”は、シンセサイザーの低音を効果的に使ったスタイリッシュな伴奏と、ミッチェルのセクシーな歌声が格好良いミディアム・ナンバー。地声を使って歌うメロディ部分から、喉の負担が心配になるほど強烈な裏声を響かせるサビへと続く難解なメロディ楽曲を作り、歌ってしまう彼女の作曲技術と歌唱力にはびっくりしてしまう。

一方、フレンチ・モンタナなどを手掛けてきた、アンソニー・ノリスが携わっている”To the Moon”は、重厚なビートの上で、喉を絞った荒々しい歌声を張り上げるミディアム・バラード。メロディ部分で多用される中~低音域の力強い歌声は、タイプこそ違うがビヨンセの声と少し似ている気がする。壮大なスケールのメロディと、それを引き立てる荘厳なトラックはアデルの”Hello”にも見劣りしない、高い完成度が光る楽曲だ。

これに対し、ヤング・ストークスが手掛けた”Soulmate”は、音量を抑えた繊細なシンセサイザーの伴奏に乗って、繊細な表現を聴かせるスロー・ナンバー。芯の太い声で囁きかけるように歌う彼女の姿が光る、ロマンティックな楽曲。デビュー当時から表現の幅は広い歌手だったが、この曲ではその技術に一層の磨きをかけたように見える。

そして、2014年のアルバム『Mali Is...』も記憶に新しいマリ・ミュージックとのデュエット曲”Reinvent the Wheel”は、ホセ・ジェイムスの『 Love in a Time of Madness』を手掛けているアンタリオ・ホルムズが手掛けたアップ・テンポよりのミディアム。ピットブルやエイコンの作品を彷彿させる、鮮やかな音色のシンセサイザーを使ったトラックをバックに、ラップと歌を織り交ぜたパフォーマンスを披露している。一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎ出す真摯な姿勢が光るミッチェルを横目に、子供がボールで遊んでいるかのように、軽妙でリズミカルなラップを聴かせるマリの対照的な姿も面白い。

デビューから10年近く経ち、新しい流行が次々と生まれる中で発表された新作だが、今回のアルバムでも、彼女の作風はぶれることなく、少しずつだが着実に、磨き上げてられているように映った。彼女の音楽は、ビヨンセやリアーナのような爆発的なヒットや、トレンドをけん引する先進性には乏しいかもしれないが、発表から長い時間が経っても聴かれ続けているこれまでの作品のように、長きに渡って愛される求心力と普遍性があると思う。

シンプルだが味わい深い、スルメイカのようなR&B作品。新しい音楽を追いかけるのに疲れたとき、ふと手に取りたくなる隠れた名作だと思う。

Producer
Doug "Biggs" Ellison, Young Strokes, Blickie Blaze, Antario Holmes, Austin Powers

Track List
1. Diamond Letter
2. Steady
3. Meant to Be feat. Meet Sims
4. Soulmate
5. Unbreakable
6. To the Moon
7. Make Me Fall
8. Equal feat. Rick Ross
9. These Stones
10. Indy Girl
11. Us Against the World
12. Reinvent the Wheel feat. Mali Music





Milestone
Chrisette Michele
Rich Hipster
2016-06-10

Cameron Graves - Planetary Prince [2017 Mack Avenue]

キャメロン・グレイヴスはカリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のピアニスト。13歳の時に、同じハイスクールに通っていたカマシ・ワシントンと出会い、その後、2人にステファン・ブルーナー(後のサンダーキャット)、ステファンの兄であるロナルド・ブルーナー・ジュニアの4人で音楽ユニット、ヤング・ジャズ・ジャイアンツを結成。2004年に『Young Jazz Giants』でレコード・デビューを果たす。

その後、彼自身はリオン・ウェアが2008年にスタックスから発表したアルバム『Moon Ride』のタイトル曲をプロデュースしたほか、ロック・バンド、ウィックド・ウィズダムや、カマシも参加しているジャズ・バンド、ネクスト・ステップなどに参加。2015年にはスタンリー・クラークの来日公演や、カマシ・ワシントンのヒット作『Epic』に携わったことでも話題になった。

このアルバムは、そんな彼にとって初のソロ・アルバム。デトロイトに拠点を置くインディー・レーベル、マック・アヴェニューから複数のフォーマットで発売されており、プロデュースは彼自身。レコーディングには、『Truth』で共演したばかりのカマシ・ワシントンがサックスで参加している他、『Drunk』が好評のステファン・ブルーナー(”The End of Corporatism”と”Isle of Love”のみ)がベースを、彼の兄で、自身の名義では初のアルバムとなる『Triumph』を発表したばかりのロナルド・ブルーナー・ジュニアがドラムを担当している。それ以外にも、ジョン・マクラーリンとの共演したデビュー作も話題になった、先鋭的なセンスが魅力的なパリ出身のベーシスト、ヘイドリアン・フェラウドや、ネクスト・ステップの一員として活動しながら、アンソニー・ハミルトンの2011年作『Back To Life』やケンドリック・ラマーの2015年作『To Pimp A Butterfly』などでも演奏を披露しているトロンボーン奏者のライアン・ポーター、ビッグ・バンド・ジャズからロックまで、幅広いジャンルの作品に携わってきた、トランペット奏者のフィリップ・ダイザックなど、演奏技術と鋭い感性に定評のある面々を揃えている。

まず、ステファンが参加した2曲に目を向けると、アルバムの5曲目の収められている”The End of Corporatism”は、音の高低や強弱の激しい演奏が印象的なアップ・ナンバー。鍵盤の上で踊るようにフレーズを奏でるキャメロンのピアノを軸に、ピアノとデュエットをするかのように、複雑なフレーズを目にも止まらぬ速さでかき鳴らすステファンのベース、二人に負けじと、マシンガンのように音を飛ばすロナルドによるバトルが聴きどころ。3人の激しいプレイを脇から支えつつ、シンプルかつキャッチーなメロディで楽曲のバランスを整えているホーン・セクションの仕事も見逃せない。

一方、ミディアム・テンポの”Isle of Love”は、モーツァルトの月光を彷彿させるダイナミックなピアノと、力強く、激しいグルーヴを奏でるステファンの演奏が面白い楽曲。中盤で見せるカマシのソロ・パートの複雑で色っぽいサウンドも気持ち良い。この曲では脇役に徹しているが、緩急をつけつつ、難しいフレーズの正確に演奏しているロナルドの存在が楽曲の完成度を高めていると思う。

また、それ以外の曲に目を向けると、アルバムのオープニングを飾る”Satania Our Solar System”は、アリス・コルトレーンを思い起こさせる優雅で神秘的なピアノで幕を開けるアップ・ナンバー。その後、一気にテンポを上げ、各人が切れ味鋭いフレーズを繰り出すが、中でも目立ってるのはフィリップ・ダイザックのトランペット。エレクトリック・サウンドと生音の違いはあるが、マイルス・デイヴィスが”Bitches Brew”で見せたパフォーマンスにも通じる、音と音の隙間を効果的に使った、シンプルだが存在感のあるフレーズが光っている。

そして、しっとりとしたピアノの演奏から始まる”Adam & Eve”は、キャメロンのピアノにスポットを当てた楽曲。クラシック音楽の演奏家を彷彿させる、感情豊かな音色と、流麗で緻密な指捌きが光る楽曲。ピアノの鍵盤全てを効果的に使った、ダイナミックな演奏も魅力的だ。

今回のアルバムは、過去の録音では使用していたキーボードを封印し、ピアノ一本で勝負した野心的な作品だ。だが、本作の彼は、テンポ、音域、強弱を自在に操り、1台のピアノから様々な音色を引き出している。その手法は、チック・コリアのようにダイナミックでもあり、ハービー・ハンコックのようにキャッチーでもあり、セシル・テイラーのように先鋭的でもある。

カマシ・ワシントンの『Truth』ロナルド・ブルーナーの『Triumph』マイルズ・モーズリーの『Uprising』と同様に、ジャズの醍醐味を残しつつ、ジャズに詳しくない人でも楽しめる、シンプルだが味わい深い作品。キャッチーなフレーズと、一聴しただけでハイレベルとわかる演奏技術を、ぜひ堪能してほしい。

Producer
Gretchen Valade, Cameron Graves

Track List
1. Satania Our Solar System
2. Planetary Prince
3. El Diablo
4. Adam & Eve
5. The End of Corporatism
6. Andromeda
7. Isle of Love
8. The Lucifer Rebellion





Planetary Prince [Analog]
Cameron Graves
Mack Avenue
2017-05-26

 

Ephemerals - Egg Tooth [2017 Jalapeno Records]

イギリス出身のギタリスト、ニコラス・ヒルマンと、フランス系アメリカ人のサックス奏者、ウォルフガング・パトリック・ヴァルブルーナが中心になって結成したファンク・バンド、エフェメラルズ。60年代、70年代のブラック・ミュージックを取り込んだサウンドと、ヴァルブルーナのエネルギッシュな歌唱が話題になり、ジャイルズ・ピーターソンやクレイグ・チャールズなどのラジオ番組でヘビー・プレイ。2016年にはフランスのDJ、クンズのシングル『I Feel So Bad』に参加。フランスを中心に、複数の国でヒットチャートに入る、彼らにとって最大のヒット曲となった。

このアルバムは、2015年の『Chasin Ghosts』以来となる、通算3枚目のオリジナル・アルバム。本作でも楽曲制作とプロデュースをヒルマンが、ヴォーカルをヴァルブルーナが担当。ファンクやソウル・ミュージックの要素をふんだんに取り入れた楽曲を披露している。

アルバムの2曲目、本作に先駆けて発売されたシングル曲”The Beginning”は、ゆったりとしたテンポのバラード。分厚いホーンセクションを軸にしたバンドをバックに、思いっきり声を張り上げるヴァルブルーナの姿が格好良い。余談だが、彼の歌い方が”Don't Look Back in Anger”を歌っていた時の、オアシスのリアム・ギャラガーに少し似ていると思うのは自分だけだろうか。

一方、これに続く”In and Out”は、陽気な音色のキーボードと、柔らかい音色のホーン・セクションに乗せて、切々と言葉を紡ぎ出すミディアム・ナンバー。ビル・ウィザーズを彷彿させる、スタイリッシュだがどこか温かい雰囲気の歌声が心に残る。良質なポップ・ソングだ。

そして、本作からのもう一つのシングル曲『Astraea』は、ストリングスを取り入れた、切ない雰囲気のアップ・ナンバー。徐々にテンポを上げていく伴奏と、何かに追い立てられるように、せかせかと言葉を吐き出すヴァルブルーナのヴォーカルが印象的な楽曲だ。

また、同曲のカップリングとしてシングル化された”And If We Could, We’d Say”はハモンド・オルガンの音色で幕を開けるミディアム・ナンバー。ヒップホップのエッセンスを取り入れた伴奏に乗せ、ギル・スコット・ヘロンの作品を引用したポエトリー・リーディングを聴かせるという通好みの楽曲。大衆向けとは言い難い素材を集めつつ、アイザック・ヘイズが”Ain’t No Sunshine”や”Never Can Say Goodbye”のカヴァーで見せた、テンポを落として低音をじっくりと聴かせる、キャッチーで粘っこいファンク・サウンドを使ってポップに纏め上げた名演だ。

そして、黒人音楽が好きな人には見逃せない曲が、スティーヴィー・ワンダーの”AnotherStar”にも似た雰囲気のアップ・ナンバー”Get Reborn”だ。オルガンのキラキラとした音色を軸に、華やかな伴奏と軽妙なヴォーカルを組み合わせた楽曲。ライブで聴いたら盛り上がりそうだ。

英国出身のファンク・バンドというと、ジャミロクワイのような世界中で人気のグループから、ストーン・ファンデーションジェイムズ・ハンター・シックスのように、好事家達を唸らせる実力派ミュージシャンまで、あらゆる趣向の人々に対応する層の厚さが特徴的だ。その中で、彼らを他のグループと差別化しているのは、古今東西の色々なソウル・ミュージックを取り込むヒルマンの制作技術と、デーモン・アルバーンやリアム・ギャラガーにも通じる、ヴァルブルーナの存在感のある歌声によるものが大きいと思う。

60年代、70年代のソウル・ミュージックに軸足を置きつつ、その子孫ともいえる90年代以降のブリティッシュ・ロックのエッセンスを混ぜ込むことで、先人や現行の同業者とは違う独自の音楽性を確立した面白い作品。ロック、もしくはブラック・ミュージックをあまり聴かない人にこそ聴いてほしい、ジャンルの壁を越えた魅力的なバンドだ。

Producer
Hillman Mondegreen

Track List
1. Repeat All +
2. The Beginning
3. In and Out
4. Go Back to Love
5. The Omnilogue
6. Coming Home
7. And If We Could, We’d Say
8. Get Reborn
9. Cloud Hidden
10. If Love Is Holding Me Back
11. Astraea
12. Repeat All





Egg Tooth
Ephemerals
Jalapeno
2017-04-21


記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    読者登録
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ