melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年10月

Snoop Dogg - Make America Crip Again [2017 Doggystyle, Empire]

92年にドクター・ドレが発表したシングル”Nuthin' but a "G" Thang”で冒頭のラップを担当し、鮮烈なデビューを飾ったスヌープ・ドッグことカルヴァン・ブロータス。

その後、肩の力を抜いた飄々とした雰囲気のラップと、ウィットに富んだ表現が魅力のスヌープは93年のデビュー・アルバム『Doggystyle』を皮切りに、14枚のフル・アルバムと多くのコラボレーション作品をリリース。ニューオーリンズ出身のマスターPや、ネプチューンズのファレル・ウィリアムスストーンズ・スロウディム・ファンクなど、個性的なサウンドで新しい流行を生み出してきたプロデューサーを積極的に起用し、多くの名盤を残してきた。

このアルバムは、今年の5月に発売された『Never Left』から僅か5か月という短い期間で発表された、彼にとって2枚目のEP。配信限定の作品ながら、プロデューサーにはニューヨーク出身のベテランDJ、キッド・カプリや、80年代のディスコ・ミュージックを取り入れた作風で世界中にファンがいるディム・ファンクなどが参加。ゲストにはクリス・ブラウンオクトーバー・ロンドン、 ディム・ファンクの作品などに携わってきたション・レイウォンなど、豪華な面々が集結した本格的な録音になっている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”M.A.C.A.”。制作は、ビヨンセの”6inch”やウィークエンドの『Starboy』、映画『The Fate of the Furious / Fast & Furious 8』のサウンドトラックからシングル・カットされたG-イージーとケラーニのコラボレーション曲”Good Life”などを手掛けてきた、マイアミ出身のプロデューサー、ベン・ビリオンズが担当。シンセサイザーを多用したエレクトロ・ミュージック寄りの作品が多い彼だが、この曲ではファット・ジョーの”Make It Rain”にも似た躍動感あふれるヒップホップのビートを採用している。普段は立て板に水のように言葉が出てくるスヌープのラップが、この曲ではビートに合わせて随所に溜めを盛り込んでいる点は面白い。彼の器用さが垣間見える。

続く”3's Company”は、ジェイミー・フォックスやタンクなどを手掛けているロス・アンジェルスのプロデューサー、ドン・シティがプロデュース。ゲストにクリス・ブラウンとOTジェナシスを招いた曲で、シンセサイザーの音色がブリブリと鳴り響くビートは、クリス・ブラウンのデビュー曲”Run It”を思い起こさせる。クランクの手法を取り入れつつ、低音を強調することでドクター・ドレが作るような西海岸のヒップホップに落とし込む発想が光っている。

また、もう一つのシングル曲”Dis Finna Be a Breeze!”は、彼自身が制作を主導した作品。マスターPやジャーメイン・デュプリのプロデュース曲を連想させる、跳ねるようなビートと太いベース・ラインの上で、次々と言葉を繰り出すスヌープの姿が印象的だ。変則ビートを前にすると、肩に力が入ってしまうラッパーも少なくない中、他の曲と同じように、肩の力を抜いて軽々と乗りこなす彼のスキルの高さが発揮された佳曲だ。

そして、本作の最後を締めるのが、ディム・ファンクがプロデュースした”Fly Away”だ。2013年にリリースした二人のコラボレーション・アルバム『7 Days of Funk』にも参加している、ション・ラウォンをフィーチャーしたこの曲は、リズム・マシンの軽妙なビートとアナログ・シンセサイザーの煌びやかな音色が、リック・ジェイムスやギャップ・バンドのような80年代のファンク・ミュージシャンを思い出させる。このトラックの上で、ラップではなく、ヴォーカルを披露するスヌープの柔軟な発想も面白い。過去にはレゲエにも挑戦していた彼だが、この曲では80年代のファンク・ミュージシャン達が残したバラードのスタイルを、自分の作風に取り込んでいる。

今回のアルバムの聴きどころは、クランクやバラードといった、過去の作品ではあまり見られなかった手法に挑戦しているところだろう。個性的なラップを武器に20年以上に渡って一線で活躍してきた彼が、新しいスタイルを積極的に取り込んで、自分の音楽に昇華しているところが非常に面白い。また、彼のような西海岸出身のヒップホップ・アーティストに多くの影響を与えた80年代のソウル・ミュージックに触発された作品を録音するなど、新しい音に目を向けつつ、自分達の原点にも目を向けるバランス感覚の良さも、彼の音楽が新鮮さと安定感を与えていると思う。

彼の豊富な経験と、新しいサウンドから往年の名曲まで飲み込む柔軟で貪欲な感性が遺憾なく発揮された名盤。このスタイルをフル・アルバムに拡大したら、音楽シーンに新しい風を吹き込んでくれるのではないかと思わせる充実した内容だ。

Producer
Snoop Dogg, Ben Billions, Schife, Kid Kapri, Niggarchi, Dam-Funk etc

Track List
1. M.A.C.A.
2. 3's Company feat. Chris Brown and O.T. Genasis
3. Good Foot
4. Dis Finna Be a Breeze! feat. Ha Ha Davis
5. None of Mine
6. My Last Name feat. October London
7. SportsCenter (Remix) feat. DesignerFlow
8. Fly Away feat. Shon Lawon






Sky-Hi - Marble [2017 avex trax]

2005年にエイベックス主催のオーディションを勝ち上がったメンバーで結成、同年にシングル”BLOOD on FIRE”でメジャー・デビューを果たした、男女混成のダンス・ヴォーカル・グループ、AAA。

以後も、コンスタントに作品を発表し、2017年までに57枚のシングルと、11枚のフル・アルバムをリリース。複数の作品でゴールド・ディスクやオリコン・チャートの1位を獲得し、2016年と17年にはドーム・ツアーを敢行。2010年以降は7年連続で紅白歌合戦に出場(余談だが、彼らは紅白歌合戦の歴史で唯一、赤組と白組の両方で出演しているグループでもある)するなど、日本を代表するダンス・ヴォーカル・グループとして活躍してきた。

Sky-Hiこと日高光啓は、同グループでヴォーカルとラップを担当。メジャー・デビューの前からクラブ・イベントやMCバトルなどに出演し、デビュー曲の”BLOOD on FIRE”の頃からラップ詞を手掛けるなど、外部のソングライターを起用してきたグループの中で、早くからアーティストとしての才能を発揮してきた。また、2011年以降はSky-Hi名義でも活動を始め、これまでに14枚以上のシングルと3枚のフル・アルバムを発表。それ以外にも、餓鬼レンジャーやtofubeatsなど、様々なジャンルのミュージシャン達の作品に客演、ラッパーとしての実力をいかんなく発揮してきた。

本作は彼にとって初のデジタル・アルバム。2つの新曲と8つの既発曲からなる作品で、初の海外公演を控えた彼のキャリアを総括しつつ、新たなスタイルにも挑戦した意欲作になっている。

このアルバムでお披露目となった新曲”Marble”は、KMのプロデュース作品。ファイヤー・ホーンズのトランペット奏者、アツキ・ヤマモトを招いた曲は、ポロポロと爪弾かれるキーボードの演奏と、柔らかいトランペットの音色が、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのような洒脱さを感じさせる。軽やかなサウンドが魅力の上で、茶目っ気たっぷりのラップを聴かせるスカイ・ハイも面白い。畳み掛けるようにラップを繰り出すメロディ部分から、軽妙な歌を聴かせるサビへと繋ぐ展開は、ラップとヴォーカルを両方経験している彼ならではの演出だ。

続く”Bitter Dream”は、91ウエストがプロデュースを担当した作品。乾いた音色のギターの演奏が印象的なトラックに乗って、軽やかなラップを披露するアップ・ナンバー。ラテン音楽のような陽気で軽快なサウンドを活かしたリズミカルなラップが格好良い曲だ。

それ以外の曲では、2014年にリリースしたシングル曲のリメイク”Smile Drop’16”が印象的。敢えて押韻に拘らないスタイルを取り入れることで、AAAの作品ともスカイ・ハイ名義の作品とも異なる、歌とラップを織り交ぜた、荒々しい雰囲気とキャッチーなフレーズ、強いメッセージ性が一体化したパワフルなヴォーカル作品に仕上がっている。

また、キック・ザ・カン・クルーのクレヴァがプロデュースした”As A Sugar”は、クレヴァの持ち味である奇想天外なトラック・メイクのスキルが発揮された曲。ベートーヴェンの”運命”を彷彿させる畳み掛けるようなストリングスの演奏バックに、次々と言葉を放つスカイ・ハイのラップ技術が素晴らしい。

彼の魅力は「Sky-Hi」と「AAAの日高光啓」を切り分けることなく、一人のアーティストの中に同居させる絶妙なバランス感覚だと思う。「教室の人気者」や「近所の気さくなお兄さん(お姉さん)」のような華やかで親しみやすいグループの雰囲気を残しつつ、ウィットに富んだ言い回しと軽妙な表現で聴き手を唸らせる本格的なヒップホップを聴かせる技術は、マッチョなキャラクターをウリにするステレオタイプなラッパーとは一線を画していると思う。

また、歌とラップの両方が求められるグループで活動することで、場面に応じてスタイルを切り替える技を身に着けている点も彼の強みだと思う。歌とラップを使い分けるには人は、日本のAIや、カナダのドレイク、韓国のG-ドラゴンなど、高い評価と商業面での成功を収めた人も少なくないが、日本を拠点に活動する男性ラッパーに限れば、とても珍しい存在だと思う。

日本のポップスのトレンドを踏襲しつつ、それを通好みのヒップホップと融合するセンスと技術が光る面白い作品。マッチョなイメージやアンチ・メジャーをウリにするヒップホップ・アーティストが多い中、本格的なヒップホップをメインストリームのポップスのいちスタイルに昇華した彼の存在はとても貴重だと思う。

Producer
KM, 91 West, Sunny Boy ,UTA, KREVA etc

Track List
1. Marble
2. Bitter Dream(Colorful Urban Mix)
3. Double Down
4. Smile Drop’16
5. Nanairo Holiday
6. As A Sugar
7. Stray Cat
8. Limo
9. Tokyo Spotlight
10. Over The Moon






THE BAWDIES - NEW [2017 Victor Entertainment]

小学校の頃からの同級生だったというROY(Vo,B)、JIM(G,Cho)、MARCY(Dr,Cho)に、高校で同じクラスになったTAXMAN(G,Vo)を加えた4人によるロック・バンド、ボウディーズ。彼らはメジャー・デビューの前から海外ツアーやフジ・ロック・フェスティバルを経験するなど、ライブに定評のある実力派のロック・バンドとして、その名を轟かせてきた。

2009年にラヴ・サイケデリコのナオキがプロデュースした曲を含むアルバム『THIS IS MY STORY』でメジャー・デビューすると、50年代、60年代のロックン・ロールを取り入れた武骨なサウンドと洗練されたビジュアルのギャップが注目を集めCDショップ大賞を受賞。その後も精力的にライブやレコーディングを行い、2011年には初の武道館公演を敢行、2015年には2度目の武道館公演とヨーロッパ・ツアーを行っている。

このアルバムは、2015年の『Boys!』以来、2年ぶりとなる通算6枚目(カヴァー集の『Going Back Home』を含むと7枚目)のオリジナル・アルバム。プロデューサーには、これまでの作品にも携わっているNAOKIとペトロールズの長岡亮介を起用。彼らは演奏でも参加し、4人が生み出すパワフルなサウンドに彩りを添えている。

アルバムのオープニングを飾るのは、本作からの先行シングル”THE EDGE”。彼ら自身のプロデュースによるこの曲は、「崖っぷち」というタイトルの通り、荒々しいサウンドと余計な音をそぎ落としたシンプルなアレンジが格好良い曲。4人のパワフルな演奏が魅力の彼らだが、この曲では彼らの持ち味が一際強調されている。

また、”45s”は2016年にリリースされたゴー・ゴー・バニラズとのスプリット・シングル『Rockin' Zombies』に収録されていた楽曲。後輩との共演を意識したのか、彼らの初期作品に近い、粗削りな演奏と勢いのある歌唱が印象的。パンク・ロックの爆発するようなエネルギーとロックンロールの野太いサウンド、リズム&ブルースの躍動感が融合した良曲だ。

そして、ペトロールズの長岡亮介がプロデュースした”SUNSHINE”は、50年代、60年代のポピュラー・ミュージックが持つ温かい雰囲気を取り込んだミディアム・ナンバー。乾いたギターの音色としゃがれたロイの歌声が、チャック・ベリーを彷彿させる。パンク・バンド=アップ・ナンバー中心というイメージを良い意味で裏切る、彼らの音楽への造詣の深さが垣間見える佳曲だ。

それ以外の曲では、メジャー・デビュー以降、多くの作品に携わってきたナオキがプロデュースした”NEW LIGHTS”も見逃せない曲だ。ラヴ・サイケデリコの曲を思い起こさせる、気怠い雰囲気とモータウンやスタックスの音楽を連想させる、太くて温かい音色が印象的なミディアム・ナンバー。ラジオや書籍、ライブの開園前BGMなどでエッタ・ジェイムスやボビー・パターソン、レイ・チャールズなどを取り上げてきた彼らしい、リズム&ブルースやソウル・ミュージックへの愛着が感じられる作品だ。

今回のアルバムでは、年季を重ねて若手から中堅へと立場が変わっていく中で、自身の原点に立ち返った作品だと思う。ソニックスやオーティス・レディングなど、様々なジャンルのミュージシャンを貪欲に研究する情熱と、一音目が鳴った瞬間に聴衆を自分達の世界に引き込む存在感、最初から最後まで衰えることのないエネルギッシュなパフォーマンスは、デビュー当時の嗜好を残しつつ、年季を重ねて実力をつけた現在の彼ららしいものだと思う。

ロック・バンドという手法で、オーティス・レディングやエッタ・ジェイムスのような往年の黒人ミュージシャンが持つ、エネルギッシュで躍動感あふれるサウンドを再現した面白い作品。普段はあまり現代のロックを聴かない、昔の音楽を中心に聴く人にこそ手に取って欲しい。

Producer
BAWDIES, 長岡亮介, NAOKI

Track List
1. THE EDGE
2. HELLO
3. 45s
4. DANCING SHOES[“NEW” Version]
5. RAINY DAY
6. SUNSHINE
7. POPULAR GIRL
8. MAKE IT SNOW[“NEW” Version]
9. MY EVERYTHING
10. SHAKE, SHOUT & SOUL
11. HOT NIGHT, MOON LIGHT
12. NEW LIGHTS





NEW (初回限定盤)
THE BAWDIES
ビクターエンタテインメント
2017-02-08

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