melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年03月

Toni Braxton - Sex & Cigarettes [2018 Def Jam Recordings]

92年に、ベイビーフェイスとのデュエット曲”Give U My Heart”でレコード・デビュー。そして、93年のアルバム『Toni Braxton』を皮切りに、2017年までに8枚のスタジオ・アルバムと多くのシングルを発表。96年にリリースされ、全世界で1000万枚を売り上げた”Un-Break My Heart”や、各国のヒット・チャートに名前を刻んだ2001年の”He Wasn't Man Enough”など、多くのヒット曲を残してきた、メリーランド州出身のシンガー・ソングライター、トニ・ブラクストンこと、トニ・ミッシェル・ブラクストン。

牧師の父と、オペラ歌手の母の間に生まれた彼女は、子供のころから、後にブラクストンズとしてデビューする4人の妹や弟と一緒に、教会で音楽に親しみながら腕を磨いてきた。その後、地元の大学で教育学を学んだ彼女は、プロのミュージシャンを目指して、ガソリン・スタンドで働きながら音楽活動を開始。徐々に知名度を上げ、4人の姉妹と一緒に、LAリードとベイビーフェイスが率いるラ・フェイスと契約する。

しかし、高いスター性と表現力が認められたトニは、姉妹とは別れ、ソロ・シンガーとしてプロのキャリアをスタート。その後は30年以上、多くのヒット曲を発表し、200公演を超える大規模なショウも行うなど、録音作品とステージ、両方で高い評価を受ける名シンガーとなった。

本作は、彼女にとって通算8枚目のスタジオ・アルバム。ベイビーフェイスとのコラボレーション作品『Love, Marriage & Divorce』から4年、単独名義の作品としては『Pulse』以来、8年ぶりのアルバムとなる本作は、プロデューサーにアントニオ・ディクソンやベイビーフェイス、トリッキー・スチュアートなど、新旧の名手を起用。彼女自身も制作に携わった力作になっている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされたシングル曲”Deadwood”。ギターやストリングスを組み合わせた、フォーク・ソングっぽい伴奏をバックに、しっとりと歌声を聴かせるスロー・ナンバー。ギターなどの伴奏が引き立つギリギリの音圧で響くビートが、フォークソング寄りの楽曲を、スタイリッシュなR&Bに落とし込んでいる点に注目してほしい。

続く”Coping”は、映画「Greatest Showman」の音楽を手掛けたことも記憶に新しい、ロス・アンジェルスを拠点に活動するプロデューサー、スチュアート・クライトンが参加した作品。じっくりと歌を聴かせる序盤から、四つ打ちのビートを使ったダンス・ミュージックに展開する構成が聴きどころ。メロディや構成はポップスのものだが、パワフルな歌声と表現力で本格的なR&B作品に組み替える、トニのパフォーマンスが光っている。

また、本作の発売直前に発表された”Long As I Live”は、アリアナ・グランデなどの作品に携わっている、アントニオ・ディクソンがプロデュース。ロマンティックなメロディと、それを引き立てる上品な雰囲気のバック・トラックは、90年代の彼女の作品を思い起こさせる。絶妙な力加減で、艶めかしい歌声を響かせるトニの持ち味が発揮された良曲だ。

また、インターネット経由で火が付いた若手(といっても30代半ばだが)フォーク・シンガー、コルビー・マリーとコラボレーションした”My Heart”は、ベイビーフェイスが制作に参加したスローナンバー。ギターの演奏を軸にした伴奏をバックに、じっくりと丁寧に歌う二人の姿が心に残るバラード。これまでにも”Breathe Again”や“Un-Break My Heart”のような、シンプルなアレンジでヴォーカルを際立たせた楽曲を残してきた彼女だけあって、この曲も堂に入ってる。

今回のアルバムから感じるのは、既に確立された個性に磨きをかけ、さらに高いレベルへと持って行ったトニの表現力だ。加齢の影響が少ない低声がウリの彼女とはいえ、繊細なコントロールで色々な表情を吹き込む技術は、ヒット曲を連発していた90年代の彼女とは比べ物にならないほど優れている。磨き上げた技術によって、年齢を重ねることによる影響を補うだけでなく、表現の幅を広げている点が、彼女の恐ろしいところだ。

「成熟」とは単に年齢を重ねることではなく、経験を積んで進歩し続けることだということを僕らに教えてくれる本格的なヴォーカル作品。長い間、音楽業界の一線で戦い続けたベテランにしか出せない、円熟した「歌」を存分に楽しんでほしい。

Producer
Antonio Dixon, Babyface, Dapo Torimino, Fred Ball, Paul Boutin, Pierre Medor, Stuart Crichton, Toni Braxton & Tricky Stewart etc

Track List
1. Deadwood
2. Coping
3. Long As I Live
4. My Heart feat. Colbie Caillat
5. FOH
6. Sorry
7. Tear Me Up, Knock You Down feat. En Vogue
8. Sex & Cigarettes
9. Mission
10. Zodiac
11. Don't Look Back
12. The Last Time





Sex & Cigarettes
Toni Braxton
Def Jam
2018-03-23

SKY-HI - ベストカタリスト -Collaboration Best Album- [2018 avex]

2017年には、新曲を含む配信限定のベスト・アルバム『Marble』が、オリコンのデジタル・チャートで1位を獲得(注:2018年3月現在、オリコンでは音楽配信とCDやレコードの売り上げを分けて集計している)。その一方で、海外公演を含む大規模なツアーを成功させ、もはや「AAAの日高光啓」という説明が不要になった印象すらあるSKY-HI。2018年に入ってからは、音楽活動以外にも、ケンドリック・ラマーがサウンドトラックに参加した映画「Black Panther」の日本向けコマーシャルを担当するなど、ライブ・ハウスからお茶の間まで、あらゆる場所で人々に愛される、日本屈指の人気ラッパーになった。

このアルバムは、2017年までに彼がSKY-HIの名義で他のアーティストと録音した作品に加え、3つの新曲を収めた編集盤。

本作の1曲目は、2017年のツアーでも披露されている”One Night Boogie”。同ツアーでファンキーな演奏を聴かせてくれた、彼の相棒のようなバンド、スーパー・フライヤーズのダイナミックなパフォーマンスが光るアップ・ナンバーだ。ジェイムズ・ブラウンの影響を受けつつ、ヒップホップのビートとして聴かせるアレンジは、ダップ・トーンズオーサカ・モノレールにも通じるものがある。複雑な伴奏の上で、ラップと歌をスムーズに切り替えるスキルは、「AAAの日高光啓」と「ラッパーのSKY-HI」を両立してきた彼にしかできないものだ。

続く”何様”は、彼自身の手によるプロデュース。フィーチャリング・アーティストとして、独創的な言葉選びと存在感のある声で注目を集めている、ぼくのりりっくのぼうよみを招いた、異色のミディアム・ナンバーだ。マイク・ウィル・メイド・イットが作りそうな、重いビートとチキチキという上物を組み合わせたトラップのビートが格好良い作品。近年はクリエイターとしても頭角を現し、楽器の雑誌でも取り上げられているW-indsのKEITAがアレンジとミックスを担当。全身を震わせる低音と、心に突き刺さる二人の鋭いメッセージを余すことなく伝えている。元でんぱ組incの最上もがを起用した、奇抜なミュージック・ビデオにも注目してほしい。

また、3曲目の”ハリアッ!”は、気鋭のトラック・メイカー、KERENMIがビートを制作、ゲスト・ヴォーカルとして尾崎裕哉を招いたアップ・ナンバー。フレッシュな感性が魅力のKERENMIが提供したトラックは、意外にもドラムンベース。RIP SLYMEの”STEPPER’S DELIGHT”やM-FLOの”EXPO EXPO”などで採用されているものの、テンポの速さやビートな複雑さから、敬遠されることも多い難解なものだ。この手強いトラックを、リラックスした雰囲気で軽やかに乗りこなす二人からは、実力の高さとゆるぎない自信を感じる。今の二人には、「AAAのラップ担当」や「尾崎豊の息子」といった説明が必要ない、確固とした個性と、それを裏付ける実力があることを再確認できる良曲だ。

このアルバムを聴いて改めて感じたことは、彼の交友関係の広さと、音楽に対する造詣の深さ、それを自身の作品に反映する技術の高さだ。大沢伸一やM-FLOなど、クラブ・ミュージックの世界で実績のあるミュージシャンを数多く抱えるavexと契約しているにも関わらず、同社の所属アーティストと組んだ曲は、KEN THE 390の”Turn Up”や、小室哲哉の”Every”、BRIGHTの”BAD GIRL!”など、極めて少ない。その一方で、グラミー賞にノミネートした経験もあるサウンド・クルーのSPICY CHOCOLATE や、強烈な個性と確かな演奏技術で、世界を相手に戦うギタリストのMIYAVI、海外のヒップホップ・アーティストとのコラボレーションも多いDJ Deckstream など、様々な分野のアーティストと積極的に関わり、新しい音楽を生み出している。この、あらゆるジャンルのミュージシャンと結びつく高い行動力と対人能力、限られた録音の機会に最高の作品を作り上げる技術が揃ったことが、彼の音楽を格別のものにしている。

アメリカのケンドリック・ラマーやカナダのドレイク、イギリスのストームジーのように、本格的なヒップホップでポップス市場を席巻するスターが次々と登場し、BIGBANGG-Dragonを筆頭に、BTSのRMやJ-Hope、Block BのZICOなど、ヴォーカル・グループで活動しながら、ラッパーとしても活躍するアーティストが台頭している2018年。このアルバムは、SKY-HIが彼らのように、通好みのヒップホップと多くの人に愛されるポップスの橋渡し役になれる、稀有な存在であることを再認識させてくれる名企画だ。次は誰とどんな化学反応を起こすのか、想像を膨らませるのも楽しい、アーティストSKY-HIの多彩な表現が堪能できる良盤だ。

Producer
SKY-HI etc

Track List ([]内はリリース時の名義)
1. One Night Boogie feat.THE SUPER FLYERS
2. 何様 feat.ぼくのりりっくのぼうよみ
3. ハリアッ! -Fast Fly Ver.- feat.尾崎裕哉 & KERENMI
4. Gemstone [MIYAVI vs SKY-HI]
5. RAPSTA [SKY-HI×SALU]
6. Fresh Salad feat.SKY-HI [tofubeats]
7. Walking on Water (Remix) feat.Lick-G & RAU DEF
8. Turn Up feat.T-Pablow,SKY-HI. [KEN THE 390]
9. 知らなくていい feat.SKY-HI [DJ 松永]
10. Jack The Ripper feat.SKY-HI [SONPUB]
11. Slide 'n' Step -Extended Mix- feat.SKY-HI [KEITA]
12. Last Forever feat.加藤ミリヤ & SKY-HI [SPICY CHOCOLATE]
13. BAD GIRL!! feat.SKY-HI [BRIGHT]
14. Very Berry feat.SKY-HI [FIRE HORNS]
15. タイムトラベリング [Czecho No Republic × SKY-HI]
16. TRIBE feat.SKY-HI,SIMON,Staxx T,JP THE WAVY & DABO [DJ SAAT]
17. Every feat.SKY-HI & K-C-O [小室哲哉]
18. Far East Movement feat.RINO LATINA II & SKY-HI [DJ Deckstream]
19. メリゴ feat.SKY-HI [サイプレス上野とロベルト吉野]





WODDYFUNK - N.Y.B. monolog & T-Groove Remix [2018 Intermass Records]

口の中でシンセサイザーの音を鳴らすことで、ロボットのような声を作り出すトークボックス。ザップのロジャー・トラウトマンやガイのテディ・ライリーなどが採用し、多くのヒット曲を生み出す一方、体内で音を鳴らす負荷の大きさや、楽器の音に合わせて歌う演奏の難しさから、使い手を選ぶ楽器としても知られている。

ウッディファンクは、この楽器の名手として知られる日本のシンガー・ソングライター。2012年には、ザップのグレッグ・ジャクソンがプロデュースした楽曲を含むアルバムを発表。その後も、ブーツィー・コリンズやジブラ、渋さ知らズやXLミドルトンなど、国やジャンルの枠を超えて、様々なアーティストとコラボレーションしてきた実力者だ。

本作は、2017年のアルバム『Pop』と、2015年のアルバム『Honey & Oh Yeah』の収録曲をリミックスした、2曲入りのシングル。ボビー・グローバーやブーツィー・コリンズが参加したことでも話題になった楽曲を、ゴールデン・ブリッジの名義で発表した『T.B.C.』や『I Can Prove It』も記憶に新しい、T-Grooveとmonologの二人が再構築。三者三葉のアプローチで、世界を舞台に活躍してきた面々による、ソウル・ミュージックへの深い愛情が発揮された新鮮な作品になっている。

1曲目の”GET THE PARTY STARTED”は、2017年の『Pop』の収録曲。オリジナル・ヴァージョンではダイナミックなスウィングと、80年代のファンク・バンドを彷彿させるロー・ファイなサウンドが魅力だったが、今回のリミックスではハウス・ミュージックを連想させるスタイリッシュなビートと、軽快なギターのカッティング、キュートなコーラスを強調したディスコ・ブギーにアレンジしている。四つ打ちのビートと、軽やかなギターを組み合わせたスタイルはダフト・パンクの”Get Lucky”を思い起こさせる。

また、”LET THE MUSIC PLAY”は2015年の『Honey & Oh Yeah!』の収録曲のリミックス。ジェイムズ・ブラウンの緻密なファンク・サウンドと、トーク・ボックスを組み合わせた手法が斬新だった楽曲を、ギターやパーカッションを組み合わせて、フィリー・ソウルっぽく纏めたアレンジが新鮮な曲だ。トーク・ボックスの強烈なサウンドを、柔らかい音色の楽器で流麗なダンス・ミュージックに組み込むセンスが面白い。原曲のアクセントになっていた、ブーツィー・コリンズの合いの手も、きちんと組み込む構成も心憎い。

このシングルの聴きどころは、リミックスとは思えない自然な編曲と、オリジナルとは全くことなる表情を見せるリミックス技術だろう。ザップやジェイムズ・ブラウンの影響が色濃かった原曲を、トーク・ボックスの強烈なサウンドを活かして、モダンなディスコ音楽に組み替えるスキルは圧巻の一言。しかも、ヴォーカルの加工は最小限に留め、ライブでも演奏されそうな新曲に落とし込めている点も見逃せない。

海外のヒップホップやR&B、往年のソウル・クラシックと比べても見劣りしない、日本発の本格的なソウル作品。タキシードやダフト・パンクが好きな人には是非聴いて欲しい良作だ。


Producer
Serigho Muto

Track List
1. GET THE PARTY STARTED
2. LET THE MUSIC PLAY



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