melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年05月

Maysa - Love Is A Battlefield [2017 Shanachie]

大学在学中にスティーヴィー・ワンダーと知り合い、卒業後は彼のバック・コーラスに参加。『Jungle Fever』のサウンドトラックなどでコーラスを担当した後、イギリスのジャズ・ファンク・バンド、インコグニートに加入。スティーヴィーの大ヒット曲をカヴァーした”Don't You Worry 'Bout A Thing”や、96年のヒット曲”Out Of The Storm”等で美しい歌声を披露してきた、ボルティモア州メリーランド出身のシンガーソングライター、メイサ・リーク。

また、95年にアルバム『Maysa』でソロ・デビューを果たすと、2016年までに12枚のアルバムと多くのシングルを発表。メリーランドを拠点に、バンド活動と並行して、多くのレコーディングやステージをこなしてきた。

本作は、2015年の『Back To Love』以来、約2年ぶりとなる通算13枚目のオリジナル・アルバム。2006年の『Sweet Classic Soul』以来、全てのアルバムを配給しているシャナチーからのリリースで、同作以来となるカヴァー集でもある。

今回のアルバムのコンセプトは『メイサが愛聴し、刺激を受けた楽曲をカヴァー』ということだが、その選曲は意外性の塊。

アイズレー・ブラザーズの”Footsteps In The Dark”や、ナタリー・コールの”Inseparable”ような、ソウル・ミュージックの古典から、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”といった、90年代の大ヒット曲。はたまた、パット・ベネターの”Love Is A Battlefield”や、ジャスティン・ビーヴァーの”As Long As You Love Me”といった、ロック、ポップス畑の歌手による有名曲まで、古今東西の名曲を並べた、バラエティ豊かなものになっている。

そして、本作ではこれらの曲を、シャンテ・ムーアやフローシストの作品でも腕を振るっていたクリス”ビッグ・ドッグ”デイヴィスや、ルーサー・ヴァンドロスなどの楽曲を手掛けてきたジェイソン・マイルズらと一緒に、原曲とは一味違うアレンジで聴かせている。

ノーナ・ゲイが92年に発表した”The Things We Do For Love”に続くのは、テヴィン・キャンベルが93年に発表した大ヒット曲”Can We Talk”のカヴァー。ベイビーフェイスとダリル・シモンズの手による甘ずっぱいメロディと、変声期を迎える前後のテヴィンの歌声が魅力的なミディアム・バラードを、御年50歳(CDの発売日時点)のメイサが歌うという、果敢な試みを見せている。録音当時ティーンエイジャーだったテヴィンと比べると、一音一音を丁寧に歌う粘り強い声と、爽やかな曲調に合わせて、力を入れすぎない歌唱が印象的だ。キーボードの伴奏を強調した原曲のアレンジを、彼女の力強いヴォーカルに合わせて、ドラムやベースを軸にしたシンプルなものに変えた点も面白い。青年の心境を表現した歌を、大人のラブソングに生まれ変わらせた技術が光る佳曲。

一方、豊かな声量と表現力が魅力的な、ルーサー・ヴァンドロスの86年作『Give Me the Reason』に収められているスロー・バラードを歌った”Because It's Really Love”は、原曲を強く意識したシンプルでロマンティックなアレンジで演奏している。音数が少ない原曲のメロディを、ジャズの経験も豊かなメイサが、音程や強弱を細かく調整した、力強くも軽妙な歌唱を披露している。パワフルな歌声と、絶妙な力加減を両立する彼女の歌が思う存分堪能できる名演だ。

これに対し、バーニー・ウォレルらとファンク・バンド、スペース・キャデットを結成したこともある、スコットランド出身のシンガー・ソングライター、ジェシー・レイがファンク・バンド、オデッセイに提供した”Inside Out”のカヴァーは、シンセサイザーとギターを強調した原曲に近いアレンジ。オリジナルを歌うオデッセイの面々に比べて、芯が太く、パワフルな歌声のメイサが、楽曲の軽妙なメロディに合わせてリズミカルに歌う姿は、ちょっと意外。ジャズともR&Bとも違う、ファンクのメロディでもきちんと乗りこなせる技術力は、他の歌手とは一味違うものだ。

そして、本作の隠れた目玉が、アイズレー・ブラザーズが77年に発表したシングル『Groove with You』のカップリング曲で、A面の曲よりも有名になった”Footsteps In The Dark”だ。”Between The Sheets”などで滑らかな歌声を響かせていたロナルドの存在が肝だった同曲を、メイサは男性のバック・コーラスとのデュエット曲にアレンジすることで、自身の持ち味を殺すことなく、原曲に近い雰囲気でカヴァーしている。ホイットニー・ヒューストンを彷彿させる貫禄を身に着けたメイサの歌を活かしつつ、繊細な男性ヴォーカルが引き立て役として加わることで、ロナルドの滑らかでエロティックな雰囲気を再現した発想には、ひたすら驚くしかない。

今回のアルバムは、シルクミュージックといった、ベテランR&Bシンガーの作品を多数扱ってきたシャナチーからのリリースだけあって、70年代から2000年以降まで、色々な時代のソウル、R&B作品の手法を参照した、懐かしさと新鮮さを感じさせる良質なカヴァー集だと思う。一部の曲では大胆な改変を披露しているものの、それ以外の曲ではオリジナルのアレンジを尊重しつつ、主役の声質に合わせて、調整して見せるスキルは「流石」としか言いようがない。

一方、主役のメイサは、これまでのキャリアで培った、ジャズ、ファンク、ソウル、R&Bの経験を活かし、時に軽妙な、時に繊細なヴォーカルを聴かせてくれる。パワフルで芯の強い声質という確固たる個性が確立された歌手だけあって、ロナルド・アイズレーやジャスティン・ビーヴァーといった、スタイルの違う歌手の作品を歌うのは簡単ではないが、ヴォーカルや演奏のアレンジで自身の声質の弱点を補いつつ、自分の色に染め上げる手法は、経験豊かなベテランらしいものだと思う。

各時代の名曲が持つ魅力を活かしつつ、メイサ・リークの作品としても楽しめる、珍しいタイプのカヴァー集。収録曲の中で気になるものを見つけた人は、ぜひ原曲のアーティストにも目を向けてほしい。R&Bやソウル・ミュージックの奥深さだけでなく、ポピュラー・ミュージックの豊かな世界の一端に触れられると思う。

Producer
Chris "Big Dog" Davis, James Jones, Jamie Jones, Jack Kugell, Jason Miles, Monte Neuble, Tim Stewart

Track List
1. The Things We Do For Love
2. Can We Talk
3. Love Is A Battlefield
4. Because It's Really Love
5. Inside Out
6. Inseparable
7. As Long As You Love Me
8. Footsteps In The Dark
9. Am I Dreaming
10. Mr. Dream Merchant




Love Is a Battlefield
Maysa
Shanachie
2017-05-26


Moonchild - Voyager [2017 Tru Thoughts]

複数の楽器を操り、作曲もできる、アンバー・ナヴラン(ヴォーカルも担当)、マックス・ブリック、アンドリス・マットソンによる、カリフォルニア州ロス・アンジェルス発3人組ソウル・バンド、ムーンチャイルド。

2014年に発表したシングル『TheTruth』と、同曲を収めた2枚目のアルバム『Please Rewind』が配信限定ながら大ヒットとなり、イギリスのTru ThoughtsからCD化。また、ステージでも、スティーヴィー・ワンダーやジル・スコット、ジ・インターネットと共演するなど、縦横無尽の活躍を見せてきた。

今回のアルバムは『Please Rewind』から3年ぶりとなる3作目。ディアンジェロなどを手掛けてきたジェレミー・モストにインスパイアされた本作は、ディアンジェロやエリカ・バドゥのような、生演奏にソウル・ミュージックとヒップホップの要素を組み合わせた、ネオ・ソウルと呼ばれるスタイルの作風が特徴的。収録曲では、彼の手法を踏襲しつつ、自分達の音楽性に合わせて、色々な形にアレンジした楽曲を聴かせている。

アルバムの実質的な1曲目で、本作からの先行シングルでもある”Cure”は、ゆったりとした雰囲気の印象的なスロー・ナンバー。甘いギターの音色と、柔らかいキーボードの伴奏が心地よい。曲調は違うが、エリカ・バドゥの”Certainly”を思い起こさせる、透き通った歌声も魅力的。大規模なロック・フェスよりも、小規模な音楽ホールが似合いそうだ。

これに対し、4曲目に収められている”Every Part (for Linda)”は、色々な音色のシンセサイザーを使た伴奏と、、パーカッションを効果的に使ったヒップホップっぽいビートが格好良いミディアム。本作の収録曲では、最もディアンジェロやエリカ・バドゥの作風に近いものだが、彼らに比べると、シンプルで洗練されているように思う。演奏と比べて、一歩引いたところから丁寧に歌うヴォーカルが、電子音を多用した楽曲の不思議な雰囲気を強調している。

また、個人的には最も面白かった曲が”Run Away”だ。サーラ・クリエイティブ・パートナーズやプラチナム・パイド・パイパーズを連想させる、各音を微妙にずらした、癖のあるビートと、シンセサイザーを多用した幻想的な雰囲気の伴奏が光るミディアム・ナンバー。このようなビートはジョージ・アン・マルドロウの作品に時々登場するが、彼らの曲はヴォーカルの声域をフルに使った、メリハリのあるメロディで、ヒップホップ色を薄めているのが特徴的だ。

そして、本作のハイライトと呼んでも過言ではないのが”Show The Way”だ。温かい音色のキーボードや、パーカッションを効果的に使った軽妙なトラックと、アンバーの爽やかな歌声が魅力的な曲は、どことなくアメール・ラリューを思い起こさせる、優雅で神秘的なミディアム・ナンバー。従来の作風を残しつつ、ヒップホップの要素を盛り込んでいる。

彼らの音楽の面白いところは、インディア・アリーやマックスウェルのように、スタイリッシュで洗練された音色を使いながら、エリカ・バドゥやディアンジェロのように、奇抜なアレンジやフレーズを随所に盛り込むセンスだろう。あくまでも優雅に、流麗な音を響かせる楽器が、随所で抽象的なフレーズや、奇想天外なメロディを鳴らすあたりは、なかなか面白い。また、アンバーの繊細な歌声が、様々なギミックが盛り込まれた楽曲を、優雅な流麗なソウル・ミュージックに纏め上げている点も大きいと思う。

ヒップホップやソウル・ミュージック、ジャズなどのエッセンスを取り入れながら、どのジャンルにも分類できない、独創的な音楽に仕立て上げている彼ら。これらの曲をライブではどのように演奏するのか、演奏風景を想像するのも楽しい。バンドによる録音の新しい可能性を感じさせる作品だ。

Producer
Moonchild, Andris Mattson, Max Bryk

Track List
1. Voyager (intro)
2. Cure
3. 6am
4. Every Part (for Linda)
5. Hideaway
6. The List
7. Doors Closing
8. Run Away
9. Think Back
10. Now And Then
11. Change Your Mind
12. Show The Way
13. Let You Go





Voyager
Moonchild
Tru Thoughts
2017-05-26

Two Jazz Project & T-Groove - COSMOS 78 [2017 LAD Publishing & Records]

探偵小説などを書いている、マルセイユ出身の小説家でデザイナーのエリック・ハッサンと、ベースやギターの演奏家であるクリスチャン・カフィエロによる音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクト。そして、八戸出身、東京在住の音楽プロデューサー、ユウキ・タカハシによる音楽プロジェクト、T-グルーヴ。両者によるコラボレーション作品。

結成から10年を超え、『Hot Stuff』や『Experiences』といった、ジャズや電子音楽、ソウル・ミュージックなどを融合した、独創的なスタイルの傑作を残してきたトゥー・ジャズ・プロジェクトと、日本在住の若いクリエイターでありながら、UKソウル・チャートの2位を獲得したトム・グライドの“Party People”や、サン・ソウル・オーケストラの”Can't Deny It”のアレンジやリミックスに携わり、自身の名義でもソーシー・レディをフィーチャーした”Spring Fever”などのヒット曲を残しているT-グルーヴ。

これまでにも、いくつかの作品を一緒に録音してきた彼らのEPは、「ファンタスティック・レトロ・フューチャリスト・ファンク・オデッセイ」をテーマにしたコンセプト・アルバム。制作にはトゥー・ジャズ・プロジェクトの楽曲でも素敵なパフォーマンスを披露してきた、女性シンガーのマリー・メニーとサックス奏者のディダーラ・ラ・レジー、T-グルーヴの作品で躍動感溢れるベースを聴かせてくれたタカオ・ナカシマも参加。隙の無い強力な布陣でクールなダンス・ミュージックを作り上げている。

本作に先駆けて発表された”Night Flight”は、オクラホマ州出身のシンガー、エノイス・スクロギンスをフィーチャーした曲。フランスのディスコ音楽レーベル、ブーギー・タイムスからデビューするなど、ヨーロッパでの知名度が高い彼は、これまでにも2016年のシングル『Soho Sunset 』、2017年のシングル『Funky Show Time』などで共演している旧知の間柄。自身の作品ではグラマラスでファンキーな歌唱が魅力のエノイスだが、この曲ではバリー・ホワイトを彷彿させる優雅な歌声を聴かせてくれる。マリーの透き通った歌声と絶妙なタイミングで入り込むディダーラのサックスも格好良い。

これに続く”Space Machine”は、マリーがメイン・ヴォーカルを担当。ハウス・ミュージックのような四つ打ちのビートや、シンセサイザーを多用した伴奏は、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを彷彿させる楽曲。ディム・ファンクやダフト・パンクなど、70年代や80年代のディスコ音楽を咀嚼した作品を発表しているミュージシャンは少なくないが、ハイ・エナジーの要素を取り入れた曲は珍しい。

また”Passion”は、ピアノっぽい音色のキーボードを活かしたトラックが、ロリータ・ハロウェイのようなハウス・ミュージック寄りのディスコ音楽を連想させる佳曲。涼しげな声でメロディを歌いながら、曲間では急に色っぽい声を出すマリーの意外な一面が面白い。

そして、本作唯一のインストゥルメンタル作品”Cosmos 78”はニュー・オーダーの”Blue Monday”を思い起こさせるロー・ファイな電子音が格好良いテクノ色の強い曲。電子音とファンク寄りの太いベースを一つの音楽に組み合わせる技術が光っている。

アルバムの最後を飾るのは、マリーがヴォーカルを担当した”You Are My Universe”。温かい音色のキーボードやサックスを効果的に使ったサウンドは、ディミトリ・フロム・パリのような、きらびやかでおしゃれな雰囲気のハウス・ミュージックの影響も垣間見える。マリーの豊かな声量と表現力も見逃せない。

彼らの音楽の醍醐味は、機械を使った精密なビートと、ギターやキーボード、パーカッションといった人間が演奏する楽器を組み合わせながら、それを一つの音楽に落とし込むセンスだと思う。それが可能なのは、各人の技術の高さと感性の鋭さによる部分が大きいが、その中でも、ギターやベースを担当する、クリスチャン・カフィエロやタカオ・ナカシマによるダイナミックかつ緻密な演奏が、機械を使ったビートと人の手による生演奏を一体化するのに大きく貢献していると思う。また、各人の演奏を一つの作品に纏め上げる、録音、編集技術の妙も大きいだろう。

ダフトパンクやマークロンソンなど、70年代、80年代のディスコ音楽を意識した作品を発表するアーティストがひしめき合うなか、楽器の演奏と機械のビートを組み合わせた、モダンでファンキーな作風で、彼らとは一味違う「21世紀のディスコ音楽」を提示してくれた傑作。ディスコ音楽やクラブ・ミュージックが好きな人なら、思わずニヤリとしてしまう演出が盛り沢山の面白いアルバムだ。一つでも気になる曲があったら、ほかの作品も手に取ってほしい。そのクオリティの高さに驚くと思う。

Producer
Yuki T-Groove Takahashi & Two Jazz Project

Track List
1. Night Flight feat. Enois Scroggins & Marie Meney & Didier La Regie
2. Space Machine feat. Marie Meney & Didier La Regie
3. Passion feat. Marie Meney & Didier La Regie
4. Cosmos 78
5. You Are My Universe feat. Marie Meney & Didier La Regie




COSMOS 78
LAD Publishing & Records
2017-05-12

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