92年にドクター・ドレが発表したシングル”Nuthin' but a "G" Thang”で冒頭のラップを担当し、鮮烈なデビューを飾ったスヌープ・ドッグことカルヴァン・ブロータス。
その後、肩の力を抜いた飄々とした雰囲気のラップと、ウィットに富んだ表現が魅力のスヌープは93年のデビュー・アルバム『Doggystyle』を皮切りに、14枚のフル・アルバムと多くのコラボレーション作品をリリース。ニューオーリンズ出身のマスターPや、ネプチューンズのファレル・ウィリアムス、ストーンズ・スロウのディム・ファンクなど、個性的なサウンドで新しい流行を生み出してきたプロデューサーを積極的に起用し、多くの名盤を残してきた。
このアルバムは、今年の5月に発売された『Never Left』から僅か5か月という短い期間で発表された、彼にとって2枚目のEP。配信限定の作品ながら、プロデューサーにはニューヨーク出身のベテランDJ、キッド・カプリや、80年代のディスコ・ミュージックを取り入れた作風で世界中にファンがいるディム・ファンクなどが参加。ゲストにはクリス・ブラウンやオクトーバー・ロンドン、 ディム・ファンクの作品などに携わってきたション・レイウォンなど、豪華な面々が集結した本格的な録音になっている。
アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”M.A.C.A.”。制作は、ビヨンセの”6inch”やウィークエンドの『Starboy』、映画『The Fate of the Furious / Fast & Furious 8』のサウンドトラックからシングル・カットされたG-イージーとケラーニのコラボレーション曲”Good Life”などを手掛けてきた、マイアミ出身のプロデューサー、ベン・ビリオンズが担当。シンセサイザーを多用したエレクトロ・ミュージック寄りの作品が多い彼だが、この曲ではファット・ジョーの”Make It Rain”にも似た躍動感あふれるヒップホップのビートを採用している。普段は立て板に水のように言葉が出てくるスヌープのラップが、この曲ではビートに合わせて随所に溜めを盛り込んでいる点は面白い。彼の器用さが垣間見える。
続く”3's Company”は、ジェイミー・フォックスやタンクなどを手掛けているロス・アンジェルスのプロデューサー、ドン・シティがプロデュース。ゲストにクリス・ブラウンとOTジェナシスを招いた曲で、シンセサイザーの音色がブリブリと鳴り響くビートは、クリス・ブラウンのデビュー曲”Run It”を思い起こさせる。クランクの手法を取り入れつつ、低音を強調することでドクター・ドレが作るような西海岸のヒップホップに落とし込む発想が光っている。
また、もう一つのシングル曲”Dis Finna Be a Breeze!”は、彼自身が制作を主導した作品。マスターPやジャーメイン・デュプリのプロデュース曲を連想させる、跳ねるようなビートと太いベース・ラインの上で、次々と言葉を繰り出すスヌープの姿が印象的だ。変則ビートを前にすると、肩に力が入ってしまうラッパーも少なくない中、他の曲と同じように、肩の力を抜いて軽々と乗りこなす彼のスキルの高さが発揮された佳曲だ。
そして、本作の最後を締めるのが、ディム・ファンクがプロデュースした”Fly Away”だ。2013年にリリースした二人のコラボレーション・アルバム『7 Days of Funk』にも参加している、ション・ラウォンをフィーチャーしたこの曲は、リズム・マシンの軽妙なビートとアナログ・シンセサイザーの煌びやかな音色が、リック・ジェイムスやギャップ・バンドのような80年代のファンク・ミュージシャンを思い出させる。このトラックの上で、ラップではなく、ヴォーカルを披露するスヌープの柔軟な発想も面白い。過去にはレゲエにも挑戦していた彼だが、この曲では80年代のファンク・ミュージシャン達が残したバラードのスタイルを、自分の作風に取り込んでいる。
今回のアルバムの聴きどころは、クランクやバラードといった、過去の作品ではあまり見られなかった手法に挑戦しているところだろう。個性的なラップを武器に20年以上に渡って一線で活躍してきた彼が、新しいスタイルを積極的に取り込んで、自分の音楽に昇華しているところが非常に面白い。また、彼のような西海岸出身のヒップホップ・アーティストに多くの影響を与えた80年代のソウル・ミュージックに触発された作品を録音するなど、新しい音に目を向けつつ、自分達の原点にも目を向けるバランス感覚の良さも、彼の音楽が新鮮さと安定感を与えていると思う。
彼の豊富な経験と、新しいサウンドから往年の名曲まで飲み込む柔軟で貪欲な感性が遺憾なく発揮された名盤。このスタイルをフル・アルバムに拡大したら、音楽シーンに新しい風を吹き込んでくれるのではないかと思わせる充実した内容だ。
Producer
Snoop Dogg, Ben Billions, Schife, Kid Kapri, Niggarchi, Dam-Funk etc
Track List
1. M.A.C.A.
2. 3's Company feat. Chris Brown and O.T. Genasis
3. Good Foot
4. Dis Finna Be a Breeze! feat. Ha Ha Davis
5. None of Mine
6. My Last Name feat. October London
7. SportsCenter (Remix) feat. DesignerFlow
8. Fly Away feat. Shon Lawon
その後、肩の力を抜いた飄々とした雰囲気のラップと、ウィットに富んだ表現が魅力のスヌープは93年のデビュー・アルバム『Doggystyle』を皮切りに、14枚のフル・アルバムと多くのコラボレーション作品をリリース。ニューオーリンズ出身のマスターPや、ネプチューンズのファレル・ウィリアムス、ストーンズ・スロウのディム・ファンクなど、個性的なサウンドで新しい流行を生み出してきたプロデューサーを積極的に起用し、多くの名盤を残してきた。
このアルバムは、今年の5月に発売された『Never Left』から僅か5か月という短い期間で発表された、彼にとって2枚目のEP。配信限定の作品ながら、プロデューサーにはニューヨーク出身のベテランDJ、キッド・カプリや、80年代のディスコ・ミュージックを取り入れた作風で世界中にファンがいるディム・ファンクなどが参加。ゲストにはクリス・ブラウンやオクトーバー・ロンドン、 ディム・ファンクの作品などに携わってきたション・レイウォンなど、豪華な面々が集結した本格的な録音になっている。
アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”M.A.C.A.”。制作は、ビヨンセの”6inch”やウィークエンドの『Starboy』、映画『The Fate of the Furious / Fast & Furious 8』のサウンドトラックからシングル・カットされたG-イージーとケラーニのコラボレーション曲”Good Life”などを手掛けてきた、マイアミ出身のプロデューサー、ベン・ビリオンズが担当。シンセサイザーを多用したエレクトロ・ミュージック寄りの作品が多い彼だが、この曲ではファット・ジョーの”Make It Rain”にも似た躍動感あふれるヒップホップのビートを採用している。普段は立て板に水のように言葉が出てくるスヌープのラップが、この曲ではビートに合わせて随所に溜めを盛り込んでいる点は面白い。彼の器用さが垣間見える。
続く”3's Company”は、ジェイミー・フォックスやタンクなどを手掛けているロス・アンジェルスのプロデューサー、ドン・シティがプロデュース。ゲストにクリス・ブラウンとOTジェナシスを招いた曲で、シンセサイザーの音色がブリブリと鳴り響くビートは、クリス・ブラウンのデビュー曲”Run It”を思い起こさせる。クランクの手法を取り入れつつ、低音を強調することでドクター・ドレが作るような西海岸のヒップホップに落とし込む発想が光っている。
また、もう一つのシングル曲”Dis Finna Be a Breeze!”は、彼自身が制作を主導した作品。マスターPやジャーメイン・デュプリのプロデュース曲を連想させる、跳ねるようなビートと太いベース・ラインの上で、次々と言葉を繰り出すスヌープの姿が印象的だ。変則ビートを前にすると、肩に力が入ってしまうラッパーも少なくない中、他の曲と同じように、肩の力を抜いて軽々と乗りこなす彼のスキルの高さが発揮された佳曲だ。
そして、本作の最後を締めるのが、ディム・ファンクがプロデュースした”Fly Away”だ。2013年にリリースした二人のコラボレーション・アルバム『7 Days of Funk』にも参加している、ション・ラウォンをフィーチャーしたこの曲は、リズム・マシンの軽妙なビートとアナログ・シンセサイザーの煌びやかな音色が、リック・ジェイムスやギャップ・バンドのような80年代のファンク・ミュージシャンを思い出させる。このトラックの上で、ラップではなく、ヴォーカルを披露するスヌープの柔軟な発想も面白い。過去にはレゲエにも挑戦していた彼だが、この曲では80年代のファンク・ミュージシャン達が残したバラードのスタイルを、自分の作風に取り込んでいる。
今回のアルバムの聴きどころは、クランクやバラードといった、過去の作品ではあまり見られなかった手法に挑戦しているところだろう。個性的なラップを武器に20年以上に渡って一線で活躍してきた彼が、新しいスタイルを積極的に取り込んで、自分の音楽に昇華しているところが非常に面白い。また、彼のような西海岸出身のヒップホップ・アーティストに多くの影響を与えた80年代のソウル・ミュージックに触発された作品を録音するなど、新しい音に目を向けつつ、自分達の原点にも目を向けるバランス感覚の良さも、彼の音楽が新鮮さと安定感を与えていると思う。
彼の豊富な経験と、新しいサウンドから往年の名曲まで飲み込む柔軟で貪欲な感性が遺憾なく発揮された名盤。このスタイルをフル・アルバムに拡大したら、音楽シーンに新しい風を吹き込んでくれるのではないかと思わせる充実した内容だ。
Producer
Snoop Dogg, Ben Billions, Schife, Kid Kapri, Niggarchi, Dam-Funk etc
Track List
1. M.A.C.A.
2. 3's Company feat. Chris Brown and O.T. Genasis
3. Good Foot
4. Dis Finna Be a Breeze! feat. Ha Ha Davis
5. None of Mine
6. My Last Name feat. October London
7. SportsCenter (Remix) feat. DesignerFlow
8. Fly Away feat. Shon Lawon