melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年05月

Eric Bellinger - Cannabliss [2017 YFS]

ジャクソン5がカヴァーした”Rockin' Robin”でも有名な、シンガー・ソングライターのボビー・デイを祖父に持ち、自身もニッキー・ミナージュの”Anaconda”や、クリス・ブラウンの”Fine China”、”Add in Me”といったヒット曲に携わってきた、カリフォルニア州コンプトン生まれ、ロスアンジェルス育ちのシンガー・ソングライター、エリック・ベリンガー。

2013年に初のミックステープ『Born II Sing Vol. 1』を発表すると、翌年には1作目のオリジナル・アルバム『The Rebirth』をリリース。その後も、フル・アルバムとEPを2枚ずつと、ミックステープを5本制作しながら、ザ・ゲームの”Circles”や、ジョー・バドゥンの”Where Do We Go”などに客演。多くの録音作品を残してきた。

今回のアルバムは、2017年3月にリリースされた『Eric B for President: Term 2』から、わずか1か月という短い間隔で発売された、彼にとって3枚目のEP。プロデューサーには、過去の作品にも参加しているソウフウエストやビージー・タイムズのほか、初顔合わせとなるドー・ボーイやビーツ・バイ・デズを起用。多くのヒット曲を生み出してきたエリックの、キャッチーでロマンティックなメロディの魅力を、多彩なトラックで引き出している。

アルバムのオープニングを飾る”Staring At The Ceiling”は、ドー・ボーイのプロデュース作品。音数を絞ったチキチキ・ビートに乗って、じっくりと歌い込んだスロー・テンポの楽曲だ。2分弱の短い曲ながら、甘くロマンティックな、彼の世界に引き込んでくれる魅力的な作品だ。

続く”Flight”は、プロデューサーに『Eric B For President: Term 1』に収録されている”Sometimes”を手掛けたソーフウエストを、ソングライターにエーロックと、クリス・ブラウンの”Add in Me”の共作者でもあるニーマン・ジョンソンを起用。カリフォルニア州インランド・エンパイア出身の女性シンガー、キャンディス・ボイドをフィーチャーしたスロー・ナンバー。”Staring At The Ceiling”に引き続き、 アッシャーの”Burn”やシスコの”Incomplete”を彷彿させる、チキチキという音を使ったトラックの上で、じっくりと歌を聴かせている。甘くグラマラスなエリックの歌声と、線は細いが強靭で色っぽいキャンディスのヴォーカルの対比が光っている。

そして、ビーツ・バイ・デズがプロデュースした”Not High Enough”は、ヒップホップのビートとギターの弾き語りを融合した異色の曲。ビートを意識しつつも、メロディに合わせてリズムを崩したギターの伴奏が、弾き語りっぽい雰囲気を演出している。音数を減らして、ギターと衝突しないように気を配ったトラックや、ビートに乗りつつ、徹底的にメロディを崩して歌うエリックのパフォーマンスも格好良い。粗削りな作りのようで、細部にまで気を配った面白い曲だ。

また、”Circles”でも共演しているザ・ゲームとコラボレーションした ”Blazin' Wit The Bros”は、”Not High Enough”に続きビーツ・バイ・デズがプロデュース。マライア・キャリーの”Fantasy”など、多くのヒット曲でサンプリングされてきた、トム・トム・クラブの”Genius of Love”を使ったミディアム・ナンバーだ。元ネタの有名なフレーズをループさせたトラックに、ゆったりとしたメロディを組み合わせたスタイルは、同曲を引用した作品では珍しい。緊張感溢れるザ・ゲームのラップが、リラックスした雰囲気の楽曲に適度な緊張感を与えている。

アルバムの最後を締めるのは、ビージー・タイムズが手掛けたスロー・ナンバー”Ganja”だ。本作のタイトルに引っ掛けた(どちらも「大麻」という意味。厳密には「Ganja」が麻薬としての大麻、「Cannabliss」は植物としての大麻を指す。)この曲。パーカッションなどの明るい音色を多用した、陽気なトラックに乗せて、まったりと歌う姿が印象的。力を抜いて歌った時の声は、スティーヴィー・ワンダーにちょっと似ている気がするのは自分だけだろうか。

『Cannabliss』というタイトルが示す通り、今回のアルバムは収録曲のほとんどが、ゆっくりとしたテンポのトラックに乗って、のんびりと歌ったものになっている。流行のメロディやトラックをフォローしている点は変わっていないものの、曲調は一貫しており、色々なスタイルの楽曲を並べたこれまでの作品に比べると、異彩を放っている。だが、従来とは異なるタイプの作品でも、自分のスタイルを保ち、多くの人を楽しませるセンスは、頭一つ抜けていると思う。

スヌープ・ドッグのレイド・バックした雰囲気と、トレイ・ソングスの本格的な歌唱、ドレイクのヒップホップとR&Bを融合する技術が揃ったことで誕生したストリート色溢れる作品。クリス・ブラウンやアッシャーといった、流行のR&Bが好きな人はもちろん、ドクター・ドレや50セントのような、ウエストコースト・ヒップホップが好きな人もぜひ聴いてほしい。

Producer
Doh Boy, SoufWest, Beats By Dez, BeazyTymes

Track List
1. Staring At The Ceiling
2. Flight feat. Candice Boyd
3. Not High Enough
4. Blazin' Wit The Bros feat. The Game
5. Ganja





Cannabliss - EP [Explicit]
YFS (Your Favorite Song)
2017-04-17

Moniquea - Blackwavefunk [2017 Mofunk Records]

インディアナ州ゲイリー生まれ、カリフォルニア州パサデナ育ちのシンガー・ソングライター、モニーカ。ヴォーカル・グループのリード・シンガーだった母や、友人たちの影響を受け、自身もヴォーカル・グループを結成。その後、70年代のソウル・ミュージックや、80年代のエレクトリック・ミュージックに興味を持ち、次第にそれらを取り入れたダンス・ミュージック、いわゆるディスコ・ブギーに傾倒し始める。 そんな彼女は、15歳の時にパサデナを代表するスポーツ・イベント、ローズ・ボール(大学対抗のアメリカン・フットボールの試合)で歌を披露するチャンスを得る。そして、その勢いでロス・アンジェルスに移住。現地では、様々なソウル・フェスティバルのステージを経験していった。

すると、彼女の歌唱力は地元メディアの目に留まるようになり、それを切っ掛けに全国区の媒体でも紹介されるようになる。また、そのころには、自身の作品を発表するようにもなり、2011年には自主制作のアルバム『Moniquea』を配信限定で、2014年にはパサデナ出身のプロデューサー、XLミドルトン率いるモファンク・レコードから『Yes No Maybe』を、LPやCDを含む複数のフォーマットで発表。跳ねるようなベース・ラインを中心に据えたスタイリッシュなサウンドと、グラマラスな歌声で多くの人を魅了した。

本作は、前作から3年ぶりとなる3枚目のアルバム。前作同様、モファンクからのリリースで、プロデューサーには、前作に引き続き、XLミドルトンとエディ・ファンクスターが参加しているほか、ディム・ファンクの従弟でもあるターコイズ・サマーの提供曲や、彼女自身のセルフ・プロデュースによる楽曲も収録している。

アルバムからの先行リリース曲である”Checkin' Out”は、XLミドルトンのプロデュース曲。跳ねるようなベースと、華やかなシンセサイザーのリフが格好良いダンス・ナンバー。声量を抑えて、リズミカルに言葉を繋いだヴォーカルも格好良い曲だ。全体的なイメージとしては、メアリー・ジェーン・ガールズの”Candy Man”っぽいメロディと伴奏に、豊かな低音域と、芯の強さが光るヴォーカルを組み合わせた、大人っぽい雰囲気の曲だ。

これに対し、ターコイズ・サマーが手掛けた”Knew It”は、色々な音色のシンセサイザーを使ったにぎやかな上物と、モニーカのセクシーな歌声を活かした、なまめかしいメロディが印象的な曲。沢山の音色を詰め込みつつ、曲の展開に応じて強調する音を変えることで、楽曲に起伏をつけたアレンジが新鮮だ。耳元で囁きかけるように歌う(その割には声量があるが)、モニーカの妖艶なヴォーカルも見逃せない。

また、彼女自身が制作を主導した”Check Your Sources”は、ミディアム・テンポのダンス・ナンバー。コミカルなアナログ・シンセの伴奏が面白いトラックに載せて、ラップのように言葉を繋ぐヴォーカルを聴かせている。メロディ部分では中低音域を中心に、サビの部分では高音を使うことで、曲にメリハリをつける方法が面白い。曲の途中で喋るように歌う個所を作ってファンの度肝を抜いた、ファンカデリックやリック・ジェイムスの音楽を連想させる、奇抜で個性的な曲だ。

そして、”Make You Feel My Love”は本作では唯一、ゲストミュージシャンを起用した曲。ギタリストのブライアン・エリスが参加したこの曲は、明るい音色を多用した、華やかで洗練された雰囲気のミディアム・ナンバー。曲の後半で、荒々しいギターを聴かせてくれるブライアンの存在が、楽曲のアクセントになっている。

今回のアルバムも、過去の作品同様、キャッチーなメロディとシンセサイザーを多用した洗練されたトラックを軸に、所々に強烈なフレーズを盛り込んだ、70年代から80年代にかけて流行したディスコ音楽の手法を踏襲したものになっている。これに加えて、彼女の場合は、グラマラスな歌声とで表情豊かなヴォーカルのおかげで、ティーナ・マリーやチャカ・カーンのように、しなやかなサウンドとダイナミックな表現を両立させているところが特徴的だ。

グラマラスで妖艶なヴォーカルと、歌に負けない強靭なトラックが格好良いディスコ音楽。クールで透き通ったヴォーカルが魅力のナイト・ファンクとは対極のスタイルを武器にする、モニーカ流のディスコ・ブギーを堪能してほしい。

Producer
XL Middleton, Turquoise Summers, Moniquea, Eddy Funkster

Track List
1. Checkin' Out
2. Knew It
3. When You Are Away
4. I Just Don't Know
5. Check Your Sources
6. Make You Feel My Love feat. Brian Ellis
7. Why Can't You See
8. Famous





BLACKWAVEFUNK [CD]
MONIQUEA
MOFUNK RECORDS
2017-06-02

LeToya Luckett - Back 2 Life [2017 eOne]

子供のころに教会で歌を覚え、一時はオペラ歌手を目指して研鑽を積むが、音楽ビジネスに挑戦させたほうがいいという父の考えもあり、ポピュラー・ミュージックの歌手に転向。その後、同じ学校に通うビヨンセ達のグループ、デスティニーズ・チャイルドに加入。97年に、ワイクリフ・ジョンがプロデュースした”No, No, No Pt. 2”でメジャー・デビューを果たした、テキサス州ヒューストン出身のシンガー・ソングライター、ラトーヤ・ラケット。

1999年には、”Bills Bills Bills”や”Say My Name”などのヒット曲を含む2枚目のアルバム『The Writing's on the Wall』を発表するが、メンバー間の対立もあり、彼女とラタヴィアは脱退(余談だが、本作に収録されているシングル曲のうち、“Say My Name”と”Jumpin', Jumpin'”の2曲のMVには、2人の姿はなく、新メンバーのミシェル・ウィリアムズが出演している)。ラトーヤはソロに転向する。

サウンドトラックや客演などの仕事を経て、2006年のソロ・デビュー作『LeToya』を発表すると、全米総合チャートとR&Bチャートを制覇、プラチナ・ディスクを獲得し、収録曲の”Torn”もR&Bチャートの2位に入るなど、順当な滑り出しを見せる。また、2009年には『Lady Love』を発売。こちらは総合チャートで12位、R&Bチャートで1位と、本格的なR&B作品が苦戦を強いられるなかで、一定の成果を残した。それ以外にも、役者として映画などに挑戦。2017年にはディオンヌ・ワーウィックを題材にした映画で、主役として出演することが決まっている。

今回のアルバムは、『Lady Love』から約9年ぶりとなる通算3枚目のオリジナル・アルバム。SWVアフター7といった、多くのベテラン・シンガー達の作品を取り扱っているeOneの配給で、プロデューサーには、98ディグリーズやジャスティン・ビーヴァーなどを手がけている、ジョー・ブラックを中心に、ウォーリン・キャンベルやアンドレ・ハリスといった、歌手の声の魅力を引き出す技術に長けた名手が集結している。

アルバムからの先行シングル”B2L(Back 2 Life)”は、ジョー・ブラックのプロデュース作品。1989年にイギリスのソウル・バンド、ソウルIIソウルが発表した同名曲のフレーズをサビに引用したミディアム・ナンバーだ。原曲の有名なフレーズを、テンポを落としてじっくり粘り強く歌ったサビが印象的だが、それ以外のメロディを艶っぽく歌う姿も魅力的だ。メロディを崩して歌う彼女に合わせて、音の配置を崩しつつ、一音一音の「間」を強調した、シンプルなトラックを用意したアイディアも光っている。

この路線を踏襲したのが、もう一つの先行シングル”Used To”だ。ニューヨーク出身のラッパー、Jホワイトとジョー・ブラックの共同プロデュースによるこの曲は、メロディを崩して歌うラトーヤのスタイルに合わせて、タイプが異なる複数のビートを次々と繰り出したアレンジが格好良い曲。クラシック音楽の世界ではしばし見られる、曲の途中で拍子を変える演出を、異なるビートを使うことで、R&Bの世界に持ち込んだ発想が面白い。歌とトラックが一体になったことで、両者の魅力がより一層引き立っていると思う。

また、アルバム発売と同日にシングル化された”Grey”は、2009年のシングル”Regret”でも共演しているリュダクリスをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。マイケル・ジャクソンの”Butterflies”や、アッシャーの”Caught Up”などを手掛けてきた、アンドレ・ハリスが参加したこの曲は、シンプルなビートの上で、滑らかな歌声を響かせた”Butterflies”のテンポを上げたような雰囲気の作品。流麗なメロディを丁寧に歌うヴォーカルが心地よい、ロマンティックな曲だ。脇を固めるリュダクリスのラップもいい味を出している。

だが、本作の隠れた目玉は、ウォーリン・キャンベルがペンを執った”In The Name”だろう。メアリー・メアリーやケリー・プライスなど、多くの歌手に作品を提供してきた売れっ子プロデューサーが手がけた曲は、ゆったりとしたトラックの上で、じっくりと歌を聴かせるスロー・ナンバー。裏声を巧みに混ぜ込んだラトーヤの歌声が、メロディやトラックの持つロマンティックな雰囲気を際立たせている。

今回のアルバムは、これまでの作品同様、ラトーヤの歌をじっくりと聴かせることに主軸を置いた作品だ。トラップやEDM、ディスコ・サウンドといった流行のサウンドとは距離を置き、シンガーの表現力を引き出すことに重きを置いたメロディや、メロディと一体になって、楽曲に豊かな表情を与えるトラックを揃えることで、主役の歌に光を当てている。また、各曲のメロディやアレンジは、歌手に配慮しつつも、現代的なフレーズや音色を用いてスタイリッシュに纏めることで、同時代の作品と並べても、聴き手に古臭さや陳腐さを感じさせないよう配慮している。この「歌を聴かせる」「新鮮に聴かせる」という2点がぶれてないことが、彼女の作品に安定感と、飽きの来ない面白さを与えていると思う。

類稀なる実力を備えた名シンガー、ラトーヤの歌を思う存分楽しめる、本格的なR&B作品。アレサ・フランクリンやオーティス・レディングのような往年のソウル・シンガーが好きな人には今時のR&Bを聴くきっかけとして、ビヨンセやドレイクのような今時のR&B、ヒップホップが好きな人には、歌の奥深さを知るきっかけとして、ぜひ手に取ってほしい。

Producer
Joseph "Jo Blaq" Macklin, D'Mile, @WarrynCampbell, YBZ, J White, First Born, Oh Gosh, Andre Harris

Track List
1. I'm Ready
2. B2L
3. Show Me
4. Used To
5. Middle
6. Grey feat. Ludacris
7. In The Name
8. My Love
9. Worlds Apart
10. Weekend
11. Higher
12. Loving You
13. Disconnected





Back 2 Life
Letoya Luckett
Ent. One Music
2017-05-12


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