melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年08月

Daniel Caesar - Freudian [2017 Golden Child]

ドレイクパーティーネクストドアといったOVOサウンド発のアーティストのほか、ジャスティン・ビーバーのようなポップスターや、ケイトラナダのような通好みのクリエイターまで、多種多彩なアーティストを輩出し、ポップスの世界においてアメリカ、イギリスに匹敵する影響力を持っているカナダ。彼らの後を追うように、同国から世界に羽ばたこうとしているのが、シンガー・ソングライターのダニエル・シーザーことアシュトン・シモンズだ。

トロント出身の彼は、2014年にデビュー作となるEP『Praise Break』を発表すると、彼の生い立ちや恋愛経験が反映されたリアルな作風が評価され、アメリカの音楽誌、ローリングストーンが選ぶ同年のベストR&Bアルバム・トップ20に選ばれる。また、2016年に発表したシングル”Get You”は、大手ストリーミングサイトで2000万回以上再生される大ヒット。フィジカル・リリースの経験がないアーティストの作品としては異例の成功を収める。

このアルバムは、代表曲”Get You”を収めた彼にとって初のフル・アルバム。自身が設立したゴールデン・チャイルドから発売した配信限定の作品ながら、ドレイクなどの作品に携わってきたジョーダン・エヴァンスやマシュー・バーネットをプロデューサーに迎えつつ、全ての曲を彼自身が制作。H.E.R.やジ・インターネットのシドといった、通好みの女性R&Bシンガーや、カリ・ウチスのようなポップス畑の名手をゲスト・ヴォーカルに起用し、演奏はバッドバッドノットグッドが担当した、本格的なR&Bアルバムに仕上げている。

アルバムのオープニングを飾る彼の代表曲”Get You”は、コロンビア生まれの女性シンガー、カリ・ウチスをゲストに招いたスロー・ナンバー。マックスウェルディアンジェロを思い起こさせる音数の少ない伴奏をバックに、ベイビーフェイスやジョーを思い起こさせるしっとりとしたメロディを聴かせている。また、カリのキュートなヴォーカルが、ダニエルの繊細な歌声を引き立てている点も面白い。伴奏を担当するバッドバッドノットグッドの緻密で正確無比な演奏にも耳を傾けてほしい。

続く”Best Part”はRCAから発表した作品も話題のH.E.R.をフィーチャーしたスロー・ナンバー。きめ細かなギターの伴奏で幕を開けるこの曲は、シンセサイザーを使ったような太く重いトラックが印象的。線は細いが強くしなやかな歌声のH.E.R.が艶めかしいヴォーカルを披露しているので、思う存分堪能してほしい。

一方、インターネットのシドが参加した”Take Me Away”は、本作の収録曲では唯一、彼自身がセルフ・プロデュースした作品。90年代のヒップホップを連想させる、古いレコードから抜き出したような太く、温かい音色のビートをバックに甘い歌声を響かせている。シドのクールで透き通ったヴォーカルと、ダニエルの肉感的なパフォーマンスの組み合わせが楽曲に起伏を与えている。アリーヤとR.ケリーのコラボレーションを彷彿させる佳作だ。

そして、彼と同じカナダ出身のシンガー・ソングライター、シャーロット・デイ・ウィルソンを招いた”Transform”は、このアルバムでは珍しい、ロックの要素を取り入れた作品。力強いビートやシンセサイザーの伴奏など、ロックのバラードの要素を盛り込んだ伴奏をバックに、感情表現を控えめにした神秘的な歌唱を披露している。他のゲストとは一味違う、シャーロットのスマートなヴォーカルも楽曲に個性を与えている。

彼の音楽は、マックスウェルやラウル・ミドンのような、アコースティック楽器を多用した柔らかい音色の伴奏と繊細な歌唱、それに流麗なメロディを組み合わせたものだ。その作風は先人のものを踏襲しつつ、彼の人生や私生活を反映したリリックなどを盛り込むことで、ボブ・ディランのような往年のフォーク・シンガーが持つ生々しさも内包している。

メジャー・レーベルと契約していないにも関わらず、彼の音楽の完成度は極めて高い。ディアンジェロやマックスウェルのようなソウル寄りの音楽が好きな人はもちろん、ベイビーフェイスやジョーのような美しいメロディの作品が好きな人、ニルヴァーナやボブ・ディランのような、生々しい言葉を放つロックやフォーク・ソングが好きな人にもぜひ聴いてほしい魅力的な作品だ。

Producer
Daniel Caesar, Jordan Evans, Jordon Manswell, Matthew Burnett

Track List
1. Get You feat. Kali Uchis
2. Best Part feat. H.E.R.
3. Hold Me Down
4. Neu Roses (Transgressor's Song)
5. Loose
6. We Find Love
7. Blessed
8. Take Me Away feat. Syd
9. Transform feat. Charlotte Day Wilson
10. Freudian




Fifth Harmony - Fifth Harmony [2017 Sony]

イギリスの人気オーディション番組「Xファクター」のアメリカ版に出場したアリー・ブルック、ノーマン・コーディ、ローレン・ハウレギ、ダイナ・ジェーン、カミラ・カベロの5人からなるガールズ・グループ、フィフス・ハーモニー。

2013年にリリースした初のEP『Better』が全米総合チャートを6位に入り、同作からのシングル曲”Miss Movin’ On”がゴールド・ディスクを獲得するなど、幸先のいいスタートを切った彼女達は、2015年に1枚目のフル・アルバム『Reflection』を発表。全米チャートの5位をはじめ、カナダとニュージーランドで8位に入るなど、各国のヒット・チャートにその名を刻んできた。その後も、2016年に発売した2枚目のアルバム『7/27』が複数の国のヒット・チャートでトップ10圏内に入るなど、アメリカを代表するガールズ・グループへの道を、着実に登って行った。

このアルバムは、グループにとって3枚目となるLP。2016年の終わりにカミラ・カベロがグループを脱退して、4人組として再スタートを切った彼女達にとって初めてのアルバムとなる。

アルバムに先駆けて発売されたシングル曲”Down”は、ビヨンセやジェイソン・デルーロの作品も手掛けている、ボルティモア出身のプロデューサー、アモことジョシュア・コールマンが制作を担当。チャッキー・トンプソンやドリームが作りそうな、シンセサイザーの音色を多用した爽やかなトラックと彼女達のキュートな歌声が印象的なアップ・ナンバー。軽快なビートとメロディを軸にしながら、曲の途中に挟み込まれたグッチ・メインのラップ・パートでトラックを変えるなど、随所に凝った演出を盛り込んでいる。

続く、もう一つのシングル曲”He LIke That”も、アモのプロデュース作品。こちらは、80年代のウェイン・ワンダーやUB40を思い起こさせる、ゆったりとしたトラックと軽妙なメロディが心地よいレゲエ風ナンバー。可愛らしい歌声の合間に、地声を使った力強い歌唱を挟み込むことで、楽曲に起伏を付けている。オーディション番組で鍛えられた彼女達らしい、豊かな表現力と親しみやすさが光る曲だ。

一方、エレクトロ・ミュージックのプロデューサー、スカイレックスと、アッシャーやクリス・ブラウンなどの楽曲に携わってきたプー・ベアのコンビによる”Angel”は、プー・ベアもペンを執ったアッシャーの”Burn”を連想させるチキチキ・ビートが印象的なミディアム・ナンバー。奇抜な楽曲を作ることが多いスカイレックスだが、この曲ではジャーメイン・デュプリを連想させる、シンセサイザーを多用したチキチキ・ビートに近いものを提供。彼女達の溌剌としたヴォーカルを引き立てている。2000年代前半にアッシャーやマライア・キャリーが発表していたような、親しみやすいメロディのR&Bが、現代のクリエイターのフィルターを挟むと新鮮に聴こえるのは面白い。

そして、もう一つ見逃せない曲が、ドリームラブが手掛けた”Messy”だ。セレーナ・ゴメスやニッキー・ミナージュなどに楽曲を提供してきたポップス畑の作家が用意したのは、甘酸っぱいメロディとそれを引き立てるシンプルなアレンジが光るミディアム・バラード。グラマラスな歌声や艶めかしいパフォーマンスは、”Touch My Body”などの楽曲でセクシーなヴォーカルを披露していたマライア・キャリーを彷彿させる。最年長のアリソンでさえ24歳と、全員が20代前半のグループとは思えない、大人っぽい歌唱が魅力的だ。

カミラの脱退を経た後の作品だが、各人の歌唱力がレベルアップしたこともあり、パワー・ダウンした印象はない。むしろ、経験を積んで各メンバーの個性が際立つようになり、メンバーの個性とグループとしての一体感を両立した音楽が増えたようにも思える。

デスティニーズ・チャイルドやTLCなどが活動を休止、もしくは縮小し、アメリカのポップス市場からガールズ・グループの存在感が薄れていく中、唯一無二の存在となりつつある彼女達の持ち味が遺憾なく発揮されている。TLCやスパイス・ガールズのように、世界を股にかける存在になると思わせる、高いスター性とヴォーカル・スキルが楽しめる佳作だ。

Producer
Ammo, DallasK, Poo Bear, Skrillex etc

Track List
1. Down feat. Gucci Mane
2. He LIke That
3. Sauced Up
4. Make You Mad
5. Deliver
6. Lonely Night
7. Don't Say Love Me
8. Angel
9. Messy
10. Bridges





Fifth Harmony
Fifth Harmony
Epic
2017-08-25

D'Angelo - Brown Sugar: Deluxe Edition [2017 Capitol]

宣教師の父のもとで、幼いころから音楽の才能を開花し、91年にEMIと契約すると、デビュー前の新人ながら、ボーイズIIメンやキース・スウェットらが参加した企画シングル”U Will Know”のソングライターに抜擢されるなど、若いころから華々しい活躍を見せてきたバージニア州リッチモンド出身のシンガー・ソングライター、ディアンジェロこと、マイケル・ユージン・アーチャー。

1995年に、初のフル・アルバム『Brown Sugar』をリリースすると、ヒップホップのシンプルなダイナミックなビートと、生演奏を使った、往年のソウル・ミュージックを連想させる温かい演奏を融合した斬新な作風で、音楽ファンの注目を集めた。その後も、2000年には『Voodoo』を 2014年には『Black Messiah』を発表。寡作ながら、多くの人の記憶に残る傑作を残してきた。

今回のアルバムは、95年に発売したデビュー作の新装版。オリジナル盤の収録曲(ディスク1の1~11曲目)に本作が初出のリミックスなどを加えた、豪華なものになっている。

本作の目玉である追加曲に目を向けると、最初に目を惹くのはプロデューサーの仕事も多いイギリスのジャズDJ、ドッジがリミックスを担当した”Brown Sugar”だ。原曲と同じ音色を使いつつ、キーボードの激しい演奏を、しっとりとした伴奏に置き換えたアレンジが光る作品だ。発売された当初は、オリジナルに比べて地味な印象を抱いたが、改めて聴き返すと、ディアンジェロの歌声を際立たせたアレンジの妙味が光っている。

これに対し、インコグニートが制作した同曲のリミックスは、原曲のヴォーカルを残しつつ、伴奏の大半を新しく録音し直したもの。イントロを聴いた瞬間、インコグニートの仕事とわかる爽やかで上品な伴奏に、ディアンジェロのドロドロとした歌唱が乗っかったアレンジは奇抜にも映るが、実は相性が良い。普段はジャズやソウルに傾倒したスタイリッシュなパフォーマンスを披露することが多い彼らだが、この曲ではディアンジェロに合わせて、ヒップホップのビートや抽象的なフレーズを盛り込んでいることが功を奏している。同じ生演奏を多用した作風ながら、全く異なる音楽性でファンを魅了していた両者の持ち味が一つの音楽に同居した面白い作品だ。

それ以外の曲では、DJプレミアをリミキサーに起用した”Me And Those Dreamin' Eyes Of Mine Two Way”のリミックスも面白い。古いレコードの音色をコラージュして、ソウルフルで躍動感溢れるビートを数多く生み出してきたDJプレミアだが、この曲では音と音の隙間を効果的に使うディアンジェロの作風に合わせて、音数の少ないシンプルなトラックを用意している。プリモが制作に携わった『Voodoo』からの先行シングル”Left & Right”では、パンチの聴いたビートに、メソッドマンとレッドマンの荒々しいラップを組み合わせた斬新な作品だったが、こちらはディアンジェロの作風をベースにヒップホップの要素を追加したものだ。好みは分かれると思うが、個人的にはこちらの方がディアンジェロの作風と合っていると思う。

そして、本作の最後に入っている”Cruisin’”は、スモーキー・ロビンソンが79年に発表したシングル曲のカヴァー。95年に発売されたプロモーション用レコードにも入っていたが、正式にCD化されるのは今回が初となる。ほかの曲はリミキサーが明らかになっているが、この曲を含む複数の曲ではクレジットが明らかになっていない。ベタっとした音を使ったヒップホップのビートは、マーク・モリソンのようなイギリスのR&Bシンガーを思い起こさせる。90年代のトレンドが垣間見える佳作だ。

このアルバムを聴いていて驚くのは、追加曲を含むほとんどの作品が90年代に録音されているにも関わらず、今も新鮮に聴こえることだろう。もちろん、彼自身が佳作で作風の変化が小さいことも大きいが、それ以上に、メロディ、歌、演奏の全てが聴きどころという点も大きいと思う。そして、この完成度が極めて高い曲に、音を足したり引いたりして、新しい表情を吹き込むクリエイターの存在も目立っている。音楽配信サービスの隆盛によって、プロやアマチュアのクリエイターが多くのリミックス作品を発表する時代になったが、このアルバムに収められているような楽曲の持ち味を尊重しつつ、クリエイターの独自性を打ち出したものはそれほど多くないと思う。

ディアンジェロの音楽が一時の熱狂で評価されたものではない「不朽の名作」であること、彼だけでなく、本作を傑作にしたのは、彼一人の才能ではなく、作品に関わった全てのクリエイターの才能と技術によるものであることを再認識させられる名企画。彼の音楽を聴いたことがない人はもちろん、オリジナル盤を持っている人にもぜひ聴いてほしい。価値のある特別版だ。

Producer(Original Version)
D'Angelo, Kedar Massenburg, Ali Shaheed Muhammad, Bob Power, Raphael Saadiq

Track List
Disc 1
1. Brown Sugar
2. Alright
3. Jonz In My Bonz
4. Me And Those Dreamin' Eyes Of Mine
5. Sh*t, Damn, Motherf*cker
6. Smooth
7. Cruisin'
8. When We Get By
9. Lady
10. Higher
11. Brown Sugar A Cappella
12. Me And Those Dreamin' Eyes Of Mine A Cappella
13. Brown Sugar Instrumental
14. Lady Just Tha Beat Mix/featuring AZ (Remixed by DJ Premier for Works of Mart Productions, Inc.)
15. Brown Sugar Soul Inside 808 Mix (Mix by DJ Dodge)

DISC 2
1. Brown Sugar King Tech Remix feat. Kool G. Rap
2. Me And Those Dreamin' Eyes Of Mine Def Squad Remix feat. Redman (Remixed by Erick Sermon for Funk Lord Productions)
3. Cruisin' Cut The Sax Remix (Remix by King Tech)
4. Lady Just Tha Beat Mix/featuring AZ (Remixed by DJ Premier for Works of Mart Productions, Inc.)
5. Brown Sugar Soul Inside 808 Mix (Mix by DJ Dodge)
6. Me And Those Dreamin' Eyes Of Mine Two Way Street Mix (Remixed by DJ Premier for Works of Mart Productions, Inc.)
7. Cruisin' Dallas Austin Remix)
8. Lady 2B3 Shake Dat Ass Mix (Remix produced by Neville Thomas and Pule Pheto for 2B3 Productions)
9. Brown Sugar Incognito Molasses Remix
10. Me And Those Dreamin' Eyes Of Mine Dreamy Remix (Remixed by Erick Sermon for Funk Lord Productions)
11. Cruisin' Wet Remix
12. Brown Sugar Dollar Bag Mix
13. Cruisin' God Made Me Funky Remix
14. Brown Sugar CJ Mackintosh Remix (Additional production and Remix by CJ Mackintosh)
15. Lady CJ Mackintosh Mix Radio Edit (Additional production and Remix by CJ Mackintosh)
16. Cruisin' Who's Fooling Who Mix





ブラウン・シュガー(デラックス・エディション)
ディアンジェロ
ユニバーサル ミュージック
2017-08-25

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