ブラッドオレンジの『Freetown Sound』やソランジュの『A Seat At The Table』で腕を振るい、2012年以降は彼女のツアーにも帯同している、メリーランド州プリンス・ジョーンズ生まれのシンガー・ソングライター、ブラインドン・クック。
子供のころから、P-ファンクやプリンス、ディアンジェロなどの音楽に慣れ親しんできた彼は、その一方で、ニュー・ジャック・スウィングやジャム&ルイスのサウンドを研究するなど、一時代を築いたサウンドにも興味を持つ多感な青年だった。
そんな彼は、2012年に初のEP『Night Music』をリリース。自主制作ながら、先鋭的なサウンドが注目され、ミシガン州アナーバーに拠点を置く電子音楽やロックに強いインディー・レーベル、ゴーストリー・インターナショナルと契約を結ぶきっかけになった。
本作は彼にとって初のフル・アルバムであり、初のフィジカル・リリースとなる作品。ブラッドオレンジのレーベル・メイトでもあるロック・バンド、ポーチスの2016年作”Mood”のカヴァーを除く全曲で、作詞作曲とプロデュースを担当。フィーチャリング・ミュージシャンは招かず、彼自身とバンド・メンバーのみで録音するという、彼が影響を受けたプリンスを彷彿させる作品になっている。
アルバムのオープニングを飾る”Language”は、四つ打ちのビートと、軽やかに刻まれるギターが織りなす、スタイリッシュなリズムが心地よいディスコ・ナンバー。低音を強調したドラムは、ダフト・パンクの”Get Lucky”などでも取り入れられたディスコ・ブギーに近いもの。だが、わざと粗っぽく演奏した伴奏は、ロックやファンクの要素を強調したプリンスの音楽にも似ている。
続く、本作に先駆けて発表されたポーチスのカヴァー”Mood”は、原曲のテンポを大きく落として、ソウルフルなヴォーカルを強調したバラード。オリジナル版では、軽い音色を使ったミディアム・ナンバーだったが、この曲ではプリンスやロナルド・アイズレーを彷彿させる、ブライドンのテナー・ヴォイスを活かしたスロー・ナンバーに仕立て直している。スマートな声質と太いサウンドを活かして、前衛的なロック・ナンバーから新鮮な表情を引き出したテクニックが光っている。
そして、この曲の後に公開された”Hangin On”は、ディアンジェロの”Brown Sugar”を彷彿させる、太いベースの音とリズミカルなドラムの演奏が面白いミディアム・ナンバー。ヒップホップの要素を取り入れながら、その上に乗っかるメロディは滑らかで美しいというギャップが印象的。ファンカデリックからドゥー・ヒルまで、様々な時代のミュージシャンから影響を受けてきた彼の、音楽への愛情と造詣の深さが感じられる良曲だ。
また、本作のリリース直前にミュージック・ビデオが制作された”Ophelia’s Room”は、アルバムの収録曲では珍しい、ドラムやベースの音を抑え気味にしたバラード。低音を減らしつつ、異なるメロディを歌うテナー・ヴォイスを重ねて神秘的な雰囲気を醸し出した、ありそうでなかったタイプの作品。繊細なハイ・テナーはマーヴィン・ゲイっぽくもあるし、静かな伴奏をバックに訥々とメロディを紡ぐスタイルはシャーデーのようにも聴こえる。先鋭的な音楽スタイルを土台にしているにもかかわらず、奇抜さ以上に安心感が心に残る不思議な曲だ。
彼の音楽の面白いところは、アーティスト名の由来にもなったジョージ・クリントンや、多大な影響を受けたプリンスやジャム&ルイス、活動を共にすることが多いソランジュやブラッドオレンジといった、繊細で鋭い音楽センスと、ち密な曲作りで歴史に名を残した面々から多くの影響を受けつつ、多くの人にとって親しみやすいポップな作品に仕上がっているところだろう。ポピュラー音楽の世界に革命を起こすような、斬新なサウンドのミュージシャンから影響を受けたアーティストは、多くの場合、彼らのサウンドを踏襲したり、彼らの方向性をさらに突き詰めたりしている。そのことによって、新しい音楽が生まれたことも少なくないが、その一方で、一部のコアなファンにしか受け入れられない、マニアックな作品になってしまうことも少なくない。しかし、彼は難解な音楽から影響を受けつつも、流行の音楽をきちんと研究してきた経験を活かし、R&Bやソウル・ミュージックにあまり馴染みのない人にも親しみやすい作品に落とし込んでいる。この絶妙なバランス感覚が、彼の良さだと思う。
コンピュータを駆使して前衛的なビートを組み、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックに近づくR&Bシンガーが多いなかで、尖った音楽性のミュージシャンから影響を受けつつも、キャッチーで親しみやすい音楽を、バンド演奏で表現する彼の存在はとても新鮮。ジョージ・クリントンやプリンスが、ロックとソウル・ミュージック、両方のファンから愛され続けたように、音楽ジャンルの壁を越えて多くの人に愛される可能性を感じさせる充実の内容だ。
Producer
Bryndon Cook
Track List
1. Language
2. Mood
3. Only If U Knew
4. Hands Off
5. Hangin On
6. Black Diamond
7. Ophelia’s Room
8. Some People I Know
9. Can I Come Over?
10. Doubts
11. Good Stuff
12. Boys Choir
13. Lost Boys
14. Hand To God
子供のころから、P-ファンクやプリンス、ディアンジェロなどの音楽に慣れ親しんできた彼は、その一方で、ニュー・ジャック・スウィングやジャム&ルイスのサウンドを研究するなど、一時代を築いたサウンドにも興味を持つ多感な青年だった。
そんな彼は、2012年に初のEP『Night Music』をリリース。自主制作ながら、先鋭的なサウンドが注目され、ミシガン州アナーバーに拠点を置く電子音楽やロックに強いインディー・レーベル、ゴーストリー・インターナショナルと契約を結ぶきっかけになった。
本作は彼にとって初のフル・アルバムであり、初のフィジカル・リリースとなる作品。ブラッドオレンジのレーベル・メイトでもあるロック・バンド、ポーチスの2016年作”Mood”のカヴァーを除く全曲で、作詞作曲とプロデュースを担当。フィーチャリング・ミュージシャンは招かず、彼自身とバンド・メンバーのみで録音するという、彼が影響を受けたプリンスを彷彿させる作品になっている。
アルバムのオープニングを飾る”Language”は、四つ打ちのビートと、軽やかに刻まれるギターが織りなす、スタイリッシュなリズムが心地よいディスコ・ナンバー。低音を強調したドラムは、ダフト・パンクの”Get Lucky”などでも取り入れられたディスコ・ブギーに近いもの。だが、わざと粗っぽく演奏した伴奏は、ロックやファンクの要素を強調したプリンスの音楽にも似ている。
続く、本作に先駆けて発表されたポーチスのカヴァー”Mood”は、原曲のテンポを大きく落として、ソウルフルなヴォーカルを強調したバラード。オリジナル版では、軽い音色を使ったミディアム・ナンバーだったが、この曲ではプリンスやロナルド・アイズレーを彷彿させる、ブライドンのテナー・ヴォイスを活かしたスロー・ナンバーに仕立て直している。スマートな声質と太いサウンドを活かして、前衛的なロック・ナンバーから新鮮な表情を引き出したテクニックが光っている。
そして、この曲の後に公開された”Hangin On”は、ディアンジェロの”Brown Sugar”を彷彿させる、太いベースの音とリズミカルなドラムの演奏が面白いミディアム・ナンバー。ヒップホップの要素を取り入れながら、その上に乗っかるメロディは滑らかで美しいというギャップが印象的。ファンカデリックからドゥー・ヒルまで、様々な時代のミュージシャンから影響を受けてきた彼の、音楽への愛情と造詣の深さが感じられる良曲だ。
また、本作のリリース直前にミュージック・ビデオが制作された”Ophelia’s Room”は、アルバムの収録曲では珍しい、ドラムやベースの音を抑え気味にしたバラード。低音を減らしつつ、異なるメロディを歌うテナー・ヴォイスを重ねて神秘的な雰囲気を醸し出した、ありそうでなかったタイプの作品。繊細なハイ・テナーはマーヴィン・ゲイっぽくもあるし、静かな伴奏をバックに訥々とメロディを紡ぐスタイルはシャーデーのようにも聴こえる。先鋭的な音楽スタイルを土台にしているにもかかわらず、奇抜さ以上に安心感が心に残る不思議な曲だ。
彼の音楽の面白いところは、アーティスト名の由来にもなったジョージ・クリントンや、多大な影響を受けたプリンスやジャム&ルイス、活動を共にすることが多いソランジュやブラッドオレンジといった、繊細で鋭い音楽センスと、ち密な曲作りで歴史に名を残した面々から多くの影響を受けつつ、多くの人にとって親しみやすいポップな作品に仕上がっているところだろう。ポピュラー音楽の世界に革命を起こすような、斬新なサウンドのミュージシャンから影響を受けたアーティストは、多くの場合、彼らのサウンドを踏襲したり、彼らの方向性をさらに突き詰めたりしている。そのことによって、新しい音楽が生まれたことも少なくないが、その一方で、一部のコアなファンにしか受け入れられない、マニアックな作品になってしまうことも少なくない。しかし、彼は難解な音楽から影響を受けつつも、流行の音楽をきちんと研究してきた経験を活かし、R&Bやソウル・ミュージックにあまり馴染みのない人にも親しみやすい作品に落とし込んでいる。この絶妙なバランス感覚が、彼の良さだと思う。
コンピュータを駆使して前衛的なビートを組み、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックに近づくR&Bシンガーが多いなかで、尖った音楽性のミュージシャンから影響を受けつつも、キャッチーで親しみやすい音楽を、バンド演奏で表現する彼の存在はとても新鮮。ジョージ・クリントンやプリンスが、ロックとソウル・ミュージック、両方のファンから愛され続けたように、音楽ジャンルの壁を越えて多くの人に愛される可能性を感じさせる充実の内容だ。
Producer
Bryndon Cook
Track List
1. Language
2. Mood
3. Only If U Knew
4. Hands Off
5. Hangin On
6. Black Diamond
7. Ophelia’s Room
8. Some People I Know
9. Can I Come Over?
10. Doubts
11. Good Stuff
12. Boys Choir
13. Lost Boys
14. Hand To God
Starchild & The New Romantic
PLANCHA
2018-03-02