melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年03月

Vivian Green - VGVI [2017 Make Noise, Caroline]

ヴィヴィアン・グリーンことヴィヴィアン・サキーヤ・グリーンは、ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。

子供のころからピアノを演奏し、自作曲を生み出していた彼女は、13歳の時に4人組の女性ヴォーカル・グループ、ユニーク(Younique)に加入。97年にはボーイズIIメンの97年作『Evolution』の収録曲”Dear God”でソングライターとしてデビューすると、その後はソング・ライターやバック・コーラスとして活動、ジル・スコットなどのツアーに帯同するなど、多くの仕事をこなすようになった。

このアルバムは、2015年の『Vivid』から約2年ぶりとなる、通算6枚目のスタジオ・アルバム。前作も扱っている自身のレーベル、メイク・ノイズからのリリースで、配給は前作に引き続き、クリセット・ミシェルやジョニー・ギルの作品を配給しているヴァージン傘下のキャロライン。プロデュースは彼女に加え、他の作品にも携わっているクワメ・ホランドやフィリップ・ランドルフが担当し、ゲストには ミュージック・ソウルチャイルドやシャリッサ・ザ・ヴァイオリンディーヴァが名を連ねた、本格的なソウル作品担っている。

アルバムの実質的な1曲目は、初期のカニエ・ウエスト作品を思い起こさせる、ソウル・ミュージックをサンプリングしたような伴奏が格好良い”Vibes”。声ネタなどを多用し、ヒップホップ色を強めたトラックと、その上でゆったりと歌うヴォーカルが心地よいミディアム。クリセット・ミッシェルシリーナ・ジョンソンなど、ヒップホップを取り入れたスタイルのソウル・ミュージックに取り組んでいる女性シンガーは少なくないが、この曲は他の人の作品よりもワイルドな印象。

また、本作に先駆けてリリースされた”I Don't Know”は、ウェイン・ワンダーやルシアーノなどのレゲエ・シンガーを彷彿させる甘酸っぱいメロディと歌声、陽気でまったりとした雰囲気のトラックが心に残るスロー・ナンバー。レゲエ歌手には伴奏に合わせて、柔らかく歌う歌手が多い中、所々で力強い歌声を響かせる姿が印象的。

だが、本作のハイライトは何といってもフィリップ・ランドルフが制作に参加した”Happy With You”だろう。シンセサイザーを軸にしたシンプルな伴奏をバックに、丁寧にメロディを歌う彼女の姿が印象的なスロー・ナンバー。ギターやドラムの生演奏が主体の50年代から、延々と使われてきた古典的なアレンジとメロディを、豊かな表現力と歌声で新鮮な音楽に聴かせる技は圧巻の一言だ。

そして、ミュージック・ソウルチャイルドを招いた “Just Like Fools”は、同曲の路線を踏襲したバラード、グラマラスで器用な歌が魅力のヴィヴィアンと、柔らかい声と武骨な歌唱が魅力のミュージックの個性がぶつかり合う、ダイナミックなバラード。高い技術とパワーを兼ね備えた両者の持ち味が遺憾なく発揮された名演だ。

彼女のアルバムは、シャンテ・ムーアレイラ・ハザウェイといった歌唱力をウリにした女性シンガーと比較しても保守的な作品に映る。緻密ではあるが、奇抜なアレンジは皆無で、彼女がキャリアをスタートした90年代のR&Bをベースに、ヴォーカルの表現を駆使して楽曲に様々な表情を与えている。その姿は、アレサ・フランクリンやエッタ・ジェイムスといった、ずば抜けた歌唱力を武器に、色々な曲に魂を吹き込んだ名シンガーを思い起こさせる。

「歌」の可能性を極限まで突き詰めた、高い実力を持つ歌手による本格的なヴォーカル作品。斬新なサウンドが次々と生まれる2018年では歌の持つ無限の可能性が堪能できる数少ないアルバムだ。

Producer
Vivian Green, Kwame Holland, Phillip "Phoe Notes" Randolph

Track List
1. Overture
2. Vibes
3. Promise
4. I Don't Know
5. That's What Love Can Do
6. 1st Time (Again)
7. Happy With You
8. Just Like Fools [Revisited] feat. Musiq Soulchild
9. Chances
10. Mutual Feelings feat. Charisa the Violindiva
11. Supa Dope Fresh Beat Show (Interlude)
12. Sunglasses
13. Stop Sleeping (See the Light)



Vgvi
Vivian Green
Make Noise Llc
2017-10-06

Chloe x Halle - The Kids Are Alright [2018 Parkwood Entertainment, Columbia]

ビヨンセが率いるコロンビア傘下の音楽レーベル、パークウッド。彼女の作品を中心に、録音物だけでなく映像作品も送り出している同社からデビューしたのが、クロイとハリーのベイリー姉妹による音楽ユニット、クロイ&ハリーだ。

ジョージア州アトランタ出身の二人は、動画投稿サイトにアップロードしたパフォーマンスをきっかけにレーベルと契約。2016年に『Sugar Symphony』でレコード・デビューを果たした。といっても、姉のクロイは子供のころから役者として活動しており、ビヨンセが主演した映画「The Fighting Temptations」にも出演するなど、遠からぬ縁はあったという。

本作は、彼女達にとって初のスタジオ・アルバム。ディズニー映画「A Wrinkle In Time」や、コメディ番組「Grown-ish」のサウンドトラックに収録された楽曲も含め、ほぼ全ての作品を二人で制作。インターネット経由で色々なジャンルのヒット曲のカヴァーを披露してきた、本記事の執筆時点でクロイが19歳、ハリーが17歳という、10代の若い感性と高い技術を惜しげもなく披露した、新鮮なR&Bを聴かせている。

まず、アルバムに先駆けてリリースされたタイトル曲”The Kids Are Alright”は、シンプルなトラックの上で悠々と歌う二人の姿が印象的なミディアム・ナンバー。ドラムの音は後半まで入らず、後半のビートも音圧を抑えたスタイルは、ヒップホップを経由したR&Bというより、アカペラ作品のようにも聴こえる。二人の歌と伴奏だけで、豊かな表現を聴かせる彼女達のスキルに驚かされる良曲だ。

これに対し、ジョーイ・バッドアスが参加した”Happy Without Me”は、カルディBの”Bodak Yellow”やグッチ・メインの”I Got A Bag”を思い起こさせるトラップのビートが格好良い、ヒップホップ色の強い曲。人気ラッパーを起用した作品でありながら、メロディ部分も二人が担当し、あくまでもR&Bとして聴かせている点が面白い。ジョーイのラップが入る箇所で、ビートが微妙に変化する演出も光っている。

また、 ディズニー映画のサウンドトラック向けに作られた”Warrior”は、R&Bをベースにしつつ、荘厳な雰囲気で纏め上げた伴奏と、二人の歌唱力を活かしたダイナミックなメロディが光るスロー・ナンバー。「ライオンキング」の主題歌として知られるエルトン・ジョンの”Can You Feel the Love Tonight”にも通じる、シンプルだが味わい深い楽曲と、二人の高いヴォーカル技術が堪能できる佳作だ。

そして、本作のボーナス・トラックとして収録されたデビュー曲”Drop”は、シドジャミラ・ウッズの作品を連想させる、泥臭いビートとメロディが心に残るミディアム・ナンバー。トラックを構成する楽器の音を厳選し、音と音の隙間を効果的に使うスタイルは、ディアンジェロの”Brown Sugar”にも通じる。

このアルバムを聴いて真っ先に思い浮かんだのは、マイケル・ジャクソンのヒット曲”Butterfly”を制作したイギリスの女性デュオ、フロエトリーの存在だ。ヒップホップやR&B、映画音楽を飲み込み、多彩な表現を聴かせてくれる彼女達は、往年のソウル・ミュージックと現代のヒップホップを融合した作風や、グラマラスな歌声と繊細な表現で私達を魅了したフロエトリーとよく似ている。しかし、最大の違いは、新しい音楽への向き合い方で、彼女達は、昔のソウル・ミュージックにとらわれず、ポップスや新しいヒップホップの表現技法を盛り込んで、現代のポップスに落とし込んでいる。その点が、ヒップホップを取り入れつつ、ソウル・ミュージックにベースを置いたフロエトリーとは大きく異なる点で、彼女達の持ち味にもなっている。

多くのゲストを侍らせたソロ・シンガーが主流である、現代の欧米の音楽市場では貴重になった、シンガー二人による息の合ったパフォーマンスが楽しめる良作。二人組というシンプルな編成でも多彩な表現が可能なことを証明した、ヴォーカル・グループのお手本のようなアルバムだ。

Producer
Chloe Bailey, Halle Bailey

Track List
1. Hello Friend (Intro)
2. The Kids Are Alright
3. Grown (From Grown-ish)
4. Hi Lo feat. GoldLink
5. Everywhere
6. FaLaLa (Interlude)
7. Fake feat. Kari Faux
8. Baptize (Interlude)
9. Down
10. Galaxy
11. Happy Without Me feat. Joey Bada$$
12. Babybird
13. Warrior (From "A Wrinkle in Time")
14. Cool People
15. Baby on a Plane
16. If God Spoke
17. Drop
18. Fall





The Kids Are Alright
Parkwood Entertainment/Columbia
2018-03-23

Jeremih - The Chocolate Box [2018 Def Jam Recordings]

ボーイズ・グループ出身のオマリオンやマーカス・ヒューストン、ソングライターからキャリアを始めたニーヨやB.J.ザ・シカゴ・キッド、インターネット経由で火が付いたガラントやジャスティン・ビーバーなど、様々な出自のアーティストがしのぎを削るアメリカのR&B界。その中で、独特の存在感を発揮しているのが、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジェレマイことジェレミー・フェルトンだ。

音楽一家に生まれ、3歳の頃から色々な楽器を演奏、のちにクラシック音楽の教育も受けている彼は、ハイスクールに進学すると、マーチング・バンドでジャズも経験。卒業後は大学で音楽ビジネスを学んできた音楽エリート。

大学在学中に音楽プロデューサーのミック・シュルツの知己を得た彼は、地元のラジオ局で働きながら、初のシングル”My Ride”を録音。同局がデフ・ジャムの創業者、リック・ルービンの目に留まり契約。2009年にメジャー・デビュー・シングル”Birthday Sex”を発表すると、総合シングル・チャートの4位に入る活躍を見せた。

その後も、学校に通う時期を挟みつつ、7年間で3枚のスタジオ・アルバムと2枚のEP、複数のミックステープを制作。アメリカ国内で50万枚を売り上げるヒットになったほか、収録曲がイギリスやオーストラリアでゴールド・ディスクを獲得するなど、作曲能力と歌唱力の両方で評価される、稀有なミュージシャンになった。

本作は、2017年の『Cinco De MihYo』以来となる3枚目のEP。自主制作だった前作から一転、デフ・ジャムの配給によるリリース。制作には、ニッキー・ミナージュなどの作品を手掛けているヒットメイカや、彼のアルバムに何度も参加しているレトロ・フューチャなど、豪華な面々が集結。実力に定評のあるクリエイターが生み出す、厳選された4曲を楽しめる。

アルバムの1曲目を飾る”Cards Right”は、プロデューサーにヒットメイク、ソングライターにエリック・ベリンガーが名を連ねたミディアム・ナンバー。ゆったりとしたテンポのトラックをバックに、透き通った歌声を響かせる姿が印象的、メロディの随所に、T-ペインを彷彿させるラップの表現技法が盛り込まれているのは、エリック・ベリンガーの影響だろうか。

続く、SMTSは、レトロ・フューチャが制作にかかわっているミディアム・ナンバー。チキチキという上物や、音数を絞ったビートは、トラップの手法を取り入れたものだが、雰囲気はトラップとは思えないほどロマンティック。メロディやトラックはクリス・ブラウンアッシャーっぽくも聴こえるが、繊細な歌声や滑らかな歌唱はR.ケリーやジョーにも通じるものがある。

また、”Forever I'm Ready”は90年代に一世を風靡した男性ヴォーカル・グループ、H-タウンの同名曲をサンプリングしたダイナミックなバラード。パンチの効いた音を厳選しているトラックは、シンプルだが味わい深いトラックが流行していた90年代のR&Bを踏襲したもの。このトラックに、泣き崩れるように歌うみずみずしいヴォーカルを組み合わせることで、90年代のR&Bの良さを取り入れつつ、2018年の新曲に落とし込んでいる。

そして、本作の最後を締める”Nympho”は、D.I.T.C.のO.C.の声をサンプリングしたスロー・ナンバー。ラッパーの声をサンプリングしているものの、曲調はロマンティックメロディとトラップのビートを組み合わせた、彼の十八番のスタイル。”SMTS”と同じレトロ・フューチャのプロデュースで、ジェレマイのしなやかな歌声と美しいメロディをじっくり聴かせる良曲だ。

彼の魅力は、美しい声やメロディをじっくり聴かせつつ、多彩な曲を用意するプロダクション能力。ジョーやトレイ・ソングスのような、磨き上げられた声と、丁寧な歌唱で勝負しつつ、新しい音を取り込み、楽曲の幅を広げることで、聴き手に新鮮な印象を与えている。このバランス感覚の良さが、彼の音楽の良さだと思う。

目まぐるしく流行が入れ替わるR&Bの潮流に乗りつつ、「魅力的な歌を聴かせる」という筋の通った作風が光る良作。前作が自主制作だったのでi色々と不安がよぎったが、それを杞憂だと思わせる充実の内容だ。

Producer Ayo The Producer, Flippa, Hitmaka, Keyzbaby, Paul Cabbin, Pop & Oak, Retro Future & SaucyKev

Track List
1. Cards Right
2. SMTS
3. Forever I'm Ready
4. Nympho





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