2017年も、残り数日、今年発売されたアルバムも一通り出揃いました。2017年も色々な作品がリリースされ、強烈な印象や歴史に残る大記録を打ち立てていきました。また、自分自身、例年以上に色々な音楽に触れられて、とても充実した1年でした。そこで、今年、リリースされた作品の中から、頻繁に聴き返したアルバムを10枚、取り上げてみました。これも甲乙つけ難い作品なので、順位はなし、並びは順不同です。
T-Groove - Move Your Body [Diggy Down Recordz]
2017年を代表する傑作といえば、なんといっても八戸出身で、現在は東京を拠点に活動するプロデューサー、T-グルーヴこと高橋佑貴の初のフル・アルバムを差し置いて、他にないでしょう。ブライアン・トンプソンやウィンフリーなど、高い歌唱力を武器にファンを魅了するシンガー達を招き、70年代後半から80年代にかけて一世を風靡した、ディスコ音楽の煌びやか雰囲気と、現代のクラブ・ミュージックが持つスタイリッシュなサウンドを融合したスタイルが、強く心に残りました。インターネットの配信サービス経由で火が付いた、日本を拠点に活動するクリエイターが、アメリカで活躍するシンガーを起用し、フランスのレーベルからリリースした本作は、「日本人が作るソウル・ミュージック」であり、「アメリカ人が歌うヨーロッパ・スタイルのディスコ・ミュージック」でもある。活動拠点が単なる物理的な位置以上の意味を持たなくなった「個人の時代」を象徴する名盤だと思う。
Boyz II Men - Under The Streetlight [MasterWorks, Sony]
2017年には、久しぶりの来日公演を成功させる一方、ルイス・フォンシの”Despacito”が、彼らの持つ「ビルボード総合シングル・チャートの16週連続1位」の記録に並んだことで、名前を見る機会の多かったボーイズIIメン。彼らにとって、2014年の『Collide』以来となる新作は、50年代、60年代に流行したドゥー・ワップの名曲のカヴァー集。線が細くしなやかな歌声と、複雑なコーラス・ワークをウリにしている、彼らの持ち味がいかんなく発揮された良作。伴奏を生バンドで録音し、3人で活動する彼らのために、ブライアン・マックナイトやテイク6が馳せ参じている点も見逃せない。1曲目の”Why Do Fools Fall In Love”から、前作に収録された曲のリメイク”Ladies Man”まで、気を休める隙のない完璧なパフォーマンスが堪能できる。ポップスの歴史に残る名ヴォーカル・グループの実力と貫禄が感じられる充実した内容。本作の面々で日本のステージに立ってほしいけど、それは贅沢な願いなんだろうなあ。
Mike City - Feel Good Agenda Vol.1 [BBE]
2000年代前半に、カール・トーマスの”I Wish”やビラルの”Love It”、サンシャイン・アンダーソンの“Heard It All Before”といったヒット曲を手掛け、流れるようなメロディと温かい歌声を組み合わせた、独特のスタイルで、売れっ子プロデューサーの仲間入りを果たしたマイク・シティ。その後も、プロデューサーとして色々な作品に携わってきた彼の、実に20年ぶりとなる新作。最初から最後まで、すべての曲でハウス・ミュージックのような四つ打ちのビートを取り入れ、実力に定評のある歌手達の魅力を引き出す洗練されたメロディと組み合わせた作品は、どれも抜群の出来だ。フェイス・エヴァンスやメイサ・リーク、カール・トーマスといった、彼と縁の深い面々が集結した曲は、どれをシングル化しても納得のクオリティ。ダンス・ミュージック=EDMというイメージが強くなった時代だからこそ、新鮮に感じられる上品なトラックと、高い表現力を持ったヴォーカリストの組み合わせが生み出した、大人のためのクラブ・ミュージック。
▼CD/THE FEEL GOOD AGENDA VOL. 1 (解説付) (輸入盤国内仕様)/マイク・シティ/BBEACDJ-419 [6/21発売]
Zion. T - OO [BLACK LABEL, YG ENTERTAINMENT]
このブログで定期的に取り上げてきた、韓国出身のミュージシャン達。2017年は、BTSがチェインスモーカーズとのコラボレーション曲を収めた『Love Yourself: Her』や、スティーヴ・アオキがリミックスを担当した”Mic Drop(Remix)”で、欧米の市場を席巻し、日本では、日本人メンバーを含む多国籍のガールズ・グループ、TWICEが『#Twice』などのヒット作を残すなど、今や同国の音楽は従来のK-Popという枠組みでは捉えられなくなっている。そんな同国のアーティストの作品の中でも、特に記憶に残ったのが、今年の頭にリリースされたザイオン.Tのアルバム。ビッグバンやPSYなどを輩出し、韓国のポップスを世界に知らしめたYGエンターテイメントの看板プロデューサー、テディ・パクが同社の傘下に設立した、ブラック・レーベルからリリースされた本作は、生楽器の音色を効果的に使った柔らかい伴奏をバックに、美しいメロディと繊細な歌声を聴かせる、マックスウェルやラウル・ミドンのようなソウル・ミュージック色の強い作品。過去に何度もコラボレーションしているビッグバンのG-ドラゴンがひっそりと参加しているのも心憎い。兵役を間近に控えた28歳(本稿の執筆時点)でありながら、韓国屈指の大手事務所から声がかかったのも納得のクオリティ。これから、彼がシンガーとして、ソングライターとしてどんな作品を残していくのか、期待に胸が膨らむ。
Asiahn – Love Train [Asia Bryant Music, Universal]
配信限定のリリースで、動画投稿サイトを使ったプロモーションをほとんど行っていない作品ながら、とても印象に残ったのが、2017年の初頭にリリースされた、西海岸出身のシンガー・ソングライター、エイジア・ブライアントの初のEP。Dr.ドレのコンプトンなど、多くの人気ミュージシャンの作品に参加してきた彼女の作品は、アリーヤを彷彿させる繊細なソプラノ・ヴォイスと、シンセサイザーを駆使した先鋭的なトラックを組み合わせた、懐かしさと新鮮さが同居した作品。今年はラプソディーやニッキー・ミナージュのような女性ラッパーや、尖った作風のSZAやケラーニ、シドなどの活躍が目立ったが、彼女のようにメロディをじっくりと聴かせるタイプのミュージシャンの佳作も多かった。2018年は、彼女のようなアーティストがブレイクするのだろうか?今からちょっと楽しみ。
PJ Morton - Gumbo [Morton Music]
近年はマルーン5のキーボード担当として、八面六臂の活躍を見せる、ニュー・オーリンズ出身のシンガー・ソングライター、PJモートン。世界屈指の人気ロック・バンドの一員として、多忙な日々を送っている彼が、5年ぶりにリリースした新作も素晴らしかった。マルーン5の活動で培った、多くの人の心をつかむセンスと、彼のルーツである南部のソウル・ミュージックが融合した融合したサウンドは、時代や地域性の違いこそあるが、『Talking Book』や『Songs in the Key of Life』で、人種や年齢を超えて幅広い層から支持された70年代のスティーヴィー・ワンダーを思い起こさせる。トラップやベース・ミュージックなど、常に新しいサウンドが生まれ続ける音楽の世界だが、昔から使われている歌や楽器の演奏技術を突き詰めることで、聴き手の心を揺さぶる作品が作れることを証明してくれた傑作。
Lalah Hathaway - Honestly [Hathaway Entertainment]
2015年に発表した『Lalah Hathaway Live』がグラミー賞を獲得するなど、もはや「ダニー・ハザウェイの娘」という形容が不要になった感もあるレイラ・ハザウェイ。彼女の7年ぶりとなるスタジオ・アルバムは本年屈指の傑作。ジル・スコットやSiRなどの作品を手掛けているティファニー・ガッシュと一緒に制作したこのアルバムは、彼女の作品の醍醐味である、シンプルで味わい深いメロディと、シンセサイザーを多用したモダンな伴奏を巧みに組み合わせている。70年代のソウル・ミュージックを連想させる、流麗で洗練されたメロディと美しい歌声を聴かせる作品でありながら、きちんと2017年の音楽に聴こえるのは両者の経験とセンスのおかげだろう。ところで、本作のジャケットはファイナル・ファンタジーに触発されたものだと思うが、あれを提案したのは誰なのだろうか。まさか、彼女自身が日本のテレビゲームのファンなのだろうか・・・。誰か聞いてきてください。
Sharon Jones & The Dap-Kings – Soul Of A Woman [Daptone]
2016年に、癌でこの世を去ったシャロン・ジョーンズ。病気が見つかった2013年以降、彼女は死の直前まで、治療と並行して多くの曲を録音し、ステージに立ってきた。このアルバムは、彼女の死後、残された録音を、彼女と一緒に活動してきたバンドのメンバーが完成させたアルバム。本作で聴ける、パワフルな歌声と大胆な表現からは病気による衰えは感じられない。むしろ、残された時間をフル活用して、この世に何かを残していこうとする執念すら感じられる。現代では当たり前になった、バンドの生演奏を大切にしたサウンドや、アナログ・レコードを積極的にリリースするビジネス・スタイルなどを90年代から続け、後進に多くの影響を与えてきた彼女のキャリアを総括する、密度の濃いアルバム。エイミー・ワインハウスやブルーノ・マーズなど、多くのミュージシャンとコラボレーションしてきたバンド・メンバーだが、彼女を超えるパートナーは出てこないのではないか、そんな寂しさも感じる。
N.E.R.D. - No One Ever Really Dies [I am Other, Columbia]
12月中旬に発売された作品ながら、今年一番の衝撃を残したアルバム。「Hidden Figure(邦題:ドリーム)」や「Despicable Me 3(邦題:怪盗グルーのミニオン大脱走)」などのサウンドトラックで腕を振るい、カルヴィン・ハリスやサンダーキャットの作品で素晴らしいヴォーカルを聴かせてきたファレル・ウィリアムスが、相方のチャド・ヒューゴ達と結成したバンド、N.E.R.D.の名義で発表した7年ぶりのスタジオ・アルバム。アルバムに先駆けてリリースされた”Lemon”は、これまでのN.E.R.D.の楽曲とも、ファレル名義の作品とも異なる、シンセサイザーを組み合わせた変則的なビートが面白いアップ・ナンバー。それ以外の収録曲も、既存のジャンルの枠に収まらない、奇抜で前衛的なものが並んでいる。尖ったサウンドでありながら、親しみやすい印象を受けるのは、斬新なサウンドで多くのヒット曲を生み出してきたファレルとネプチューンズの持ち味が発揮されたからか?彼らの最高傑作といっても過言ではない充実の内容。2020年のトレンドを予見し、先取りしたような、彼らの嗅覚とセンスが発揮された傑作。
Sky-Hi - Marble [avex trax]
2017年にリリースされた日本語の作品で、特に印象に残ったのは、Sky-Hiこと日高光啓のソロ・アルバム。彼の所属するAAAが”Blood on Fire”でデビューしたころから、ユーロビートを取り込んだ尖ったサウンドと、ハイレベルな歌やダンスが格好良いグループとは思っていたけど、彼が10年以上ラップ詞を担当し、ソロ作品も残していることは見落としていた。1曲目の”Marble”から、アルバムの最後を締める”Over The Moon”まで、個性豊かな楽曲が並んでいるが、そのどれもが、アメリカのヒップホップとは一線を画す、軽妙で洒脱なサウンドと、ウィットに富んだラップを軸に組み立てられている。彼の作品の面白いところは、ジャズやポップスのエッセンスを取り込み、従来のヒップホップの手法に捉われない、誰もが楽しめるポピュラー・ミュージックに仕上げながら、要所にヒップホップの演出を盛り込むことで、ヒップホップとして聴かせているところ。アメリカの背中を追いかけつつ、独自性を模索してきた日本のヒップホップの、一つの到達点と呼んでも過言ではない傑作。
番外編
ここからは、アルバム未収録のシングル曲から、特に記憶に残った曲を三つ
G.Rina - 想像未来 feat. 鎮座DOPENESS[plusGROUND, Victor]
こちらは東京出身の女性シンガー・ソングライター、G.リナの2017年作『Live & Learn』からリカットされた、配信限定のシングル。透き通った歌声と繊細なヴォーカルは、矢野顕子や土岐麻子のようなポップ・シンガーっぽくも聴こえるが、躍動感のあるグルーヴや豊かなヴォーカルの表現は間違いなくR&Bのもの。この曲でもロマンティックなメロディと、色っぽい歌声で、アップ・テンポなのにムーディーなR&Bを聴かせている。フリースタイルのスキルでも評価が高い、鎮座ドープネスのラップも、硬派な見た目からは想像できない、ウィットに富んだもので面白い。だが、本作の目玉はなんといってもT-グルーヴによるリミックス版。ザップを思い起こさせるファンク色の強い原曲を、四つ打ちのディスコ・ミュージックに違和感なく組み替える技は、圧巻としか言いようがない。異なるジャンルで活躍する三者の持ち味が上手く噛み合った、良質なコラボレーション曲。
Gallant & Tablo & Eric Nam – Cave Me In [Mind Of Genius, Warner Bros. Records]
2016年に発表されたアルバム『Ology』がグラミー賞にノミネートし、2017年は日本のフジ・ロックにも出演した西海岸出身のシンガー・ソングライター、ガラント。彼が今年の頭に発表したのが、エピック・ハイの中心人物、タブロとアメリカと韓国、両国を股にかけた活動を行ってる、マルチ・タレントのエリック・ナムとコラボレーションした”Cave Me In ”。彼の作品にもかかわったことがある、タイ・アコードの作るトラックは、シンセサイザーの音を幾重にも被せた神秘的なもの。その上で、どこか荒涼とした雰囲気のメロディを甘い歌声で聴かせる二人と、淡々と言葉を紡ぐタブロの姿が印象に残る佳曲。余談だが、タブロは韓国系カナダ人(契約は韓国のYGエンターテイメント)で、エリック・ナムは韓国系アメリカ人(契約は韓国のCJ E&M.)で、歌詞は全編英語でMVの撮影地は香港と、国際色豊かな点も、2017年っぽくて面白い。
BTS - Mic Drop (Steve Aoki Remix) feat. Desiigner [Big Hit Entertainment RED Music]
11月の終わりに発表された曲ながら、最も聴いた作品。10月に発売されたEP『Love Yourself: Her』からのリカット・シングルで、韓国でこそ、シングル・チャートで最高23位、売り上げ8万ユニットと振るわなかったものの、アメリカではシングル・チャートの28位に入るなど、欧米を中心に盛り上がった曲。リミックスを担当したスティーブ・アオキは、今年の8月にリリースしたアルバム『Steve Aoki Presents Kolony』で、T-ペインやグッチ・メインといった人気ラッパーを多数起用して、ヒップホップ市場を意識する姿勢を見せていたが、R&B作品はこれが初。スティーヴらしい、刺々しい音色と高揚感のあるフレーズを組み合わせたトラックと、BTSの真骨頂ともいえる、複雑なギミックを盛り込んだ激しい歌とラップがうまく嚙み合った良作。ディスコ音楽のクリエイターを起用した、ピンク・レディーの”Kiss in the Dark”から28年、21世紀初のアジア人グループによるヒット曲は、現代のダンス・ミュージックの主流である、EDMとヒップホップを取り込んだものであるという点も面白い。
T-Groove - Move Your Body [Diggy Down Recordz]
2017年を代表する傑作といえば、なんといっても八戸出身で、現在は東京を拠点に活動するプロデューサー、T-グルーヴこと高橋佑貴の初のフル・アルバムを差し置いて、他にないでしょう。ブライアン・トンプソンやウィンフリーなど、高い歌唱力を武器にファンを魅了するシンガー達を招き、70年代後半から80年代にかけて一世を風靡した、ディスコ音楽の煌びやか雰囲気と、現代のクラブ・ミュージックが持つスタイリッシュなサウンドを融合したスタイルが、強く心に残りました。インターネットの配信サービス経由で火が付いた、日本を拠点に活動するクリエイターが、アメリカで活躍するシンガーを起用し、フランスのレーベルからリリースした本作は、「日本人が作るソウル・ミュージック」であり、「アメリカ人が歌うヨーロッパ・スタイルのディスコ・ミュージック」でもある。活動拠点が単なる物理的な位置以上の意味を持たなくなった「個人の時代」を象徴する名盤だと思う。
Boyz II Men - Under The Streetlight [MasterWorks, Sony]
2017年には、久しぶりの来日公演を成功させる一方、ルイス・フォンシの”Despacito”が、彼らの持つ「ビルボード総合シングル・チャートの16週連続1位」の記録に並んだことで、名前を見る機会の多かったボーイズIIメン。彼らにとって、2014年の『Collide』以来となる新作は、50年代、60年代に流行したドゥー・ワップの名曲のカヴァー集。線が細くしなやかな歌声と、複雑なコーラス・ワークをウリにしている、彼らの持ち味がいかんなく発揮された良作。伴奏を生バンドで録音し、3人で活動する彼らのために、ブライアン・マックナイトやテイク6が馳せ参じている点も見逃せない。1曲目の”Why Do Fools Fall In Love”から、前作に収録された曲のリメイク”Ladies Man”まで、気を休める隙のない完璧なパフォーマンスが堪能できる。ポップスの歴史に残る名ヴォーカル・グループの実力と貫禄が感じられる充実した内容。本作の面々で日本のステージに立ってほしいけど、それは贅沢な願いなんだろうなあ。
Mike City - Feel Good Agenda Vol.1 [BBE]
2000年代前半に、カール・トーマスの”I Wish”やビラルの”Love It”、サンシャイン・アンダーソンの“Heard It All Before”といったヒット曲を手掛け、流れるようなメロディと温かい歌声を組み合わせた、独特のスタイルで、売れっ子プロデューサーの仲間入りを果たしたマイク・シティ。その後も、プロデューサーとして色々な作品に携わってきた彼の、実に20年ぶりとなる新作。最初から最後まで、すべての曲でハウス・ミュージックのような四つ打ちのビートを取り入れ、実力に定評のある歌手達の魅力を引き出す洗練されたメロディと組み合わせた作品は、どれも抜群の出来だ。フェイス・エヴァンスやメイサ・リーク、カール・トーマスといった、彼と縁の深い面々が集結した曲は、どれをシングル化しても納得のクオリティ。ダンス・ミュージック=EDMというイメージが強くなった時代だからこそ、新鮮に感じられる上品なトラックと、高い表現力を持ったヴォーカリストの組み合わせが生み出した、大人のためのクラブ・ミュージック。
▼CD/THE FEEL GOOD AGENDA VOL. 1 (解説付) (輸入盤国内仕様)/マイク・シティ/BBEACDJ-419 [6/21発売]
Zion. T - OO [BLACK LABEL, YG ENTERTAINMENT]
このブログで定期的に取り上げてきた、韓国出身のミュージシャン達。2017年は、BTSがチェインスモーカーズとのコラボレーション曲を収めた『Love Yourself: Her』や、スティーヴ・アオキがリミックスを担当した”Mic Drop(Remix)”で、欧米の市場を席巻し、日本では、日本人メンバーを含む多国籍のガールズ・グループ、TWICEが『#Twice』などのヒット作を残すなど、今や同国の音楽は従来のK-Popという枠組みでは捉えられなくなっている。そんな同国のアーティストの作品の中でも、特に記憶に残ったのが、今年の頭にリリースされたザイオン.Tのアルバム。ビッグバンやPSYなどを輩出し、韓国のポップスを世界に知らしめたYGエンターテイメントの看板プロデューサー、テディ・パクが同社の傘下に設立した、ブラック・レーベルからリリースされた本作は、生楽器の音色を効果的に使った柔らかい伴奏をバックに、美しいメロディと繊細な歌声を聴かせる、マックスウェルやラウル・ミドンのようなソウル・ミュージック色の強い作品。過去に何度もコラボレーションしているビッグバンのG-ドラゴンがひっそりと参加しているのも心憎い。兵役を間近に控えた28歳(本稿の執筆時点)でありながら、韓国屈指の大手事務所から声がかかったのも納得のクオリティ。これから、彼がシンガーとして、ソングライターとしてどんな作品を残していくのか、期待に胸が膨らむ。
Asiahn – Love Train [Asia Bryant Music, Universal]
配信限定のリリースで、動画投稿サイトを使ったプロモーションをほとんど行っていない作品ながら、とても印象に残ったのが、2017年の初頭にリリースされた、西海岸出身のシンガー・ソングライター、エイジア・ブライアントの初のEP。Dr.ドレのコンプトンなど、多くの人気ミュージシャンの作品に参加してきた彼女の作品は、アリーヤを彷彿させる繊細なソプラノ・ヴォイスと、シンセサイザーを駆使した先鋭的なトラックを組み合わせた、懐かしさと新鮮さが同居した作品。今年はラプソディーやニッキー・ミナージュのような女性ラッパーや、尖った作風のSZAやケラーニ、シドなどの活躍が目立ったが、彼女のようにメロディをじっくりと聴かせるタイプのミュージシャンの佳作も多かった。2018年は、彼女のようなアーティストがブレイクするのだろうか?今からちょっと楽しみ。
PJ Morton - Gumbo [Morton Music]
近年はマルーン5のキーボード担当として、八面六臂の活躍を見せる、ニュー・オーリンズ出身のシンガー・ソングライター、PJモートン。世界屈指の人気ロック・バンドの一員として、多忙な日々を送っている彼が、5年ぶりにリリースした新作も素晴らしかった。マルーン5の活動で培った、多くの人の心をつかむセンスと、彼のルーツである南部のソウル・ミュージックが融合した融合したサウンドは、時代や地域性の違いこそあるが、『Talking Book』や『Songs in the Key of Life』で、人種や年齢を超えて幅広い層から支持された70年代のスティーヴィー・ワンダーを思い起こさせる。トラップやベース・ミュージックなど、常に新しいサウンドが生まれ続ける音楽の世界だが、昔から使われている歌や楽器の演奏技術を突き詰めることで、聴き手の心を揺さぶる作品が作れることを証明してくれた傑作。
Lalah Hathaway - Honestly [Hathaway Entertainment]
2015年に発表した『Lalah Hathaway Live』がグラミー賞を獲得するなど、もはや「ダニー・ハザウェイの娘」という形容が不要になった感もあるレイラ・ハザウェイ。彼女の7年ぶりとなるスタジオ・アルバムは本年屈指の傑作。ジル・スコットやSiRなどの作品を手掛けているティファニー・ガッシュと一緒に制作したこのアルバムは、彼女の作品の醍醐味である、シンプルで味わい深いメロディと、シンセサイザーを多用したモダンな伴奏を巧みに組み合わせている。70年代のソウル・ミュージックを連想させる、流麗で洗練されたメロディと美しい歌声を聴かせる作品でありながら、きちんと2017年の音楽に聴こえるのは両者の経験とセンスのおかげだろう。ところで、本作のジャケットはファイナル・ファンタジーに触発されたものだと思うが、あれを提案したのは誰なのだろうか。まさか、彼女自身が日本のテレビゲームのファンなのだろうか・・・。誰か聞いてきてください。
Sharon Jones & The Dap-Kings – Soul Of A Woman [Daptone]
2016年に、癌でこの世を去ったシャロン・ジョーンズ。病気が見つかった2013年以降、彼女は死の直前まで、治療と並行して多くの曲を録音し、ステージに立ってきた。このアルバムは、彼女の死後、残された録音を、彼女と一緒に活動してきたバンドのメンバーが完成させたアルバム。本作で聴ける、パワフルな歌声と大胆な表現からは病気による衰えは感じられない。むしろ、残された時間をフル活用して、この世に何かを残していこうとする執念すら感じられる。現代では当たり前になった、バンドの生演奏を大切にしたサウンドや、アナログ・レコードを積極的にリリースするビジネス・スタイルなどを90年代から続け、後進に多くの影響を与えてきた彼女のキャリアを総括する、密度の濃いアルバム。エイミー・ワインハウスやブルーノ・マーズなど、多くのミュージシャンとコラボレーションしてきたバンド・メンバーだが、彼女を超えるパートナーは出てこないのではないか、そんな寂しさも感じる。
N.E.R.D. - No One Ever Really Dies [I am Other, Columbia]
12月中旬に発売された作品ながら、今年一番の衝撃を残したアルバム。「Hidden Figure(邦題:ドリーム)」や「Despicable Me 3(邦題:怪盗グルーのミニオン大脱走)」などのサウンドトラックで腕を振るい、カルヴィン・ハリスやサンダーキャットの作品で素晴らしいヴォーカルを聴かせてきたファレル・ウィリアムスが、相方のチャド・ヒューゴ達と結成したバンド、N.E.R.D.の名義で発表した7年ぶりのスタジオ・アルバム。アルバムに先駆けてリリースされた”Lemon”は、これまでのN.E.R.D.の楽曲とも、ファレル名義の作品とも異なる、シンセサイザーを組み合わせた変則的なビートが面白いアップ・ナンバー。それ以外の収録曲も、既存のジャンルの枠に収まらない、奇抜で前衛的なものが並んでいる。尖ったサウンドでありながら、親しみやすい印象を受けるのは、斬新なサウンドで多くのヒット曲を生み出してきたファレルとネプチューンズの持ち味が発揮されたからか?彼らの最高傑作といっても過言ではない充実の内容。2020年のトレンドを予見し、先取りしたような、彼らの嗅覚とセンスが発揮された傑作。
Sky-Hi - Marble [avex trax]
2017年にリリースされた日本語の作品で、特に印象に残ったのは、Sky-Hiこと日高光啓のソロ・アルバム。彼の所属するAAAが”Blood on Fire”でデビューしたころから、ユーロビートを取り込んだ尖ったサウンドと、ハイレベルな歌やダンスが格好良いグループとは思っていたけど、彼が10年以上ラップ詞を担当し、ソロ作品も残していることは見落としていた。1曲目の”Marble”から、アルバムの最後を締める”Over The Moon”まで、個性豊かな楽曲が並んでいるが、そのどれもが、アメリカのヒップホップとは一線を画す、軽妙で洒脱なサウンドと、ウィットに富んだラップを軸に組み立てられている。彼の作品の面白いところは、ジャズやポップスのエッセンスを取り込み、従来のヒップホップの手法に捉われない、誰もが楽しめるポピュラー・ミュージックに仕上げながら、要所にヒップホップの演出を盛り込むことで、ヒップホップとして聴かせているところ。アメリカの背中を追いかけつつ、独自性を模索してきた日本のヒップホップの、一つの到達点と呼んでも過言ではない傑作。
番外編
ここからは、アルバム未収録のシングル曲から、特に記憶に残った曲を三つ
G.Rina - 想像未来 feat. 鎮座DOPENESS[plusGROUND, Victor]
こちらは東京出身の女性シンガー・ソングライター、G.リナの2017年作『Live & Learn』からリカットされた、配信限定のシングル。透き通った歌声と繊細なヴォーカルは、矢野顕子や土岐麻子のようなポップ・シンガーっぽくも聴こえるが、躍動感のあるグルーヴや豊かなヴォーカルの表現は間違いなくR&Bのもの。この曲でもロマンティックなメロディと、色っぽい歌声で、アップ・テンポなのにムーディーなR&Bを聴かせている。フリースタイルのスキルでも評価が高い、鎮座ドープネスのラップも、硬派な見た目からは想像できない、ウィットに富んだもので面白い。だが、本作の目玉はなんといってもT-グルーヴによるリミックス版。ザップを思い起こさせるファンク色の強い原曲を、四つ打ちのディスコ・ミュージックに違和感なく組み替える技は、圧巻としか言いようがない。異なるジャンルで活躍する三者の持ち味が上手く噛み合った、良質なコラボレーション曲。
Gallant & Tablo & Eric Nam – Cave Me In [Mind Of Genius, Warner Bros. Records]
2016年に発表されたアルバム『Ology』がグラミー賞にノミネートし、2017年は日本のフジ・ロックにも出演した西海岸出身のシンガー・ソングライター、ガラント。彼が今年の頭に発表したのが、エピック・ハイの中心人物、タブロとアメリカと韓国、両国を股にかけた活動を行ってる、マルチ・タレントのエリック・ナムとコラボレーションした”Cave Me In ”。彼の作品にもかかわったことがある、タイ・アコードの作るトラックは、シンセサイザーの音を幾重にも被せた神秘的なもの。その上で、どこか荒涼とした雰囲気のメロディを甘い歌声で聴かせる二人と、淡々と言葉を紡ぐタブロの姿が印象に残る佳曲。余談だが、タブロは韓国系カナダ人(契約は韓国のYGエンターテイメント)で、エリック・ナムは韓国系アメリカ人(契約は韓国のCJ E&M.)で、歌詞は全編英語でMVの撮影地は香港と、国際色豊かな点も、2017年っぽくて面白い。
BTS - Mic Drop (Steve Aoki Remix) feat. Desiigner [Big Hit Entertainment RED Music]
11月の終わりに発表された曲ながら、最も聴いた作品。10月に発売されたEP『Love Yourself: Her』からのリカット・シングルで、韓国でこそ、シングル・チャートで最高23位、売り上げ8万ユニットと振るわなかったものの、アメリカではシングル・チャートの28位に入るなど、欧米を中心に盛り上がった曲。リミックスを担当したスティーブ・アオキは、今年の8月にリリースしたアルバム『Steve Aoki Presents Kolony』で、T-ペインやグッチ・メインといった人気ラッパーを多数起用して、ヒップホップ市場を意識する姿勢を見せていたが、R&B作品はこれが初。スティーヴらしい、刺々しい音色と高揚感のあるフレーズを組み合わせたトラックと、BTSの真骨頂ともいえる、複雑なギミックを盛り込んだ激しい歌とラップがうまく嚙み合った良作。ディスコ音楽のクリエイターを起用した、ピンク・レディーの”Kiss in the Dark”から28年、21世紀初のアジア人グループによるヒット曲は、現代のダンス・ミュージックの主流である、EDMとヒップホップを取り込んだものであるという点も面白い。