melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年01月

Chris Dave And The Drumhedz - Chris Dave And The Drumhedz [2018 Blue Note]

クリス・デイヴことクリストファー・デイヴィスは、テキサス州ヒューストン出身のドラマー。

10代のころから教会やジャズ・バンドなどでドラムを叩いていた彼は、「黒人のハーバード」の異名を持つハワード大学に在学していたころ、プリンスやジャネット・ジャクソンの作品を手掛けていたジャム&ルイスの知己を得る。

彼らとの出会いをきっかけに、ミント・コンディションのレコーディングにかかわるようになったクリスは、その後も、マックスウェルやディアンジェロのようなR&Bシンガーや、ミッシェル・ンデゲオチェロやロバート・グラスパーのような複数のジャンルに跨る作風のミュージシャン、アデルや宇多田ヒカルといったポップス畑の大物まで、様々なジャンルのアーティストの作品に参加。高い演奏技術と豊かな表現力で、ミュージシャン達から高い評価を受けてきた。

本作は、彼にとって初のスタジオ・アルバム。この作品は、ロバート・グラスパーのバンドで共演したこともあるデリック・ホッジや、マイルス・デイヴィスの作品でも演奏しているフォーリー、メイサ・リークやQ-ティップなどのアルバムにも携わっているゲイリー・トーマス、坂本龍一からエド・シーランまであらゆるジャンルのミュージシャンとセッションしているピノ・パラディノの4人と結成した、ドラムヘッズ名義のアルバム。この中では、アンダーソン・パックやミント・コンディションのストークリーといった、過去に共演経験のある面々のほか、ゴアペレやサー、ビラルやトゥイートなど、多くの人気R&Bシンガーがヴォーカルを担当。ジャズ・バンドで磨き上げた高い演奏技術と、個性豊かなシンガーの表現力を組み合わせた、魅力的なヴォーカル作品に仕上げている。

アルバムの収録曲で最初のヴォーカル曲は、ケンドリック・ラマーなどを擁する、トップドーグ所属の女性シンガー、サーを招いた”Dat Feelin’”。ファンクの要素を盛り込んだ泥臭く、躍動感のある演奏をバックに、しゃがれ声が響き渡るアップ・ナンバー。どことなく、スリーピー・ブラウンの音楽を思い起こさせる武骨さが面白い。

続く、”Black Hole”は、アンダーソン・パックが制作とヴォーカルを担当した楽曲。変則的なビートとエフェクターを多用したサイケデリックな音色の伴奏のインパクトが強い曲だ。ヒップホップともジャズともファンクとも異なる、一癖も二癖もあるサウンドと、歌とラップを混ぜ合わせた歌唱の組み合わせが光っている。

そして、エリック・ロバートソンに加え、元スラム・ヴィレッジのエルザイと元リトル・ブラザーのフォンテをフィーチャーした”Destiny n Stereo”は、クリスの力強いドラムと、ピノが鳴らす太いベースの音が、ジェイ・ディラの作品を連想させるミディアム・ナンバー。ヒップホップのビートを人力で再現する手法は、ウィル・セッションズやザ・ルーツが行っているし、クリスもロバート・グラスパー・エクスペリメンツで経験している。今回の演奏は、そのスタイルを踏襲したものだが、ほかのアーティスト以上に、楽器の音色を強調しながら、ヒップホップのビートのように聴かせて演出は新鮮。天国のジェイ・ディラが、彼らを後ろから操っているのではないかと錯覚してしまう曲だ。

そして、サーに加えて、アナ・ワイスをヴォーカルに迎えた”Job Well Done”は、ジャズともロックとも形容しがたい摩訶不思議なアレンジと、急激にテンポが変わる構成、レディオヘッドを思い起こさせる幻想的なメロディの組み合わせが斬新な作品。ジャズやヒップホップ以外の音楽のエッセンスをふんだんに盛り込みつつ、ダイナミックなグルーヴや表情豊かな歌唱で、ジャズとして聴ける曲に落とし込む技は圧巻の一言。

このアルバムの面白いところは、ハード・バップやモダン・ジャズのような「ステレオタイプのジャズ」とも、ヒップホップやR&Bのような現代のブラック・ミュージックとも適度に距離を置きながら、ジャズが好きな人にも、ブラック・ミュージシャンが好きな人にも楽しめる音楽を作り上げていることだろう。ソウル・ミュージックやゴスペル、ファンクやロックといった色々な音楽を取り込み、ジャズの枠を広げた、70年代のマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンの思想を取り込み、現代の音楽に当てはめる発想が功を奏したのだと思う。

ロバート・グラスパーやサンダーキャットとは異なるアプローチで、ジャズ・ミュージシャンの可能性を示した良質な作品。ジャズに馴染みのない人にはジャズの面白さを、ジャズが好きな人には、楽器の持つ無限の可能性を教えてくれる名盤だと思う。

Producer
Chris Dave and the Drumhedz

Track List
1. Rocks Crying
2. Universal Language
3. Dat Feelin’ feat. SiR
4. Black Hole feat. Anderson .Paak
5. 2n1
6. Spread Her Wings feat. Bilal &Tweet
7. Whatever
8. Sensitive Granite feat. Kendra Foster
9. Cosmic Intercourse feat. Stokley Williams
10. Atlanta, Texas feat. Goapele
11. Destiny n Stereo feat. Elzhi, Phonte Coleman & Eric Roberson
12. Clear View feat. Anderson .Paak
13. Job Well Done feat. Anna Wise& SiR
14. Lady Jane
15. Trippy Tipsy






Chris Dave & the Drumhedz
Chris Dave And The Drumhedz
Blue Note Records
2018-01-26

Migos - Culture II [2018 Quality Control, Motown, Capitol]

2009年に、ジョージア州のローレンスビルを拠点に活動していたクアヴォ、テイクオフ、オフセットの三人が結成。2013年にアトランティックからデビュー・シングル”Versace”を発表すると、50万枚を売り上げ、ゴールド・ディスクを獲得する大ヒットになったヒップホップ・グループ、ミーゴス。

その後は、ヒット曲を引っさげて、複数のラジオ番組に出演。躍動感あふれるパフォーマンスで喝采を浴びる一方、合間を縫って立て続けにミックス・テープを発表。これらの作品が高い評価を受けた彼らは、2015年に初のスタジオ・アルバム『Yung Rich Nation』をリリースする。同作はアルバムチャートの17位に入り、グッチ・メインや2チェインズ、フューチャーとともに、アメリカ南部発の人気ヒップホップ・ミュージシャンとして、世界中のヒップホップ好きから注目を集めるようになる。また、2017年には2枚目のアルバム『Culture』を発表。同作はアメリカ国内だけで100万枚を売り上げ、全米総合アルバムチャートの1位を獲得。グラミー賞のベスト・ラップ・アルバムにノミネートする大ヒット作となった。

このアルバムは、前作からわずか1年という短い間隔でリリースされた通算3枚目のフル・アルバム。アトランティック系の300YRNから、ユニヴァーサル系のモータウンに移籍して制作された本作では、メンバーのクエヴォと、彼らのサウンドを支えてきたDJデュレルが制作を主導。それに加え、マーダ・ビーツやカニエ・ウエスト、メトロ・ブーミンといった、アメリカやカナダを代表するヒット・メイカーが参加。流行の最先端を意識した音楽を聴かせている。

本作の収録曲で最初に目を惹いたのは、デビュー作にも携わっているホノラブルC.N.O.T.E.がプロデュースした”Supastars”だ。ブリブリと唸る低音と、軽快なビートを組み合わせたトラックの上で、軽妙な掛け合いを見せる作品。ジョージア州出身の彼ららしい、トラップ・ビートを使った格好良い楽曲だ。

これに対し、ファレル・ウィリアムスをプロデューサーに起用した”Stir Fry”は口笛のような音色の上物と、ゴムボールのように跳ねるビートが面白い作品。リル・ジョンやクリス・ブラウンのヒット曲で有名になったクランクやトラップをベースにしつつ、ファレルが多用する軽やかな音色を組み合わせている点が新鮮だ。彼がプロデュースした作品にもかかわらず、3人のラップを聴かせることに力を注いだ構成も面白い。

そして、トラヴィス・スコット、タイ・ダラ・サイン、ビッグ・ショーンという人気ラッパー3人を迎えた”White Sand”は、アトランタ出身のプロデューサー、ウィージーがトラックを制作。オートチューンを使ったトラヴィス・スコットとタイ・ダラ・サインのフックから始まるこの曲では、リズミカルなラップが魅力のミーゴスと、荒っぽいラップが武器のゲストの対比が聴きどころ。ヴォーカル曲もこなせるタイ・ダラ・サインとトラヴィス・スコットの存在が、表現の幅を広げている点にも注目してほしい。

だが、本作の目玉はなんといっても、マーダ・ビーツがプロデュースを担当した”MotorSport”だろう。ニッキー・ミナージュとカルディBという、現代のヒップホップ・シーンをけん引する女性ラッパーとコラボレーションしたこの曲は、重厚なビートの上で、5人が個性豊かなラップを披露している。一度聴いたら忘れられない、強烈な個性を持つゲストのラップを引き立てるため、あえて堅実なパフォーマンスを聴かせる3人の存在が光る良作だ。

彼らの音楽の特徴は、現代のアメリカで流行している手法を積極的に取り入れているところだろう。彼らの地元ジョージア州を含むアメリカ南部で流行している、シンセサイザーを多用したトラップやクランクのサウンドを軸に、カニエ・ウエストや、ファレル・ウィリアムスといったヒット・メイカーや、ニッキー・ミナージュやドレイクといったトップ・ミュージシャンを集め、彼らのスタイルを盛り込んだ楽曲を録音している。この、一貫した個性を持ちつつ、周囲の変化を積極的に吸収していく手法が、彼らの音楽の人気の秘訣だろう。

現代のアメリカのヒップホップの美味しいところを凝縮したといっても過言ではない良盤。「今、どんな音楽が流行しているか知りたい」という人はぜひ聴いてほしい。

Producer
Quavo, DJ Durel, Honorable C.N.O.T.E., Kanye West, Metro Boomin, Murda Beatz, Pharrell Williams etc

Track List
1. Higher We Go (Intro)
2. Supastars
3. Narcos
4. BBO (Bad Bitches Only) feat. 21 Savage
5. Auto Pilot (Huncho on the Beat)
6. Walk It Talk It feat. Drake
7. Emoji a Chain
8. CC feat. Gucci Mane
9. Stir Fry
10. Too Much Jewelry
11. Gang Gang
12. White Sand feat. Big Sean, Travis Scott & Ty Dolla $ign
13. Crown the Kings
14. Flooded
15. Beast
16. Open It Up
17. MotorSport by Migos, Nicki Minaj & Cardi B
18. Movin' Too Fast
19. Work Hard
20. Notice Me feat. Post Malone
21. Too Playa feat. 2 Chainz
22. Made Men
23. Top Down On Da NAWF
24. Culture National Anthem (Outro)





Culture 2
Migos
Quality Control
2018-01-26

Craig David - The Time Is Now [2018 Speakerbox, Sony]

1999年にイギリスのシングル・チャートで2位になった、アートフル・ドジャーのシングル”Re-Rewind (The Crowd Say Bo Selecta)”のヴォーカルを担当したことで注目を集め、翌年には自身名義のメジャー・デビュー曲”Fill Me In”が同チャートで1位を獲得、アメリカでも総合シングル・チャートの15位に入る大ヒットとなった、ハンプシャー州サウスハンプトン出身のシンガー・ソングライター、クレイグ・デイヴィッド。

グレナダ系の父と、ユダヤ系の母(母方の親族がユダヤ教徒)の間に生まれ、8歳以降は母のもとで育てられた彼は、地元の大学を卒業後、ヴォーカル・グループの一員として活動を開始。その一方で、アートフル・ドジャーなどのクリエイターの作品にも客演するなど、活動の舞台を広げていった。

“Fill Me In”を収録したアルバム『Born to Do It』が、イギリスだけで180万枚を売り上げる大ヒットになった後も、2016年までに複数のレーベルで5枚のアルバムを発表。そのほとんどがゴールド・ディスクに認定されるなど、イギリスを代表するR&Bシンガーとして多くの足跡を残してきた。

このアルバムは、2016年の9月に発売された前作『Following My Intuition』からわずか1年という短い間隔でリリースされた通算7枚目のスタジオ・アルバム。ガラージとR&Bを組み合わせたスタイルで、デビュー・アルバム以来のアルバム・チャートを獲得した前作の流れを意識したのか、プロデューサーにはジャーン・マリーやフレーザーTスミスといった、R&Bとガラージの両方に強いイギリスのクリエイターを中心に起用。また、海外勢では前作に引き続きカナダのケイトラナダに加え、オランダのディズトーションなどを招き、エレクトロ・ミュージックとR&Bを融合した楽曲に取り組んでいる。

アルバムに先駆けて発表された”Heartline”は、色鮮やかな音色と四つ打ちのビートを組み合わせた作風が武器のクリエイター、ジョナス・ブルーがトラックを担当。ゆったりとしたテンポの四つ打ちのビートを取り入れて、ハウス・ミュージックのスタイリッシュな雰囲気を残しつつ、華やかな音色と軽妙なメロディを使ってポップにまとめたダンス・ナンバー。彼の持ち味である尖ったサウンドとキャッチーなメロディが両立された佳曲だ。

また、ディズトーションが制作に参加した”For The Gram”は、グライムを連想させる刺々しい音を多用したトラックと、トラップの手法を混ぜ合わせたビートが面白いミディアム。荒々しいビートや、ラガマフィンを組み合わせたスタイルが、レゲエやヒップホップ、ドラムンベースなどが混ざり合っているイギリスの音楽シーンを象徴しているようで興味深い。

そして、イギリスのロック・バンド、バスティルとのコラボレーション曲である”I Know You”は、フレーザーTスミスがプロデュースしたミディアム・ナンバー。バスティン・ケブやムラ・マサを彷彿させる繊細な音色を選ぶセンスと、90年代のティンバランドやジャーメイン・デュプリを連想させるチキチキ・ビートの組み合わせが魅力の作品だ。太くしなやかな声のクレイグと、ダン・スミスのスマートな歌唱の対比が光っている。

そして、ケイトラナダがプロデュースに名を連ね、ゴールドリンクがゲストとして参加した”Live In The Moment”は、本作では珍しい、ヒップホップ色の強い曲。ベンデス・バンドが81年に発表した”I Was There”を切り刻んで組み合わせたトラックは、ヒップホップの手法を踏襲したもの、しかし、洗練されたサウンドが心地よい原曲の雰囲気を残したアレンジは、アメリカの音楽ではあまり見られないもの。起承転結のはっきりした展開やメリハリのついたメロディは、”7 Days”や”Walking”のような初期のヒット曲を思い起こさせる。

今回のアルバムでは、彼の持ち味であるエレクトロ・ミュージックやヒップホップの要素を組み合わせたトラックと、キャッチーだけどスタイリッシュなメロディ、そして滑らかな歌声が一体になったR&B作品を披露している。R&Bの醍醐味である美しいメロディや歌声を大切にしつつ、アメリカのミュージシャンが使わない音を積極的に取り入れる姿勢が、多くのミュージシャンが鎬を削る、R&Bの世界で、彼の存在を差別化してきたと思う。

「2ステップの貴公子」の枠を超え、「UKソウルの帝王」と呼ぶにふさわしい存在となった彼の、音楽への造詣の深さと、高い表現力が遺憾なく発揮されたアルバム。アメリカの音楽とは一味違う、イギリスのR&Bを知る入門編にオススメ。

Producer
Tre Jean-Marie, Fraser T Smith, Kaytranada, Jonas Blue etc

Track List
1. Magic
2. Heartline
3. Brand New
4 . Going On
5. Love Me Like It's Yesterday
6. For The Gram
7. Get Involved feat. JP Cooper
8. I Know You feat. Bastille
9. Live In The Moment feat. GoldLink
10. Love Will Come Around
11. Somebody Like Me feat. AJ Tracey
12. Focus
13. Reload (Craig David and Chase & Status)
14. Talk to Me
15. Talk to Me Pt. II feat. Ella Mai





The Time Is Now (Deluxe)
Craig David
Speakerbox
2018-01-26

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