melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年06月

T-Groove - Move Your Body [2017 Diggy Down Recordz]

2014年に、ソフィスティケイテッド・ファンクの名義で発表したシングル”Move Your Body”(本作のタイトル・トラックとは同名異曲のインストゥメンタル作品)を皮切りに、多くの楽曲をリリース。トム・グラインドの”Soul Life”をリミックスして、大手クラブ・ミュージック配信サイトで1位を獲得したほか、マックレイの”Show Me”や、サン・ソウル・オーケストラの”Can't Deny It”、レネ・ローズの”Funky Attitude”などのリミックスをUKソウル・チャートの2位に送り込み、自身の名義の作品でも、ソーシー・レディーをフィーチャーした”Spring Rain”や、ダイアン・マーシュが参加した”Everybody Dance”などが、ヨーロッパのラジオ番組でヘビー・プレイされている、青森県八戸市出身、東京在住のプロデューサー、T-グルーヴこと高橋佑貴。彼の待望のフル・アルバムが本作だ。

5月にリリースされたフランスの音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクトとのコラボレーション作品『Cosmos 78』から、僅か1か月という短い間隔で発売された今回のアルバム。”Spring Rain”こそ入っていないが、それ以外の既発曲は全て収録。配給は、エノイス・スクロギンスなどのディスコ・ミュージック、ファンク作品を扱っていることで知られている、フランスの名門、ディギー・ダウン・レコーズで、ゲスト・ミュージシャンには、レーベル・メイトのエノイスやブライアン・トンプソンのほか、日本やヨーロッパで人気のある、オハイオ州トレド出身のトーク・ボクサー、ウィンフリーや、『Cosmos 78』での共演も記憶に新しいトゥー・ジャズ・プロジェクト。ボストンを拠点に活動しているプロデューサー兼マルチ・プレイヤーのモノローグこと金坂征広や、ゴスペル・ギタリストの上条頌、T-グルーヴの作品には欠かせない存在となっている、なかしまたかおベイベーらが集結。実力派ミュージシャンを惹きつけて止まない、彼の魅力が遺憾なく発揮された本格的なソウル作品になっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、ブライアン・トンプソンを起用したタイトル・トラック”Move Your Body”。グレッグ・ドジェット(from ドジェット・ブラザーズ)のボコーダーと、ブーツィー・コリンズを彷彿させる、なかしまたかおのグルーヴィーなベースが心地よいダンス・ナンバー。ボコーダーを駆使したスタイリッシュなサウンドは、ダフト・パンクの”Get Lucky”を思い起こさせるが、こちらの曲では、ブライアン・トンプソンが恵まれた歌声を惜しげもなく披露して、ソウルフルに纏めている点が大きく異なる。

これに対し、ウィンフリーをフィーチャーした”I'll Be Right Here”は、セオ・パリッシュやムーディマンを連想させる、洒脱な雰囲気が印象的なアップ・ナンバー。ハウス・ミュージックと生演奏を融合したモダンなトラックの上で、トーク・ボックスが武器のウィンフリーに、そのままの声で歌わせる発想の柔軟さと、それを形にする各人の高い技術力が光る佳曲だ。

また、エノイス・スクロギンスを招いた”Let Your Body Move”は、エノイスの作品ではあまり聴けないディスコ・ブギー。ストリングスのような音色のシンセサイザーを使い、音数を絞ったメロディで彼のバリトン・ヴォイスをじっくりと聴かせている。ストリングスっぽい音を使った流麗な伴奏と、一音一音をじっくり聴かせるヴォーカルはバリー・ホワイトを連想させる。バリーが今も生きていたら、こんな曲を歌っていたんじゃないかという想像が膨らむエレガントなディスコ音楽だ。

そして、本作では珍しいハウス・ミュージックのシンガーを起用した”Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight)”は、ダイアン・マーシュがヴォーカルを担当したミディアム・ナンバー。煌びやかな音色を散りばめたトラックと、ダイナンのキュートな歌声が心地よい。フランキー・ナックルズのハウス・ミュージックのような華やかで緻密な音作りと、ダイアンのソウルフルなヴォーカルを思う存分堪能できる。

このアルバムを聴いて真っ先に思い出したのは、ディー・ライトの一員としてデビューしたテイ・トウワの存在だ。留学先のニューヨークでデビューしたテイと、インターネットの音楽投稿サイトから火が付いたT-グルーヴでは、経歴も音楽性も全く異なる。だが、欧米のポピュラー・ミュージックに自身の解釈を加え、本場のミュージシャンと互角に戦える独創性な作品を生み出すT-グルーヴの作品からは、ディー・ライトの一員として国籍や人種の壁を感じさせない音楽で大きな足跡を残したテイの姿がダブって見える。

また、日頃、色々な国のミュージシャンの作品を聴いていて感じることだが、日本人ミュージシャンの最大の弱みは「日本人であること」に固執していることだと思う。ヒップホップやR&Bでは特に顕著だが、「ジャパニーズ〇〇」に固執するあまり、自身の実像や音楽シーンの潮流からかけ離れた、独り善がりな作品に陥ることが少なくない。フランク・デュークスやミッシー・エリオットと組んで、アメリカのヒップホップをアジア人向けにカスタマイズした韓国G-ドラゴンや、スーダンアメリカイギリスの3ヵ国で過ごした経験をフルに活かした作風がウリのシンケイン、アメリカのヒップホップを意識しつつ、時刻アフロ・ビートを取り入れて独自性を発揮したナイジェリアワイシーのような、「人種や国籍などのアイデンティティ」「ミュージシャンとしての個性や技術」「時代の変化を嗅ぎ取る嗅覚」のバランスが取れた人は、日本人では非常に希少だと思う。

東京の雑駁さなど、日本人的な要素を随所に盛り込みながら、人種や国籍を意識させない普遍性も兼ね備えた唯一無二の作品。ソウル・ミュージックが好きな人からクラブ・ミュージックが好きな人まで、あらゆる人の琴線に引っ掛かりそうな面白い作品だ。

Producer
Yuki "T-Groove" Takahashi

Track List
1. Move Your Body feat. B. Thompson
2. Roller Skate feat. The Precious Lo's
3. I'll Be Right Here feat. Winfree
4. Family feat. Jovan Sammy
5. Let Your Body Move feat. Enois Scroggins
6. Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight) feat. Diane Marsh
7. Let's Get Close feat. –Ice
8. Why Oh Why feat. Winfree
9. Call It Love feat. B. Thompson
10. Stuck Like Glue feat. Maddam Mya
11. All Night Long "T-Groove Remix" feat. B. Thompson
12. Do You Feel The Same? Feat. Leon Beal
13. Move Your Body (Rob Hardt Remix) feat. B. Thompson






Vince Staples - Big Fish Theory [2017 Def Jam Recordings, Universal]

フランク・オーシャンシド(現在は離脱)、マット・マーシャンなどが所属するヒップホップ・クルー、オッド・フューチャーなどの作品に客演したことで名を上げた、カリフォルニア州ロング・ビーチ出身のラッパー、ヴィンス・ステイプルスことヴィンス・ジャマル・ステイプルス。

2011年には、自身の名義で発表した自主制作のミックス・テープ『Shyne Coldchain Vol. 1』もヒット。その後も、2枚のミックス・テープと多くの客演作品で高いラップ技術を発揮していた彼は、2013年にヒップホップの名門デフ・ジャムと契約。2015年に、アルバム『Summertime '06』でメジャー・デビューを果たした。同作は、R&Bヒップホップ・チャートで3位、ラップ・チャートで2位を獲得、複数の批評サイトで同年を代表する作品として取り上げられている。

今回のアルバムは、2年ぶりの新作となる2枚目のオリジナル・アルバム。ノーI.D.が収録曲の大半を手掛けた前作に対し、本作ではザック・セクオフやクリスチャン・リッチなど、多くのプロデューサーが参加。ゲスト・アーティストにもボン・イヴェール(メンバーのジャスティン・ヴァーノンはプロデュースも担当)や、デーモン・アルバーン、ケンドリック・ラマーなど、バラエティ豊かな面々が並んでいる。

アルバムのオープニングを飾る”Crabs In A Bucket”は、アメリカのロック・バンド、ボン・イヴェールと、フロリダ州オーランド出身のシンガー・ソングライター、キロ・キッシュをフィーチャーした作品。ザック・セクオフとボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンがプロデュースしたトラックは、意外にもガラージ。高速のビートに乗って次々と言葉を繰り出すヴィンスのラップは、ガラージの本場イギリスのミュージシャンにも見劣りしないものだ。キロ・キッシュの透き通ったヴォーカルも、楽曲の雰囲気とマッチしている。彼の多芸な一面を垣間見れる曲だ。

これに対し、クリスチャン・リッチがプロデュースを担当。ジューシーJをゲストに招いた”Big Fish”は、シンセサイザーを駆使したモダンなトラックが印象的なヒップホップ・ナンバー。電子音を多用したビートは、リル・ウェインやウェイルといったトラップ寄りアーティストの作品で頻繁に登場しているが、彼らの曲と比べると、この曲はオッド・フューチャーなどの正統派ヒップホップ・アーティストの作品に近い。電子楽器を用いて、王道のヒップホップを新鮮に聞かせるプロデューサーの技術も凄いが、それをきちんと乗りこなす二人のスキルも見逃せない。

また、マイアミ発のプロダクション・チームGTAがトラックを制作した”Love Can Be…”は、”Crabs In A Bucket”と同じガラージ・スタイルのアップ・ナンバー。ゴリラズのアルバム『Humanz』に収録されている“Ascension”で共演したデーモン・アルバーンや、アトランタ出身のラッパー、ゴリラ・ズー、”Crabs In A Bucket”でもコラボレーションしているキロ・キッシュが参加した豪華な作品だ。鋭いサウンドの”Crabs In A Bucket”に対し、こちらは柔らかい音色を使った洗練されたトラックが印象的。4人の個性溢れる歌唱も楽曲に彩を添えている。

そして、本作の最後を締める”Rain Come Down”はロス・アンジェルス出身のラッパー、タイ・ダラ・サインをフィーチャー。ザック・セクオフが手掛けたトラックは、2ステップなどの要素を盛り込んだ、エレクトロ・ミュージック寄りのものだ。その上で軽妙なラップを聴かせるヴィンスと、甘い歌声を響かせるタイ・ダラ・サインのコンビネーションが光っている。アメリカのヒップホップには珍しいタイプのトラックを、きちんとアメリカ向けにローカライズしている点は面白い。

今回のアルバムは、ロック畑やエレクトロ・ミュージックのミュージシャンを招き、楽曲の幅を広げている点が特徴的だ。しかし、色々なサウンドを取り入れながらも、きちんとヒップホップとして楽しめるのは、ひとえにヴィンスの高いラップ技術のおかげだろう。個性豊かなトラックを難なく乗りこなすヴィンスのスキルのおかげで、斬新なサウンドもアメリカのヒップホップの一部に落とし込めていると思う。

ディプロやカルヴィン・ハリス、ブラッド・オレンジなど、色々な分野のミュージシャンがヒップホップやR&Bを取り込んだ作品を発表しているが、ヒップホップのアーティストが色々なジャンルの音楽を吸収し、自分達の音楽の糧にした作品は珍しい。23歳(本作のリリース時点)の若い感性を生かし、柔軟で鋭い感性が光る、新鮮なヒップホップ作品だ。

Producer
Corey "Blacksmith" Smythm Justine Vernon, Christian Rich, GTA, Jimmy Edgar

Track List
1. Crabs In A Bucket feat. Bon Iver, Kilo Kish
2. Big Fish feat. Juicy J
3. Alyssa Interlude
4. Love Can Be… feat. Damon Albarn, Gorilla Zoe, Kilo Kish
5. 745
6. Ramona Park Is Yankee Stadium
7. Yeah Right feat. Kendrick Lamar
8. Homage feat. Kilo Kish, Rick Ross
9. Samo feat. ASAP Rocky
10. Party People
11. BagBak
12. Rain Come Down feat. Ty$





BIG FISH THEORY [CD]
VINCE STAPLES
DEF JAM RECORDINGS
2017-06-23


2 Chainz - Pretty Girls Like Trap Music [2017 Def Jam Recordings Universal]

1997年に、ハイスクール時代の友人とヒップホップ・グループ、プレイヤーズ・サークルを結成。リュダクリス率いるデフ・ジャム・サウスから2枚のアルバムを発表している。ジョージア州カレッジ・パーク出身のラッパー、2チェインズことトーヒード・エプス。

2011年に改名すると、翌年には自身の名義では初めてのフル・アルバム『Based on a T.R.U. Story』をリリース。全米アルバム・チャートで1位を獲得し、プラチナ・ディスクに認定される大ヒット作となった。また、自身名義の作品以外にもニッキー・ミナージュの”Beez in the Trap”やB.O.B.の”HeadBand”、ジェイソン・デルーロの”Talk Dirty”などに客演。アメリカ南部を代表する人気ラッパーの一人として、多くの人に知られる存在となった。

今回のアルバムは、前作『ColleGrove』から約1年ぶりとなる4枚目のフル・アルバム。過去の作品同様、ヒップホップの名門、デフ・ジャム・レコーディングからのリリースで、プロデューサーには、FKiやマイク・ディーンのようなアメリカ南部出身のクリエイターに加え、マーダー・ビーツやマイク・ウィル・メイド・イット、ファレル・ウィリアムスのようなヒット・メイカーが名を連ね、ドレイクやニッキー・ミナージュといった人気ミュージシャンがゲストとして参加した、豪華なものになっている。

アルバムに先駆けて発表された”Good Drank”は、カニエ・ウエストやジャスティン・ビーバーなどの作品を手掛け、近年はビヨンセやフランク・オーシャンの作品にも携わっているヒューストン出身のプロデューサー、マイク・ディーンが制作を担当。グッチ・メインとミーゴスのクアヴォが参加している。トラップ・ビートと物悲しい雰囲気のピアノの伴奏を組み合わせたトラックに乗って、三者三様の個性的なラップを聴かせてくれる。豪華なゲストに囲まれながら、独特の存在感を発揮している2チェインズの姿が印象的な曲だ。

これに対し、マーダー・ビーツがプロデュースした”It's A Vibe”は、タイ・ダラ・サイン、トレイ・ソングス、ジェーン・アイコの3人を招いたR&B色の強いミディアム・ナンバー。ビートの上でギターを爪弾く音が鳴り響くシンプルなトラックの上で、2チェインズとタイ・ダラ・サインがマイクを繋ぎ、その隙間をトレイ・ソングスとジェーン・アイコのヴォーカルが埋める、ロマンティックな楽曲。歌うようにラップをする2チェインズや、ヴォーカル曲も録音しているタイ・ダラ・サインのなめらかなラップを、トレイ・ソングスやジェーン・アイコの繊細な歌唱が上手く盛り立てている。奇抜なトラックや、底抜けに楽しいラップをウリにすることが多い南部出身のミュージシャンには珍しい、メロウな佳曲だ。

そして、クアヴォも所属するアトランタ発の人気ラップ・グループ、ミーゴスをフィーチャーした”Blue Cheese”はメイドイントーキョーなどの作品を手掛けている気鋭のクリエイターKスウィッシャがプロデュース。シンセサイザーやオートチューンを駆使した近未来的な雰囲気のトラックとゆったりとしたビートの上で、各人の個性が際立ったラップを披露する4人の姿が光る曲だ。トラップを取り入れた曲の中では比較的スタイリッシュな曲なので、大人の鑑賞にも耐えると思う。

また、「Hidden Figures」(邦題「ドリーム」)の音楽を監修するなど、仕事の幅を広げているファレル・ウィリアムスがプロデュースとゲスト・ヴォーカルで参加。ネプチューンズ名義のプロデュース作品で頻繁に使っているおなじみの音色を使った、シンプルだがコミカルで軽妙なトラックをバックに、しなやかなファルセットを披露している。癖のあるビートをきっちり乗りこなす2チェインズのラップ・スキルにも注目してほしい。ファレルのソロ・デビュー・アルバム『In My Mind』や、ネプチューンズがプロデュースしたクリプスの『Lord Willin'』などを思い起こさせる魅力的な作品だ。

今回のアルバムも、過去の作品同様、人気のミュージシャンとプロデューサーを集め、流行のサウンドを的確に抑えた、キャッチーで親しみやすい曲が揃っている。もっとも、斬新なトラックであろうと、その要衝をしっかりと見抜き、自身のラップと一体化させる技術力のおかげで、新しいサウンドであっても奇抜さや違和感はない。この高い技術と感性の鋭さが、彼の音楽を新鮮でキャッチーなものにしているのだろう。

2017年のヒップホップのトレンドを丁寧に押さえながら、何度聴いても飽きの来ない高い完成度も兼ね備えた、トップ・アーティストらしい作品。普段ヒップホップをあまり聴かない人にこそぜひ聴いてほしい。

Producer
Tauheed Epps, Fki, Mike Dean, Mike Will Made It, Murda Beatz, Pharrell Williams etc

Track List
1. Saturday Night
2. Riverdale Rd
3. Good Drank feat. Gucci Mane & Quavo
4. 4 AM ft. Travis Scott
5. Door Swangin'
6. Realize feat. Nicki Minaj
7. Pool Fool feat. Swae Lee
8. Big Amount ft. Drake
9. It's A Vibe feat. Jhené Aiko, Trey Songz & Ty Dolla $ign
10. Rolls Royce Bitch
11. Sleep When U Die
12. Trap Check
13. Blue Cheese feat. Migos
14. OG Kush Diet
15. Bailan feat. Pharrell
16. Burglar Bars feat. Monica





2 CHAINZ
2 CHAINZ
PRETTY GIRLS LIKE TRAP
2017-06-23

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