フロリダ州デイトン・ビーチ生まれ、カリフォルニア州ロス・アンジェルス育ちのシンガー・ソングライター兼プロデューサー、ブラックベアーことマシュー・タイラー・マスト。
ガレージ・ロックのバンドから音楽に入った彼は、コンパウンド・エンターテイメントから誘いを受け、18歳の時にアトランタへ移住。ニーヨのようなソングライターとして活躍することを期待され、プロ・ミュージシャンとしての活動を開始する。
そんな彼が頭角を現したのは2012年。カナダ出身のシンガー・ソングライター、ジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”にソングライターとして参加したときだ。同曲は、アメリカ国内だけでトリプル・プラチナム(300万ダウンロード)という大ヒットになり、彼も一躍ヒット・メイカーの仲間入りを果たす。
その後も、G-イージーやフーディー・アレンなど、様々なジャンルの人気ミュージシャンの作品に携わる一方、2012年にソロ名義では初作品となるミックス・テープ『Sex, The Mixtape』をリリース。同じ年に初のEP『Foreplay』を発表すると、以後、毎年1作のペースで作品を発売。自主制作による配信限定の作品ながら、新しい音に敏感な音楽ファンの間で高い評価を受けた。
また、2015年には自身のレーベル、ベアートラップから初のフル・アルバム『Deadroses』を発表すると、同年には2作目『Help』をリリース。どちらの作品も、若いヒット・メイカーらしい斬新でキャッチーな音楽を聴かせてくれた。
そして、このアルバムは前作から約2年ぶりとなる、通算3枚目のオリジナル・アルバム。本作の発売1か月前に、シンガー・ソングライターのマイク・ポンサーとコラボレーション・アルバム『Mansionz』を発表し、同時期にはリンキン・パークのアルバム『One More Time』の”Sorry for Now”を手掛けるなど、多忙な日々を送る中で発表された新作だけに、我々の度肝を抜いた。
今回も過去の2作品同様、本作も自身のレーベル、ベアートラップからのリリース。しかし、デジタル版の配信をインタースコープが、CDやアナログ盤の配給をトラフィック・エンターテイメントが担当するなど、実質的なデビュー作となっている。また、外部のソング・ライターを積極的に招聘し、収録曲にバラエティを持たせた作品になっている。
アルバムの2曲目に収められている”moodz”はアトランタ出身のラッパー24アワーズこと、ロイス・リジーをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。パーティネクストドアの作品に何度も参加しているショーン・シートンをソングライターに起用したこの曲は、ゆったりとしたテンポのトラックの上で、なめらかで甘酸っぱい歌声を駆使して、ラップのような歌を聴かせる、パーティーネクストドアっぽい作品。24アワーズのパートでは、ドレイクを彷彿させる荒っぽい声で歌うようなラップを披露している点も面白い。R.ケリーに始まり、ドレイクやパーティーネクストドアによって音楽業界の中心に躍り出た「歌うようなラップ」をうまく取り入れた佳作だ。
この路線を踏襲したのが本作からシングル・カットされた”do remi”だ。後にグッチ・メインを招いた新ヴァージョンも制作されたこの曲は、ニーヨの”Incredible”やフィフス・ハーモニーの”Big Bad Wolf”のようなR&B作品のほか、リンキン・パークの”Sorry for Now”やワン・オク・ロックの”Bedroom Warfare”のようなロック・ミュージシャンの録音まで、幅広く手掛けてきたアンドリュー・ゴールドスタインとの共作だ。こちらの曲はファルセットを多用し、メロディを強調したヴォーカル曲寄りの作品だ。R.ケリーやマーカス・ヒューストンを思い起こさせる、ヒップホップの要素をうまく取り入れたスロー・バラードになっている。
また、メンフィス出身のラッパー、ジューシーJとコラボレーションした”juicy sweatsuits”は、ジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”を思い起こさせるしなやかなメロディのアップ・ナンバー。”Boyfriend”ではジャスティンが歌とラップを使い分けていたが、この曲では歌をマシューがラップをジューシーJが担当している。マシューが歌うなめらかで聴きやすいメロディを聴くと、彼のソングライティング技術が確かなものだと再認識させられる。本作の隠れた目玉と言っても過言ではない良曲だ。
そして、本作では珍しい正統派バラードが”if i could i would feel nothing”だ。語り掛けるように歌うマシューのヴォーカルは、トレイ・ングスやマーカス・ヒューストンのようなR&Bシンガーよりも、エド・シーランやジャスティン・ビーバーのようなポップ・シンガーに近いもの。シンプルなメロディを丁寧に歌う姿が印象的だ。
彼の音楽の面白いところは、R&Bやヒップホップをベースにしながら、高度でマニアックな技術に頼ることなく、色々な趣味趣向の人に受け入れられる、キャッチーで親しみやすい作品に仕立て上げているところだろう。おそらく、彼のキャリアがガレージ・ロックという、R&Bやヒップホップとは客層が大きく異なるジャンルから始まったことが大きいのだと思う。
ロックやエレクトロ・ミュージックと並行して、R&Bやヒップホップに慣れ親しんできた世代の人間らしい、柔軟な発想と鋭い感性が光る佳作。R&Bが人種の壁を越えて、アメリカ社会に定着したことを感じさせる面白い作品だ。
Track List
1. hell is where i dreamt of u and woke up alone
2. moodz feat. 24hrs
3. i miss the old u
4. do remi
5. wish u the best
6. juicy sweatsuits feat. Juicy J
7. double
8. if i could i would feel nothing
9. chateau
10. make daddy proud
ガレージ・ロックのバンドから音楽に入った彼は、コンパウンド・エンターテイメントから誘いを受け、18歳の時にアトランタへ移住。ニーヨのようなソングライターとして活躍することを期待され、プロ・ミュージシャンとしての活動を開始する。
そんな彼が頭角を現したのは2012年。カナダ出身のシンガー・ソングライター、ジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”にソングライターとして参加したときだ。同曲は、アメリカ国内だけでトリプル・プラチナム(300万ダウンロード)という大ヒットになり、彼も一躍ヒット・メイカーの仲間入りを果たす。
その後も、G-イージーやフーディー・アレンなど、様々なジャンルの人気ミュージシャンの作品に携わる一方、2012年にソロ名義では初作品となるミックス・テープ『Sex, The Mixtape』をリリース。同じ年に初のEP『Foreplay』を発表すると、以後、毎年1作のペースで作品を発売。自主制作による配信限定の作品ながら、新しい音に敏感な音楽ファンの間で高い評価を受けた。
また、2015年には自身のレーベル、ベアートラップから初のフル・アルバム『Deadroses』を発表すると、同年には2作目『Help』をリリース。どちらの作品も、若いヒット・メイカーらしい斬新でキャッチーな音楽を聴かせてくれた。
そして、このアルバムは前作から約2年ぶりとなる、通算3枚目のオリジナル・アルバム。本作の発売1か月前に、シンガー・ソングライターのマイク・ポンサーとコラボレーション・アルバム『Mansionz』を発表し、同時期にはリンキン・パークのアルバム『One More Time』の”Sorry for Now”を手掛けるなど、多忙な日々を送る中で発表された新作だけに、我々の度肝を抜いた。
今回も過去の2作品同様、本作も自身のレーベル、ベアートラップからのリリース。しかし、デジタル版の配信をインタースコープが、CDやアナログ盤の配給をトラフィック・エンターテイメントが担当するなど、実質的なデビュー作となっている。また、外部のソング・ライターを積極的に招聘し、収録曲にバラエティを持たせた作品になっている。
アルバムの2曲目に収められている”moodz”はアトランタ出身のラッパー24アワーズこと、ロイス・リジーをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。パーティネクストドアの作品に何度も参加しているショーン・シートンをソングライターに起用したこの曲は、ゆったりとしたテンポのトラックの上で、なめらかで甘酸っぱい歌声を駆使して、ラップのような歌を聴かせる、パーティーネクストドアっぽい作品。24アワーズのパートでは、ドレイクを彷彿させる荒っぽい声で歌うようなラップを披露している点も面白い。R.ケリーに始まり、ドレイクやパーティーネクストドアによって音楽業界の中心に躍り出た「歌うようなラップ」をうまく取り入れた佳作だ。
この路線を踏襲したのが本作からシングル・カットされた”do remi”だ。後にグッチ・メインを招いた新ヴァージョンも制作されたこの曲は、ニーヨの”Incredible”やフィフス・ハーモニーの”Big Bad Wolf”のようなR&B作品のほか、リンキン・パークの”Sorry for Now”やワン・オク・ロックの”Bedroom Warfare”のようなロック・ミュージシャンの録音まで、幅広く手掛けてきたアンドリュー・ゴールドスタインとの共作だ。こちらの曲はファルセットを多用し、メロディを強調したヴォーカル曲寄りの作品だ。R.ケリーやマーカス・ヒューストンを思い起こさせる、ヒップホップの要素をうまく取り入れたスロー・バラードになっている。
また、メンフィス出身のラッパー、ジューシーJとコラボレーションした”juicy sweatsuits”は、ジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”を思い起こさせるしなやかなメロディのアップ・ナンバー。”Boyfriend”ではジャスティンが歌とラップを使い分けていたが、この曲では歌をマシューがラップをジューシーJが担当している。マシューが歌うなめらかで聴きやすいメロディを聴くと、彼のソングライティング技術が確かなものだと再認識させられる。本作の隠れた目玉と言っても過言ではない良曲だ。
そして、本作では珍しい正統派バラードが”if i could i would feel nothing”だ。語り掛けるように歌うマシューのヴォーカルは、トレイ・ングスやマーカス・ヒューストンのようなR&Bシンガーよりも、エド・シーランやジャスティン・ビーバーのようなポップ・シンガーに近いもの。シンプルなメロディを丁寧に歌う姿が印象的だ。
彼の音楽の面白いところは、R&Bやヒップホップをベースにしながら、高度でマニアックな技術に頼ることなく、色々な趣味趣向の人に受け入れられる、キャッチーで親しみやすい作品に仕立て上げているところだろう。おそらく、彼のキャリアがガレージ・ロックという、R&Bやヒップホップとは客層が大きく異なるジャンルから始まったことが大きいのだと思う。
ロックやエレクトロ・ミュージックと並行して、R&Bやヒップホップに慣れ親しんできた世代の人間らしい、柔軟な発想と鋭い感性が光る佳作。R&Bが人種の壁を越えて、アメリカ社会に定着したことを感じさせる面白い作品だ。
Track List
1. hell is where i dreamt of u and woke up alone
2. moodz feat. 24hrs
3. i miss the old u
4. do remi
5. wish u the best
6. juicy sweatsuits feat. Juicy J
7. double
8. if i could i would feel nothing
9. chateau
10. make daddy proud