2014年に、ソフィスティケイテッド・ファンクの名義で発表したシングル”Move Your Body”(本作のタイトル・トラックとは同名異曲のインストゥメンタル作品)を皮切りに、多くの楽曲をリリース。トム・グラインドの”Soul Life”をリミックスして、大手クラブ・ミュージック配信サイトで1位を獲得したほか、マックレイの”Show Me”や、サン・ソウル・オーケストラの”Can't Deny It”、レネ・ローズの”Funky Attitude”などのリミックスをUKソウル・チャートの2位に送り込み、自身の名義の作品でも、ソーシー・レディーをフィーチャーした”Spring Rain”や、ダイアン・マーシュが参加した”Everybody Dance”などが、ヨーロッパのラジオ番組でヘビー・プレイされている、青森県八戸市出身、東京在住のプロデューサー、T-グルーヴこと高橋佑貴。彼の待望のフル・アルバムが本作だ。
5月にリリースされたフランスの音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクトとのコラボレーション作品『Cosmos 78』から、僅か1か月という短い間隔で発売された今回のアルバム。”Spring Rain”こそ入っていないが、それ以外の既発曲は全て収録。配給は、エノイス・スクロギンスなどのディスコ・ミュージック、ファンク作品を扱っていることで知られている、フランスの名門、ディギー・ダウン・レコーズで、ゲスト・ミュージシャンには、レーベル・メイトのエノイスやブライアン・トンプソンのほか、日本やヨーロッパで人気のある、オハイオ州トレド出身のトーク・ボクサー、ウィンフリーや、『Cosmos 78』での共演も記憶に新しいトゥー・ジャズ・プロジェクト。ボストンを拠点に活動しているプロデューサー兼マルチ・プレイヤーのモノローグこと金坂征広や、ゴスペル・ギタリストの上条頌、T-グルーヴの作品には欠かせない存在となっている、なかしまたかおベイベーらが集結。実力派ミュージシャンを惹きつけて止まない、彼の魅力が遺憾なく発揮された本格的なソウル作品になっている。
アルバムのオープニングを飾るのは、ブライアン・トンプソンを起用したタイトル・トラック”Move Your Body”。グレッグ・ドジェット(from ドジェット・ブラザーズ)のボコーダーと、ブーツィー・コリンズを彷彿させる、なかしまたかおのグルーヴィーなベースが心地よいダンス・ナンバー。ボコーダーを駆使したスタイリッシュなサウンドは、ダフト・パンクの”Get Lucky”を思い起こさせるが、こちらの曲では、ブライアン・トンプソンが恵まれた歌声を惜しげもなく披露して、ソウルフルに纏めている点が大きく異なる。
これに対し、ウィンフリーをフィーチャーした”I'll Be Right Here”は、セオ・パリッシュやムーディマンを連想させる、洒脱な雰囲気が印象的なアップ・ナンバー。ハウス・ミュージックと生演奏を融合したモダンなトラックの上で、トーク・ボックスが武器のウィンフリーに、そのままの声で歌わせる発想の柔軟さと、それを形にする各人の高い技術力が光る佳曲だ。
また、エノイス・スクロギンスを招いた”Let Your Body Move”は、エノイスの作品ではあまり聴けないディスコ・ブギー。ストリングスのような音色のシンセサイザーを使い、音数を絞ったメロディで彼のバリトン・ヴォイスをじっくりと聴かせている。ストリングスっぽい音を使った流麗な伴奏と、一音一音をじっくり聴かせるヴォーカルはバリー・ホワイトを連想させる。バリーが今も生きていたら、こんな曲を歌っていたんじゃないかという想像が膨らむエレガントなディスコ音楽だ。
そして、本作では珍しいハウス・ミュージックのシンガーを起用した”Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight)”は、ダイアン・マーシュがヴォーカルを担当したミディアム・ナンバー。煌びやかな音色を散りばめたトラックと、ダイナンのキュートな歌声が心地よい。フランキー・ナックルズのハウス・ミュージックのような華やかで緻密な音作りと、ダイアンのソウルフルなヴォーカルを思う存分堪能できる。
このアルバムを聴いて真っ先に思い出したのは、ディー・ライトの一員としてデビューしたテイ・トウワの存在だ。留学先のニューヨークでデビューしたテイと、インターネットの音楽投稿サイトから火が付いたT-グルーヴでは、経歴も音楽性も全く異なる。だが、欧米のポピュラー・ミュージックに自身の解釈を加え、本場のミュージシャンと互角に戦える独創性な作品を生み出すT-グルーヴの作品からは、ディー・ライトの一員として国籍や人種の壁を感じさせない音楽で大きな足跡を残したテイの姿がダブって見える。
また、日頃、色々な国のミュージシャンの作品を聴いていて感じることだが、日本人ミュージシャンの最大の弱みは「日本人であること」に固執していることだと思う。ヒップホップやR&Bでは特に顕著だが、「ジャパニーズ〇〇」に固執するあまり、自身の実像や音楽シーンの潮流からかけ離れた、独り善がりな作品に陥ることが少なくない。フランク・デュークスやミッシー・エリオットと組んで、アメリカのヒップホップをアジア人向けにカスタマイズした韓国のG-ドラゴンや、スーダンとアメリカ、イギリスの3ヵ国で過ごした経験をフルに活かした作風がウリのシンケイン、アメリカのヒップホップを意識しつつ、時刻アフロ・ビートを取り入れて独自性を発揮したナイジェリアのワイシーのような、「人種や国籍などのアイデンティティ」「ミュージシャンとしての個性や技術」「時代の変化を嗅ぎ取る嗅覚」のバランスが取れた人は、日本人では非常に希少だと思う。
東京の雑駁さなど、日本人的な要素を随所に盛り込みながら、人種や国籍を意識させない普遍性も兼ね備えた唯一無二の作品。ソウル・ミュージックが好きな人からクラブ・ミュージックが好きな人まで、あらゆる人の琴線に引っ掛かりそうな面白い作品だ。
Producer
Yuki "T-Groove" Takahashi
Track List
1. Move Your Body feat. B. Thompson
2. Roller Skate feat. The Precious Lo's
3. I'll Be Right Here feat. Winfree
4. Family feat. Jovan Sammy
5. Let Your Body Move feat. Enois Scroggins
6. Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight) feat. Diane Marsh
7. Let's Get Close feat. –Ice
8. Why Oh Why feat. Winfree
9. Call It Love feat. B. Thompson
10. Stuck Like Glue feat. Maddam Mya
11. All Night Long "T-Groove Remix" feat. B. Thompson
12. Do You Feel The Same? Feat. Leon Beal
13. Move Your Body (Rob Hardt Remix) feat. B. Thompson
5月にリリースされたフランスの音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクトとのコラボレーション作品『Cosmos 78』から、僅か1か月という短い間隔で発売された今回のアルバム。”Spring Rain”こそ入っていないが、それ以外の既発曲は全て収録。配給は、エノイス・スクロギンスなどのディスコ・ミュージック、ファンク作品を扱っていることで知られている、フランスの名門、ディギー・ダウン・レコーズで、ゲスト・ミュージシャンには、レーベル・メイトのエノイスやブライアン・トンプソンのほか、日本やヨーロッパで人気のある、オハイオ州トレド出身のトーク・ボクサー、ウィンフリーや、『Cosmos 78』での共演も記憶に新しいトゥー・ジャズ・プロジェクト。ボストンを拠点に活動しているプロデューサー兼マルチ・プレイヤーのモノローグこと金坂征広や、ゴスペル・ギタリストの上条頌、T-グルーヴの作品には欠かせない存在となっている、なかしまたかおベイベーらが集結。実力派ミュージシャンを惹きつけて止まない、彼の魅力が遺憾なく発揮された本格的なソウル作品になっている。
アルバムのオープニングを飾るのは、ブライアン・トンプソンを起用したタイトル・トラック”Move Your Body”。グレッグ・ドジェット(from ドジェット・ブラザーズ)のボコーダーと、ブーツィー・コリンズを彷彿させる、なかしまたかおのグルーヴィーなベースが心地よいダンス・ナンバー。ボコーダーを駆使したスタイリッシュなサウンドは、ダフト・パンクの”Get Lucky”を思い起こさせるが、こちらの曲では、ブライアン・トンプソンが恵まれた歌声を惜しげもなく披露して、ソウルフルに纏めている点が大きく異なる。
これに対し、ウィンフリーをフィーチャーした”I'll Be Right Here”は、セオ・パリッシュやムーディマンを連想させる、洒脱な雰囲気が印象的なアップ・ナンバー。ハウス・ミュージックと生演奏を融合したモダンなトラックの上で、トーク・ボックスが武器のウィンフリーに、そのままの声で歌わせる発想の柔軟さと、それを形にする各人の高い技術力が光る佳曲だ。
また、エノイス・スクロギンスを招いた”Let Your Body Move”は、エノイスの作品ではあまり聴けないディスコ・ブギー。ストリングスのような音色のシンセサイザーを使い、音数を絞ったメロディで彼のバリトン・ヴォイスをじっくりと聴かせている。ストリングスっぽい音を使った流麗な伴奏と、一音一音をじっくり聴かせるヴォーカルはバリー・ホワイトを連想させる。バリーが今も生きていたら、こんな曲を歌っていたんじゃないかという想像が膨らむエレガントなディスコ音楽だ。
そして、本作では珍しいハウス・ミュージックのシンガーを起用した”Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight)”は、ダイアン・マーシュがヴォーカルを担当したミディアム・ナンバー。煌びやかな音色を散りばめたトラックと、ダイナンのキュートな歌声が心地よい。フランキー・ナックルズのハウス・ミュージックのような華やかで緻密な音作りと、ダイアンのソウルフルなヴォーカルを思う存分堪能できる。
このアルバムを聴いて真っ先に思い出したのは、ディー・ライトの一員としてデビューしたテイ・トウワの存在だ。留学先のニューヨークでデビューしたテイと、インターネットの音楽投稿サイトから火が付いたT-グルーヴでは、経歴も音楽性も全く異なる。だが、欧米のポピュラー・ミュージックに自身の解釈を加え、本場のミュージシャンと互角に戦える独創性な作品を生み出すT-グルーヴの作品からは、ディー・ライトの一員として国籍や人種の壁を感じさせない音楽で大きな足跡を残したテイの姿がダブって見える。
また、日頃、色々な国のミュージシャンの作品を聴いていて感じることだが、日本人ミュージシャンの最大の弱みは「日本人であること」に固執していることだと思う。ヒップホップやR&Bでは特に顕著だが、「ジャパニーズ〇〇」に固執するあまり、自身の実像や音楽シーンの潮流からかけ離れた、独り善がりな作品に陥ることが少なくない。フランク・デュークスやミッシー・エリオットと組んで、アメリカのヒップホップをアジア人向けにカスタマイズした韓国のG-ドラゴンや、スーダンとアメリカ、イギリスの3ヵ国で過ごした経験をフルに活かした作風がウリのシンケイン、アメリカのヒップホップを意識しつつ、時刻アフロ・ビートを取り入れて独自性を発揮したナイジェリアのワイシーのような、「人種や国籍などのアイデンティティ」「ミュージシャンとしての個性や技術」「時代の変化を嗅ぎ取る嗅覚」のバランスが取れた人は、日本人では非常に希少だと思う。
東京の雑駁さなど、日本人的な要素を随所に盛り込みながら、人種や国籍を意識させない普遍性も兼ね備えた唯一無二の作品。ソウル・ミュージックが好きな人からクラブ・ミュージックが好きな人まで、あらゆる人の琴線に引っ掛かりそうな面白い作品だ。
Producer
Yuki "T-Groove" Takahashi
Track List
1. Move Your Body feat. B. Thompson
2. Roller Skate feat. The Precious Lo's
3. I'll Be Right Here feat. Winfree
4. Family feat. Jovan Sammy
5. Let Your Body Move feat. Enois Scroggins
6. Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight) feat. Diane Marsh
7. Let's Get Close feat. –Ice
8. Why Oh Why feat. Winfree
9. Call It Love feat. B. Thompson
10. Stuck Like Glue feat. Maddam Mya
11. All Night Long "T-Groove Remix" feat. B. Thompson
12. Do You Feel The Same? Feat. Leon Beal
13. Move Your Body (Rob Hardt Remix) feat. B. Thompson