大学在学中にスティーヴィー・ワンダーと知り合い、卒業後は彼のバック・コーラスに参加。『Jungle Fever』のサウンドトラックなどでコーラスを担当した後、イギリスのジャズ・ファンク・バンド、インコグニートに加入。スティーヴィーの大ヒット曲をカヴァーした”Don't You Worry 'Bout A Thing”や、96年のヒット曲”Out Of The Storm”等で美しい歌声を披露してきた、ボルティモア州メリーランド出身のシンガーソングライター、メイサ・リーク。
また、95年にアルバム『Maysa』でソロ・デビューを果たすと、2016年までに12枚のアルバムと多くのシングルを発表。メリーランドを拠点に、バンド活動と並行して、多くのレコーディングやステージをこなしてきた。
本作は、2015年の『Back To Love』以来、約2年ぶりとなる通算13枚目のオリジナル・アルバム。2006年の『Sweet Classic Soul』以来、全てのアルバムを配給しているシャナチーからのリリースで、同作以来となるカヴァー集でもある。
今回のアルバムのコンセプトは『メイサが愛聴し、刺激を受けた楽曲をカヴァー』ということだが、その選曲は意外性の塊。
アイズレー・ブラザーズの”Footsteps In The Dark”や、ナタリー・コールの”Inseparable”ような、ソウル・ミュージックの古典から、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”といった、90年代の大ヒット曲。はたまた、パット・ベネターの”Love Is A Battlefield”や、ジャスティン・ビーヴァーの”As Long As You Love Me”といった、ロック、ポップス畑の歌手による有名曲まで、古今東西の名曲を並べた、バラエティ豊かなものになっている。
そして、本作ではこれらの曲を、シャンテ・ムーアやフローシストの作品でも腕を振るっていたクリス”ビッグ・ドッグ”デイヴィスや、ルーサー・ヴァンドロスなどの楽曲を手掛けてきたジェイソン・マイルズらと一緒に、原曲とは一味違うアレンジで聴かせている。
ノーナ・ゲイが92年に発表した”The Things We Do For Love”に続くのは、テヴィン・キャンベルが93年に発表した大ヒット曲”Can We Talk”のカヴァー。ベイビーフェイスとダリル・シモンズの手による甘ずっぱいメロディと、変声期を迎える前後のテヴィンの歌声が魅力的なミディアム・バラードを、御年50歳(CDの発売日時点)のメイサが歌うという、果敢な試みを見せている。録音当時ティーンエイジャーだったテヴィンと比べると、一音一音を丁寧に歌う粘り強い声と、爽やかな曲調に合わせて、力を入れすぎない歌唱が印象的だ。キーボードの伴奏を強調した原曲のアレンジを、彼女の力強いヴォーカルに合わせて、ドラムやベースを軸にしたシンプルなものに変えた点も面白い。青年の心境を表現した歌を、大人のラブソングに生まれ変わらせた技術が光る佳曲。
一方、豊かな声量と表現力が魅力的な、ルーサー・ヴァンドロスの86年作『Give Me the Reason』に収められているスロー・バラードを歌った”Because It's Really Love”は、原曲を強く意識したシンプルでロマンティックなアレンジで演奏している。音数が少ない原曲のメロディを、ジャズの経験も豊かなメイサが、音程や強弱を細かく調整した、力強くも軽妙な歌唱を披露している。パワフルな歌声と、絶妙な力加減を両立する彼女の歌が思う存分堪能できる名演だ。
これに対し、バーニー・ウォレルらとファンク・バンド、スペース・キャデットを結成したこともある、スコットランド出身のシンガー・ソングライター、ジェシー・レイがファンク・バンド、オデッセイに提供した”Inside Out”のカヴァーは、シンセサイザーとギターを強調した原曲に近いアレンジ。オリジナルを歌うオデッセイの面々に比べて、芯が太く、パワフルな歌声のメイサが、楽曲の軽妙なメロディに合わせてリズミカルに歌う姿は、ちょっと意外。ジャズともR&Bとも違う、ファンクのメロディでもきちんと乗りこなせる技術力は、他の歌手とは一味違うものだ。
そして、本作の隠れた目玉が、アイズレー・ブラザーズが77年に発表したシングル『Groove with You』のカップリング曲で、A面の曲よりも有名になった”Footsteps In The Dark”だ。”Between The Sheets”などで滑らかな歌声を響かせていたロナルドの存在が肝だった同曲を、メイサは男性のバック・コーラスとのデュエット曲にアレンジすることで、自身の持ち味を殺すことなく、原曲に近い雰囲気でカヴァーしている。ホイットニー・ヒューストンを彷彿させる貫禄を身に着けたメイサの歌を活かしつつ、繊細な男性ヴォーカルが引き立て役として加わることで、ロナルドの滑らかでエロティックな雰囲気を再現した発想には、ひたすら驚くしかない。
今回のアルバムは、シルクやミュージックといった、ベテランR&Bシンガーの作品を多数扱ってきたシャナチーからのリリースだけあって、70年代から2000年以降まで、色々な時代のソウル、R&B作品の手法を参照した、懐かしさと新鮮さを感じさせる良質なカヴァー集だと思う。一部の曲では大胆な改変を披露しているものの、それ以外の曲ではオリジナルのアレンジを尊重しつつ、主役の声質に合わせて、調整して見せるスキルは「流石」としか言いようがない。
一方、主役のメイサは、これまでのキャリアで培った、ジャズ、ファンク、ソウル、R&Bの経験を活かし、時に軽妙な、時に繊細なヴォーカルを聴かせてくれる。パワフルで芯の強い声質という確固たる個性が確立された歌手だけあって、ロナルド・アイズレーやジャスティン・ビーヴァーといった、スタイルの違う歌手の作品を歌うのは簡単ではないが、ヴォーカルや演奏のアレンジで自身の声質の弱点を補いつつ、自分の色に染め上げる手法は、経験豊かなベテランらしいものだと思う。
各時代の名曲が持つ魅力を活かしつつ、メイサ・リークの作品としても楽しめる、珍しいタイプのカヴァー集。収録曲の中で気になるものを見つけた人は、ぜひ原曲のアーティストにも目を向けてほしい。R&Bやソウル・ミュージックの奥深さだけでなく、ポピュラー・ミュージックの豊かな世界の一端に触れられると思う。
Producer
Chris "Big Dog" Davis, James Jones, Jamie Jones, Jack Kugell, Jason Miles, Monte Neuble, Tim Stewart
Track List
1. The Things We Do For Love
2. Can We Talk
3. Love Is A Battlefield
4. Because It's Really Love
5. Inside Out
6. Inseparable
7. As Long As You Love Me
8. Footsteps In The Dark
9. Am I Dreaming
10. Mr. Dream Merchant
また、95年にアルバム『Maysa』でソロ・デビューを果たすと、2016年までに12枚のアルバムと多くのシングルを発表。メリーランドを拠点に、バンド活動と並行して、多くのレコーディングやステージをこなしてきた。
本作は、2015年の『Back To Love』以来、約2年ぶりとなる通算13枚目のオリジナル・アルバム。2006年の『Sweet Classic Soul』以来、全てのアルバムを配給しているシャナチーからのリリースで、同作以来となるカヴァー集でもある。
今回のアルバムのコンセプトは『メイサが愛聴し、刺激を受けた楽曲をカヴァー』ということだが、その選曲は意外性の塊。
アイズレー・ブラザーズの”Footsteps In The Dark”や、ナタリー・コールの”Inseparable”ような、ソウル・ミュージックの古典から、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”といった、90年代の大ヒット曲。はたまた、パット・ベネターの”Love Is A Battlefield”や、ジャスティン・ビーヴァーの”As Long As You Love Me”といった、ロック、ポップス畑の歌手による有名曲まで、古今東西の名曲を並べた、バラエティ豊かなものになっている。
そして、本作ではこれらの曲を、シャンテ・ムーアやフローシストの作品でも腕を振るっていたクリス”ビッグ・ドッグ”デイヴィスや、ルーサー・ヴァンドロスなどの楽曲を手掛けてきたジェイソン・マイルズらと一緒に、原曲とは一味違うアレンジで聴かせている。
ノーナ・ゲイが92年に発表した”The Things We Do For Love”に続くのは、テヴィン・キャンベルが93年に発表した大ヒット曲”Can We Talk”のカヴァー。ベイビーフェイスとダリル・シモンズの手による甘ずっぱいメロディと、変声期を迎える前後のテヴィンの歌声が魅力的なミディアム・バラードを、御年50歳(CDの発売日時点)のメイサが歌うという、果敢な試みを見せている。録音当時ティーンエイジャーだったテヴィンと比べると、一音一音を丁寧に歌う粘り強い声と、爽やかな曲調に合わせて、力を入れすぎない歌唱が印象的だ。キーボードの伴奏を強調した原曲のアレンジを、彼女の力強いヴォーカルに合わせて、ドラムやベースを軸にしたシンプルなものに変えた点も面白い。青年の心境を表現した歌を、大人のラブソングに生まれ変わらせた技術が光る佳曲。
一方、豊かな声量と表現力が魅力的な、ルーサー・ヴァンドロスの86年作『Give Me the Reason』に収められているスロー・バラードを歌った”Because It's Really Love”は、原曲を強く意識したシンプルでロマンティックなアレンジで演奏している。音数が少ない原曲のメロディを、ジャズの経験も豊かなメイサが、音程や強弱を細かく調整した、力強くも軽妙な歌唱を披露している。パワフルな歌声と、絶妙な力加減を両立する彼女の歌が思う存分堪能できる名演だ。
これに対し、バーニー・ウォレルらとファンク・バンド、スペース・キャデットを結成したこともある、スコットランド出身のシンガー・ソングライター、ジェシー・レイがファンク・バンド、オデッセイに提供した”Inside Out”のカヴァーは、シンセサイザーとギターを強調した原曲に近いアレンジ。オリジナルを歌うオデッセイの面々に比べて、芯が太く、パワフルな歌声のメイサが、楽曲の軽妙なメロディに合わせてリズミカルに歌う姿は、ちょっと意外。ジャズともR&Bとも違う、ファンクのメロディでもきちんと乗りこなせる技術力は、他の歌手とは一味違うものだ。
そして、本作の隠れた目玉が、アイズレー・ブラザーズが77年に発表したシングル『Groove with You』のカップリング曲で、A面の曲よりも有名になった”Footsteps In The Dark”だ。”Between The Sheets”などで滑らかな歌声を響かせていたロナルドの存在が肝だった同曲を、メイサは男性のバック・コーラスとのデュエット曲にアレンジすることで、自身の持ち味を殺すことなく、原曲に近い雰囲気でカヴァーしている。ホイットニー・ヒューストンを彷彿させる貫禄を身に着けたメイサの歌を活かしつつ、繊細な男性ヴォーカルが引き立て役として加わることで、ロナルドの滑らかでエロティックな雰囲気を再現した発想には、ひたすら驚くしかない。
今回のアルバムは、シルクやミュージックといった、ベテランR&Bシンガーの作品を多数扱ってきたシャナチーからのリリースだけあって、70年代から2000年以降まで、色々な時代のソウル、R&B作品の手法を参照した、懐かしさと新鮮さを感じさせる良質なカヴァー集だと思う。一部の曲では大胆な改変を披露しているものの、それ以外の曲ではオリジナルのアレンジを尊重しつつ、主役の声質に合わせて、調整して見せるスキルは「流石」としか言いようがない。
一方、主役のメイサは、これまでのキャリアで培った、ジャズ、ファンク、ソウル、R&Bの経験を活かし、時に軽妙な、時に繊細なヴォーカルを聴かせてくれる。パワフルで芯の強い声質という確固たる個性が確立された歌手だけあって、ロナルド・アイズレーやジャスティン・ビーヴァーといった、スタイルの違う歌手の作品を歌うのは簡単ではないが、ヴォーカルや演奏のアレンジで自身の声質の弱点を補いつつ、自分の色に染め上げる手法は、経験豊かなベテランらしいものだと思う。
各時代の名曲が持つ魅力を活かしつつ、メイサ・リークの作品としても楽しめる、珍しいタイプのカヴァー集。収録曲の中で気になるものを見つけた人は、ぜひ原曲のアーティストにも目を向けてほしい。R&Bやソウル・ミュージックの奥深さだけでなく、ポピュラー・ミュージックの豊かな世界の一端に触れられると思う。
Producer
Chris "Big Dog" Davis, James Jones, Jamie Jones, Jack Kugell, Jason Miles, Monte Neuble, Tim Stewart
Track List
1. The Things We Do For Love
2. Can We Talk
3. Love Is A Battlefield
4. Because It's Really Love
5. Inside Out
6. Inseparable
7. As Long As You Love Me
8. Footsteps In The Dark
9. Am I Dreaming
10. Mr. Dream Merchant